ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

仮面のルイズ-21

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匿名ユーザー

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「ブゴオオオオオオオオオオオオ!」

馬と人間には、圧倒的な差がある。
吸血鬼となったルイズの腕力は、馬よりも遙かに強い。

しかし、ゲートを潜って現れた馬は、吸血馬だった。

ルイズは油断していた。
あくまでも普通の『馬』を基準にして考えていたのだ。
吸血馬は、ルイズが化け物のような腕力を手に入れたのと同じように、途方もない脚力を持っていた。
馬と呼ぶには巨大な、吸血馬が、ルイズへと突撃した。

「ひっ」
ルイズは”怖い”という感情を思い出す。
吸血鬼になってから久しく感じていない恐ろしさが、ルイズの身体を硬直させた。

がぼっ、という音と共に、ルイズの脇腹がえぐり取られた。
凄まじい勢いで脇腹を踏みつけられたのだ。

「!?」
そのまま首に噛みつかれ、ごきごきと音を立ててルイズの首が砕かれていく。

ブルルルルッ!
  ウシューッ

「あぐ ごぼ げお…お…」
ルイズの喉から空気が漏れ、何かを喋ろうとしても声が出ない。
『嬢ちゃん!しっかりしろ!おい!』

首の半分と、脇腹を失ったルイズにデルフが叱咤が届く。
「ごぼぇう、おお、うぐ」
声にならない声を上げながら、ルイズは必死でデルフリンガーを動かした。
だが、吸血馬がルイズの身体を蹂躙し、内臓を食おうとするに至っていた。
ルイズの身体は自由に動かず、デルフリンガーを突きさそうにも、上手くいかない。

首から下の感覚が喪失し、身体を動かせなくなったルイズは、なすすべもなく吸血馬に食われていた。
ふしゅるる、ふしゅるると、吸血馬は鼻息を立てながらルイズの身体を噛み砕いていく。
このままでは、死ぬ…
ルイズの胸は、肋骨は、みるみるうちに千切られて、咀嚼されていた。
吸血馬の口が大きく開かれ、ルイズの頭が食われそうになったとき、ルイズの髪の毛がビクン!と跳ね上がった。
ビシ、ビシ、ビシ、ビシ、ビシ、と、音を立てて髪の毛が硬質化し、先端が尖っていく。
「WRYYYYYYYYYYYYY!」
出ないはずの声、と言うよりは、音を叫ぶ。

そして自分をむさぼろうとする吸血馬の口を髪の毛がこじあけ、無理矢理その中へと入っていった。
『何やッてんだ!?自殺か!?』

吸血馬は、首の亡くなったルイズの身体をむさぼる。
ぐちゃぐちゃと血の滴る音を立てて、ルイズの身体のほとんどが食われてしまった。

満足そうにゲップを鳴らすと、馬はとことことデルフリンガーの元にやってくる。
『おいおいおいおい、俺は美味くねーぞ!』
抗議の声を上げるデルフを無視して、吸血馬はデルフリンガーを口でくわえた。

『やめろーーーー!……あれ?…もしかして、嬢ちゃん…?』

デルフリンガーの呆れたような声に、吸血馬が答えた。

「あら、わかる?」

めきめきめきと音を立てて、吸血馬の背中が開いていく。
中から現れたのは、血に染まったルイズだった。
『どうなってんだこりゃあ…』
「髪の毛を触手にして、直接脳をかき回したのよ、隙間に私の肉の一部を詰めておいたから、この子は今私に”母親にすがるような気持ち”を持っているはずよ」
『……さっきおめーを人間だって言ったけど、前言撤回していい?』
「だ・め・よ」

吸血馬の体組織を使って身体を再生させたルイズは、従順になった吸血馬を引き連れて隠し港から城内へと移動した。
血みどろになった服を脱ぎ捨て、誰もいない厨房から適当に下着を見繕った。
丁度良い具合に、爆発で吹き飛んだローブとよく似たものを見つけ、それを着る。
自分の身体に合わせて紐の長さを調節した所で、外から爆音が響いた。

遅れて聞こえてくる蹄の音、そして大勢の人間の声。

最後の決戦が、いよいよ始まるのだ。

ルイズはデルフリンガーを背負うと、急いで吸血馬に飛び乗り、正門前へと駆けた。



「殿下ァーーーーッ!」
ルイズの叫びが城内にこだまする。

瞬く間に正門前へと駆けたルイズは、突撃準備を済ませたウェールズ達を見つけた。
パリーがルイズの馬を見て質問する。
「石仮面殿、その馬は?」
「私の使い魔よ」
「使い魔…石仮面殿は、やはり名のある方でしたか」
老メイジの呟きは、みなの思いを代弁したものでもあった。

「いいえ、ちょっと違うわね、これから名をあげるのよ」
そう言ってルイズはウェールズに向き直る。
「殿下!手紙は持っていらして?」
「ああ、ここにある」
懐を指さすウェールズの笑顔は、これから死ぬとは思えないほど清々しい。

「足下にあるのは火の秘薬?おおかた城内に敵を引き込んで、手紙もろとも自爆するつもりなんでしょうけど、それは許さないわ」
「では、この手紙を君に託そう!」
「それも駄目よ、それは、貴方がアンリエッタに渡してこそ価値があるの」
「何を言うんだ!私が生きていたら、貴族派はアンリエッタに矛先を向ける、それを…」
「あんたが死んだら、貴族派はあんたを捕虜にしたと嘘をついてでもアンリエッタを騙すわよ!」
「……」

皆がそこで押し黙る、確かに、貴族派ならそれぐらいの卑怯な手段は使うだろう。
その上、アンリエッタからの手紙の内容は、王女としての手紙ではなく、恋する女としての手紙だった。
ウェールズはそれを知っているからこそ、統治者としてはまだ幼いアンリエッタを気にして、死の覚悟が揺らぐのだ。

「私がウェールズ殿下を港にお連れするわ、誰か、甲冑を二つ、急いで準備して!」
「相手は五万だぞ!どうやってこれを切り抜けるのだ!」
「力づくよ!」
「………!」

絶句するウェールズ。
ルイズの能力を知っているウェールズは、もしかしたら、生き延びる可能性があるのではないかと思えてしまう。

そこに、老メイジ・パリーが割り込んだ。
「石仮面殿」
「…何?」
「もはや殿下ではありませぬ、戴冠式は済ませておりませぬが、ここにおわすはウェールズ・テューダー陛下でございます」
「……そうだったわね、失礼、ウェールズ・テューダー陛下」
「では、陛下をお願い致します、石仮面殿もご無事で…」
話が勝手に進められていく。
死ぬつもりだったウェールズは、パリーの言葉を聞いて驚き戸惑った。
私はここで戦う、そう叫ぼうとした時、兵士達が皆で敬礼をしたのだ。

「おまえたち…!」
「陛下、貴方はわたしに言ったわね、生き残った者の行為こそが、死した者の器を決めると、貴方には王族としての死ではなく、散っていった者達を語り継ぐ責務があるのよ!」
「くっ………」

両手を握りしめ、ウェールズはうつむいた。
無念か、それとも感謝か、どちらか分からないが、ウェールズは泣いていた。

「甲冑をお持ちしました!」
一人の兵士が、ルイズの頼んだ甲冑を持ってきた。
「それを陛下に着せなさい、私はマスクだけを使うわ」

訓練された兵士達は、ウェールズの身体に甲冑を装着していく。
ルイズは甲冑の兜を手に取ると、それを引き裂き、マスクの部分を手でゆがめ、顔に装着した。
ウェールズを吸血馬の後ろに乗せると、戦艦『レキシントン』から発射された砲弾が城壁の一角を破壊する。

「陛下、振り落とされても文句は聞きません、この子は気が立つと私でも止められないから」
「わかった…皆、すまん」

ウェールズが兵士達を見ると、皆が敬礼をした。
ルイズは、ウェールズが敬礼に答えたのを確認すると、手綱ではなく吸血馬のたてがみを掴んで、一言、命令した。
「飛べ!」

身体を弓のように撓らせた吸血馬は、馬と言うよりはドラゴンに近い雄叫びを上げて、城壁を飛び越えた。

その姿を見て、老メイジ・パリーは、ある人物のことを思い出していた。
鉄のマスクで口元を隠し、鋼鉄のような規律を旨とする、トリスティンで最強と詠われた女性のことを。

「烈風カリン殿……いや、まさか、しかしよく似ていらっしゃる」

彼は満足そうに微笑み、そして戦地へと向かい、散っていった。



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