ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

姫殿下の000(ダブルオーゼロ)

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姫殿下の000(ダブルオーゼロ) 

食堂での出来事から数日後の夜。ミスタはルイズの部屋の隅に座り込み
銃の整備をしていた。
ルイズも無言でベッドに腰掛けている。
決闘…もとい『トリステイン魔法学校の食堂での事故』の後、
自室での謹慎を言い渡されたのだ。
ミスタが幸運だったのは、ギーシュが死ななかったことだ。
脳には銃弾が当たっていなかったとはいえ、動脈にも傷がついており
一分も立たないうちに失血死するところだったが、
すぐに水の魔法をかけたモンモランシーと、駆けつけてきた教師陣の
処置によって一命を取り留めたのだ。意識はないままだが。
周囲にいたの人間の証言から、ルイズの使い魔とギーシュが決闘した
ということが明らかになったが、メイジが平民に決闘を挑み敗北したという
ことを公表して事を荒げたくない学院側は、これを
『使い魔が一時的に暴走したために起きた偶発的なもの』としたのだ。

はじめは抗議しようとしたグラモン家だが、ギーシュが二股がばれたのを
誤魔化すために平民に手をあげ、それを止めたルイズの使い魔に逆上、
決闘を挑んだ挙句に返り討ち、ということを学院の教師から聞かされて
処分を学院側に一任することに納得したのだ。
もちろん学院側はミスタたちを不問にするつもりはない。もしギーシュが
死んでいたらすぐさま処刑台に送っていただろうが、命に別状がなかった以上
なるべく秘密裏に処理しよう、と考えたのだ。
また、王宮からアンリエッタ姫が、使い魔の品評会を観覧するために
直々に来る予定だった事もある。
事態は王宮側にも伝わっていたが、平民一人ごときが何か危害を加える
ことができるはずもない、として予定を履行するとしたのだ。
数日の間教師陣の間で処分についての議論が交わされていたが、
ルイズは当分謹慎処分、その使い魔については
数人の教師を除いて、死罪はないとしても、牢獄に送るという意見が
大半を占めていた・・・

「私たち、どうなるのかしら…」
沈黙を破ってルイズが口を開く。
「オレに聞いても分かるわけねーだろ」
ミスタが拳銃に視線を落としたまま投げやりに言う。
「なによ!あんたがあんなことするからいけないんでしょ!ギーシュが
生きてたからよかったけど、もし死んでたら私は退学、アンタは死刑に
なってたかもしれないのよ!」
「だったらあの場でお偉い貴族のお坊ちゃまのいいなりになれば
よかったってか?お断りだぜ。第一、その気になりゃあ魔法使いさん
たちもブチ殺せることが分かった。よーは呪文を詠唱させなきゃいい」
黒光りするリボルバーを腰にしまいつつミスタは剣呑に言う。
「でも、たぶんアンタにもまだ厳罰があるはずよ、貴族を傷つけたん
だから!牢獄に送られるかもしれない!そうしたら、私の家名にも
傷がつくわ!ああ、姫殿下がもういらっしゃってるっていうのに、
なんで部屋に閉じ込めらんなきゃいけないのよ!」
喚くルイズを無視するミスタ。
(もし王宮とかのヤツらがオレを捕らえにきたらどうするか、だな。
むざむざ捕らえられるつもりはねーが、銃弾があまりねーのが問題だ。
まあオレはただの『平民』っつーことになってるからそう大勢で
押しかけてくることはねーだろーが、始めのヤツラを殺したとして
逃げ切れるだろーか?まあ無理だろーな。となると、国外にでるのが
妥当だが、地理がわからねー。情報を集めなけりゃあ動けねえな…)

ミスタがこれからの行動を決めあぐねていると、廊下に足音が聞こえる。
拳銃にこめられた弾丸を確認し、ゆっくりと立ち上がる。
「な、なに?どうしたのよ」
「『足音』が聞こえる…どうやらひとりだけのよーだが、
オレをしょっぴきに来たのかもしれねー…」
ドアの真横に寄り、拳銃の撃鉄を起こす。
「ちょ、ちょっと!荒っぽいマネは許さないわよ!」
そのとき、ドアがノックされる。長く2回、短く3回。
その音にハッとしたルイズはいそいで寝巻きの上にブラウスを着るが
その間にミスタがドアを開ける。
真っ黒な頭巾を目深にかぶった人物が入ってきた瞬間に
ミスタは銃を突きつける。
「きゃッ…!」
「何の用だ?テメーは何モンだ?2秒だけ待ってやる。」
だが黒頭巾はルーンを呟き、光の粉が部屋に舞う。

「殺されてーようだな」
銃の引き金に指をかけるミスタと黒頭巾の間にルイズが割ってはいる。
「やめなさいミスタ!そのお方は姫殿下よ!」
黒頭巾がゆっくりとフードをはずす。16から18ぐらいの女だった。
「姫・・・?」
ミスタが一歩下がる。もっとも銃はいつでも発射できる位置にいるが。
「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ。そして、あなたが
ルイズの使い魔さんね?私はアンリエッタ。トリステイン王国の王女です」
「…まだ質問に答えてねーようだが、何をしにきた?なぜオレの
素性を知ってる。それと今の魔法は何だ?」
再び拳銃を構えて詰問するミスタにルイズが叫ぶ。
「やめなさい!姫殿下に無礼よ!」
「いいのです。ご質問にお答えしましょう。今の魔法はディティクト
マジック。文字通り魔法を探知する呪文です。どこに目が光っているか
わかりませんから」

「ミスタ!いい加減にその銃をおろしなさい!無礼にもほどがあるわ!」
ミスタはその言葉に一応銃を下ろすが、銃口がどこを向こうと、ピストルズ
をもつミスタには関係ない。いつでも打てる体勢だ。
「それはご無礼をいたしましたね、姫殿下さんよぉー。それでもって
そのお偉い姫殿下さんが、この部屋に何の御用だ?」
微笑むアンリエッタ。
「一つ目の目的は、旧友に再開することですね」
アンリエッタはルイズに歩み寄り、感極まった表情でルイズを抱きしめた。
「ああ、ルイズ! 懐かしいルイズ!」
「姫殿下、いけません。こんな下賎な場所へお越しになられるなんて……」
「そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい。あなたとわたくしはお友達じゃ
ないの!」
突然展開された友情劇に少し面食らうミスタ。ルイズが貴族だとは知ってい
たが、王女と友人だとは思っても見なかったからだ。
「尊い友情を育みあっているところをなんだが…ワザワザそのために
来たっつーのか?護衛もつけずに?とんだお姫様だぜ」
ぶっきらぼうな口調で二人の世界に割り込むミスタ。
「ミスタ!いい加減にその無礼な口調を止めなさい!…申し訳ございません
姫殿下!この使い魔はしつけがまだ…」

「いいのです。それよりルイズ、あなたこそそんな他人行儀な口調は
やめてちょうだい。昔のように接してくれればいいのよ」
「そんな、畏れ多いこと…昔は幼少ゆえに姫殿下に無礼な振る舞いをして
もうしわけありません」
ふたたびミスタが割り込む。
「さっきからよー、会話が進んでねーみてーなんだが…まさか本当に
ダチに会うためだけにお忍びでここに来たのか?」
「そうでした、もう一つの目的を話さなければ。
…ルイズ、あなた、この使い魔さんのおかげでずいぶんと大変なことに
なっているそうね?」
ルイズに微笑みかけるアンリエッタ。
「姫殿下もご存知でしたか…申し訳ありません。この使い魔がご迷惑を…」
「いいのよルイズ。それに話は聞いたわ。横暴なメイジを銃で止めた
のでしょう?それ自体は勇敢な行動よ。でもちょっと荒っぽすぎたかしら」
寛大に微笑むアンリエッタ。
「結局何をしにきたんだよ?要点をまとめて話せ」
イライラとしたミスタに、アンリエッタは真顔になる。
「学院の教師たちは貴方を牢獄に入れるつもりでしょうし、ルイズにも
厳罰を下そうとしているものもいると聞きます。王宮のものも学院に
一任するとしています。ですが、倫理的に見て、貴方たちのほうが正しい
のに、貴方たちに罰が下されるという事には我慢なりません。そこで…」

ミスタにしっかりと向き直って言う。
「私直属の機関にスカウトしにきました。聞けば、あなたは銃の達人で
メイジ相手に1発だけで勝ったといいます。
その腕でルイズと王宮のために働きませんか?報酬は出しましょう。
それに、私直属ともなれば、学院側も手出しはできません。どう?
悪いお話ではないとは思いますが?ルイズはどう思う?」
しばらく面食らっていたルイズだが、立ち直って言う。
「わ、私は姫殿下のお考えとあらば、反対すべくもございません!
いいわよね?ミスタ」
だが、ミスタはゆっくりと拳銃をアンリエッタに向ける。
「な、なにやってんのよミスタ!」
ルイズを無視して冷静にアンリエッタを見るミスタ。
「もし・・・オレがたとえば、アンタを人質にとったり・・・
最悪、即殺してたらどーするつもりだったんだ?
とても国のトップに近い人間のやることたー思えねえが」
「王女としてあるまじき行いだったとは思っています。でも、
この件は私とルイズだけの秘密としておきたかったのです。
王宮内には女王候補の私を快く思わない者もいます。その者たちの情報網
にかからない、信頼できる味方が欲しかったのです。それに…」

ちらりとルイズのほうを見る。
「私はルイズを全てにおいて信頼しています。そのルイズの使い魔だという
のだから、信頼できないわけがありませんわ」
微笑むアンリエッタに、ミスタは拳銃を下ろす。
「その信頼するダチの使い魔に、汚れ仕事をさせる覚悟はあんのか?」
「その点なら心配は要りません。貴方がしくじっても、使い魔とルイズの
関連性を消すのなんて、わけありません」
そんなアンリエッタを睨み付けるミスタと、微笑しているアンリエッタ。
「オレを捨て駒にしようってか・・・いい根性してやがるぜ・・・」
しばらく二人の視線が交錯する。
「いいだろう。テメーに『覚悟』があるのがわかった。
お姫様直属の部隊とやらに所属してやるぜ・・・報酬ははずめよ!」
「ちょっと!いい加減にしなさいミスタ!姫殿下直属の部隊なんていう
光栄よ!口のきき方にも気をつけたらどうなの!?」
「まーたしかに、雇い主には敬意を払うべきか?
…姫殿下、卑しきブタの身分の我が身にあまる采配、まっこと至極
光栄にあがめ奉り候・・・これでいーだろ、ウケケ」
「ふざけてんじゃないわよ!」
アンリエッタはそんなふたりをみて微笑みつつ、懐からなにか書類を出す。
「これが委任状です。名目は、王宮のための情報収集となっています。
もちろんこのためにつくった部隊ですので、隊員は貴方だけですけどね。」

もう一枚の紙を出す。
「これは、私の名で書かれた書状です。もし・・・『仕事』中に不都合が
あったら、これを使ってください。警吏たちも協力はしてくれるでしょう
でも、『平民』ということであまりいい顔はされないでしょうけど」
「その『仕事』についてなんだが・・・具体的になにをすればいいんだ?」
「毎回、王宮からの『使い』を出しましょう。あなたの素性は隠して
おきますので。それから、今から言うことを覚えてください。」
いったん息を継ぎ、ゆっくりと話し出す。
「あくまでも情報収集『だけ』です。名目上は。
人物の場合、殺さずに拿捕してください。ただし、星がついている
場合は生死を問わず、星が二つなら・・・処刑の許可です」
冷静な表情で言うアンリエッタ。
「おやおや、ズイブン冷徹な王女様だぜ・・・ぜってー氷の女王様の資質
あるぜ」
しかし、アンリエッタの表情が曇る。
「私だって、本当はこんなことしたくはありません。でも、
宮廷内にはびこる古く排他的な考え方は国民に害をなすでしょう。
それだけはさけなくてはなりません。なかでも、今は隣国との関係も
難しい時期・・・国内の敵には目を光らせなければならないの。
ルイズ、あなたならわかってくれるわよね?」

「お察しいたします。宮廷内ではお心のやすまるお暇もないでしょう。
ですが、私めは姫様の僕!いつ何時も姫様の味方でございます!」
「ああ、ルイズ!」
芝居がかった仕草で感動の抱擁を交わす二人に正直ゲンナリしたミスタ
だったが、さすがに空気を読んだのか、アンリエッタがルイズを離す
まで口を開かなかった。
しばらくして二人が離れる。
「そっちでのオレの呼び名はどうするんだ?まさか本名は無理だろ」
「そうですね、なにか番号が適当でしょう」
目の辺りを拭っていたアンリエッタが言う。
「そうね、伝説の虚無の魔法にあやかって、『ゼロ』というのはどう?」
「いいかもしれねーな。だが、数は多く見せかけたほうがいい。
三桁にするべきだな。そうすると…『000』号か」
「では異論が無いならそうしましょう…では、またあえる日を、
ルイズ・フランソワーズ」
『ゼロ』という言葉に複雑な表情をしているルイズを残し
アンリエッタは静かに去っていった。


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