ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

影の中の使い魔-14

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「またあんた!?」
開けっ放しにしていたチェストを閉じようとして、そのチェストの中に仁王立ちしている存在に気づき叫ぶ。
驚きながらも、三度目の接触にフーケは即座に対応した。
すぐにUターンして窓を突き破り、外に飛び出す。
地面を転がりながらルーンを唱え、起き上がるころには宝物庫を破壊した時と同じ巨大ゴーレムが現れる。
間髪いれずゴーレムを動かし、小屋を叩き潰す。

『破壊の杖』も中にはあるが、そんなものよりも今はあれを仕留めるほうが先決だ。
超巨大ゴーレムの一発でもともとぼろかった小屋は、ほとんど全壊した。
だがおまけにもう一発。
ドォンという音ともに、砂煙が舞う。それが消える頃には小屋はすっかり消え去り、クレーターが生まれていた。

「やった……?」
緊張を込めつぶやく。変態は逃げる暇も与えられずに、小屋と一緒に潰れたはずだ。
だがフーケは全く手ごたえを感じていなかった。冷や汗が吹き出てくる。
(どこにいるんだい……たくッ急に現れたり急に消えたり……こっちの話を全く聞かないタイプね……嫌いよ)

360°前方向に感覚を向けながら、ニヤリと笑う。少しずつだが動悸も収まってきた。
冷静になれ。もう何度目か分からないその言葉を心の中で繰り返す。
冷静に…冷静に…冷静に…冷静に…冷静に…冷静に…冷静に…
「フフッ」
思わず口の端を歪ませて笑う。
探す必要も無く、変態は立っていた。ゴーレムの股の間に。
ボッーと立ったまま、こちらを睨んでいる。
冷静に!
「つぶれな!」

派手な音を立ててゴーレムに亀裂が入っていく。変態が音に反応して上を向いたちょうどその時、ゴーレムが崩壊を始めた。
今度は確実に巻き込まれるところを見届ける。確実に潰れた。
さらにその上に大きな岩が覆いかぶさっていく。
さらにさらに崩すだけでなく、フーケは岩と岩の間の隙間を錬金で埋めていく。
しばらくするとあっという間に小高い丘が完成した。
ふたたび森に静けさが戻る。空気はピンと張り詰めたままだ。
フーケはさらに杖を構えながら、じっと待つ。
十秒……勝ったはずだ……十五秒……あれで死なないはずがないじゃないか……二十秒……(杖を握る手はさらに強くなる)……二十五秒……なんで……

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………

やはりなんの前触れも無く、潰れたはずの変態は小高い丘の上に出現した。
まるで地面から生えてきたかのようだ。
月をバックにこちらを見下ろす様は、ある一つの単語を連想させる。
(悪魔……!)
いつもなら鼻で笑うであろうそんな考えを肯定するかのように、目の前の存在は地獄の底から発するような唸り声を上げる。
「オオオ……アアアア!……うおおおおおおおおああああああああああああ!!」

それをフーケはまるで他人事のように聞いていた。体が麻痺したように動かない。思考が追いつかない。
冷静に…冷静に…冷静に…逃げなきゃ…冷静に…冷静に…冷静に…冷静に……逃げなきゃ……逃げなきゃ逃げなきゃ
杖を握る手が目に見えて震え始めた。だがフーケ自身は全くそのことに気づかない。
「うあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ひっ」
へたりとその場に腰を落とす。
悪魔は尚もうめき声を上げながら、丘の上で暴れている。その体をポロポロ崩しながら。……崩しながら?
フーケはそれに気づいたとき自分が泣いているせいだと思った。涙で視界が歪んでいるからだと。
彼女のわずかに残った冷静な部分が、彼女の細い指を自分の瞳に触れさせた。
濡れてない。自分は泣いてなんかない。

…………ブラック・サバスは本当に崩れ始めていたのだ。
崩壊するゴーレムの隙間を縫うようにして避け、錬金によって埋められる前に丘の上に這い出た。
そこまではよかった。
だが人工的に作られた丘の上には影を作るものは存在しなかったし、二つの月の光はブラック・サバスにとってはいささか暴力的だった。
元の世界にいたころの月光とは比べ物にならないそれは(といってもブラック・サバスが覚えてることなどほとんど無いが)
ブラック・サバスを苦しめ、確実にダメージを与えていく。
ブラック・サバスは派手にこけた。足がもげたらしい。それでもガリガリと地面でクロール泳ぎをするように動き回る。
だが半径数メートル内に逃げ場所は無かった。…………いや「いた」。

ブラック・サバスは改めてフーケを見据える。腕だけのほふく前進でフーケの所まで近づいていく。
「アアアアアアアアアア…………!!」
「うわ」
こちらが近づいていることに気づいたのか、フーケも尻餅をついたまま後ずさりしていく。
距離がジワジワと縮まっていく……。
手を伸ばす…が………限界……うう…消える……。

「が…………ま…………」
最後まで残っていたブラック・サバスの仮面も、闇に溶けていくように消滅した。

はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…………
真夜中の森に、フーケの荒い呼吸音だけが一定の間隔で聞こえる。
力無くよろよろと立ち上がる。
変態のような悪魔……いや、悪魔のような変態?……は唐突に現れ、唐突に消えた。
もっとも今もどこかで息を潜めて、チャンスをうかがっているのかもしれないが。
だが、フーケの目の前で消えた時の様子は、今までに無い切羽詰ったものがあった。

「なんだったんだい……」
力無くうめいて、広場を見渡す。
小屋があったところにはクレーターができ、その横には小高い丘ができている。
これらは全て、あれを倒すためにしたことなのだが……
奴はそれらを物ともしていなかった。
宝物庫前での攻防と同じだ。全くなすすべが無かった。

「なんなのよ」
再び愚痴る。それしか今はできそうに無い。
ドッと疲れが出てきた気がする。体が異様に重く感じた。
だが、すぐにでも移動しないといけない。
あれが変態か悪魔かは知らないが、魔法学院の「誰かの使い魔」なのは確かだろう。
だとしたら現在進行形で状況は悪化している。すぐにでもさらなる追っ手が来るかもしれない。
使い魔とその主は感覚を共有できるからだ。

すでに使い魔の主はフーケがロングビルであることも、この場所にいることも知ったかもしれない。
先刻までは学院のメイジ程度なら相手にしても余裕だと考えていたが、状況が変わった。
奇襲をかける側から、奇襲をかけられる側になってしまったのだ。
もう学院には戻れない。
フーケはさっさと『破壊の杖』を回収して逃げることを選択した。
「ミス・ロングビルともサヨナラね」
全壊している小屋跡を見て、『破壊の杖』も壊れていないことを祈りつつ、魔法で探索を始めた。


「おーい起きろー」
「…………むにゃ……あと5分……」
ルイズはまだ意識が夢の中にある状態でなんとか返事をした。
「そう言って起きれる奴はいねーんだよ!」
……もう、うるさいわねサバス……いつの間にそんなにペラペラしゃべれるようになったのよ……うん?

「サバス!?」
ガバッと跳ね起きる。
が、いつもベットの横で立っているルイズの使い魔はいなかった。
「俺だって!相棒はまだ帰ってねーよ」
「そう……あー…いつの間にか寝ちゃってたんだ」

ルイズたちがフーケを逃した後、多くの教師や生徒達が集まり大騒ぎとなった。
目撃者であるルイズたちは、次の日学院長室で詳しい説明をすることになり、とりあえず各自部屋に戻る。
ルイズは途中で地面に刺さっていたデルフを回収し、部屋に戻るまでどっちが役に立たなかったかで口論になった。
部屋に戻るとルイズはまず『再点火』して、ブラック・サバスを呼んでみる。

ブラック・サバスは光に触れたり、影から出たり、ルイズの爆発に巻き込まれると消滅してしまう。
そんなときでも、慌てず『再点火』すればすぐに現れる。
だが、今回はブラック・サバスは出てこなかった。
つまり、今もどこかで「行動中」ということだ。
恐らく、ルイズの命令に従いフーケを追っているだろう。

(感覚の共有ができれば、何をしているのか分かるのに)
それができないことに歯がゆい思いになる。
火を点けては消し、点けては消す。それでもブラック・サバスは現れない。
そうこうしているうちに、睡魔に負けて寝てしまっていたようだ。

「で、これから上の奴らに報告しに行くんだろ?その前に相棒呼んでみようぜ」
昨日のことを少しずつ思い出していたルイズを現実に戻すように、デルフが明るい声で提案する。
「そうね」
ルイズは言われるままに、ネックレスの『装置』に手をやる。
一度大きく深呼吸して、『再点火』する。
まだカーテンを開けてない薄暗い部屋が、いっきに明るくなった。
そして…………

「『再点火』したな!」
全く変わりない姿が出てきたことに、ホッとする反面、残念に思う部分もあった。
「おかえり。フーケは?」
「…………」
「フーケは?」
「…………」
「…………」
登場ポーズのまま固まるブラック・サバスの様子に、ルイズは予想が当たっていたと確信する。
「逃がしちゃったのね…………まぁ別にいいわ」
「ほー、おでれーた。もっと怒るかと思ってたけどな」

実際ルイズは怒っていなかった。
むしろ怒りの対象はブラック・サバスにでは無く、不甲斐ない自分に対してのほうが大きかった。
使い魔ばかりに働かせるわけにはいけない。
魔法が使える者を、貴族と呼ぶんじゃない。敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのだ。
この後、キュルケたちとオールド・オスマンに報告しに行く。
もしその時、フーケ捜索隊でも作られるなら、真っ先に自分が名乗りを上げようと考えていた。

「その…フーケを逃がしちゃったのは……私もだから…一晩中追いかけてたんでしょ?むしろ……ご苦労様」
すこし照れながら言うルイズ。静かに聞いているブラック・サバス。
「あ、でも!サバス!デルフを捨てたのは駄目よ!それとこれとは別。これは怒ってるんだからね」
「え」


ルイズの意外な言葉に反応したのは、デルフだった。
「せっかく私が買ってあげた剣を、すぐに捨てるんじゃないの!」
「あ、そういうこと」
「それ以外に何があるのよ」
ルイズはデルフを持ち上げながら、尋ねた。

「いや、俺の活躍とかを考えてくれたのかなーとか」
「そんなわけないでしょ。だいたいあんたは報告役なんだから、常に一緒にいなさい。ほら、サバス口開けて」
何気に酷いことを言うルイズの言われるとおり、ブラック・サバスは口を開けた。
「…………もう何か入ってる」
ルイズは口の中を覗きながら呟いた。
「何コレ?」
勝手に口の中からそれを引っ張り出してみる。
金属製の筒。いつも思うのだが、口の中にこんな長い物が入るのは、どういう仕組みだろう。

「変なもの拾っちゃ駄目だって言ってるでしょ」
意味は無いのだろうけど、一応注意しておく。
改めてデルフを突っ込もうとすると、デルフがその奇妙な筒に反応した。

「おでれーた。その分けわかんないのは武器だぜ」
「武器?なんで分かるの?」
「その筒をもう一回相棒に渡して、それからネックレスを見てみな」
言われるままに筒を口の中に入れ、ネックレスにした『装置』を見てみる。

「あ、ルーンが光ってる。どういうこと?」
「前にも言ったろ。相棒は使い手なんだよ。…………あれ?言ったっけ?
 とにかく、相棒は武器を持ったら……相棒の場合は口に入れたら、そうやってルーンが光んだよ
 つっても、普通は左手に出るんだけどな。俺を昔使ってた奴にも同じようなのがいた気がする」

「ふーん。よく分かんないけど……」
ルイズは使い手の説明よりも、筒が武器であることに興味がいっていた。
「じゃあ、これもしかしてマジック・アイテム?」
期待を込めて尋ねる。
……もしかしたら……もしかしたらだけど……これがフーケの盗んだものじゃあ……!?

「それはねーな。魔力の無い相棒が武器として使えるってことは、いわゆる普通の武器ってことだ。
 それを手にはめて殴ったりすんじゃねーの?」
あっさり否定される。
「何よ……もうちょっと夢見させてくれても………」
「何ブツブツ言ってんだ?そうだ相棒。これの使い方分かんだろ?見せてくれよ」
デルフは同じ武器として、筒のことを知りたいようだ。
言われたブラック・サバスはルイズの顔をじっと見ている。
(もしかして私の許可待ってんのかしら)
だとしたら特に否定する理由も無いなと、軽い気持ちで考える。

「私も見てみたい。見せて」
ルイズのその一言でブラック・サバスは動きを見せる。
口の中から筒を三分の二ほど出して、なにやら色々いじっている。
その動きに全く迷いは無いようで、早かった。

「殴ったりするみたいじゃないみたいね」
嫌な予感がしつつ、手元のデルフに聞く。
「そ、そうだな」
「サバス、やっぱりや」
しゅぽっ。
そんな軽い音と共に、ブラック・サバスの口から…いや、筒の中から白煙が飛び出す。
それは部屋の窓を割りそのまま飛び出していった。
数秒後。爆音。閃光。衝撃。
そして静寂。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「おでれーた…………」
「…………」
「…………」
「…………」

「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」

To Be 。。



「…………サバスは…………」
「…………洗濯にいった…………」

To Be Continued 。。。。?

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