ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-17

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匿名ユーザー

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 何とかタバサにレビテーションをかけてもらって、紐無しバンジーを避けられた康一。
「ゼァハァー、ほ……本気で落ちるかと思った……
 タバサさん、助かりました…」

 コクン、と頷くタバサ。しかしシルフィードに加速の指示をしたのもタバサ。
 結果として助けてくれたわけだが、いいとこ取りした格好になる。
 そんなことを全く無視してタバサは言った。

「さっき小屋の床を打ち抜いた「力」で、這い上がってこれなかったの?」
「そういえばそうだな。アレはほんの一瞬だったから、見間違いかもしれんが床に拳跡があった。
 一瞬で床をブチ抜くほどの「見えない力」があれば大丈夫なんじゃあなかったのか?」
 タバサの疑問でアニエスもそれに気付いた。
 力、見えない力、というのは当然スタンドのことだ。

「お前の力に関して、姫様は何も教えては下さらなかった。一体どういう力だ?
 魔法かとも思ったが、ミス・タバサが分からないなら魔法ではないようだし。
 別に秘密にしておきたいなら、とくに聞き出そうとは思わんのだが」
 アニエスはそう言い、タバサも同意の証として小さく頷く。

 康一は首をかしげ、ウーンと唸って考える。
(アンリエッタさんは、出来るだけ内緒にしておけと言ったけど……
 それは貴族の中に悪いヤツがいるからだし。それに一緒に戦う仲間に自分の能力のことを教えないのはなぁ……
 アニエスさんもタバサさんも悪いヤツなわけないし、信頼できる人達みたいだ。
だったら言っちゃってもいいかな)
 考えた末に康一はウンウンと頷いて、自分の心に従い話し始める。

「時間も無いから簡単に説明しますけど、僕には3つ能力があるんです。
 いま音を聞くのに使ってる能力は1つ目。さっき小屋の床をブチ抜いた能力が3つ目。
 1つ目の能力は音を操る能力で、音を聞く力はその能力のおかげです。
 この能力は射程距離が長いんですけど、その分パワーやスピードはない。
 だから僕の体を持ち上げる力はありません」

「逆に3番目は射程距離が短くて、大体5メイル(メートルだけど)その分パワーとスピードに優れてる。
 能力はどんなものも一つ、一箇所だけ「重く」すること。
 たとえどんな強力なパワーを使っても、重くなったら絶対に動くことなんか出来ないほどに。
 そしてこの能力で飛んでくる氷の弾丸を叩き落としたり、床をブチ抜くことが出来た。
 ここまではいいですか?」

 ふむ、とアニエスは眉を少しだけ寄せて康一の説明を理解する。
「つまりその力のない能力だから、お前はいま落ちそうになっても体を持ち上げることができなかった、と。
 それでは何故その3つ目の力を使わなかった?それなら問題ないだろう」
 新たな疑問が生まれ、それを問うアニエス。

「それは僕の3つの能力が同時に使えないからです。
 いま僕は1つ目の能力を発現してました。だから別の能力は使えなかった。
これがさっきのことの答えです」

「それは……私たちに言ってもいいの……?自分の能力の弱点を教えても」
 静かな声でタバサが聞いた。
「……二人とも人に言いふらすようなことはしないって、信じられますから」

 タバサは無表情、アニエスは更に眉をしかめて康一を睨みつける。
「そんな信用されることをした覚えはないがな」
(だからって、睨まれるようなことした覚えもないんですけど……)

 鋭い目つきで睨むアニエス、その視線を受け止める康一。
「ふんっ。わたしが言いふらすかどうかは…………お前のこれからの心掛けと行動次第、だな。
 わたしを信用させている内なら文句はない。それ以外は、どうなっても知らんぞ」

「上等ーッです!」
 不敵に笑って答える康一、同じくアニエスも不敵に笑った。
「上等」
 康一と同じことを言うタバサに不敵な笑みはなく、何時もと変わらぬ無表情。
 ただしほんのチョットだけ声が楽しそうなのを除けば。

「それで、逃げている奴らはいま何処にいる」
 ひと段落したところでアニエスが聞く。
「もう結構近いです。およそ前方100メイルぐらいで足音が途切れました。
 そこで多分立ち止まってるんだと思います。
 そこは結構開けてる場所みたいですから視認できるかも」

 確かに康一の言うとおり、前方の森が一直線に道のように開けている。
 シルフィードが旋回し、全員で地上を見下ろす。
 地表にはゴロゴロと丸い石が転がっており、所々に水溜りが見えた。
 あきらかに森の地面ではない。

「どうやらここは川らしいな。だがいまは水がなくて干上がり河原になっているが」
「でもこれだけ見通しのいい場所で立ち止まってるってことは…」
 康一が呟く。
「誘っている」

 タバサの答えにアニエスと康一が頷いた。
「とりあえず僕が地上に降りて様子を見ましょうか?
 場所が分かれば1つ目の能力を使わないでいいんで、一人で飛び降りても平気ですし」

 しかしタバサが首を振った。
「魔法の罠があるかどうかは、メイジの私でないと分からない。私も行く」
「確かにそうだ。それにわたしは真正面からメイジと戦り合うのは向いてない。
 わたしは大人しく、空から援護に回るさ」
 アニエスも同意し、自分の役割を決めた。

「じゃあ、それでいきましょうッ。飛びますよ!」
 タバサと康一、二人で呼吸をはかって同時にシルフィードの背から飛び降りる。
 ビュウゥ、と康一とタバサが風を切って落ちてゆく。

 タバサは小さく口を開きレビテーションを自身にかけた。
 康一はACT3のパワーで自身を持ち上げ勢いを殺す。
 着地地点は河原から少し離れた森の中だ。
 上手く着地した二人は、素早く辺りを見回し注意を払う。

 警戒しながら康一はタバサに聞く。
「何かありましたか?」
 ディティクトマジックを使って、周囲を調べ終わったタバサが答えた。
「魔法の力は何もないし、感じない」

 探査は康一もACT1で行っているが、怪しそうなものは何もなかった。
「とりあえず問題ないようなら、奴らの所に行ってみましょうか」
「そうする」
 同意したタバサ、二人は警戒を続けながら注意深く河原へと出た。

 河原は水で削られ丸まった石が転がっていて足場が悪い。
 さらにかなり大きな水溜りもあり、石も殆んど濡れたままの状態でヘタするとスッ転んでしまうだろう。
 攻撃の回避などで、走ったり飛び跳ねたりするのは容易ではなさそうだ。

「この先から足音はありません。魔法で飛んで逃げでもしない限り、必ずいる筈です」
 康一はすでにACT3を発現させ、タバサも杖を構えて戦闘態勢に入っている。
 何があっても即座に行動できるよう、神経を研ぎ澄まして先を目指す。

 そして目的の者は一人ぼっちで河原の真ん中で立っていた。
 たった一人、もう一人は何処にいるのだろうか。
 目の前の男は囮なのか、何処かに隠れて隙をうかがっているのか。

 ただ一人の男はフードを目深に被り、顔を見ることは出来ない。
 何を語るわけでもなく、無言を貫く。
 この態度では何かがあるのだろうと考えるのが普通だろう。
 そして、ソレはこれからすぐに分かる。

「いまならまだ大人しくボコボコにされるだけで済むんですけど、どうします?」
 暗に最低でもボコボコにすると言っている康一。
 そんな康一の問いに対する男の返答は、杖をもって返された。

 地面に広がる水溜りが軋みをあげた。水が凍る際に出す、独特の凝結音。
 そして水が氷に一瞬で変わり、地面から氷の槍が突き上げられるッ!
「ACT3!」
 康一は飛びのきながらACT3で自分に命中する分だけ拳で砕く。

 タバサは魔法の気配を康一より速く察知していたので、その身軽な体を跳ねさせるだけで回避した。
 そして反撃の魔法を唱える。魔法はエア・ハンマー。
 速攻の反撃を受け、男は魔法で防御するためウォーター・シールドを唱えた。
 瞬間、河原に溜まっていた水が揺れて、男の目の前で壁を成す。

 タバサのエア・ハンマーは大きく質量をもつ水に弾かれ、大気に戻った。
(二回とも水の魔法を使ってる。コイツ水系統のメイジかッ!)
 康一の考えどおりなら、この場所は敵にとって有利に働く。

 川の水は干上がってはいるが、まだまだ残っている。
 その水があれば強力な水の魔法が素早く使え、かなり厄介だ。
 タバサの二つ名は「雪風」だが、本来は風の系統。
 氷を使うといっても、戦い慣れた本職である水のメイジとの水の力比べでは分が悪い。
 それはタバサ自身が一番理解していることだろう。

 康一は相手に突っ込もうと不安定な足場で走るが、男が軽く杖を振るとまた氷の槍が地面から生えた。
「くうッ!」
 杖を持たない康一だが、どうやったのか自分の氷を砕かれ警戒しているのだ。
 故に康一は男に射程距離まで近づくことができない。

 射程距離の長いACT2で攻撃しようとも考えたが、自分からスタンドを離すのはこの状況では危険だ。
 よってACT3で攻撃するしかないわけだが、結局上手く近づけずに防御するしかやれることがない。
 多分ここで待ち構えていたのも地の利を生かすためなのだろう。
 それが何倍にも敵の力を増している。

 魔法戦に慣れたタバサは多少回避して攻撃を仕掛けているが、あまり有効な攻撃は繰り出すことが出来ない。
 手数で押すタイプのタバサは、自分以上か同程度のスピードで攻撃されるのが苦手だ。
 攻撃力は一つ一つは小さめなので、その攻撃力を上回る攻撃をされると自然、防御に手を回さざるを得ない。
 それゆえに持ち味の手数が減り、総合的な攻撃力が減少している。

 結果相手に押され、攻めたてらることとなっている。
「どうしますか、タバサさん?」
「……防御をお願い」
「分かりましたッ!!」

 タバサは跳躍し、河原の水が溜まっていない場所で詠唱を開始する。
 康一はタバサの周りでACT3を構え、地面に転がる石を掴んで投擲。
 ACT3のパワーで投擲された石ころは、恐ろしいスピードで飛んでいき、男の周りに張られた水の壁を叩く。
「むうぅ!」

 別に敵を倒さなくてもいい。
 タバサが詠唱を終えるまで暫くの間、守り抜けばいいだけなのだから。
 防御に力を入れさせることで、攻撃を手薄にさせる。
 残った攻撃はACT3の拳で楽に防ぐことが出来るから。

 その間にもタバサが詠唱を続ける。長めの詠唱。
 つまり強力な魔法を使うということだ。いまタバサが詠唱する魔法の名はエア・ストーム。
 風のトライアングルスペルで竜巻を起こすタバサの切札の一つだ。

 水が敵の力を増している要因ならそれごと吹き飛ばす。
 この劣勢を変えるには、それしか方法が無い。
 この魔法を唱えたら精神力はかなり減り、このクラスの魔法は使用不可になる。
 外すことは出来ない。タバサは更に精神力を高める。

 しかし敵の男は突然予想外の行動に出る。
 杖を右手で掲げて、左手から何かを空へと投げたのだ。
 康一の目が宙に投げられたものに向かう。
 暗くて良く分からないが、何か丸い玉のようなものであった。

 それに向かって男は杖で何かの魔法をかける。
 すると宙に舞う玉が、突如夏の花火のように光り輝いたッ!
 タバサは宙に輝く光に目が眩み、詠唱を中断してしまう。

 そして男は自分にフライの魔法をかけて、素早く空に飛んだ。
「一体何をやってるんだアイツはッ」
 宙に舞う敵を見て康一は言う。
 するとハッとしたように河原の端、水で抉られた川岸の土を見る。

 発光で見えた川岸の土は乾いてはいなかった。
 水位の跡がくっきりと水で濡れて見えていたッ!!
「何で……?干上がってるなら、水位の跡がまだ濡れてることなんてありえないハズだ」
 続いて地面を見る康一。

「そういえば、この周りは水が無いのに、河原の石は濡れてる。
 これってもしかして…ついさっきまで水があったってことなの……………か?
だと、したら。もしかしてッ!!」
 何かに気が付いたように顔をゆがめる。
 そして危機を告げる声が響いた。

「きゅいーーーーーーーーーーッッ!!!(鉄砲水よーーーーーーーーーーッッ!!!)」

 上空のから聞こえた声。シルフィードが発した悲鳴だった。

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

 そして川上、康一たちの前方から轟音が響いてきた。

「鉄砲水だってッ!」
 前方から丸ごとの大木や石を飲み込みながら、大水が康一たちに迫り来る。
 康一は悟った、全ては敵の思い通りだったのだと。

 いなかったもう一方のメイジががこの鉄砲水を作り出すための細工をしていたのだろう。
 そしてあの光は鉄砲水で自分達を飲み込むための合図だったのだ。
 そして敵は一人先に魔法で空を飛び、自分は大水に飲み込まれぬように逃げた。

 鉄砲水は時速百数十キロのスピードで迫り来る。
 幾らスタンド能力や魔法があるとしても、この災害である水を防ぐことはできない。
 そしてこのタイミングでは川岸に上がって避けることはできないし、
 魔法で飛ぶにしても間に合わず、大水に飲み込まれてしまう。
 シルフィードが自分達を救出するのも恐らく間に合わないだろう。

「うおおおおおおぉぉぉォォォオオオオオオオッッ!!」
 康一はあと数秒で自分達を飲み込むであろう鉄砲水からどう逃げるかを考える。
 このまま後ろ斜めに走って逃げるか。
 いやそんなことは無駄な足掻きだ。数瞬飲み込まれるのが早いか遅いかだけだ。

 さすがに康一は、ここまでか……、と思った。
 だが彼女は違った。一歩、前へと踏み込む。
「……え、タバサ、さん?」

「あなたが教えてくれた」
 康一からは、その小さな背中しか見えない。しかし確かに康一には見えた。
 タバサの瞳にある輝きが。
 自信を込めて、魂を込めて、ゆっくり紡ぐようにタバサは語る。

「道は「創る」ものだと……!!」

 ビュンッ、と杖を振るうタバサ。
 自身に残されたほぼ全ての精神力を注ぎ込み魔法を発動する。
「ス、スゴイ冷気だッ、メチャクチャ寒いッ!まるで-20℃の冷凍庫の中に入れられたみたいだぞッ!!」
 一瞬で生まれた凍気に周囲の水溜りがまず凍る。
 そして迫り来る大水さえも前方10メイルほどで止まってしまった。

「で、でもあんな大量の水ッ、全部を魔法で凍らせられるんですかッ!?
多分氷の中は凍らずに水のままですよッ!水は氷をブチ破ってきますッ!!」
 確かにその通りだった。タバサが残された精神力のほぼ全てを使って大水を凍らせたとしても、凍らせられるのは表面のみだ。
 後数秒もすれば、水は氷を突き破って康一たちを飲み込むだろう。

「なら、突き破ってくれば………いい」
「え?」
「どうせ突き破られるなら最初から、突き破られるように凍らせればいい」
 ピシリ、と氷にヒビが入る音がした。

「最初から全てを凍らせられるとは思っていない。
なら一箇所でいい。最適な場所を脆くして最初に突き破られるのを制御すれば……」
「そ、それでもッ、最初にソコが破られたとしても、その数秒後には他の所も突き破られちまうッッ!!」
 叫ぶ康一を尻目にタバサは落ち着いて言った。

「私一人では確かに無理。でもあなたの力があれば……
 あなたの「重く」する能力があれば、道を作ることが出来る」
 康一が目を見開く。一体何を重くするというのだ。
 何を重くすれば道を創ることが出来るというのかッ!

「道を駆け上がることが出来るッ」

 ビシリッ、と音を立てて氷が割れた。氷で作られた堤防が決壊する。
 ドバァッ!と水が溢れ出し破れた場所から流れ出す。
 水も土砂も石も、そして大木も。

 大木は寺の鐘突きの丸太のように、康一たちに向かって一直線に吹き飛ばされてくる。
「そうか……分かったッ。タバサさん、あなたの力で確かに道を創ることがッ、できますッ!!」
『グレートデス。確カニ道ガ、道ガ見エマシタ』
「いくぞッ、ACT3ッッ!!」

『コノ思イ、無駄ニハ出来マセンネ。S・H・I・T』
 ビシィッッ!!
 ACT3独特の拳法のようなポーズ。それは能力を使用するときの前触れだ。

『ACT3・FREEZE!!!』

 ドドドドォッ!!

 叩き込まれる3・FREEZE。そして康一とタバサは鉄砲水に向かって同時に駆ける。
「このタバサさんが示してくれた道は、他のヤツじゃあ見えない道ッ!
 僕だからこの道の意味が分かる。この空へと駆け上がるための道はッ!!」
 ACT3の能力が叩き込まれた場所は、康一とタバサに向かって突撃してくる大木の「根っ子」だ。

「ACT3ッ、パワー最大で重くしろーーーーッッ!!」
『YES,MASTER!!』
 残りのスタンドパワー全てをつぎ込むように流れ来る大木の根を重くする康一。

 この激流の中で突然重くなった木の根っ子。
 つまりこの木の根っ子「だけ」は重くなり他の部位は何時も通りなのだ。
 木の根は川底にめり込み、あたかも植樹するかのように大水の激流が木自体を「持ち上げて」くれるッ!

 タバサが大水を凍らせたのはこのためだ。
 どの木も流れに対して横になり回転しながら流されてくる。
 だが自分達が飲み込まれる寸前で大水を凍らせ、その氷を堤を破るように一気に水が流れれば、
 流れてくる木は破れた場所から、自分達に対して真っ直ぐに突っ込んでくることになる。
 そうすれば射程距離の短い康一の能力でも、木の根っ子だけを重くすることができるからッ!

 ググウゥッ

 傾斜のキツイ滑り台ほどの角度がさらにキツクなる
 そしていま自然のエネルギーで一本の木が川のど真ん中に植えられた。
「タバサさん飛びますよッ!」
「え?」
 康一はタバサの手を掴んで自分に引き寄せ、抱えるように一気に跳躍。

 ACT3のパワーで自分を跳ばして、植えられたばかりの木に飛び移る康一。
「上のヤツは任せます、タバサさんッ!!」
「……あ、うん」
 一瞬呆けたような顔をしたタバサ。気を引き締めるように、顔つきが少しだけ険しくなる。

 跳躍した先から更にACT3の力を解放。タバサを木の最上部へと投げ飛ばす。
 濡れた木の葉がタバサの体に触れて、何故か熱く火照った体温を奪う。
 タバサは目を瞑りながら、その感覚が少し心地良いと感じ、もっと長く味わいたいと思った。

 だがそれも束の間、あっという間に木の葉の群れを掻き分けて最上部さえも飛び越えた。
 目を開くタバサ。スデに攻撃の準備は整っている。
 フライで宙を飛ぶ、フードを被った敵をその瞳で捉える。
 相手の表情はいま一つ見えないが、影から覗かせた目には間違いなく驚愕があった。

 フライの魔法を使用中は、他の魔法を行使できない。
 つまりいま宙を飛ぶ敵は、ただのいい的となっていると言うことだ。
 小声で詠唱を済ませておいた。魔法はエア・カッター。
 風の刃を作って放つ魔法だ。

 タバサは自分に残された精神力を、瓶底に僅かに残ったジャムをスプーンで掻き集めるようにして、魔力へと練り上げる。
 タバサが身の丈に合わぬ杖を振るった。
 瞬間生まれる風の刃。体中から掻き集めた精神力全てを使っても、小さな風の刃一つ形作るのが精一杯。
 だがそれで十分だった。

「ドオオォォバァァアアッ!」
 スピードの乗った風の刃は、敵の体に確かに命中。
 その勢いを持続させたまま、敵の男は川岸まで吹き飛びそのまま気絶。
 タバサは魔法を放ち終えた後、素早く手近な木の枝を掴んで着地する。

 しかしそれが終わるが早いか、ガグンッと川に生えた木が揺れた。
「わぉおおッ!」
 慌ててしっかりと木を抱えるように掴んで体勢を整える二人。
 康一とタバサには見えないが、大水の中でを流れる石などが木を直撃してこれほど大きく揺らしたのだった。

 幾ら康一の能力で木の根を重くして木が鉄砲水の流れに耐えたとしても、
 その水を流れてくるものがブツかり続ければ、木自体が破壊されてしまうだろう。
「この感じだと時間がありませんね」
「でも大丈夫」
「ええ、大丈夫ですねー」

 頼りになる仲間の存在。空を自在に駆ける仲間が康一たちにはいる。
 だから心配などありはしない。
 シュバン、と風を切って飛来したシルフィード。
 康一を口に銜え、タバサを背中に乗せて空へと飛翔する。

 ACT3の射程距離を外れ、重さがなくなった木は激流へと飲み込まれ消えていった。
「うわぁ、僕達もヘタするとあの木みたいになってたんですよね。
 間違いなく体がバラバラになっちゃいますよ………」
 宙吊りの康一が、冷や汗を流して言う。

「でも、何とかなった。あなたのおかげ」
 ポツン、とタバサが言った。
「僕の力じゃあないですよ、タバサさんが道を創ったんです。僕はそれをお手伝いしただけですから。
 それと、そろそろ口に銜えるの止めてもらえませんか?シルフィードさん……」
 シルフィードの口に銜えられ、締まらない格好の康一が呻いた。

「驚愕……」
 川の上流、森に遮られた川岸で残った一人のメイジが呟いた。
 この土のメイジは川の上流にて、水を塞き止め追っ手を始末するための手筈を整えていた。
 策はほぼ完璧。逃れる余地はまずなかった。

 しかし追っ手はこの鉄砲水を逃れ、さらにもう一人の仲間まで倒してのけた。
 殺されてはいないようだが気絶していようで、その間に杖は破壊されてしまうだろう。
 なんとか助ける手立てはないものかと思考する。

 その考える隙に、背後でガサリと茂みが動いた。
 音に反応して振り向き杖を向けるが、時すでに遅し。
「カァ…イキョオッォォゥ……」
 ガインッ、と頭部をしたたかに殴りつけられて倒れこむ。
「不、覚」

 立っていたのはアニエスであった。
 スデにアニエスは空から鉄砲水を見て、川の上流に敵がいることを察知していたのだ。
 そして背後から忍び寄り、手に持つ剣の腹で頭部を一撃。
 アニエスの個人的感情としては、殺してしまっても全く構わないのだがそれはマズイ。

「人のことを殺そうとしておいて、それでも殺さずぶん殴っただけで済んだ。
 これはわたしが途轍もなく慈悲深いということの表れだな。うん」
 その割には、死んでもおかしくない勢いで頭を殴っていたが。

 場所を戻して、最初に来た小屋の跡地。
 この小屋跡地で倒したメイジも含め、三人のメイジが身体検査した上で縄で拘束して転がされていた。
 もちろん周囲の警戒をするのは怠らない。康一はACT1で辺りを警戒中だ。

「しかし、どうやらこれで任務完了といったところだな」
「やー、さすがにあの鉄砲水は死ぬかと思いましたけど、何とか生きていられてよかったです。
 これもタバサさんの魔法と、シルフィードさんが空から鉄砲水のこと教えてくれて、僕達を助け出してくれたおかげですね」

「きゅいきゅい(そんなことないわよー、照れちゃうわぁ)」
 恥ずかしそうに、巨体を揺らして照れるシルフィード。
「別に謙遜しなくてもいいですよ」
 照れるシルフィードを褒め、微笑ましく会話する康一。

 その瞬間タバサはシルフィードの背に乗って追跡中の違和感を思い出した。
 違和感の正体、いまのタバサにはそれが何なのかハッキリと分かった。
「あなた……この子の言葉が分かるの?」

「え?」「きゅい?」
 同時に首を捻って疑問符を浮かべる、康一とシルフィード。
「いま会話してた」

 また一人と一匹は同時に首を傾げて顔を見合わせ、そして爆発。
「だわああああああぁぁあああッ!!」
「きゅうういいいいいいぃぃぃ!?(何でーーーーーーーーー!?)」

 慌てふためく一人と一匹を尻目にタバサは康一の「右手」を見つめた。
「ルーンが光って、いる」
 え?、と康一が呟きルーンの刻まれた右手を見る。
 すると、薄ぼんやりではあるが康一の右手のルーンが光っていた。

「な、何だ、これ?」
「何を一人で騒いでるんだお前は!うん?
 それは…確か姫様と契約した証である、使い魔のルーン、だったな。
 何故それが光っているんだ?」

 覗き込んだアニエスが聞くが康一にだって分かるはずもない。
「いや、何だか、急に光だしちゃって……………………あれ?
 いまアニエスさん、一人で騒いでいる、って言いましたか?」
「何?いや確かに言ったが、それがどうした?」

 もしかしてと思い、康一は思いきってアニエスに聞いた。
「まさかアニエスさん、シルフィードさんの声が分かって、ない?」

 空を飛翔するシルフィード。その背にまたがるのはタバサのみ。
 康一とアニエス、捕らえた三人は来たときの馬車に乗って移動中だ。
 シルフィードの言葉を理解した康一。
 秘密ではあるがシルフィードは風韻竜という、人の言葉を喋ることが出来る古の竜種だ。

 しかし康一は人の言葉で話したわけではないシルフィードの言葉を理解した。
 不思議な能力を持っていることもあるので、その能力で会話しているのではと思ったが、あの康一の驚きようからして、それはなさそうだった。
 右手のルーンが光っていたことからして、あのルーンの与えた効果なのかもしれないが、実際はどうなのだろうか。

 あの後、シルフィードは冷静になってみると、人の言葉で話さなくても自分と会話できる者が見つかったということで、とてもご機嫌になった。
 お喋りな自分の使い魔が、自分の迷惑にならないように口を噤んでいることを考えれば、いいことなのかもしれない。
 あの使い魔の少年、コーイチは人が良さそうだったので、頼めばシルフィードのいい話し相手になってくれることだろう。

 考えるタバサの瞳に光が差し込む。どうやら夜明けの時間となったようだ。
「でも、おねーさまが無事で本当によかったわー!」
 タバサ以外に人がいないことをいいことに、シルフィードが人の言葉で話しかけてきた。
「それに何だか、おねーさま楽しそう!」

「楽しそう?」
 そうかもしれない。今晩の出来事は心動かされることばかりだった。
 封じてきた感情が少しだがこぼれだし、体中が熱くなった。
 忘れていた。楽しいというのはこういうことなのかもしれない。

 朝の清清しい風を切って、シルフィードはゆっくりと馬車のスピードに合わせて飛ぶ。
 タバサの頬も風に打たれ、一晩で随分ボロボロになったマントがゆらゆら揺れた。
 仕事は完遂し、水の秘薬の情報も手に入る。
 いいこと尽くめのタバサだが、いまはそんなことを忘れていた。

 地上を見て、ホロ付きの馬車の中にいるであろう彼のことを想う。
 彼のことを想うだけで、何だか心が温かくなった。
 タバサは地平線の先から上る太陽を見つめる。

 眩しく、新しい日の始まりを告げる知らせ。

 今日もハルケギニアに日が昇る。




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