ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は刺激的-19

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匿名ユーザー

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 モンモランシーが牢獄のように頑健な造りの荷馬車から攫われた女の子達を外に出し治療する中、トリッシュとマリコルヌが尋問すると言って、捕まえた男達を連れて消えていった藪の中から時折聞こえる。
 悲鳴の様な唸り声に耳を塞ぎつつ、サイトは周辺に男達の仲間が居ないかを警戒する。
「あの……ありがとうございます。お蔭で助かりました」
 おずおずと礼を言う、トリステインでは珍しい黒髪の少女にモンモランシーは優しく微笑んでそれに答える。
「ううん、気にしないで。あなたも酷い目に遭ったわね」
「いえっ!あ……あたしは大丈夫です!怪我も治してもらいましたから!」
 そう言って少女は顔に手を遣る。モンモランシーの手当てにより男に殴られ腫れ上がっていた頬は後も残らず元通りに治っていた。
「おい、ちょっとこれ見てくれ」
「なに?どうしたの」
 周りを見張っていたサイトがモンモランシーの傍に近づき、手に持った棒切れを差し出す。
「これって……杖じゃないの!どこで拾ったのよ?!」
「御者台の近くに落ちてたんだ。たぶん、あの男のじゃないか?」
 トリッシュが下っ端の男の相手をしている間にマリコルヌとサイトは馬車の影に隠れながら、御者台に乗っていた眼つきの鋭い男の不意を突いて捕らえる事に成功した。
 この杖はそのときに男が使おうと取り出して落としてしまった物なのだろう。


「危なかったわね。魔法を使われる前に捕まえられて良かったわ」
「ああ、そうだな」
 モンモランシーの呟きに短く答え、サイトは攫われた少女達を見る。
 彼女達の年齢はバラバラで、自分と同じくらいの年頃の少女も居れば、サイトの感覚からすれば小学校高学年か、中学一年程度のまだ子供と言ってもいいような年端の行かぬ少女もいる。
 その内の、おそらくは一番幼い少女と目が合った。
 その少女はサイトを怯えた表情で見詰めて震えながら近くの少女に縋り付く。
 サイトは手に持った、トリッシュから渡された剣を怖がっているのだと思い、それを馬車の影に隠してから少女を安心させようと出来る限り優しく微笑む。
「ひっ…いや……いやああああああ!!」
「お…おい!どうしたんだよ?!」
 突然叫びだした少女に驚き心配になったサイトが駆け寄ると、少女は虚ろな目でボソボソと呟きだした。
 少女が呟くその言葉を聞いたサイトの顔が情けなく歪む。 
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
 ただそう言っていれば許されるとでも言うように、抑揚もなく呟き続ける少女に近づこうとしてサイトは立ち止まる。怯えさせているのは自分だ。
「ごめん、あっちに行っててくれないかな?」
 黒髪の少女がサイトの脇を通り、虚ろな目をして呟き続ける少女の傷ついた心を癒すように優しく強く抱きしめる。
「わりぃ……」
 掛ける言葉が見つからず搾り出すようにそれだけを言うと、サイトは少女から見えないように馬車に隠れる。
 少女が男達から受けた仕打ちを思い、サイトは静かに怒りを滲ませた。


「きゃあああああああ!!」
 暗い藪の中から女性の悲鳴が聞こえる。知っている限りでは藪の中に女性は一人しか存在しない。
「今の声って……まさか…トリッシュ?!」
「アイツしかいねぇだろ!オレが行く!お前はここで待ってろ!!」
 サイトは隠していた剣を手に取り、疾風の如き速さで林の中へと駆け出した。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
 慌ててモンモランシーも後を追おうと走りかけ、ハッと後ろを見る。
 そこには少女達が怯えた顔でモンモランシーをジッと見詰めていた。この子達を残してはいけない。
「あの……行って下さい。あたし達なら平気ですから」
 黒髪の少女がモンモランシーの気持ちを察して囁きかける。
 モンモランシーは行くかどうか悩んだ。トリッシュは取りあえずは無事だろう。
 あの男たちは人攫いだ。『商品』となる彼女を殺すとは思えない。そう思いたくない。
 しかし、メイジのあの男が予備の杖を持っていてそれを使って反撃してきたのなら、『商品』にならないマリコルヌとサイトでは殺されるだけだ。
 あの男が風のメイジなら音も無く殺す事は可能だろう。マリコルヌも風のメイジだが頼りない。
 ギーシュのヴェルダンデの方がまだマシだ。同じデブでも向こうの方が可愛いし。
 マリコルヌは死んでも良いがトリッシュの事が心配だ。あの男達なら平気でどんな酷い事だってするだろう。
 心配そうに自分を見る彼女達を見詰める。最悪の場合、彼女達を守れるのは自分しか居ない。


『そんなに心配なら私が様子を見てこようか?』
「だれっ?!出てきなさい!!」
 どこからか声がしてモンモランシーは杖を取り出し、水の系統特有の生命エネルギーを感知する魔法を使い周囲を警戒するが誰かが隠れている様子はまるで無い。
「あの……どうしました?」
「みんなを馬車に乗せて!」
 周囲を警戒しつつモンモランシーは黒髪の少女に指示を出し、地面に置いていた鞄を拾い肩に掛ける。
 その肩から下げた鞄から何かがもぞもぞと這い出して地面に着地する。
 それは彼女の使い魔であるカエルのロビンだった。
「あああ、あなたいつの間に?!」
『君が随分慌てていたんでね、心配になって着いてきたわけさ。まあそんな事はどうでも良い。私が様子を見てくるから君はいつでも逃げられる様に彼女達を馬車に乗せて待っていろ』
「ちょっと私に命令しないでよ!あなたの御主人様なんだからね!!」
 カエルと言い合いをするモンモランシーを見て黒髪の少女が途方に暮れていると林の中からトリッシュが慌てた様子で駆け出してきた。
「モモモ、モンモランシー!お水!水を頂戴!!早く!早くしてっ!!」
「え?!わ、わかったわ!」
 慌ててルーンを唱えて杖を振ると、杖の先端から水が溢れ出した。
 空気中の水蒸気を液体に戻す水系統の初歩の呪文だ。 
 トリッシュはその水で手を浸しハンカチで削らんばかりに擦り始める。
「トリッシュ待ってよー!置いてかないでくれーっ!!」
 顔に青痣を作ったマリコルヌとサイトが捕まえた男達を担いで林の中から姿を現した。


「ちょっと何があったの?教えなさいよ」
 馬車の傍でしゃがんで落ち込んでいる二人にモンモランシーが話しかけると
 ポツポツとマリコルヌが喋りだした。
「いや、それがね……」
 マリコルヌによると、尋問の最中に男の垂らした涎やら鼻水がトリッシュの手に掛かり、悲鳴を上げながら
 それをハンカチで拭いたが、ネバネバしたそれらは逆に手の全体に広がりパニックに陥ってしまった。
 マリコルヌがトリッシュを落ち着かせようと近づいたら、汗臭いやら脂ぎって気持ち悪いと罵られながら顔を蹴り飛ばされ、駆けつけたサイトが混乱しているトリッシュの肩を掴んで落ち着かせようとして
 臭いやら汚いやらと言われながら肘打ちを喰らってサイトが怯んでいる隙にトリッシュが駆け出して現在に至るのだという。
「まあ…気持ちは判るけど少し落ち着いたら?」
「汗臭くて脂ぎってるとか服が汚れて洗ってない犬の臭いがするのよッ!生理的にダメなのよォーーーッ!」 
 嫌悪感を露に未だ混乱しているトリッシュを座らせて、モンモランシーはマリコルヌ達を見る。
「どーせ僕はデブさ。太っちょさ。能無しの肥満体さ」
「はいはい犬ですよ。野良犬ですよ。汚らしい雑種ですよ」
 言葉の刃で斬り付けられた二人は仲良く蹲って自傷行為を繰り返していた。
 静かに泣き濡れる彼等の心は魔法でも癒せない。


 二人が立ち直るのを待たず、モンモランシーは少女達を馬車に乗せると自らは御者台に座る。
 その隣には黒髪の少女が手綱を持って腰掛けていた。
「それじゃ気をつけてね。それからこれ、役に立つと思うから」
「ええ、ありがとうモンモランシー」
 ポーションの入った鞄をトリッシュに渡して、モンモランシーは来た道を帰っていった。
 少女達を近くの街道警備隊に保護して貰う為には貴族が居た方が良いと考えた結果、仕方なく彼女が同行することにしたのだ。
 これからする事を考えるとマリコルヌ達では不安もあったが、少女達だけで行かせる訳にも行かなかった。
 それに男達から聞きだした彼らの雇い主であるモット伯の事を説明する必要もあった。
 そうすればモット伯が司法の手により裁かれるのは明白だが、貴族の屋敷を捜査する為にはそれなりの手続きが必要であり、その間にシエスタに危機に陥っては自分達が来た意味が無い。
 結局は屋敷に乗り込んで救い出すしか手は無いのだった。
「それじゃ行きましょ。ええと…」
 隣の少女に声を掛けて、まだ名前も知らない事に気付く。
「あっ!あたしジェシカです」
 家に帰れる喜びなのかハツラツと答えるジェシカが手綱を繰って馬車を走らせる。
 少女達と悪党二人を乗せた馬車の頭上に雲が立ち込め、双月が怪しげに瞬いていた。 



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