ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

仮面のルイズ-23

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匿名ユーザー

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朝早くシエスタは目を覚ます。
使用人として働いていた時の癖が抜けないのか、彼女は魔法学院の生徒で一番早起きだった。
掃除洗濯をして身支度をしよう…と思ったところで、ここが魔法学院の寮ではないことに気づく。

来客用に作られた木組みのベッドは、この近くで採れる蔓草を編んで作ったクッションが敷かれており、寝心地は悪くない。
使用人の部屋にあったベッドより、ずっと柔らかく弾力もあるこの素材をこれから採取しに行くのだ。

シエスタは部屋を出ると、すでに起きていた村長の奥さんに井戸の場所を聞き、顔を洗いに外へ出た。
洗面用の桶を準備すると言ってくれたが、貴族の『立場』に慣れないシエスタは、それを断った。
森の奥にある村だけあって、早朝の空気はとてもよく澄んでおり、シエスタの故郷タルブ村とは違った心地よさを感じていた。

しばらくしてギトーも目を覚ます、どうやらあのベッドは柔らかすぎず、堅すぎず、寝心地は良いと感じたらしい。
朝食の席で村長から話を聞くと、あのベッドは珍しい蔓草の繊維を使っているらしい。
蔓草の中には綿のような繊維が入っており、それを使うとよいクッションが作れるのだとか。
ただ、現在では危険な場所に生えている蔓草を使わなくとも、別の素材が沢山あるために、使われなくなっているのだとか。

二人は朝食を済ませ、応接室で案内役を待っていた。

「あの、ミスタ・ギトー先生」
「ミス・シエスタ、昨日から気になっていたが、ミスタと先生を重ねるのはよくない、どちらか片方にしたまえ」
「は、はい。あの…ギトー先生」

まだ先生と呼ぶには抵抗があるのか、シエスタは無意識のうちに身体を縮めていた。
そのため隣に座るギトーを上目遣いで見る形となる。



正直ぐっと来ました。by疾風のギトー

「あの、先生?」
「なんだね」
わざとらしく咳払いをして、胸を張り、姿勢を正すギトー。
貴族の小生意気なガキと違って、シエスタは自分を慕ってくれる。
ギトーはシエスタに威厳を見せようとしたが、胸を張ると言うよりふんぞり返っていた。
「私はオールド・オスマンから『特異な魔法だ』って言われてます。治癒や、生命力を高めることは出来ても、空を飛ぶことは出来ないんです」
「…ふむ、何度か試したのかい」
「『フライ』や『レビテーション』も、どうしても駄目でした。こんな私でも、いつか自分で空を飛べるでしょうか…」

シエスタには、空への憧れがあった。
曾祖父は『竜の羽衣』というマジックアイテムの一種を使い、東方からやってきたと言われている。
実家から持ってきた曾祖父の日記にも、それに関することが書かれていた。
タバサの使い魔であるシルフィードに乗せて貰ったことはある、だが、空への憧れはやまない。
メイジにとっては簡単なことだが、シエスタにとって『空を飛ぶ』のは一種の憧れになっていた。

「元平民の君が、そんな簡単に魔法を扱えるとは思えんな」
「…そ、そうですね……申し訳ありませんでした…」
「だが、マジックアイテムを使ってでも、空を飛べるならそれで良かろう。オールド・オスマンは君に戦う術を教えたいようだが、君は癒し手だ、無理に不得手な分野に手を出すことはない」

「…先生…ありがとう、ございます」
シエスタの微笑みを見て、ギトーは思った。

(ああ…生徒に慕われる教師って、いいなあ…)

しばらく待たされていると、ドアがノックされた。
ギトーが入室を許可すると、村長と、村長に連れられた男が応接室に入ってきた。
「彼が案内役を務めます、アレキサンドルです」
村長は連れてきた男を紹介した。
「アレキサンドルです、どうぞ、よろしく…」
男は年の頃二十代前半ほど、手足には革製の手っ甲や、すね当てが着けられており、首にも布を巻いていた。
「これから森の奥まで案内させて貰いますが、蛇などの危険があるので、革製のすね当てを着けて頂きたいんですが…」
「蛇か、蛇ぐらい風の系統があれば接近してもすぐ分かる」
「はは…」

シエスタは、ギトーを頼もしいと思う反面、ちょっと困った人だなあと思った。

すね当てを着け、三人は村長宅を出て、森の中へと入っていった。
ギトーはブツブツと、オークが出ても風なら倒せるとか、そのような事を呟いていた。
ワイバーンやマンティコア等の名前が出てこない辺り、自分の実力はしっかり理解しているらしい。
アレキサンドルの案内で森の中を歩く、歩く、ひたすら歩く。


昼が近くなった所で目的の場所に到着した。
森の中に突然出現した巨石は、30メイル以上の高さがあり、幅もかなりある。
高低差のせいか村からは見ることも出来ないが、巨石と呼ぶよりは岩山といえる大きさだった。
空を飛べるメイジなら発見も容易だと思われがちだが、この場所は霧も出やすく、木々に囲まれているせいで空からの発見も難しいのだとか。

「この岩山の上ですか?」
シエスタが質問した。
見上げると岩山の上にも木々が生えているのがわかり、その光景の神秘さにため息をつく。
「へえ、この上なんですが…今年は蔓草の伸びが悪くて、どうやら上れそうな蔓は生えていないようで」
「あの、登り口は無いんですか?」
「いやあ、この岩山は見たとおり巨大な岩でして、表面には掴むところも足場も無いんですよ」

「はぁ、はぁ、ふぅ、な、ならば、私の出番だな、レビテー、ションで、君たちを、浮かせて、ふう、あげよう」
「…ギトー先生、大丈夫ですか?」
息切れしすぎて、シエスタも心配する程顔色の悪いギトー、半日もデコボコした獣道を歩かされ、足がガクガクらしい。
「大丈夫、だいじょうぶ、これぐらい『レビテーション』が使えればどうという事はない」
そう言うとギトーは、レビテーションで自身を浮かせ、ゆっくりと上昇した。
岩山の上に到達すると、そこにある光景に驚かされ、息を呑む。

「これは…確かに来た甲斐はあるな」
岩山は中央がくぼんでおり、そこに雨水が溜まり、小さな池を作っていた。
岩山の向こう側までは40メイル程。
池の周囲の木々に生えるコケ類、腐った樹から生えるキノコ類が、魔法薬の材料として価値があることぐらい、ギトーにも理解できた。

「おっと、見とれている場合ではないな…」

ギトーは下で待機している二人を呼ぼうとして、後ろを振り向いた。
植物の種類によっては、ある程度の数を残しておかなければならない。
乱獲して絶滅の危機に瀕した植物もあるらしいので、一日に採取できる量はその土地の案内役に聞くのが、暗黙の了解となっている。
もちろん、それを破って乱獲する者達もいるが、ギトーのプライドはそれを快く思っては居ない。

「君たち!これから『レビテーション』で上に…あれっ?」
ギトーが見下ろした先に、二人はいなかった。
「…おーい、シエスタ君ー? えーと…案内役の…あ、アレキサンドルくーん?」
這い蹲って、岩山の下に声をかけるギトーの姿は、後ろから見たらけっこう間抜けだ。

「おかしいな…何処に行ってしまったんだ?」
そう言って立ち上がろうとしたが、立ち上がれない。
「!?」
いつの間にか、両手両足に周囲の草や木々の枝が絡まり、ギトーの身体の自由を奪っていた。
「くっ、何だこれは!エア・カッ…」
慌ててエアカッターを唱え、枝を断ち切ろうとしたギトーだが、呪文を詠唱しようとした瞬間、木の枝は口の中にまで侵入し、詠唱を防がれてしまう。
「…! んぐ…」

「おじさん、取引しない?」

身体を動かしてなんとか抜け出そうとするギトーに、背後から声をかける人物がいた。
いや、人間ではないのかも知れない。
「わたしね、友達が欲しいの、アレキサンドルさんはあんまり役に立たないから、もっと頼もしい友達が欲しいの」

何者かは分からなかったが、ギトーには一つだけ言えることがあった。
「ほへはわらおりらんらああい!」
(俺はまだおじさんじゃない!)

「何を言ってるのか分かんない… ま、いっか、シエスタって貴方の生徒さんなんでしょ? 教え子の血は、きっと美味しいと思うよ」

いつの間にか、岩山の上には霧が立ちこめていた。
まるで、太陽の光を遮るように…




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