ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

タバサの大冒険 第8話 その3

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 ~レクイエムの大迷宮 地下11階「ストレングスの船」~


「………っ!」
「ウニャ!?ギニャ~!ニャニャーッ!」
 タバサは慌てて逃げ出そうとする猫の身体を咄嗟に掴んで、猫を庇うようにして自分の胸元に抱える。
 捕まった猫はタバサの腕から逃れようとじたばたと暴れるが、それにはお構いなしにタバサは猫を抱いたまま器用にDISCを一枚取り出し、自分の頭に差し込む。
「クラフトワークっ!」
 空間にあらゆる物体を固定化させるスタンド能力を発動させ、真上から降り注いで来たパイプの一つを空中に「固定」する。その能力によって固定化された物体は、外部からどんな衝撃を受けても動くことは無い。
 そしてまた、スタンドパワーが続く限り、クラフトワークで固定出来る物体の数に制限は無い。
「こっちへ…!」
「ム……!」
 クラフトワークのDISCに蓄えられていたスタンドパワーを惜しみなく使って、天井から降り注ぐパイプで「屋根」を作り出し、側に立っていたツェペリを誘導する。固定化されずに落下して来るパイプは「屋根」に弾かれて地面に転がり、あるいはそのまま「屋根」の上へと積み重ねられて行く。
 パイプが「屋根」に激突する際に生じる衝撃を感じながら、その下でタバサ達は天井のパイプの崩落が収まるのを待つ。足元に、屋根から弾き飛ばされたパイプがゴロリと転がって来る。
 そのパイプの内の一つが、妙に滑らかな動作でタバサ達の方に空洞となっているその穴を向ける。
 ――まずい。
 根拠の無いただの勘だったが、タバサの直感は特に太いそのパイプは危険だと訴えて来る。
 だが、遅い。
 気付いた時には、突然パイプの中から伸びた腕が猫を抱えるタバサの右腕を掴んだ直後だった。
「う………!?」
「ウニャア!」
 自らを拘束する力が弱まったことで、猫がタバサの腕から逃れる。
 既に収まり掛けていたパイプの雨に向けて「屋根」から飛び出し、まだ何本か落ちて来るパイプを物ともせずに、そのまま何処かへと走り去って行く。
 一方、パイプから伸びた腕は万力のような力でタバサの右腕を締め上げ、そのまま鋭く尖った爪を伸ばして、彼女のか細い腕へと突き立てる。
 その指は簡単にタバサの肉を貫き、筋肉を通って腕を構成する骨にまで触れようとしていた。
「うぐっ……あぁっ!」
 肉が裂け、腕の神経をズタズタに引き千切られる感覚に、思わずタバサは苦悶の表情を浮かべる。
「ルン! ルン!ルン! ぬウフフフフ、たまげたかァああ!」
 勝ち誇った雄叫びを上げて、パイプの中からズルズルと腕の持ち主が這い出してくる。
 顔面にぼろ布で出来た覆面を被った大男。だが、その全身は不自然なまでに「厚み」が無かった。
 良く見れば、タバサの腕を掴んでいる腕も含めて、まるで空気の抜けたゴム風船のようにペラペラだ。
 だが、それでもその握力は常人のそれを遥かに越えており、タバサがその腕から逃れようと抵抗を試みても、まるで力を緩める気配は無かった。

『タバサ!クソッ、なんだこいつは…!?紙みてーな体のクセに、とんでもねー力をしてやがる!』
『そいつぁーそうだろうなァー。
 どーやらそのドゥービーって奴は吸血鬼…いやあ屍生人らしいからなァー?
 ペラペラになった所で、こんな小娘の腕を握り潰すくらいワケねーみてぇだぜ?』
 ドゥービーと呼ばれた大男の後に続いて、新たにパイプの中から這い出て来る影が一つ。
 片手に短剣を持った人型の影。しかしその容貌は明らかに人間とは掛け離れた異形の姿をしている。
 実体化したスタンドのヴィジョン。そのスタンドは大男の脇に立って、タバサ達に不敵な視線を向ける。
『一応、名乗っといてやるぜェ……俺の名はマリオ・ズッケェロ。このスタンドはソフト・マシーン。
 能力は見ての通り、生物だろうと物体だろうと、何でもペッチャンコに変えちまうこと。
 そしてペッチャンコになる具合は、俺の意思で自由自在に変えることが出来る。
 例えば相手の意識を保ったまま、「厚み」を減らすことも出来る……そう、この化け物野郎みてぇーにな!』
 ソフト・マシーンと名乗ったそのスタンドの意志に応じて、急激にタバサの腕を掴むドゥービーの体が「厚み」を取り戻して行く。それと共に、タバサの腕を圧迫する拳の力も勢いを強めて行き、今や骨をも砕かんばかりの力が彼女の右腕に圧し掛かって来る。
「うぁっ…!あ、あぐっ……!!」
「波紋カッター!」

 パパウパウパウッ!パウッ!

 ツェペリの口から放たれたワインの刃が、タバサを掴んでいるドゥービーの腕を目掛けて飛び出して来る。
 波紋の力を込めて超圧縮されたワインは安々とドゥービーの腕を切り裂き、その拘束からタバサを解き放つ。
「AGAHYYYYYY~!オ、オレの腕ェェェ!オレの腕がァァァァ~~~!」
 ドゥービーが切り飛ばされた腕を押さえて悶絶している隙に、タバサは未だに食い込んだままの彼の腕を弾き落とす。それによって傷口を押さえる栓を失った形になり、タバサの右腕から更に激しく血が溢れ出して行く。本来ならば真っ白なトリステイン魔法学院の制服も今や穴を開けられ、その右腕部分は彼女自身の血でドス黒い赤に染まっていた。
「大丈夫か…とは問わんよ。戦えるかね?」
「………うん」
 冷徹にそう尋ねて来るツェペリの存在が、今はとても頼もしい存在に思える。
 そのままあまりの痛みに感覚すら失いつつある右手に今は構わず、タバサは軽く横に移動して空中に固定したままのパイプの「屋根」から外に出る。既に天井から降り注ぐパイプは一本も無く、落ちて来たパイプはその太さを問わずに地面に散らばったままだ。
「早く出て……もう、限界」
 タバサの呟いた言葉の意味を察して、ツェペリも彼女に言われるがままに「屋根」の外へと飛び出す。
 その途端、クラフトワークのパワーが途切れてパイプの「屋根」地面へと崩れ去って行く。
 今まで「屋根」が吸収して来た他のパイプの衝撃をも加算して、物凄い勢いで「屋根」だったそれらは床へと激突し、めり込んで行った。

『チッ…サーレーのクラフトワークか。
 勝手に俺の相棒のスタンドを使いやがって、超イラつく野郎共だぜェ~』
 ソフト・マシーンがタバサ達に向けて敵意に満ちた視線を送って来る。
 既に力を使い果たしたクラフトワークのDISCが、タバサの頭から抜け落ちてボロボロと崩れ落ちて行く。
「……エンペラー…!」
 そのまままともに動く左手のみで指を構えて、タバサは射撃用DISCの力でスタンドの弾丸を撃ち込む。
 タバサの意思によって自在に軌道を変える弾丸が向かう先は、ドゥービーやソフト・マシーンでは無い。
 狙うは、未だに檻の中で超然とした態度を取っている猿であった。
 あの猿が先程のパイプの雨を降らす直前に浮かべた表情は、間違いなくこちらに対する嘲笑。
 お前達など、俺のスタンドで全員まとめて片付けてやる――そう勝ち誇っている者の笑みだった。
 猿が次の行動を移す前に、一気に始末する。ソフト・マシーン達の相手はその後だ。
 冷徹な殺意を乗せて、タバサは猿の脳天目掛けてエンペラーの弾丸を向ける。
「ゴホッ」
 檻の隙間を潜り抜けて弾丸が飛んで行くが、猿に激突する寸前に彼が手にした何かによって防がれる。
 それに激突した時点で、エンペラーの弾丸がエネルギーを使い果たして消滅する。
 再びこちらを嘲笑いながら、猿は自らを閉ざしていた檻をゆっくりと開けて歩き出して来る。
 檻に掛けられていた筈の錠前は既に無く、それは良く見れば、近付いて来る猿の手の中にあった。
 猿はエンペラーの弾丸を受け止めた錠前を無造作に放り投げ、そしていつの間にか着込んでいた豪奢な船長服と揃いの帽子を取り出し、無闇やたらと気障ったらしい仕草でそれを被る。
『フンッ。この猿野郎め、ようやくお出ましか……だが、味方なら心強い船長殿にゃー違いねぇ』
 皮肉交じりに呟くソフト・マシーンに一瞥をくれてから、その猿は改めてタバサ達に向き直る。
 ソフト・マシーン達の脇で立ち止まり、猿は先程まで読んでいた本とは違う、分厚い本を懐から取り出し、あるページを捲ってタバサ達に突き付ける。
 どうやら辞書の類であるらしい。
 ある単語が強調して表記されており、その下には色々と意味を説明している文章が書かれている。
 だが、ハルケギニアと言う目の前の猿とは別の世界の住人であるタバサには、生憎とその文字が
意味している所はわからない。
「「Strength」……意味する所は「Force(力)」「Enargy(元気)」「Power(勢い)」「Aid(助け)」」
 首を傾げて戸惑うタバサの様子を見て取ったツェペリが、代わりに本の内容を読み上げる。
 そして最後に、猿が殊更に強調して指し示す項目があった。
 挑戦、強い意志、秘められた本能を暗示する、タロット8番目のカード。
「タロットカードに準えた「ストレングス」……それが貴様のスタンドの名前と言うわけか」
「ゴホ、ゴホッ」
 ツェペリの問いを肯定するかのように、猿は満足げな表情で頷いた。
『ハッ……御丁寧に自己紹介ってワケか。エテ公のクセに生意気な野郎だぜ』
 デルフリンガーの挑発に腹を立てたのか、こめかみを僅かにヒク付かせて猿が睨み付けて来る。
「UKYAAA!」
 その怒りに誘発されるように、船室の中に設置されていた換気扇が一斉に動き出し、中のプロペラがタバサ達目掛けて飛来して来る。
「……クレイジー・ダイヤモンド……!」

 ドララララララァッ!!

 飛来して来る鋼鉄製のプロペラは、全部で四枚。
 その動きを冷静に見極め、タバサは一枚ずつDISCのスタンドでプロペラの腹を叩いて弾き飛ばして行く。
 不意を突いて撃ち込まれれば危なかったかもしれないが、先程の猿の雄叫びが
攻撃宣言であることは明白だった。そしてこの船自体が猿のスタンドである以上、目の前のドゥービーやソフト・マシーンの動きにさえ気を付けていれば、ストレングスによる攻撃手段は限られて来る筈。
 攻撃があまりにも直情的、所詮は動物に過ぎない。タバサは一瞬、確かにそう油断した。
『――危ねぇ!タバサッ!!』
 その僅かな油断が、彼女に五枚目のプロペラの接近を気付かせるのを遅らせてしまった。
「……なっ……!?」
 床から滑り込むかのように飛んで来るプロペラに対し、タバサは上体を逸らすのが精一杯だった。
 その動きで致命傷こそ避けられた物の、左腹部から右胸に掛けてをざっくりと切り裂かれてしまう。
 そして彼女の身体を切り裂いたプロペラは、そのままの勢いで船室の壁へと突き刺さった。

「ぐっ…!あぐぁっ…!」
 ふら付く足元を何とか落ち着かせながらも、タバサは後ろに一歩だけ下がって体勢を整える。
 右手と胴体に走る激痛もさることながら、とにかく出血が激しい。
 目の前の視界が掠れる。少しでも気を抜くと、そのまま昏倒しかねない程にタバサは消耗していた。
 だが、ここで本当に気を失ってしまえば全ては終わりだ。その前にまだやらねばならないことがある。
 タバサは辛うじて自由に動く左手でDISCを取り出し、それを自らの頭に差し込み、その能力を発動する。
「…ストーン……フリーっ…!」
 発動させたDISCのスタンドがその全身を糸へと変えて、タバサの身体に纏わり付いて来る。
 スタンドの糸が、今以上の出血を食い止めるかのように彼女の傷跡を縫合して行く。
「………くぅっ」
 これで当面は失血の心配は無いだろうが、それも目の前の敵を倒せなければ意味の無い話だ。
 タバサは血を失い過ぎたせいでくらくらする頭を振って、もう一度敵の姿を確認する。
 この船全体を操るストレングスの本体である猿と、ソフト・マシーン。
 ツェペリの波紋カッターで片腕を失ったものの、既に再び立ち上がっているドゥービー。そして。
「もう一人いるな。この場に、敵が」 
 傷だらけのタバサを庇うようにして、ツェペリが彼女の前に立ちながら言った。
 その視線は、先程タバサの身体を切り裂いた五枚目のプロペラに注がれている。
『――ク、ク!クホホホハハハッ!気付くのが遅せーんだよォ!このタマナシヘナチン共がァァァ!』
 プロペラが突然震え出したと思った瞬間、その姿を変えながら耳障りな高笑いを上げる。
 やがてそのプロペラは、人間の顔に小さな手足をくっ付けたような姿をタバサ達に向けて見せていた。
『気付いた以上は名乗ってやろう!アタシの名は「女教皇(ハイプリエステス)」!
 さっきからずーっとフォーエバーと入れ替わりで攻撃してやってたってーのに、
 ようやくアタシにお気付きとは頭のトロイ奴らよのーッ!マ、その方が楽でいいがね!クククク!』
「ゴフフフ」
 ハイプリエステスに同意するかのように、フォーエバーと呼ばれた猿がニタニタと笑っている。
「フム。先程、最初にタバサを襲ったのも貴様だな……金属を操る、いや金属に姿を変えるスタンドか。
 道理で、そこの猿のスタンドと見分けが付かん訳だ」
『そーゆーコトさ。フフン、そこまで気付いているたぁ、中々シブいオヤジだね。
 アンタがもーちょい若かったら、好みのタイプだったかもしれないねェ』
 本気なのか冗談なのかわからない口調で、それでもハイプリエステスが感心したように答える。
 敵は金属に化ける。
 やはり最初に自分の立てた推測は間違っていなかったのだと、ツェペリは今更ながらに思う。
 だが、出来るならば、こうして敵に囲まれる状況に追い込まれる前に、奴を引き摺り出したかった。
 その結果として、ここまでタバサを重傷に追い込んでしまった。
 ――これがフンガミ君に知られたら、私はタダでは済まんだろうな。
 それが場違いな考えであることは重々承知だったが、ふとツェペリはそんなことを思った。

『だがなッ!』
 そんなツェペリの思考を中断したのは、ハイプリエステスのその一言だった。
『アンタはまだ気付いていねーコトがあるッ!それはッ!』
『敵は俺達だけでは無いのだッ!』
 ハイプリエステスの後を引き継いでそう宣言したのは、こちらの様子を窺っていたソフト・マシーンだった。
 床に転がったパイプの内の二本がガタガタと動き出し、そこから先程のドゥービーと同様に「厚み」を失ってペラペラになった何者かが這い出して来る。
 そしてその二人はソフト・マシーンによって能力を解除され、急速に元の「厚み」が蘇っていく。
「ベロベロベロォォォ~~~~ん」
「ウケケケッ!やァッと出番ですかい、ミドラーの姉御!」
 片方はそれなりに筋骨逞しい中年、片方はもう一人より若いが貧相な雰囲気の小男だ。
 どちらも目の色に尋常では無い光を灯しており、鋭い牙の下から伸びる舌でジュルリと舌なめずりしている。
 一目見ただけで、彼らがドゥービーや貨物室で戦った四人と同じ屍生人の仲間であることがわかる。
『チッ…!また屍生人共か!ったくワンパターンな野郎共だぜ!』
「だが面倒だね。デルフ君を勘定に入れなければ、敵の数は我々の三倍……
 しかもその半分はスタンド使い。これは骨が折れそうだな」
 毒づくデルフリンガーに、さして慌てた様子も見せずにいつも通りの口調でツェペリが答える。
 今までの付き合いで、そうした上辺の態度程にはツェペリとて決して相手を軽く見ていないことはデルフリンガーにもわかる。これこそが彼の言う「恐怖」を支配し、戦いに臨む為の思考なのだろう。
『さあ――屍生人とスタンド使いッ!各々三人ずつを相手にどう戦うかなッ!』
 そしてハイプリエステスの宣言と共に、敵はタバサ達を囲い込むようにして襲い掛かって来た。

「……屍生人達を…!」
「よかろうッ!」
 タバサの言葉に力強く頷いて、ツェペリは彼女とは反対方向に駆け出して行く。
(スタンドで作られた船、そして屍生人共か………まさか、な)
 その途中、今自分が置かれている状況を鑑みて、ツェペリはふとあることを思いつく。
 実に些細で、下らない考えだった。あまりの馬鹿馬鹿しさに笑う気にもなれない。
 即座にその考えを振り払いながら、ツェペリはまず新たに姿を現した小男に狙いを定める。
「ウシャァァァァ!かつてDIO様を窮地に追い込んだ波紋の使い手!
 貴様さえブッ殺せばもォ誰も俺をヌケサクと呼ぶ奴はいねーぜェェェーーッ!!」
 自称ヌケサクの男が鋭い爪を振り回して来るが、ツェペリは足元に転がる鉄製のパイプの一つを
走りながら器用に蹴り上げ、自分に向けて迫って来るヌケサクの頭にパイプを叩き込んでやる。
「ブゲェッ!」
「鉄は生物では無い。だから、こうして直接触れねば――」
 言いながら、ツェペリはヌケサクの頭に突き刺さったパイプを手で掴み、更に深く押し込んで行く。
「ウ、ウヒッヒヒヒヒヒヒィッ……!や、イヤですねェ旦那。物理のお授業ですかァ?
 そうですそうです、仰る通りに鉄は生きてませんよねェェェ!
 でっ、でも!でもでもでも、ミドラーの姉御のハイプリエステスは生きてる鉄ですよォ~。
 何しろスタンドですからねェ~~~ハイ、生きる幽霊!
 それこそがスタンドなんですゥゥゥゥってアレコレ生物の授業でしたっけェェェェ~~~?」
 流石は屍生人と言うべきか、頭にパイプを押し込まれてもなおヌケサクは死なずに口を開いている。
 だが、今のこの状況が、ヌケサクにとっては果てしなくヤバイ物であるのは間違い無い。
 何とかヌケサクはツェペリに向けて命乞いの言葉を口にしようとするが、実際に出てくるのは
混乱のあまりにわけのわからない戯言ばかりだ。
 だからツェペリは彼の言葉に一切耳を貸さない代わりに、冷酷な声で一言、言ってやる。
「波紋は流れない」
 それはヌケサクにとって、死刑宣告も同様の言葉だった。
「銀色の波紋疾走 (メタルシルバー・オーバードライブ)!!」
 そしてツェペリは、パイプを通してヌケサクの体にたっぷりと波紋を流し込んでやる。
「アギギギギィーーー!!ブッ殺されたのはおれだったァーーーーー待ち伏せしてたのにィィィーーー」
 屍生人の肉体とは正反対の性質を持つ波紋の生命エネルギーが、ヌケサクの全身に駆け巡り、
それによって彼の体がグズグズに溶かされていく。そして仇名通りにヌケサクな運命を辿った彼のことなど
ツェペリはそれ以上は構わずに、パイプから手を離して片足を軸に体を反転。
 今度は自分の後ろから迫って来ていた中年の屍生人に対して向き直る。
「所詮ヌケハクはヌケハクひゃなァ~。だがこのアダムスさんは一味違ふぜぇ?
 ほれ様のスピードがかわへるかーーーー?ベロロベロロンベロロォォ~~~~ん」
 常人よりも遥かに長く伸びた舌を振り回しながら、アダムスと名乗る屍生人はツェペリに向けて突っ込んで来る。彼が屍生人の力を得ている以上、まともにその舌の一撃を受ければ恐らくは想像以上に痛烈なダメージが届くことだろう。
 だが逆にツェペリは迷うことなくアダムスの舌に手を伸ばし、鞭のように蠢くそれを掴み取る。
「フンッ!」
 先程のヌケサクと同様に、ツェペリはアダムスの舌を通して体内に波紋を叩き込む。
「ブエゲェッ」
 ツェペリの波紋によって、アダムスの体が大きく仰け反る。

「ムゥゥゥゥゥンッ!」
 だが、ツェペリは今度はアダムスの全身を完全に消滅させない程度に波紋のパワーに抑え、掴んだ舌を軸にそのまま彼の体を大きく振り回す。肉体こそ崩れないままに維持してはいるが、先程の波紋によって既に、アダムスの脳神経はほぼ完全に破壊されていると言ってもよいだろう。
「UHGOOOO!よくもオレの腕をォ~!許さねェー、噛み噛みして噛んでやっちゃうぜェ~」
 片腕を失った状態でなおこちらに向けて突っ込んで来るドゥービーに向けて、ツェペリは手に掴んだアダムスの体を力いっぱいに叩き付ける。
「アギャッ」
「BUHUUUUU……テメー、邪魔するんじゃねーーーーェ!!」
 ドゥービーが咆哮を上げると共に、突然彼の顔を覆った覆面がビリビリと裂ける。
 その中から現れたのは、人間の頭から生えた無数の蛇。その大半が致死的な猛毒を持った毒蛇である。
 そしてドゥービーは、髪の部分に蛇を生やした怪物メデューサを想起させるその頭を目一杯に
アダムスの体に向けて叩き付ける。屍生人の超人的なパワーによって振り下ろされたドゥービーの頭は、そのままアダムスの肉と骨をバキバキと貫きながら彼の体へとめり込んだ。
「ルン!ルン!ルルルルン!ルン!」
 ドゥービーの意志に応えるかのように、頭の蛇がアダムスの体を食い破るようにして突き出て行く。
 その蛇は、未だにアダムスの舌を掴んだままのツェペリを狙って猛毒を含んだ鋭い牙を剥ける。
「何ともおぞましい姿だな。これも全ては石仮面の魔力が成せる業か……
 だが、その存在は認める訳にはいかん!散滅するがいい、亡者共よ!
 波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライブ)ーーーーーッ!!」
「OGYAAAAーッ」
 先程のヌケサクと同じ要領で、舌を掴んだアダムスの体越しにドゥービーの体へと波紋疾走!
 ダイレクトに波紋エネルギーを叩き込まれたアダムスの肉体が、波紋によって生じた生命エネルギーの波に耐え切れずに崩れ落ちて行き、そのエネルギーは彼の体を伝わってドゥービーの頭部にも直撃する。
「KUBOOOAAA!」
 たまらずにドゥービーは既に崩壊寸前のアダムスの体から頭を離し、自分の体外から波紋を振り払うかのように大量の蛇が巻き付いた頭を大きく振る。
 次の瞬間、波紋のダメージとは別にドゥービーの体に妙な感覚が走り出す。
 まるで今まで自分を拘束する重さが抜け落ちて行くかのような、浮遊感と開放感にも似た感触だった。
「WOOOOO!KYAAAAAHH!!噛んじゃった!噛んじゃった!いっぱい噛んでやったぜーッ!」
 ツェペリが流した波紋によって蛇達の脳神経を狂わされ、自分目掛けてその牙を突き立てているのに
ドゥービーが気付いた時には、既に彼の肉体は蛇の牙と波紋によって身体機能を停止する寸前だった。




「………フゥッ」
 屍生人達が完全にその動きを止めて、消滅して行くのを見届けてから、ツェペリは軽く呼吸を整える。
 この程度の格の低い屍生人程度ならば、何人で襲って来ようがツェペリの相手では無い。
 そしてツェペリは、ある意味において屍生人共よりも余程厄介な残る三体のスタンド使い達に意識を向ける。
 ハイプリエステスは姿を変えながら船内を自由自在に動き回り、懸命に応戦するタバサを翻弄している。
 だが、逆に言えばハイプリエステスもまた、タバサに足止めされているせいで、こちらにまで攻撃を仕掛ける余裕が無いのだとも言える。
 傷だらけの体で、タバサは良くやってくれている。
 彼女の戦いにツェペリが報いるには、先程の屍生人達を倒すだけでは足りないだろう。
 今の内に、自分が残る二体のスタンド使いを叩いておかねばならない。
 そう決意を新たにフォーエバー達の姿を見据えた時、ツェペリはようやくあることに気が付いた。
「ム……!?」
 ソフト・マシーンの姿が見えない。先程もこちらの様子を窺うばかりで、全然仕掛けてくる気配を
見せずにいたが、今は完全にその姿そのものを隠している。
 あの針に貫かれてこの体をペラペラにされてしまっては、非常に危険だ。
 焦る心を落ち着けながらも、ソフト・マシーンの姿を探して視線を動かすと、先程の屍生人達の戦いから黙ってこちらを見つめていたフォーエバーと視線が重なる。
 そしてフォーエバーがその口元をニタリと吊り上げた時、ツェペリは半ば本能的に自らに迫る危険を察知する。
「グホホォーッ!」
 フォーエバーの“攻撃宣言”と共に、先程もストレングスの攻撃手段として使われたパイプやプロペラを固定していた物以外にも、船内中で使われていたあらゆるボルトが集まって一斉に宙へと浮き上がる。
 そして、そのボルトの群れがツェペリに向けて弾丸のように飛来する。
「ぬううぅッ!?」
 雨霰と飛び散って来るボルトの弾丸の前では、例え宙に飛んでも地に伏せても、全身を蜂の巣にされるだけだろう。だが、この攻撃を前にして出来る限りダメージを抑える方法がたった一つだけある。
 それを迷うことなく実行に移すべく、ツェペリは地面に向けて自分の体が水平になるよう跳躍し、飛来するボルトに対して足だけが接する体勢を取る。
 そして足の裏の表面に対して最大のパワーで波紋を展開する。
「当たる面積を最小にして波紋防御ッ!」

 ボルトの弾丸の幾つかは、ツェペリの展開した波紋のバリアーによってその勢いを軽減される物の、やはりその全てを完全には受け止めきれずに、幾つものボルトが容赦なく波紋バリアーを突き破ってツェペリの体へと突き刺さって行く。
「うぅおおおおおおおッ!!!」
 その衝撃でツェペリの体が吹っ飛ばされ、勢い良くその背中を地面に叩き付けられ、思わず血の混ざった咳が口元から漏れる。頭から壁に激突しなかった分は不幸中の幸いだったが、それでも全身にかなりのダメージを受けており、中々早く起き上がることが出来ない。
 ツェペリは悲鳴を上げる自分の体に無理矢理言い聞かせるように、何とかその場に立ち上がろうとする。
 だが、その前にツェペリに向けて飛び出して来た影が、それを許さなかった。
『ハイ。残念だったな』
「くッ……!?」
 淡々とした口調で言ったソフト・マシーンが、手にした剣をツェペリに向けて付き立てる。
 その刹那、まるで空気の抜けた風船のようにツェペリの体が急速に「厚み」を失って萎んでいき、やがてペラペラの紙のようになって地面に広がる。
 タバサがハイプリエステス、ツェペリが屍生人と戦ってる最中に、ボルトを集め出したフォーエバーの意図を察したソフト・マシーンはタバサ達に気付かれない内に、まず先程彼女がクラフトワークによって作り出した「屋根」の残骸へと近付いた。
 クラフトワークによって「固定」された「屋根」にパイプの雨が降り注いだことで、ただ床に散乱するだけで済んだ他のパイプとは違い、その場所だけは「屋根」が複数のパイプの落下の衝撃をも加算して墜落した為に、何本ものパイプが地面に埋もれて山を作っていた。
 そして一番上の方に積み重なったパイプを一本だけペラペラにして、自らもそのパイプに合わせて「厚み」を同期させることで、ソフト・マシーンはペラペラになったパイプの中に潜んで敵の目を誤魔化すことが出来たのだ。
 後はフォーエバーが撃ち込んだボルトの雨によって、ツェペリが身動きが取れなくなったのを見計らい、立ち上がるよりも先にスタンド能力を叩き込み、生物が意識を失う「厚み」にまでペラペラにしてしまえば良かった。少しぐらいなら体に無茶の効く屍生人共ならば、多少「厚み」を減らしても意識を保てるだろうと踏んで、実際その通りに天井のパイプにその身を潜ませておいたのだが、ただの人間に過ぎないツェペリがソフト・マシーンのスタンドパワーを全身で叩き込まれれば、まずその意識を保つことなど出来はしない。
 ソフト・マシーンの本体、ズッケェロの相棒であるサーレーが操るスタンド、クラフトワーク。
 まるで今はこの場にいないサーレーが力を貸してくれたようだと、ソフト・マシーンは心強い気分になる。
 そして限界まで「厚み」を奪われたツェペリに、既に意識は無かった。


『なんだ!?おっさんがやられちまったのか!?』
「…………く!」
 ペラペラに変えられたツェペリの姿を視界の端に捉えながら、タバサは金属の刃になって迫るハイプリエステスにクレイジー・Dのラッシュを叩き込もうとする。だが、ツェペリが倒された動揺を突かれて、一瞬無防備になった左肩を切り裂かれてしまう。そこから零れ出たタバサの赤い血が、ハイプリエステスの体にべっとりと絡み付く。
「ぅぐっ……!」
『フフン…どーやらアンタもこれまでのようだねェ。今の内に念仏でも何でも唱えたらどうだい?』
『うるせー!オレ達がそう簡単にやられるかっつーの!なあタバサ!?』
「………っ」
 デルフリンガーの言葉に、タバサは無言で頷く。
 この命が尽きぬ限り、敗北は無い。そしてタバサには絶対に死ぬ訳にはいかない理由がある。
 今までの戦いでもそうして来たし、今回だってそうだ。ここで敗れ去るなど決してあってはならぬのだ。
『いーや!もうお前はおしまいなのさ!まだ気付いていないようだねェ!ナハナハナハハハハハッ』
 ハイプリエステスの言葉と共に、背後から船内に取り付けられていた消火ホースが勢い良く伸びてタバサの体を拘束し、そのまま消火ホースはタバサを縛り上げたまま、彼女の体を勢い良く壁に叩き付ける。
「か……はぁ…っ!」
 背中に走った衝撃によって、思わずタバサの口から声が漏れる。
 そのまま消火ホースは少しだけ壁に沈み込んで行き、タバサの体を完全に壁に固定する。
「グフ、グフホホホ」
 ストレングスのスタンドによって消火ホースを操作したフォーエバーが、勝ち誇った笑みを浮かべながらタバサへと近付いて来る。その間にタバサは拘束から逃れようと抵抗を試みるが、
完全に壁に埋め込まれた消火ホースはビクともしない。
 そして彼女の前に立ったフォーエバーが、捕らえられ、傷付いたタバサの姿を凝視する。
「フホォ」
 鼻息を荒くし、これ見よがしにジュルリと舌なめずりをする。
 その目にあるのはタバサに対する殺意では無い、もっと別の嗜虐心にも似た――おぞましい何か。
 直感的にそのことを悟ったタバサは、改めて自分の背筋に冷たいものが走るのを感じていた。
「ブフフゥ~……」
 フォーエバーが、邪悪に歪んだその顔を少しずつ近付けて来る。
 荒い鼻息がタバサの顔に掛かり、それがまたタバサの怖気をじわじわと煽っていく。
 そして、目の前の巨大な猿の口から伸びる唾液をたっぷり含んだ舌が、タバサの頬をジュルリと舐め上げる。
「う………!」
 その感触から全身を走る生理的な嫌悪感に、タバサはたまらずに声を上げる。
「ホフゥ~ッ」
 その表情が実にいい。俺に怯える顔をもっと見せろ。
 目の前の猿はそう言っているかのように、恍惚の吐息を上げながら再びタバサの顔に舌を這わせて行く。
『ケッ。人間の女に興奮するだけならいざ知らず、ロリコンたぁな。まったく趣味の悪いエテ公だぜ』
『ククク……タチが悪いだろう?そのタチの悪さが、味方にすりゃあ頼もしいのさね』
 その様子を眺めて嫌そうに声を上げるソフト・マシーンに、ハイプリエステスが含み笑いを浮かべて言う。
「………離して」
 壁に縫い付けられ、フォーエバーの為すがままにされているタバサが呟く。
 だが、フォーエバーは彼女の言葉など耳に入らぬとばかりに、その太い指をタバサの体に滑らせて、
彼女が着込んでいる制服のボタンを一つ一つ千切り飛ばそうとする。
「離して」
 もう一度、タバサは念を押すようにその言葉を口にする。
 先程と同様に、やはりフォーエバーは聞き入れる素振りなど一切見せずに、制服の第二ボタンを
弾き飛ばす。年頃の少女とはとても思えぬ程の、ささやかな膨らみしか持たぬ彼女の胸元が剥き出しになる。
 素晴らしい、もう我慢できない。いきり立ったフォーエバーは最後に彼女の白い素肌を守る
シュミーズを引き千切るべく、彼女の体に岩のように太くて大きな手を掛ける。
「離さないなら――」
 普段通りの冷淡な口調で言うタバサが、眼鏡の奥から無表情な視線でフォーエバーを射抜く。


「あなたの負け」

「クレイジー・ダイヤモンドっ!」
 そう宣言するや否や、タバサは自分の頭に装備したDISCのスタンドを展開し、その能力を発動させる。
 目的は目の前のフォーエバーでは無い。 今の段階では、ただクレイジー・Dのラッシュを叩き込んだ所でフォーエバーに止めを刺すだけの決定打にはならない可能性があったし、何よりも無傷で残っている
他の二体のスタンド使い達が即座にタバサに向けて襲い掛かって来るだろう。
 狙いは、今までの戦いで散々傷付けられ、自らの血に塗れたタバサ自身の右手。
 クレイジー・Dには人体を含めたあらゆる物質を「修復」する能力がある。
 手早く言えば怪我を治す力を持っているのだが、使用者自身の傷を治療することまでは出来ない。
 勿論、タバサの狙いは自らの怪我を治すことなどでは無い。怪我をしているからいいのだ。
 体内に流れる血液は確かに自分の体の一部だが、体外に飛び散って乾いた血液は既に物質の一部。
 タバサの手に張り付いて乾ききった血液を「修復」しようとすれば、当然他の場所に零れ落ちた血液も一つの場所に集まろうとする。
 例えば、先程タバサの左肩を切り裂いたハイプリエステスに付着したままの彼女の血液も、だ。
『なぁぬィィィィィーーーーーッ!?』
 タバサの血液が「修復」されるのに引き摺られて、ハイプリエステスが壁に括り付けられたままの彼女の元へと突っ込んで来る。その進行方向には、今まさにタバサの服を剥ぎ取ろうとしていた巨大なフォーエバーの後姿あった。
 そしてそのまま、ハイプリエステスの体がフォーエバーの後頭部に勢い良く激突する。
「ブゴォォォ!?」
 突然の衝撃により、思わずフォーエバーはタバサの体を掴む手を離して転がり回る。
 それによって彼女を壁に縛り付けていた消火ホースの拘束が緩み、両腕が自由に動くようになる。
 その一瞬で充分だ。タバサはそこでクレイジー・Dの能力発動を解除し、懐から新たに一枚のDISCを取り出して、自分の頭の中へと差し入れる。
『ウヌヌヌヌゥ~!よくも舐めた真似をしてくれたなァァァ!こんガキャアアァァ!!』
 フォーエバーの後頭部から離れたハイプリエステスが、再び金属性の刃物に姿を変えてタバサへと襲い掛かろうとする。
「メタリカの……DISCっ!」
『何ィッ!?』
 そのまま飛び掛ろうとした直前、急激にハイプリエステスの身動きが取れなくなる。
 タバサが頭に差し入れたDISCに刻み込まれたスタンド、メタリカは周囲の鉄分を自在に操作することが出来る。この至近距離ならば、攻撃の為に全身を金属に変えたハイプリエステスを操る程度は造作も無い。メタリカに自由を奪われたハイプリエステスは、金属の刃の姿のまま、タバサの意志に従って再び起き上がろうとしていたフォーエバーの眉間に深く突き刺さる。
「ウギャギャギャギャーーーーッ!!」
 ハイプリエステスの刃に頭を刺し貫かれて、フォーエバーは絶叫を上げて再び地面に倒れて悶絶する。
『チクショー!体が動かんッ!は、早く脱出しなければッ………な、なんだァ!?』
 必死にフォーエバーの体内から逃れようともがくハイプリエステスは、突然自らの体に走る違和感を感じていた。
 それはまるでスタンドパワーを使い果たして、自分の体が急激に霧散して行くような感覚。
 急激な眠気にも似たその感覚は、自分の意識までもがこのまま消滅して行くのではないかと言う恐怖を感じさせるものだった。
『うおおおおォ!ヤッ!ヤバイッ!何かわからんがここにいるのはヤバイィィ!ギニャーーーーーッ』
 そのまま、最後まで自分の身に訪れた異変の正体を知ることなく、ハイプリエステスの意識は消滅した。

 メタリカは地表や空気中、そして生物の血液内に含まれている鉄分すら、自由に操作することが出来る。
 本来のメタリカの使い手であるリゾット・ネェロと言う暗殺者は、メタリカをより効果的に使いこなす為の試行錯誤の中で、まず暗殺対象に近付き、相手の体内に含まれている鉄分を刃物へと作り換えることでその命を奪うと言う使い方を編み出していた。
 そしてタバサは今、それとは全く正反対の方法でハイプリエステスを葬り去ったのだ。
 生物の体内にある鉄分を金属に変えることが出来るなら、逆に金属を鉄分に変えることだって出来る筈。
 だからこそ金属に姿を変えたハイプリエステスの体をフォーエバーの中に潜り込ませ、
そのまま彼の血液の中に流れている鉄分に同化するように、ハイプリエステスを作り変えてやったのだ。
「ホーッ…ホゴッ、ホゴォーッ……!」
 眉間の傷と体内に必要以上の鉄分を供給された為に、頭を押さえてのたうち回るフォーエバーに向けて、
消火ホースの拘束を解かれたタバサが悠然と歩いて行く。
「フ、フゴ、フゴゴッ!」
 彼女と再びその後ろに現出したクレイジー・Dの姿を捉えて、フォーエバーは慌ててその場で仰向けになり、自らが着ていた船長服をビリビリに破いて自らの腹を見せる。
『ほー。そいつぁ降参のポーズってワケかい?
 今更いっちょまえの動物を気取ってやがらぁ。どうするよタバサ?』
「……あなたは動物のルールを逸脱した」
 意地の悪い口調で聞いて来るデルフリンガーに、タバサは懇願するような瞳をこちらに向けて来るフォーエバーの姿を、冷酷に見下ろしながら言う。
「それは、決して許されない」
 その言葉の意味を悟って、フォーエバーの表情が恐怖に歪む。
 だがタバサは、その姿を憐れだとは全く思わなかった。
 躊躇うことなく頭に装備したDISCから現れているスタンドを近付けて、その拳を向ける。
「クレイジー……ダイヤモンド!!」

 ドララララララララララララララララァーーーーーーッ!!!

「ギャバァーーーーーッ!!」
 微塵も容赦の無い勢いで、クレイジー・Dのラッシュがフォーエバーの全身に叩き込まれる。
 殴られ続けてボロ雑巾のように変えられたフォーエバーの体がピクピクと痙攣し、やがてその力を失って動かなくなる。その存在を維持出来るだけの生命力を奪われて、そのままフォーエバーの“記録”が風の中に溶ける霧のようにして、消滅して行く。
 フォーエバー&「力(ストレングス)」、再起不能(リタイア)。





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