ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

条件! 勝利者の権限を錬金せよ その②

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条件! 勝利者の権限を錬金せよ その②

夜のヴェストリ広場に、少女がランプを持って現れた。
ただでさえ人気の無い場所、それが夜ともなれば誰も姿を見せないだろう。
普通は。
だがルイズは現れた。袋いっぱいに小石を積めて。
錬金を失敗したら爆発して使えなくなってしまう、だからいっぱいいっぱい用意した。
部屋から運んできた椅子の上に、小石をひとつ置く。
月明かりの下、ルイズは杖を構えた。
目をつむり、短くルーンを唱え、杖を振り下ろす。
熱風が顔を焼き爆音が耳を震わせた。
「……コホンッ」
黒い煙を吹き出して、ルイズは再び袋から小石を取り出し椅子の上に。
もう一度、さっきより集中して、集中して……杖を振り下ろす。
衝撃が身体を襲い轟音が鼓膜を叩いた。
「……ま、負けるもんですか!」
集中しすぎるのはよくないかもしれない、リラックスしてやってみよう。
リラックス、リラックス。身体の力を抜いて……杖をダラ~ンと下ろす。
爆熱がルイズを転倒させ草地に頭をぶつける。
「うっ……ううっ」
ボロボロになった自分の姿を見て、ルイズは心底惨めな気持ちに陥った。
涙が出てきて、すぐ服の袖で拭って立ち上がる。
「夜はまだ始まったばかりなんだから!」
椅子の上に石、ルーンを唱えて杖、振り下ろし、爆発。
「キャン!」
咄嗟に顔面をかばって、左の手の甲がすすまみれになった。
どうせ顔はもうすすまみれだ。どこがすすで汚れようと知った事か。
「今度こそ……今度こそ。今度は集中よりも気合を入れて……!」
気がついたら、視界にはお月様がふたつ。
どうやら倒れてしまったらしい。ルイズは起き上がろうとして地面に手をつく。

手のひらを見ると、度重なる爆発のせいで杖を握る右手の指の皮がわずかにめくれていた。
夜風が傷口に沁みる。ルイズは泣いた。
「うっく……ひっく、うぅ……うわぁっ……あっ……」
でも、声は小さく、噛みしめてこらえる。
数分ほど泣いて、ルイズはのろのろと立ち上がった。
椅子の横に落ちていた袋から小石を取り出して、ぼんやりとした頭で、椅子の上に置く。
「……錬金なんて……初歩の初歩なんだから。
 サモン・サーヴァントができたんだから……こんなの、できて当然なんだから」
ルーンを唱えるが、その言葉に力は無い。杖を振り下ろして、また、爆発。
「うぐっ……!」
小さく呻いて尻餅をつく。右手の指が痛い。杖を振るう右手は爆心地に一番近いからだ。
「……もう、やだ……こんなの」
誰も見ていないからこそ、ルイズは弱音を吐いた。
自分は落ちこぼれなんだ。
きっと一生魔法が使えない。
お父様に、お母様に、お姉様に、ちい姉様に叱られる。認めてもらえない。
学校で友達だって作れない。ゼロなんかと誰も友達になろうとしない。
惨めだ。こんな自分が、本当に貴族なのだろうか?
悔しくてたまらない。
使い魔の出した条件ひとつクリアできないなんて情けないにも程がある。
使い魔の……できない……なんて……。

   ……『できる』か『できねー』かを訊いてるんじゃねえ。
   俺は『やる』か『やらない』かを訊いてるんだ。

そうだ、できるかできないかじゃない。『やる』んだ!
ギリッと音が鳴るほどに歯を食いしばり、ルイズは立つ。

「小石を青銅に変える……簡単よ、簡単な事なの。
 落ち着いてやれば、気合を入れてやれば、リラックスしてやれば、
 集中してやれば、できると信じてやれば、ダメモトでやれば、
 とにかくやり続ければ、きっと、いつか、成功するから」
自分に言い聞かせる。試してないやり方があったら、全部やってやろう。
そして必ず承太郎の前で小石を青銅に変えてやる。
勝利者の権限を錬金で手に入れてやる。いや、生み出してやる。
だから――。
ルイズは小石を置いた。
ルイズはルーンを唱えた。
ルイズは杖を振り下ろした。
…………。
ルイズは小石を置いた。
ルイズはルーンを唱えた。
ルイズは杖を振り下ろした。
………………。
小石を置いた。
ルーンを唱えた。
杖を振り下ろした。
……………………。
小石を置いた。
ルーンを唱えた。
杖を振り下ろした。
……………………………………………………。


――ああ。月って、こんなにも冷たい色をしていたんだ。

ルイズはそう思って、ヨロヨロと立ち上がり小石を椅子に置く。
ルーンを唱えて杖を振り下ろして、念じる……願う……祈る……今度こそ!
何度でも、何度でも。
袋の中の小石が無くなるまで。
何度でも、何度でも。
失敗。爆発。失敗。爆発。怪我。失敗。爆発。失敗。爆発。失敗。爆発。怪我。
失敗。爆発。怪我。失敗。爆発。失敗。爆発。怪我。失敗。爆発。転倒。気絶。

――あれ? 月……は、どこだろう。月も、星も、見え……ない……。

一番爆発を受け続けた右手は、もう、痛みを感じていなかった。
爆発や転倒のせいでいっぱい怪我をしたのに、何だか心地いい。
やれるだけやった……そんな気がした。
でもそれは言い訳。どれだけやっても、結局一度も成功しなかったのだから。
ああ、早く立ち上がって、また、続きをやらなくちゃ。
そんな事を考えながら、ルイズの意識は沈んでいく。暗い深い闇の底へ。

「――ズ」
沈んでしまってからどれくらい経っただろう?
一分? 十分? 一時間?
「――イズ」
誰かが呼んでいる気がして、ルイズはまぶたを開けた。
月が見える。冷たい色をしたふたつの月が。
「ルイズ、気がついたかい?」
「…………ギーシュ? 何で、あんたがここにいるのよ」
「それは……部屋に居づらくて、ちょっと気晴らしに散歩をしていたら……」

ルイズは倒れているところを、ギーシュに抱き起こされている状態だった。
「こんなにボロボロになるまで……錬金の練習をしていたのかい?」
「……そうよ、文句ある?」
「い、いや……その……」
「……離、して」
ルイズは朦朧とする意識の中、ギーシュの手を振り解いて立ち上がり、よろめく。
小石はどこだ、まだあるはずだ。袋から小石を取り出し、椅子の上に置く。
「ルイズ、もうやめたまえ! 早く先生に頼んで治癒の魔法をかけてもらわないと!」
「青銅に……錬金するまで……やめ、ない……」
全身すすまみれで、傷だらけで、火傷もあって、皮もめくれていたりして。
でも、それでもルイズは挑む。
ルーンをか細い声で唱え、杖を弱々しく振り下ろし、また、爆発。
感覚の無い右手から杖がこぼれ落ち、地面に転がった。
ルイズは再び仰向けに倒れ、夜空に浮かぶふたつの月を見る。
「……ねえ、ギーシュ」
「…………」
ルイズが小声で何事かをささやいたような気がした。何だろう?
「月って……いつから、こんな冷たい色、してたっけ……?」
「…………」
「……ギーシュ?」
「見ろ、ルイズ」
そう言ってギーシュはルイズを抱き起こした。
ギーシュの視線の先は、椅子の上。
ルイズはぼやけた視界の中に、奇妙な何かを見つける。
椅子の上にある。小石、だと思う、けど、少し違う。
大きさは小石くらいだけど、あれ? 何だろう。おかしいな。濃い緑色をしている。

あれは、なに?

「青銅だ」
ギーシュが力強く答えた。その意味を、ルイズはすぐには理解できなかった。

「青銅だよ! ルイズ、君の錬金は成功したんだ!」
「……嘘……爆発、したのに……」
「爆発しても! それでもここに青銅があるじゃないか! 君は成功したんだよ!」
まだ信じられない。何かの間違いだと思う。
あ、そうか。これは夢なんだ。
でも、身体が痛い。夢じゃ、ない?
「本当に……青銅? 錬金……小石が、錬金で……青銅に……?」
「ああ、そうだ。よくやったルイズ。さあ、もう十分だろう?
 先生の所に運ぶよ。力を抜いて、レビテーションで君を浮かすから」
「…………あの、青銅を……」
ルイズがボロボロの手を伸ばし、ギーシュは慌てた素振りを見せて青銅を拾い渡した。
「あ、ああ。ほら、持っていくといい。君が成功した証なんだから」
ギーシュはルイズの左手にそっと小さな青銅を置くと、
レビテーションの魔法でルイズを浮かせ、水系統の教師の所へ連れて行った。

その晩、ルイズはずっと治癒の魔法を受け続ける事となった。
何度も何度も至近距離で爆発を受け続けたダメージは深く、一日では回復しない。
けれどルイズは心地いい達成感に包まれていて、
治療中の間もずっと小さな青銅を手放さなかった。

――場所はヴェストリ広場。秘密のはずなのに、なぜか周りには野次馬がいっぱい。
――机を挟んで私とジョータローが立っている。
――私が錬金の魔法を唱えると、机の上の石が青銅に変わる。
――そしてジョータローは…………。

そして夜が明けて、ルイズは夢から覚める。何もかも夢だったような気がする。
けれど手のひらには、昨晩錬金された小さな青銅。
全身怪我だらけにも関わらず、ルイズは嬉し涙をこぼした。
しかし――ルイズが本当の意味で夢から覚めるのは、もう少し後の事になる。

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