ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

影の中の使い魔-13

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ゴーレムの肩に乗ったフーケは少しばかり焦り始めていた。
宝物庫の壁が壊れない。確かに硬いと思っていたがここまでとは。
細かなヒビが入っているようだが、一向に崩れる気配が無い。
やはり強攻策に出るのはまずかったかもしれない。もうそろそろ音に気づいた教師や生徒が現れるころだろう。
だが、ここで退いては『破壊の杖』を諦めることになってしまう。

(『破壊の杖』を盗む、自分の命も守る。両方やらなくちゃならないのが「盗賊」のつらいとこね)
フーケが覚悟を決め、もう一発殴ろうとゴーレムを動かしかけた時、辺りが急に暗くなる。
上を見上げるとウィンドドラゴンが飛んでいるではないか。

(早いじゃないか!)
予想よりもずっと早い敵の出現。しかもドラゴンときたもんだ。どうもこの学院とは相性が悪いらしい。

「サバス!捕まえなさい!」
姿は見えないが、ウィンドドラゴンの背中に誰か乗っているのだろう。
その誰かが「サバス」に自分を捕まえるよう指令を送っている。
とっさに思いついたのは、このウィンドドラゴンが「サバス」だということ。
急降下してそのまま自分を捕らえる気か?身構えたそのとき、横から声が聞こえる。

「お前には選ぶべき道がある!」
ありえないことだった。ゴーレムの肩に自分以外で乗っている奴がいる。
声のした方を向く。
そこにいるのは、昼間に会ったばかりの謎の「変態」!
百戦錬磨のフーケの体が固まる。
変態が口を開けると、その中から一振りの剣が出てきた。その切っ先は真っ直ぐフーケに向かっている。

「いまさらだけどおでれーた。俺をこんな風に使う『使い手』は初めてだわ」
さっきとは違う軽い口調が変態から聞こえた。
攻撃するか、逃げるか。一瞬の迷いがフーケに生まれる。
それが命取りだった。
「つかんだ」

変態がいつの間にか目の前にいる。その両手はフーケの肩を力強く押さえ込んでいた。
この時点でやっと「逃げる」という選択肢を選んだのだが、時すでに遅し。
体がピクリとも動かない。
ジリジリと仮面のような顔が近づき、口が開かれる。
「そうだ相棒!スピードは出さず!ただしッ!『万力』のような力を込めてッ!」
口の中から剣がフーケに向かって伸びてくる。
剣が自分の顔にゆっくりと刺さっていくイメージが浮かぶ。それを振り払うように、フーケは腹の底から叫んだ。

「うわああああああああああああ!!ワーーナビーーーーーーーー!!」
叫びに応えるように、ゴーレムが暴れ始める。
「ふんばれ相ぼォォォォォォ!?」
「!!」
フーケが体を捻る(といってもほとんど動かなかったが……)。
変態の口から飛び出た剣が頬をかすめて飛んでいく。剣はそのまま地上へ落下していった。
「扱い酷くねェェェーーッ?」とか聞こえた気がするが…………気のせいだろう。
問題はこの目の前の変態だ。これだけゴーレムが暴れてるのに、少しも慌てる様子がない。と。

「フガッ!」
間抜けな悲鳴を上げながら変態は突如フーケの目の前で「爆発した」。
フーケは急に体が軽くなるのを感じ、素早く後ろへ飛び間合いを作る。
「ちょっと!ルイズ!自分の使い魔を攻撃してどうするのよ!」
「ちちょっと間違えただけよ!もう一発いくわ!」
さっきよりも派手な爆音が響く。フーケが音のした方を見ると、さっきまでゴーレムで殴っていた壁から煙が上がっている。

フーケは今度は一切の迷いなく、そこへ飛び込んだ。
そこからの行動はまさに一流の盗賊といえる素早さで、目的の『破壊の杖』を見つけ出し、犯行声明を壁に刻む。
外を見るとゴーレムが炎に包まれている。
どうやらウィンドドラゴンに乗ったメイジたちは、フーケが宝物庫にすでに侵入していることに気づいていないらしい。
フーケがニヤリと笑うと、ゴーレムが歩き出す。それを追いかけてウィンドドラゴンが宝物庫から離れていく。
いろいろ予想外の展開はあったが、最終的に勝てばよかろうなのだァァァァァッ!!
フーケはちょっとハイになりながら、宝物庫から飛び降りた。

ルイズたちはシルフィードに乗ったまま巨大ゴーレムの後をつけた。
その間にずっとキュルケの炎、タバサの氷柱、ルイズの爆発がゴーレムを攻撃する。
しかしそれら全てを受けてもなお、ゴーレムの進行は止まらない……。
と、急にゴーレムの足が止まる。
そしてそのまま崩れていき、後には大きな土の山だけが残った。
「…………フーケは?」
「いないわね…………」
「逃げられた」
呆然とする少女達を二つの月が見下ろしていた。


学院からちょうど馬で4時間。
フーケはあらかじめ見つけておいた小屋が見えてくると、やっと一息付いた。
追っ手が来ている気配は無い。
小屋の前に馬を繋ぐと、さっそく盗み出した『破壊の杖』を手に持ってみる。
杖というには変わった形状と、見たこともない金属。
とりあえず杖を両手でしっかり握ると、愛用の杖にするように振ってみる。
…………何も起きない。

もう一度振ってみるが、うんともすんとも言わない。
大爆発が起きるのではないかという不安と期待があったのだが、肩をすくめる。
次に関連のありそうな魔法をいくつか唱える。
唱えるたびにドキドキするが、どれも反応は無い。
フーーと深い溜息をすると『破壊の杖』を地面に置く。さすがは秘宝といわれるアイテム。そう簡単に動かないらしい。
だが、そう簡単に諦める訳にはいかない。

…そう言えば、こういうのに詳しそうなハゲが、困った時は叩いてみるのが秘訣とか言っていたのを思い出す。
試しにショックを与えるために叩いてみる。動かない。今度は踏みつけてみる。動かない。グリグリしてみる。動かない。
なじってみる。動かない。なじりながらグリグリ踏みつけてみる。動かないが、少しイイ気分になった。

だが結局『破壊の杖』に変化は見られなかった。
しかたなくフーケは『破壊の杖』を持って、小屋の中に入っていった。
さて、これからどうするか。使い方が分からないことには先に進まない。
これらのマジックアイテムに詳しい人間は誰だろうと考えて、真っ先に浮かんだのはトリステイン魔法学院のメイジたちだった。

もう一度現場に戻るのは危険だが、まだ誰もミス・ロングビルと『土くれ』のフーケを同一人物と知る者はいないだろう。
そこで何食わぬ顔で学院に戻り、フーケを見つけたと言ってこの小屋のことを教える。
オールド・オスマンの性格からして、王室には頼ることはまず無いと考えられる。すると学院内から捜索隊が組まれるはずだ。
口ばかりの教師陣からして、それ程多くは選ばれまい。2~3人程度だろう。
それぐらいの数なら、あのレベルのメイジが束になってもどうにかできる自信が、フーケにはあった。
トライアングルだなんだ言っても、実戦経験が彼らには無さすぎるのだ。
肝心のところで尻込みしてしまう。……さっきの自分自身のように。

(結局、あいつらはなんだったんだろうね)
あの不気味な姿を思い出して、すこしブルーな気分になる。
あのとき、謎の爆発が無ければ自分はどうなっていたことか。
先刻の戦いで何もできなかったことは、それなりにフーケのプライドを傷つけていた。
『破壊の杖』をしまう為に、チェストを開けながら回想を続ける。
冷静になって考えれば、あれはウィンドドラゴンの上に乗っていた誰かの使い魔なのだろう。
あの謎の爆発の魔法もそうなのだろうが……あんな魔法を使えるのは一体誰だ?
深く考えながらも『破壊の杖』をチェストに置く。そして、しまおうとしたその時……

カタ!
(追っ手か!)
音がしたほうに杖を向ける。
が、風によって窓が揺らされただけだと分かり、ホッと杖を下ろす。
今回の仕事は危険で奇妙な事が重なり、少し神経質になりすぎているのかもしれない。

(今夜は月が明るいねぇ)
窓から外を眺めるフーケを双月が優しく照らした。
ふと、フーケはある少女の事を思い出す。今頃元気にやっているだろうか。
月の中に彼女の笑顔が浮かぶ。
だが、雲によって月が隠れたことでその幻影も消えた。
……少し感傷的になっている自分に思わず苦笑する。
冷静にならなくては。本当の勝負は明日だ。今は疲れを少しでも取らなくてはならない。
とりあえず今は「追跡者」は存在しないんだから…………
しかし、それは大きな勘違いだった。


主の命令を聞き、愚直なまでに行動し続ける者がいた。
それは巨大なゴーレムに目もくれず、ただ盗賊の後を追い続けていた。
森の木々の影の中を、音も立てずに這いずり回る。
ブラック・サバスは小屋のすぐ側まで来ていた。目的はあの中にいる。
だが入るためには影が足りない。だから待つ。機会が来るまでひたすら待つ。
そのとき風が吹いた。小屋の窓がカタカタと鳴る。
一瞬、本当に一瞬月が雲に隠れる。
それだけで十分だった。ブラック・サバスはすでに小屋の側から、小屋の中へと侵入していた。
フーケの叫びが夜の森にこだまする。
深夜の第2ラウンドが始まった。


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