ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-2

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匿名ユーザー

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 自分の使い魔をルイズが追いかけていった暫く後、彼女は使い魔を連れて戻って来た。
 いや、正確には『抱きかかえて』戻って来たのだ。
 疲れきったのか、犬の足が力無くぷらぷらと揺れている。
 ぐったりとした表情で、横を向いた口元からだらしなく舌が出ていた。

「ルイズ、おまえ。使い魔が倒れるまで追いかけ回したのか?」
 マリコルヌのその言葉に収まりつつあった笑い声が再び広がる。
 ルイズは黙ったまま僅かに唸り声のような声をあげるのみ。
 言い返す言葉も無いというよりも、そもそも気力が無い。
 コントラクト・サーヴァントの最中にも顔を舐められ、使い魔同様彼女も心身ともに疲れきっていた。

「ふむ、どうやらコントラクト・サーヴァントは無事終了したようですな」
 抱きかかえた使い魔の前足をひょいと掴み、コルベールが刻まれたルーンを確認する。
 これで最大の不安要素であったルイズを含め生徒全員、使い魔の召喚は終了した。
 無事に終わった事に胸を撫で下ろし、始祖ブリミルに感謝を捧げる。
 しかし、授業の時間も(主にルイズと使い魔の追いかけっこの所為で)押している。
 まだ生徒達の悪乗りも覚めやらないが、ここで威厳を見せねば教師ではない。
「さぁ皆さん、教室に戻りますぞ!」
 ぱんぱんと手を叩く音に合わせて返事をした生徒達が次々と空を舞う。
 残されるルイズとその使い魔。
 彼女は魔法が使えない。なら歩いて教室に戻るしかないのだが今の様子では厳しいだろう。
 疲労困憊の彼女達にコルベールは手を貸そうとしたが、ルイズはそれを丁重に断る。
 自分だけ特別扱いを受ける訳にはいかない、それが理由だった。
 己に厳しくあろうとする彼女らしい発言だ。
“ここで手を貸せば彼女の誇りが傷つく”
 そう判断したコルベールは『遅刻はしないように』と付け加えて去って行った。

「いい? ちゃんと付いてくるのよ」
 使い魔をその場に置いてルイズは歩き出す。
 だが数歩歩いたところで立ち止まった。
 後ろから使い魔が付いてくる気配が無かったのだ。
 振り返ると、置いた場所で横たわる使い魔の姿。
 しかも、寝息を立て完全に睡魔に身を委ねていた。

「ちょっと! なに寝てるのよ!?」
 戻って身体を揺さぶってみても起きる気配は無い。
 そうなってしまうのも無理もない。
 命懸けの逃走で疲弊した上に、残った体力も今ので使い果たしたのだ。
 身体を動かしていた緊張の糸は完全に途切れ、彼は母親に抱かれた赤子のような安心感に包まれていた。 
 自分を置いてすやすや寝入ってしまった使い魔を見て、ルイズは呆れ果てた。
 ルイズに彼の心境は分からない。だから『遊ぶだけ遊んで疲れたから寝てしまった』と思っていた。
「起きないと置いていくわよ? いいの? ホントに置いていくんだからっ!」
 叫んだところで意味は無い。使い魔の意識は既に夢の中だ。
 返答さえしない使い魔に怒りが込み上げてくる。

 こっちだって疲れてるのに、抱っこして運ぶなんて冗談じゃない。
 第一、疲れている理由だってアンタのせいだし。 
 それにご主人様の言う事、ちっとも聞かないし。
 でも、外に出して風邪でも引かれたら困るのは私だし、使い魔の管理も主の仕事……よね。

 彼女は心の中でそう愚痴りながら、振り返らずに教室へと歩む。
 その小さな腕の中に自らの使い魔を抱えたまま……



「ふぅ……前途多難だわ」
 馬小屋から貰ってきた藁の上に使い魔を寝かせ、自分もベッドに横になる。
 大きく分けて使い魔には三つの役割がある。
 一つ、使い魔には主人の目となり耳となる。
 その為の能力が使い魔には与えられる……筈なんだけど、何故か私には出来ない。
 二つ、主人の求める物(主に秘薬など)を見つけてくる。
 これは犬なんだから出来そうな気はするんだけど本人にやる気があるかどうか。
 三つ、使い魔は主人の身を敵から守る。
……アイツが勝てるような敵って何よ? 野良猫? 害虫? 

 溜息が洩れる。
 主人に手間ばかり掛けて出来る事はゼロの駄犬。
『ゼロのルイズ』に『ゼロの使い魔』。
 いいコンビだと『風邪っぴき』のマリコルヌならそう囃し立てるだろう。

……ダメ、諦めちゃダメよルイズ。
 今できる事がゼロなら、これから一つずつ覚えていけばいいじゃない。
 そうだわ。明日から徹底的に訓練して名犬にすればいい。
 小姉さまが犬に芸を教える姿を私は見ている。
 それを真似すれば私にだって出来るはず!

“使い魔を名犬に育てる”
 固い誓いを胸に毛布の中に潜り込み、睡眠を取って明日に備える。
 真似をするついでに胸も大きくならないかなぁ、と無茶な妄想と共に瞼を閉じた。



「いい? ちゃんと取ってくるのよ」
 使い魔の前で木の棒を振り気を引いたところで遠くに放り投げる。
 果たして取りにいくのか、あるいは棒を咥えたまま戻ってこないかもしれない。
 そんな心配を余所に、使い魔は一目散に駆け出しそれを咥えて戻って来た。
「やればできるじゃないっ!」
 心から溢れだす満面の笑み。
 嬉しくなって使い魔の頭を撫でる。
 ルイズにとっては訓練でも、彼にとっては遊びだった。 
 だから何故ルイズが喜んでいるのかは分からなかったが、
 それでも今のルイズの笑顔は嫌いではなかった。
……いや、むしろ好きだった。
 あの笑顔があれば、いつまで続けても飽きる事はないだろう。


「見ろよ。ルイズのヤツ、使い魔と遊んでるぜ」
「いい気なもんだよな。名門貴族だからって」
 早朝から始められた訓練も、周りから見れば遊びだった。
 主と使い魔は一心同体。
 今、彼女たちがやっている遊戯など誰でも出来る。
 この光景は『ルイズの使い魔はそんな事もできないのか』と評価を貶めるだけ。
 それでも彼女達は構わない。周りの評価などどうでもいい。
 どんなに惨めでも必死に足掻く姿を恥じる必要などない。
 その真意を理解できる者は多くはない。
 数少ない彼女の理解者が彼女に声を掛ける。

「面白そうな事してるじゃない。ルイズ」
「何の用? 私、こう見えて忙しいんだけど」
「私には遊んでるようにしか見えないんだけど。で、これを投げればいいの?」
「ふん。アンタが投げたって取りになんていかな……何で取りに行ってんのよアンタ!」
 突然の主人の激昂に驚き、咥えた棒を取り落とす。
 ヴァリエール家とツェルプストー家の長きに渡る因縁を召喚されたばかりの犬に理解しろとは無理な話だ。
 使い魔は理不尽な怒りに脅えるばかり。
 それをキュルケが、よしよしと頭を撫で落ち着かせる。
……傍から見れば、どちらが飼い主か分からない構図だ。

「授業」
 そんな二人の間にタバサが割って入る。
 見れば、他の生徒達もちらほらと教室に向かっている様子が窺える。
「よし、じゃあ訓練はここまで。私達も教室に行くわよ」
「はいはい」
 教室に向かう三人を見送り、彼は辺りを見回す。
 まだ、ここへ来て二日。世界は果てしなく広い。
 他に何があるのか、期待に胸を膨らませて冒険に旅立つ…!
「アンタも来るのよ!」
 走り出そうとした矢先、首根っこをあっさりと掴まれ主人に引っ立てられる。
 ざんねん!! 彼の冒険は、ここでおわってしまった!!



「このように魔法は四大系統に分かれており…」
 ぴすぴすと鼻を鳴らしながら抗議するバカ犬を無視して羽ペンを走らせる。 
 どうやら訓練が終わったら遊びに行けると思っていたらしく不機嫌この上ない。
 しかし授業を邪魔する様子もないし、このまま放置しておこうと決めた直後。
「では貴方、そこの貴方」
 呼びかけられた声に気付き、顔を上げる。
 壇上で新任のミセス・シュヴルーズが私を指している。
「お名前は?」
「ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです」
「ではミス・ルイズ。錬金でこの石を金属に変えてください」
 錬金の実演に壇上へと向かう私にクラスメイト達の怯えた視線が集まる。
 引き止めるキュルケを無視し壇上へと立つ。
 ある者は机の下に隠れ、ある者は少しでも離れようと席の端に移動し、
 そして、ある者はそそくさと教室から退出……ってタバサじゃないっ!

 いいわ、見ていなさい。
 昨日までの私とは違うんだから。
 使い魔がちょっとアレだけど、サモン・サーヴァントには成功している。
 だからもうゼロじゃない。
 出来る。出来ると信じれば必ず出来る……!
 正直微妙な成功に裏づけされた彼女の自信。
 それが彼女の力を最大限にまで引き出す。
……そして。

 周囲に響き渡る爆発音。
 天井から降り注ぐ破片に、逃げ惑う生徒達の絶叫。
 我先にと逃げ出す生徒達がひしめき合い出口は騒然となる。
 使い魔達も飛べるものは皆、窓から逃げ出した。
 この場に残っているのは、ルイズを含めた生徒数名と気絶したミセス・シュヴルーズだけ。
 それと、何が起こったのか分かってない犬が一匹。

「だから言ったのに! 余計ひどくなってるじゃない!」
「うるさいわねっ! ちょっと失敗しただけでしょ!」
「……まぁ破壊力が上がったって意味では上達したとも言えるかもね」
 言い争う二人の間にギーシュが茶々を入れるが完全に蚊帳の外。
 睨み合う互いの目から凄まじい電流が飛び散り他の物など視界に入っていないのだ。 
 出来れば三人に早々に避難してもらいたいのだが、そうもいかないらしい。
 かといって女性より先に逃げるのは自分の誇りが傷つく。
 やれやれ、と同じくアウト・オブ・眼中仲間の犬と視線を合わせる。
“なるほど。忠誠心は人一倍あるのか”
 誰もが口を揃えて駄犬と言うが、どうやらそうでもないらしい。
 先の爆発騒ぎで主人より先に逃げる使い魔もいたが、この犬は違うらしい。
 ルイズがこの場から離れない以上、逃げるつもりもない。
 随分と勇敢な使い魔だ、とギーシュはそう評価した。
……本人に何が起きたか分からずに、きょとんとしているだけなのだが。

 ふとギーシュの脳裏に違和感が走った。
……いつもより大きな爆音。
 それを聞いた生徒達は一目散に逃げ出した。
 だが、音に比べて被害があまりにも少なすぎる。
 再び降り注ぐ破片。
 ギーシュと彼が同時に頭上を見上げる。
 瞬間、驚愕に言葉を失った。

……亀裂の走った天井。
 降り注ぐ破片は爆風に巻き上げられたものではない。
 今も微かな悲鳴を上げる天井、その瓦礫。
 爆発はここではない、上で起きたのだ。
 自重により崩落の危険はさらに加速していく。
 次々と広がっていく亀裂の下には白熱する二人。



「二人ともケンカを止めるんだッ! そこは危……」
「ギーシュ! アンタはすっこんでなさいっ!」
 必死の呼び掛けも一喝され届かない。
 仕方ない。レビテーションで無理矢理にでも!
 ギーシュのその判断よりも早く使い魔は主の元へ駆ける。
 壇上へと上り、その場から引き離そうとローブを噛んで力の限り引っ張る。 
「ちょっと何するのよ! 離しなさい!」
 だが、その行動も理解されなければ無意味。
 そして理解した時には遅すぎた。

 一際大きな破砕音に全員の視線が頭上に集中する。
 刹那、堰を切ったように煉瓦の雨が二人に降り注いだ。
 悲鳴と共に二人の姿が砂煙に消えていく。
 その光景にギーシュの身体が凍りつく。
 二人が飲み込まれるのを黙って見過ごすつもりはなかった。
 だが動けなかった。突発的な事故に反応など出来る筈がない。
 それでも助けるぐらいの事は出来たんじゃないのか、と唇を強く噛んだ。
「大丈夫」
 後悔するギーシュの横をタバサが通り抜ける。
 軽く振り上げられた彼女の杖。
 立ち込める砂煙がそれに合わせるように払われていく。
 開けた視界に浮かぶ二人の無事な姿。
 その周囲には二人を避けるようにして煉瓦が散らばっている。

「……死ぬかと思ったわ。ありがとタバサ」
「どういたしまして」
 生きるか死ぬかという瀬戸際にあったにも関わらず平然と挨拶を交わす二人。
 拍子抜けしてしまうような光景だが、自分には真似出来ない。
 真似できないのは度胸だけじゃない。
 咄嗟に反応し最善の魔法を選択した判断力。
 ただ無口で根暗な少女ぐらいにしか思っていなかったが、
 彼女はこういった危機的状況に直面した事があるのだろう。
……いや、そうであってほしい。
 そうでなかったら男としての面目が立たない。
「全くひどい目にあったわ」
「アンタのせいでしょ! アンタの!」
 同じく瓦礫を除けながら立ち上がるルイズをキュルケが責め立てる。
 無事で何よりだが、元気が有り余ってるのはどうかと思う。
それにしても……
「凄いな。君の風の魔法は」 
「あっちは違う」
「へ?」
 返答の意味を理解できずにギーシュが立ち止まる。
 それだけ告げるとと少女はさっさとこの場を立ち去ってしまった。
 ギーシュに説明できないのも無理はない。
 タバサ自身、何が起きたのか分からないのだ。
 あの時、確かに旋風の守りで二人を守ろうとした。
 一人ならまだしも二人とも守りきれるかは不安だった。
 だが、ルイズに届いた煉瓦は一つとしてなかった。
 そして彼女の周りに落ちている物を見て驚愕した。
 氷のように溶け落ちた天井の残骸。
 ルイズの魔法ではない。
 キュルケの炎でも降り注ぐ煉瓦を一瞬で溶かすなど不可能だ。
 残された可能性は唯一つ。
 彼女の脳裏に浮かんだのは、ルイズのローブを噛んだまま眠ってしまった一匹の犬の姿だった……


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