ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ドロの使い魔-4

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匿名ユーザー

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 ヴェストリの広場は、魔法学院の敷地内、塔の間にある。要は中庭だ。
 建物の影になって日が差さず、普段人はいない。
 あの平民はぶちのめしたいが、あまり大事にはしたくない……というギーシュの微妙な配慮(彼も一応貴族だ)がここを選んだのである。
 だが、それは全く無駄に終わったと考えていいだろう。
 広場は噂を聞きつけた生徒たちで溢れかえっている。

「決闘だ!」
 ギーシュが薔薇の造花を掲げた。歓声が巻き起こる。
「ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの平民だ!」
 うおおおー!
 また歓声。

 平民と貴族って、階級だと思ってたが、どうやら種族みてーだなあ。
 すると目の前のモヤシ男は人間じゃねーのか?
 セッコは思った。

 魔法=血統なのである意味間違ってはいない。

 殺しちゃあダメとかルイズが言ってたな。
 ということは「貴」族も死ぬって事だ。
 なんとなくだが負ける気はしない。
 決闘を前にしても特に何も感じなかった。不思議だ。

「では始めるか、僕はメイジだから魔法で戦うぞ。文句はあるまいね?」
 ギーシュが薔薇の造花を振る。
 花びらが舞って、女の銅像が現れた。動くのか?
「さっさとかかって来い、モヤシ男。」
 まだ銅像の性能がわからねえ。こっちから行くのは危険だ。
「僕は[土]属性、青銅のギーシュだ!ちゃんと名前で呼べ平民!」
「青銅とギーシュ、どっちが本当の名前だぁ?」
「うるさい黙れ!行けワルキューレ!」

 銅像が走ってやってくる。運動能力はそう高くねえらしい。
 あまりヤバそうじゃねえし、まずはこれと戦ってみるか。

 目の前まで来た銅像が殴りかかってきた。
 腕を掴み地面に叩きつけるように投げる。意外と重い。
 ん、突然軽く?
 ギーシュが何か叫んでいる。

「……この銅像欠陥品かぁ?」
「こ、こんな馬鹿な!」
 ワルキューレの腕が、根元からもげた。



 思ったとおりね、結構強いじゃない。
 ルイズは自分の使い魔が無能ではないとわかって、少し嬉しくなった。



――トリステイア魔法学院、学院長室――
 ミスタ・コルベールは、泡を飛ばして、学院長老オスマンに説明していた。
 ルイズが使い魔召喚で平民の男を呼び出したこと。その契約のルーン文字が気になったこと。
 それを調べていたら……
「始祖ブリミルの使い魔、[ガンダールヴ]に行き着いたというわけじゃね?」
「そうです!あのルーンは、伝説の使い魔[ガンダールヴ]のものと全く同じであります!」
「わかった、しかし慌てるんじゃあない。同じルーンを使う違う魔法だってあるじゃろうが。」
 オスマン氏はあくまで冷静である。
「それもそうですな」

 ドアがノックされた。
「誰じゃ?」
 扉の向こうから、秘書ミス・ロングビルの声が聞こえてきた。
「私です、オールド・オスマン」
「なんじゃ?」
「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒がいて、大騒ぎになっています。」
「まったく、暇をもてあました貴族ほど性質の悪い生き物はおらんわい、で、馬鹿は誰だね?」
「一人は、ギーシュ・ド・グラモン。」
「あの、グラモンとこの馬鹿息子か。おおかた女の子の取り合いじゃろ、相手は誰じゃ?」
「生徒のメイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔です。」
 オスマン氏とコルベールは顔を見合わせた。
「教師たちは、決闘を止めるために[眠りの鐘]の使用許可を求めております」
 オスマン氏の目が、鷹のように鋭く光る。
「アホか。たかが子供のけんかを止めるのに、秘宝を使ってどうするんじゃ。放っておきなさい」
「わかりました」
 ミス・ロングビルが去っていく。
 コルベールは唾を飲み込んで、オスマン氏を促した。
「オールド・オスマン」
「うむ」
 オスマン氏が杖を振ると、壁にかかった大鏡に、ヴェストリ広場の様子が映し出された。



 ギーシュは焦っていた。一体目のワルキューレはセッコに腕と頭をもぎ取られて機能停止している。
 あいつは間違いなく戦闘経験豊富だ。けれど、メイジたる自分が平民相手に全力を出して問題になったりしないか?
 グラモン家の恥になったらどうしよう?
「くらえっ!」
 足を狙って石礫を放つ。が、普通にかわされてしまう。

「[土]魔法ってのは全部こんな鈍いのか。」
 もう仕方がない。負けるよりは全力で叩き潰す方がはるかにマシだ。
 ありったけの精神力を込めて薔薇の杖を振る。
「ワルキューレぇっっ!!!」

 魔法って大した事ねえなあ、それとも「土」だから?
 確か赤土とかいう先生は土は日用品 つってたっけ?
 だが、こいつが単に弱い可能性も捨てきれねえ。知らないものは警戒するに限る。
 さて、ギーシュをぶん殴ってオレに土下座させるかぁ。

「うおあ、なんだ?」
 気づくと、さっきの銅像が7匹も現れている。
 しかも武器を持ってやがる。こいつはやべえ。
 どうせ鈍いんだろうが、もし当たったら死にそうだ、逃げるか?
 それもムカつくなあー。

……なんか武器があればいいんじゃねえか?

 なぜ、その発想が生まれたのかは判らない。
 何故ならセッコは武器を使ったことが一度もないからだ。
 そうだ、この広場には石が敷かれている。この石で殴ったらどうだろう?
 石は多分銅より硬いんじゃねえか?
 少し出っ張った石に触れると左手の模様が光りだした。
 この手触り、昔から知っている気がする。
 思い切り石を掴む。模様が更に輝き、力が溢れてくる気がする。

 ふと横を見ると、さっき壊した銅像が転がっていた。
 何でオレは目の前にある銅像ではなく、わざわざ埋まっている石を選んだんだ?
 今は闘いの最中だ、そんなことを考える暇はねえ。
 左手の輝きに身を任せてみることにする。



「ねえ、タバサ、あの使い魔って人間だと思う?」
 キュルケは隣の青髪の少女に声をかけた。
 彼女には珍しく、本から目を離して戦いを見ている。
「わからない」
「タバサでもわからないか。」
「あんな能力の亜人は聞いた事も読んだ事もない」
「じゃあやっぱり人間なのかしらね?」
「わからない」
「そう。」



「ちょ、おま、おまえ一体?メイジなのか?」
 どう見ても目の前の男は杖など持ってない。
 しかし
 これは……そんな馬鹿な……
 ルイズの使い魔が、足元に埋まっていた石を。
 いや、岩だ!
 そいつは、直径1メイル以上はあろうかという岩を。

 片手で地面から引きずり出した!
 しかも、僕の目が正しければ、岩の表面が溶けた様に何か滴っている。

「うわ うわああああああ!ワルキューレ!あいつを、あいつをぶっ殺せ!」
「不思議なんだよぉ、左手から力が湧いてくる、オメーを潰せってなあ!」

 僕の 僕のワルキューレが、あいつの持った岩に端から潰されていく……
 しかも、まるで素手で殴るように動きが速い。
 これは平民ではない、何か別のモノだ、認めたくない。
「潰れて死ね」
 僕に向かって 岩が 飛んで しぬ

「ギーシュさま!!!」
 突然横から飛んで来た水流が僕を弾き飛ばした。一体誰が僕を助けたんだ?
 岩は背後の塔にめり込んで砕けた。
「モ、モンモランシー?」
「ギーシュ、やめて!もう怒ってないから、もうちょっとで死ぬところだったのよ!!」
「僕は……」
「それはもういいから、あの使い魔に謝って!あれはギーシュが悪いわ!」
 あいつが近づいてくる。やっぱり僕を……
「……」
「その……セッコ・・だったかな?」
「オレの勝ちでいいか?」
「あ、ああ、僕が……悪かった……」
「わかった。」
「僕を許してくれるか?」
「オメーを殺したらルイズが怒る。」
 さっきの岩は僕を殺す気じゃなかったのか? 
 と言いたくなったが、また怒らせそうだし止しとこう。それに実際もう怒っているようには見えない。
「一つだけ言わせてくれないか?」
「何だ。」
「僕は青銅のギーシュだ。オメー じゃない。」
「わかった。オレはセッコだ。」
「確かにさっきの僕は貴族らしくなかった。すまない、セッコ。」
「わかった。」
「僕は貴族ギー……」
「わかったつってるだろおおおお!もう怒ってねえから黙れえ!」

 悔しいがこいつにはもう逆らえないな……平民の癖に。
 でも、モンモランシーの怒りが静まったのもこいつのおかげかもしれない。
 そう考えるとまだ良かったかな。

 コトッ

「ギーシュさま、この指輪はなに?」
「それはケティに・・・ハッ!」
「ギーシュさま……」
 訂正しなくてはならない。今日はやっぱり厄日だ。



「ふむ……」
 オスマン氏とコルベールは、「遠見の鏡」で一部始終を見終えると、顔を見合わせた。コルベールは震えながらオスマン氏の名前を呼んだ。
「オールド・オスマン」
「うむ」
「あの平民、勝ってしまいましたが……」
「うむ」
「ギーシュは一番レベルの低いドットメイジですが、それでもただの平民に遅れをとるとは思えません。
 そしてあの動き!あんな平民見たことがない!
 やはり彼は[ガンダールヴ]!さっそく王室に報告しなければ!」
「なあ、コルベール君」
「なんでしょう、オールド・オスマン?」
「伝説のガンダールヴは、どんな特性の使い魔だったのかね?」
「主人の長い詠唱時間を守るため、時間稼ぎに特化した使い魔と聞きますが」
「うむ」
「あらゆる武器を達人のように使いこなしたそうです。」
「なあ、コルベール君。あの平民は武器を使っていたかね?」
「そういえば……」
「うむ」
「岩も武器といえばそう言えなくもないかもしれませんが」
「むしろ先住魔法の類かものう。」
「しかし、召喚時はディテクト・マジックに反応がありませんでした」
「まあ、しばらく様子を見てみるかの。無論クサレ王室には内密でな」
「そうですねえ……」



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