赤と青の双月が天蓋の如く世界を覆う夜。
夜闇に射す優しげな光を浴びながら、一台の荷馬車が車輪を響かせ目的地に向かって走っていた。
「アニキ~ちょこっとだけ良いスか~?オレッチもう我慢の限界なんスよ~~」
手綱を握り馬を走らせる男が、下卑た笑みを浮かべて隣に座る男を見る。
「手早く済ませろ。壊すなよ」
冷え切った眼差しを弟分に向けてそれだけを言うと、アニキと呼ばれた男は黙想する様に眼を瞑る。
「わかってまさぁ。優しく扱うんスよね?」
弟分の男は馬を止め、喜び勇んで荷台の鍵を開け積まれた『商品』を物色し始める。
「へへ…どいつにするかな……おっとコイツにするか」
男に怯えて震え上がる『商品』から一つを選び、嫌がる『商品』を殴って黙らせると、男は『商品』の髪を
掴んで引き倒し荷台を降りる。
「それじゃアニキ。パパッと済ませますんで」
「あの~…聞きたい事があるんですけど…」
突然背後から声を掛けられ、男が驚いて振り向くとそこには一人の少女が申し訳なさそうに佇んでいた。
夜闇に射す優しげな光を浴びながら、一台の荷馬車が車輪を響かせ目的地に向かって走っていた。
「アニキ~ちょこっとだけ良いスか~?オレッチもう我慢の限界なんスよ~~」
手綱を握り馬を走らせる男が、下卑た笑みを浮かべて隣に座る男を見る。
「手早く済ませろ。壊すなよ」
冷え切った眼差しを弟分に向けてそれだけを言うと、アニキと呼ばれた男は黙想する様に眼を瞑る。
「わかってまさぁ。優しく扱うんスよね?」
弟分の男は馬を止め、喜び勇んで荷台の鍵を開け積まれた『商品』を物色し始める。
「へへ…どいつにするかな……おっとコイツにするか」
男に怯えて震え上がる『商品』から一つを選び、嫌がる『商品』を殴って黙らせると、男は『商品』の髪を
掴んで引き倒し荷台を降りる。
「それじゃアニキ。パパッと済ませますんで」
「あの~…聞きたい事があるんですけど…」
突然背後から声を掛けられ、男が驚いて振り向くとそこには一人の少女が申し訳なさそうに佇んでいた。
「な…なんだおめぇはッ?!」
「ひとつ…ちょっとした質問に答えてくれると嬉しいんですが…」
動揺する男に構わず言葉を重ね、少女は男に歩み寄る。
男は突然の声に驚きはしたものの、相手が年端も行かぬ少女と判り安堵する。
「なぁにか用か~?お嬢ちゃんよ~」
安堵と同時に男の欲望が鎌首を擡げ、少女の身体を嘗める様に観察する。
誘うような露出の多い服に身を包み、歩み寄る少女は男の欲望を発散するのに十分な魅力を備えていた。
「ちょっと…道に迷ってしまって…」
「へえぇ…道にねぇ~」
男は状況を理解していないのか、間の抜けた事を言う少女を脅そうと腰に下げた剣に手を伸ばす。
「これから『殴り込み』に行くんだけど…モット伯の屋敷って…この道でいいのかしら?」
「ハァ?なに言って…え…あれ?」
男は剣を抜き少女にその切っ先を向ける…が、その剣が飴細工の様に曲がり男の手を拘束していた。
「それから…もうひとつ。この子たちをどうするつもりなのかしら?」
「へ…いや、そりゃあ売り飛ばすにへぶッ?!」
今起こっている状況を理解できない男は少女の質問に正直に答え、その瞬間鳩尾を殴られ男は気絶した。
「ひとつ…ちょっとした質問に答えてくれると嬉しいんですが…」
動揺する男に構わず言葉を重ね、少女は男に歩み寄る。
男は突然の声に驚きはしたものの、相手が年端も行かぬ少女と判り安堵する。
「なぁにか用か~?お嬢ちゃんよ~」
安堵と同時に男の欲望が鎌首を擡げ、少女の身体を嘗める様に観察する。
誘うような露出の多い服に身を包み、歩み寄る少女は男の欲望を発散するのに十分な魅力を備えていた。
「ちょっと…道に迷ってしまって…」
「へえぇ…道にねぇ~」
男は状況を理解していないのか、間の抜けた事を言う少女を脅そうと腰に下げた剣に手を伸ばす。
「これから『殴り込み』に行くんだけど…モット伯の屋敷って…この道でいいのかしら?」
「ハァ?なに言って…え…あれ?」
男は剣を抜き少女にその切っ先を向ける…が、その剣が飴細工の様に曲がり男の手を拘束していた。
「それから…もうひとつ。この子たちをどうするつもりなのかしら?」
「へ…いや、そりゃあ売り飛ばすにへぶッ?!」
今起こっている状況を理解できない男は少女の質問に正直に答え、その瞬間鳩尾を殴られ男は気絶した。
「テメエッ!女の子を誘拐して売り飛ばすだとォッーー!!」
「ぶごおっ!」
男が眼を覚ますと、まず自分が慕っているアニキが誰かに蹴られているのが眼に入った。
「うごご!おげえぇぇ……」
「ゲロ吐きやがって!僕を『ゲロっぱき』って馬鹿にしてるのか?!クソッ!クソッ!」
血反吐を吐いて気絶したアニキを蹴り続ける少年。アニキを助けようと身を起こそうとして
自分が縛られている事を知り、そして、叫ぼうとして猿轡を噛まされている事に気付いた。
薄暗い藪の中で少年が気が狂ったようにアニキを蹴り続けている光景だけが目に映り、男は恐怖した。
その絶望している男の前に、先程の少女が小さな包みを携えて姿を現した。
「あなた…さっきの質問…覚えてる…?」
少女は先程と同じ、申し訳なさそうな口調で尋ねてきた。男はそれが恐ろしかった。
「フゥ~…フゥ~…」
「ねえ~~聞いてるんだから…返事くらいしたらどうなの…ねえ~~~~」
少女の口調が突然変わり、感情の窺えない目で男を覗き込む。
男は蹲り蹴られ続けるアニキの呻き声を遠くから聞こえる様に感じた。
「ぶごおっ!」
男が眼を覚ますと、まず自分が慕っているアニキが誰かに蹴られているのが眼に入った。
「うごご!おげえぇぇ……」
「ゲロ吐きやがって!僕を『ゲロっぱき』って馬鹿にしてるのか?!クソッ!クソッ!」
血反吐を吐いて気絶したアニキを蹴り続ける少年。アニキを助けようと身を起こそうとして
自分が縛られている事を知り、そして、叫ぼうとして猿轡を噛まされている事に気付いた。
薄暗い藪の中で少年が気が狂ったようにアニキを蹴り続けている光景だけが目に映り、男は恐怖した。
その絶望している男の前に、先程の少女が小さな包みを携えて姿を現した。
「あなた…さっきの質問…覚えてる…?」
少女は先程と同じ、申し訳なさそうな口調で尋ねてきた。男はそれが恐ろしかった。
「フゥ~…フゥ~…」
「ねえ~~聞いてるんだから…返事くらいしたらどうなの…ねえ~~~~」
少女の口調が突然変わり、感情の窺えない目で男を覗き込む。
男は蹲り蹴られ続けるアニキの呻き声を遠くから聞こえる様に感じた。
少女が持った包みに手を入れ、内から布に包まれた針を取り出し地面に置く。
男の眼がそれに釘付けになる。
「話が変わるんだけど…あなた…『黒ヒゲ危機一髪』って…知ってる?
樽にオモチャのナイフを突き刺して…樽の中の人形が飛んだら負け…ってゲームなんだけど…」
「うごッ!フゴオォ~」
少女が何をしようとしているのかを薄々感づいた男が逃げ出そうと身を捩るが、固く縛られたロープは
その程度ではビクともしない。
男を冷ややかな眼で見ながら、それを見せつける様に少女はゆっくりと布から針を取り外し、男に近づける。
「あなたは…何本目で…『飛ぶ』のかしら…」
死刑を宣告する言葉を少女は紡ぎ、針を男の首筋にゆっくりと捻り込む。
「ウんんんんンーーーッ!ガアアアアアーーーーッ!」
「まだ一本目よ…情けない声を上げるんじゃあないわよ!」
二本目の針が突き刺さり、男の心は絶望感で溢れかえり声にならない叫びが辺りに木霊した。
男の眼がそれに釘付けになる。
「話が変わるんだけど…あなた…『黒ヒゲ危機一髪』って…知ってる?
樽にオモチャのナイフを突き刺して…樽の中の人形が飛んだら負け…ってゲームなんだけど…」
「うごッ!フゴオォ~」
少女が何をしようとしているのかを薄々感づいた男が逃げ出そうと身を捩るが、固く縛られたロープは
その程度ではビクともしない。
男を冷ややかな眼で見ながら、それを見せつける様に少女はゆっくりと布から針を取り外し、男に近づける。
「あなたは…何本目で…『飛ぶ』のかしら…」
死刑を宣告する言葉を少女は紡ぎ、針を男の首筋にゆっくりと捻り込む。
「ウんんんんンーーーッ!ガアアアアアーーーーッ!」
「まだ一本目よ…情けない声を上げるんじゃあないわよ!」
二本目の針が突き刺さり、男の心は絶望感で溢れかえり声にならない叫びが辺りに木霊した。