ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

白銀と亀の使い魔-21

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一行はその日の夜中にラ・ロシェールの入口に到着した。
「…彼らは本当に先に行ったのかい?」
ワルドは自慢の使い魔であるグリフォンでも二人に追いつけなかったと思いこみ、ショックを受けて凹んでいた。
「あの…子爵…実は」
それを見たルイズは哀れに思い、ワルドに亀の事を話した。
「…そういう種だったのかい。」
「もしかして怒ってますか…?」
「いや一本取られたな、と思ってね。まさかそんな方法で着いてくるなんて思い付かなかったよ。
とりあえず町で一泊して明日朝一番の舟でアルビオンに向かうことにしよう。」
ワルドは笑いながらそう言い、グリフォンをラ・ロシェールの町に乗り入れた。
「道理で追いつけなかったし、見つかりもしなかったわけだ。なるほど、な」


それと同時刻、ラ・ロシェールの入口の崖の上に多数の傭兵達がいまかいまかと待ち構えていた。
金の酒樽亭で女メイジと仮面を被ったメイジの二人に雇われ、「ラ・ロシェールの入口でグリフォンと馬二頭を襲え」と言われたのだ。
そしてつい先程グリフォンが通過し、何人かが弓を構えた。これに続いて馬二頭が来たら矢を尽きるまで射続けるつもりだった。
と、そこへ仮面メイジが闇の中から音もなく現れた。
「作戦は失敗だ。」
「…はあ?どういう事だ、あんた?まだ馬は来てないぜ。」
「奴らは既に町に入った。次にやるべきことを指示するから全員一旦『金の酒樽』亭に戻れ。異論は許さん。」
そう言うと再び闇の中に姿を消していった。
傭兵達は仮面メイジの言うことが理解出来なかったが、そこは傭兵。ぶつぶつ言いながらも雇い主の彼の言うことに従い、崖を降りて行った。

一行はラ・ロシェールで1番上等な宿、『女神の杵』亭に泊まることにした。
「宿に入る前に二人に着いたことを伝えないと…」
ルイズはそう言うと亀の鍵を外した。
「二人共、宿に着いたわよ。」
亀の中から断りもなくいきなり引きずり出されたギーシュは恨めしそうにルイズを見て文句を言ったが、ワルドとルイズはギーシュの文句を華麗にスルーして宿に入ろうとした。
その時である。四人の前に一頭の龍が舞い降りた。
ワルドは咄嗟に杖を構えたが、ルイズとギーシュはその背中に乗っていた少女達に驚愕した。
「あんなに急いで何処に行くのかと思ったら、ラ・ロシェールって…アルビオンにでも行くつもりなの?」
「キュ、キュルケ!タバサも!なんでここに!?」
「後をつけてきた。」
パジャマ姿のタバサが本を読みながら短く答えた。
キュルケは驚いたままのルイズとギーシュを無視してワルドににじり寄った。
「お髭が素敵よ。あなた、情熱はご存知?」
ワルドはちらっとキュルケを見つめて左手で押しやった。
「あら?」
「好意は有り難いが、これ以上近づかないでくれたまえ。婚約者が誤解するといけないのでね。」
そう言ってルイズを見つめた。ルイズの頬が赤く染まった。
「なあに?あんたの婚約者だったの?」
キュルケがつまらなさそうに言うと、ルイズの後ろで何か考え事をしていたポルナレフに抱き着いた。
「ほんとはね、ダーリンが心配だったからよ!」
が、ポルナレフは無反応だった。キュルケが抱き着いてきた事を無視して何か別の事を考えていた。
「…つまんない」
キュルケは自分のアプローチに反応しない男二人に軽く失望した。

『女神の杵』亭の一階は酒場となっていて、その造りは貴族を相手にするだけあって豪華だった。テーブルは床と同じ一枚岩から削り出しでピカピカに磨き上げられていた。
ルイズとワルドが『桟橋』へ交渉に行っている間、彼ら以外はそこでくつろいでいた。
ギーシュとキュルケは他愛のない事をしゃべり、タバサは普段と同じく本を読んでいたが、ポルナレフだけ三人から離れてカウンターに座っていた。
「…果たして俺はどうしたらいいんだろうな…」
出されたワインに手をつけず、そう呟いた。
「なんだい相棒?なんか元気無いねえ」
鞘から僅かに出ていたデルフがいつもと同じ軽い口調で言った。
「いや、これから…俺はどんな『道』に進むべきなのかが気になってな…」
「『道』?」
「俺はここに来るまでずっと戦っていたんだ…妹の仇や100年の時を越え蘇った吸血鬼、世に蔓延る邪悪とかとな…」
「へえ。そいつあおでれーた。意外とすげえ人生送ってきたんだな。」
「ああ。だが、そのような『因縁』はこの世界にはない…俺は異邦人だからな。そんな俺がだ、この世界で戦いを続ける義務が、権利があるのか?まだ戦う事に意味があるのか?分からないんだ…全く、な。」
「…難しくて俺にはよくわかんねーけど、なんだい、相棒は戦う事に『理由』を求めてるのかい?」
「そうとも言えるし、違うとも言える。」
「?」
「ひょっとしたら『戦い』自体を俺はもう嫌っているのかもしれない…」
「おいおい、変な事言うんじゃないぜ、相棒。」
「いや、これはまじめな話だ。考えてみれば俺は今まで生きてきた内の半分は戦いや修業に費やしてきた…もう休みたいと考えても変じゃあない程な」

「でも相棒は…」
ポルナレフはデルフを鞘に収めた。
これ以上話したくなかった。ポルナレフは学院を発つ前に、この任務を終えたらもう戦いから身を退こうと考えていた。ルイズには少し悪い気もするが亀だけで使い魔は十分だろうから、自分はただの平民として暮らし帰る方法も自分一人で探そうと決めた。
だがデルフと話していて沸々と何かが沸いてきた。何かは分からなかったが、それは確かに今の自分の心に問いかけてきた。
それが嫌だった。これ以上話せば自分の決心が鈍る…そう思った。
ポルナレフはワインを煽った。酔い潰れて今の話を全て忘れるまで飲み続けようと…
「お客様の気持ち…よく分かりますよ」
店主はそれだけ言って空いたグラスにワインをなみなみと注いだ。


やがてルイズとワルドが帰って来た。
ワルドは席につくと、困ったように言った。
「アルビオンに渡る船は明後日にならないと出ないそうだ」
「急ぎの任務なのに…」
ルイズが口を尖らせた。
「あたしはアルビオンに行った事無いから分かんないけど、どうして明日は船が出ないの?」
キュルケの方を向いてワルドが答えた。
「明日の夜は月が重なるだろう?『スヴェル』の月夜だ。その翌日の朝、アルビオンが最もラ・ロシェールに近づく。」
キュルケはふーんと納得したように頷いた。
「さて、じゃあ今日はもう寝よう。部屋は取った。」
ワルドは鍵束を机の上に置いた。
「キュルケとタバサは相部屋だ。そしてギーシュとポルナレフが相部屋…って彼は何処だい?」
キュルケがカウンターを指差した。そこにはワインを煽り続けるポルナレフの姿があった。近寄りがたい負のオーラが滲み出ている。
「…まあ、酔い潰れたら店主に運んでもらうよう頼んでおこう。
あと、僕とルイズは同室だ。婚約者だからな。当然だろう?」
「そんな、ダメよ!まだ、私たち結婚してるわけじゃないじゃない!」
しかしワルドは首を振ってルイズを見つめた
「大事な話があるんだ。二人きりで話したい」

貴族相手の宿、『女神の杵』亭で一番上等な部屋だけあって、ワルドとルイズの部屋はかなり立派な造りであった。ベッドを例にとっても、天蓋付きの大きなもので高そうなレースの飾りがついていた
テーブルに座るとワルドはワインの栓を抜いて杯に注いだ。それを飲み干す。
「君も腰掛けて一杯やらないか?ルイズ」
ルイズは言われるままにテーブルについた。ワルドがルイズの杯にワインを満たしていく。自分の杯にも注いで、それを掲げた。
「二人に」
ルイズはちょっと俯いて杯をあわせた。かちん、と陶器のグラスが触れ合った。
「姫殿下から預かった手紙はきちんと持っているかい?」
ルイズはポケットの上から預かった封筒を押さえた。一体どんな内容なのか、そしてウェールズから返して欲しいという手紙の内容はなんなのか、ルイズにはなんとなく予想がついていた。
アンエリッタとは幼なじみである。彼女がどういう時にあのような表情をするのか、よく分かっていたからだ。
「…ええ」
「心配なのかい?無事にアルビオンのウェールズ皇太子から姫殿下の手紙を取り返せるのかどうか」
「そうね。心配だわ…」
「大丈夫だよ。きっと上手くいく。なにせ僕がついているんだから」
「そうね、あなたがいればきっと大丈夫よね。あなたは昔からとても頼もしかったもの。で、大事な話って?」
ワルドは遠くを見る目になって言った。
「覚えているかい?あの日の約束…ほら、君のお屋敷の中庭で…」
「あの池に浮かんだ小船?」
ワルドは頷いた。
「君はいつもご両親に怒られた後、あそこでいじけていたな。まるで捨てられた子猫みたいにうずくまって…」
「本当に、もう、ヘンな事ばっかり覚えているのね」
「そりゃ覚えているさ」
ワルドは楽しそうに言った。
「君はいっつもお姉さんと魔法の才能を比べられて、出来が悪いなんて言われてた」
ルイズは恥ずかしそうに俯いた。
「でも僕はそれはずっと間違いだと思ってた。確かに君は不器用で失敗ばかりしていたけれど…」
「意地悪ね」
ルイズは頬を膨らませた。

「違うんだルイズ。君は失敗ばかりしていたけれど、誰にもないオーラ…さっきの使い魔君みたいなんじゃなくて…何て言うかな、魅力、みたいなものを放っていた。
それは君が他人には無い特別な力を持っているからさ。僕だって並のメイジじゃ無い。だからそれが分かる」
「まさか…」
「まさかじゃない。例えば、そう、君の使い魔…人間の方しか見えなかったけど、彼のはただのルーンじゃない。伝説の使い魔の印さ」
「伝説の使い魔の印?」
「そうさ。あれは『ガンダールヴ』の印だ。始祖ブリミルが用いたという、伝説の使い魔さ」
ワルドの目が光った。
「ガンダールヴ?」
「そう。君も知ってるだろう?誰もが持てる使い魔じゃない。しかも亀まで呼び出した…つまり君はそれだけ力を持ったメイジなんだよ」
「信じられないわ」
「君はただ自分の力に気付いていないだけだ。きっと君はいつしか偉大なメイジになるだろう。そう、始祖ブリミルのように歴史に名を残すような素晴らしいメイジにね。僕はそう予感している」
ワルドは熱っぽい口調でそう言うと、改めてルイズを見つめた。
「この任務が終わったら僕と結婚しよう、ルイズ」
「え…」
いきなりのプロポーズにルイズははっとした顔になった。
「僕は魔法衛士隊の隊長で終わるつもりは無い。いずれは国を…いや、ハルケギニアを動かすような貴族になりたいと思っている」
「で、でも…」
「でも、なんだい?」
「わ、わたし…まだ…」
「もう子供じゃない。君は十六だ。自分のことは自分で決められる年齢だし、父上だって許して下さってる。確かにずっとほったらかしだった。婚約者だなんて言えた義理じゃない事も重々承知している。でもルイズ、僕には君が必要なんだ」
「でも…まだ私はあなたに釣り合うような立派なメイジじゃないし…もっともっと修行して…」
ルイズは俯いた。
「…君がそう考えているなら仕方が無い。その気持ちはよくわかる。取り消そう。今返事をくれとは言わないよ。君が君の言う『立派なメイジ』になるまで待とうじゃないか。」
ルイズは頷いた。
「それじゃあもう寝ようか。疲れただろう」
それからワルドはルイズに近づき、唇を合わせようとした。
ルイズの体が一瞬強張る。それから、すっとワルドを押し戻した。

「ルイズ?」
「ごめん、でも、なんか、その…」
ルイズはもじもじとしてワルドを見つめた。ワルドは苦笑いを浮かべて首を振った。
「急がないよ。僕は」
ルイズは再び俯いた。
こんなに優しくて、凛々しい、あの憧れだったワルドの気持ちはもの凄く嬉しい。
だけど気にかかるのはポルナレフのことだった。
使い魔とは言え人間、それも男なのだ。ワルドと結婚しても連れていけるのだろうか。それは出来ない気がした。
異世界から来たあいつはほっぽりだされた後、生きていく宛はあるんだろうか
あのメイドや学院の使用人達、あるいはキュルケが世話してくれるだろうか?でも、呼び出したからには帰る方法を一緒に探してやる義務があるんじゃないか。それを無視するのは…
そのような思いがルイズの心を前に歩かせないのだった。


翌日、ポルナレフは見知らぬ部屋のベッドの上で目覚めた。隣にはギーシュが寝ていた。
ぼやーとした頭で何処だここは?と思っているとドアがノックされた。
ふらふらした足取りでドアに向かい、鍵を外してドアを開けるとワルドが立っていた。
「おはよう。使い魔くん」
「…おはよう。
おお、そうだ。昨日は結局どうなったのか教えてくれないか?酒を飲んでたから全く聞いてなくてな…」
「ああ。まず出発は明日の朝だよ。明日じゃないと船が出ないらしくてね。」
「ほう…じゃあ今日は暇な訳だ」
ワルドが頷いた。
「そういうことだ。ところで君は伝説の使い魔『ガンダールヴ』なんだろう?」
「あ?」
「いや、フーケを尋問した時君の名前が出て来てね…きみに興味を抱き王立図書館で調べたんだよ。その結果『ガンダールヴ』にたどり着いた」
ポルナレフは二日酔いで頭がぼんやりしていてワルドが何を言いたいのか分からなかった。

「あの『土くれ』を捕まえた腕がどのぐらいのものだか、知りたいんだ。ちょっと手合わせ願いたい」
「手合わせ…」
「分かってるとは思うが、これさ」
ワルドは腰に差した杖を引き抜いた。
「もちろん二日酔いを治す薬は持って来ているよ。ほら。」
ワルドはポルナレフに透明な液体が入っている小瓶を投げて寄越した。
「引き受けてくれるね?」
「断る」「は?」
「手合わせなどやって怪我したりして明日からに響いたらどうするつもりだ」
ポルナレフはそう言うとドアを閉めた。ベッドの方を見るとギーシュがいつの間にか起きていて、こっちをじっと見ていた。
「…なんで断ったんだい?」「任務中だからな。仕方ないだろう」
「そうじゃないだろ?本当の理由は」「…どういう事だ」
「君と一度やりあったからね。何となく分かるんだ。君が今断ったのは心の深いところからやりたくないからじゃないか、てね」
「…気付いていたのか、小僧」
「で、何でなんだい?僕の申し入れは受けたのに」
「それは…もう戦いから身を退くことを決めたからだ。」
「身を退く?」
「ああ…ルイズにはまだ言ってないが、この任務が終わり次第、俺は隠者のような生活をしようと考えている」
ポルナレフは静かに続けた。「戦う理由が…因縁が…俺には無いからな…」
バキィ!
ギーシュは魔法を使わず、素手でポルナレフを殴った。「な…!?」
「君は…!君は…!いつの間に誇りも主人も平気で捨ててしまうような屑みたいな人間になったんだ!因縁が無いから使い魔をやめるのかい!?」
怒りで声が震えていた。
「僕は…あの時君から言われた事を覚えている……『誇り高い男に月桂樹の冠を送る』と君は言った!
僕は…君を尊敬した!月桂樹を身につけなかったのは君にまだ劣っていると考えていたからだ!いつか…君に追い付いた時に堂々と身につけようと考えていた!なのに…君は…!」
ギーシュは鞄から月桂樹の花を取り出すとポルナレフに投げ付けた。
「君みたいな男にこんなもの貰うなんてむしろ恥だ!!」
そう言うとギーシュは扉を荒々しく開けて出ていった。部屋には呆然と床に座り込んだポルナレフだけが残されていた。


To Be Continued...

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