ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの来訪者-22

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匿名ユーザー

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 モット伯の屋敷に向かう馬車の中、窓の外に目を向けるシエスタの顔は沈んでいた。
 自分がどのような『仕事』を申しつけられるかはわかっている……
 自分の胸を凝視するモット伯の顔を思い出し、嫌悪に震える身体を抱きしめる。
 だが同時に、自分にはどうにも出来ないのだと、彼女は諦めていた。
 自分は平民であり、貴族の要求を拒む事など出来はしない。
 そう考えていると、先日の食堂での出来事を思い出した。あの時自分は貴族という絶対的な存在を前に震えていた。そして恐怖に震えながらも、どこかで諦めていた。
 ただの平民である自分を、誰が助けてくれるというのか?
 貴族にとって平民など家畜に等しい。
 そして、貴族に歯向かってまで自分を助けるような平民などいはしない。
 その事に腹が立つという事も無い。
 それは当然の事であり、仕方が無い事なのだ。
 だからあの時、自分を助けてくれた彼を神々しくさえ感じられた。

 しかし彼は人間ではなかったのだ……

 彼女は見た。
 ヴェストリ広場で異形に変じる彼を。
 貴族を苦も無く一蹴し、しかもその傷をいとも簡単に治したその力を。
 始めは何がおきたのか、まったく理解できなかった。
 しかし周りの人間、貴族達の驚愕の声が聞こえてくるにつれ、彼女は恐くなり……
 気付けばその場から逃げ出していた。

「だがよ、そいつはお前さんを助けてくれたんだろ?」
 厨房に逃げ帰った彼女を慰めるメイド達に、コック長のマルトーが声をかける。
「何言ってるんですか、シエスタはこんなに震えてるんですよ!」
「そうですよ、貴族達も悪魔だって噂してるんですよ。どんな事を企んでたか…」
 メイドたちに非難の声を向けられたマルトーは、やれやれと首をふった。
 翌日、騒動の当事者の貴族がシエスタに謝罪しに来た。
「痛快じゃねえか!貴族が平民に頭を下げるなんてよ!」
 貴族嫌いのマルトーがそう言って喜ぶ。
 しかしそれとは逆に、シエスタの心は重く沈んでいた。
 彼女自身、彼は何の裏表も無く自分を助けてくれたと思っている。
 だが貴族をたやすく打ち倒すあの異形の前に立つ勇気が、彼女には無かった。
 そして、あの場から逃げ出してしまった後ろめたさも、それを後押しする。

「当然……ですよね…」

 結局彼女は、学園を去るその時まで、逃げてしまった謝罪はおろか、助けてくれた礼すら言えなかったのだ。
 そんな最低な自分だからこそ、こんな事になって当たり前だとシエスタは考えた。



 授業中のため、人がほとんどいない図書館の一角で、育郎はミス・ロングビルから文字を教わっていた。もっとも、使い魔の性質か、文字の意味を知った瞬間から、読むだけならすぐできるようになり、2、3日もすれば大体の本を読めるようになっていた。
 とはいえ、書くともなるとそうはいかず、こうしてミス・ロングビルの授業を受けていると言うわけである。
ちなみにデルフリンガーは持ち込むわけにはいかず、入り口の司書に預けてある。

 ミス・ロングビルこと土くれのフーケは、当初学院に眠る破壊の杖の盗む為に、学院長のオールド・オスマンに接触。予想外の事に、学院長の秘書になれたのだが、なんとターゲットの破壊の杖が役に立たない代物だった。
 この時点で、宝物庫のマジックアイテムを適当に失敬して、とっとと新しい仕事に取り掛かると言う選択肢もあったのだが、彼女はこの選択肢を選ばなかった。
 なぜならば、先日育郎から預かった紙のお金が、かなりの値がついたのである。
 ちなみに、育郎には失くしたと言ってもう一枚貰った。
 それはさておき、あの破壊の杖も、もはや使い物にならないとはいえ育郎の世界の物である。つまり異世界の道具はとてもお金になりそうなのだ。
 貴族からマジックアイテムを盗むのも楽しいが、やはり故郷の家族達のことを考えると、リスクも少なく、多額の金を手に入れることができるのなら、それにこした事は無いと彼女は判断した。
 そういうわけで、彼の手伝いと言う名目で、手に入れる事が出来るかもしれない数々の異世界の品のため、彼女は育郎との新密度を高める事が出来る、育郎の
教師役を引き受けたのである。
 もちろん文字を教えているだけではなく、気を引くためにわざと物を落として、さり気なく谷間を強調して見せてみたり。
 そういう事をするたびに、育郎は困った顔をして赤くなるのだが、よく見れば結構美形な男の子に、そういうかわいい反応をされると、もっとしたくなると言うか、いけないおねーさん(23歳)になってしまいそうになるというか。
 なんのかんの言って、フーケはこの状況を楽しんでいたり。



「……はぁ」
「あの……どうかしたんですか?ロングビルさん」
 ミス・ロングビルの物憂げな溜息に、育郎が心配そうに声をかける。
「え?ああ、なんでもありません……はぁ」
 そう言いながら再び溜息をつくミス・ロングビルを、育郎が無視できるわけが無い。
「何かあったんですか?」
 しばらく考え込むそぶりをして、ミス・ロングビルが口を開いた。
「あの……シエスタさんってメイドを知っていますか?」
「シエスタさん?彼女がどうかしたんですか?」

「そんな事が許されるんですか!?」
 珍しく声を荒げる育郎をミス・ロングビルが諌める。
「イクロー君、声が……」
「す、すいません」
 ミス・ロングビルの考える以上に、この話は育郎にとって衝撃だったようだ。
「もちろん好ましくは思われてません…でも貴族に平民は逆らえないんです。
 下手に訴えて貴族の怒りを買うよりは、口を塞ぐ方を選んでしまう……」
 沈痛な表情でそう語るミス・ロングビル。
「……なんとかならないんですか?」
「それは……いえ、やっぱり……」
「ロングビルさん……」
「いけません、こんな事を頼むわけには……」
「お願いします、僕に出来る事なら……」
 こうして、育郎はまんまとミス・ロングビルの思惑通り、今夜のモット伯の晩餐に一緒についていく事になったのであった。



 公務を終え、自分の屋敷に向かう馬車の中、モット伯は浮かれていた。
 魔法学園で雇ったおっぱいの大きいメイドを今夜どうするか、楽しみで楽しみで仕方ないのだ。
 メイド服によって隠されてはいたが、一級品のおっぱい鑑定眼をもつ彼にとって、その服の奥のけしからんおっぱいを看破する事など造作も無い事!
 彼は今夜、さっそくそのけしからんおっぱいに、けしからん事をする気なのだ!
 だってけしからんおっぱいなんだから仕方ない!
 けしからんから仕方ないのだ!
 そして前々からさり気なく狙っていた、魔法学院の秘書ミス・ロングビルが、やっと食事の誘いに承諾してくれた事も、彼の心を舞い上がらせていた。
「うっほほーい!」
 これから自分に待ち受ける運命など知る由もなく、モット伯は喜びの声をあげた。




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