ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの来訪者-20

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匿名ユーザー

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「ルイズ、起きてる?」
「ん……ふにゃ……」
育郎はルイズが寝ている事を確認すると、音を立てないように気をつけながら部屋を出て、今日キュルケの友人のタバサに渡された手紙に書いてある通り、ヴェストリ広場に向かった。
「相棒!俺!俺忘れてる!」
その前にもう一度部屋に戻った。

「またなのか…」
「相棒も忙しいね」
先日、同じように呼び出され、何人かの生徒に戦いを挑まれた事を思い出す。
まさかあの小さな少女、タバサが自分と戦おうとするとは思えないが、誰かに頼まれて自分を呼び出したのかもしれない。どちらにしろ戦いを好まぬ育郎にとって、心の重くなる話である。

育郎が広場に着くと、そこに居たのはタバサ一人だった。
周りからも敵意のにおいはしない。
安堵するが、しかし疑問も湧き上がってくる、何故彼女は自分を呼び出したのだろう?

バババババッ!

そんなことを考えていると、タバサが奇怪な踊り?を始めた。


「…僕に何か」
「天地より万物に至るまで、気をまちて以って生ぜざる者無き也」
「え?」
踊りながらボソボソと何かをつぶやき、少しずつ近づいてくる。
「邪怪禁呪、悪業を成す精魅…」
すぐ目の前まで来てその動きが止まる。
見ればこちらに向けられた指先に、何かが書かれた紙を挟んでいる。
「………しゃがんで」
「は?」
「しゃがんで」
「わ、わかった…」
言われたとおり育郎がしゃがむと、タバサが手に持った紙を育郎の額に貼り付ける。
そのままでは届かなかったようだ。
そしてタバサは、やはり何か不思議な踊りをしながら、再び何かをつぶやく。
「天地万物の正義をもちて微塵とせむ………!!」
カッ目を見開き、ポーズを決めて彼女は叫んだ。
「禁!!」


「………えっと」
育郎が額にはられた紙をはがし、何が書かれているか確かめる。

『悪霊退散』

タバサを見ると、先程のポーズのまま固まっている。
と思えば、自分の服の中に手をいれ、なにかモソモソと探りだした。
しばらくして、さっきと同じような紙、いや、多分お札なのだろう、それを何枚か取り出してから、その一枚を育郎の額に貼り付ける。
剥がしてみると、今度は『邪気消滅』と書かれていた。
その後『超力招来』や『安産祈願』等様々なお札を次々と貼っていき、程なくしてタバサの手の中には何も無くなってしまった。
「その…君…」
育郎が心底困惑した表情でタバサに話しかける。
「…効かない」
「え?」
「…どうして?」
「どうしてと言われても…」
なんとなくタバサが、自分のことを悪魔や妖怪の類とみなしていることに気付くが、だからといって、どう説明すれば誤解を解けるものやら。
そう考えている最中、タバサは次の行動に出た。
「……ッ!」
突如後ろに飛び、杖を抜こうとする、だが育郎はその動きに追いつき、杖を奪い取る。


なんという事だろう…
自分が必死で練習した悪魔祓いがまったく通じないなんて!
(注・このタバサは寝てません)
あろう事か杖まで奪われてしまった。
「その、僕は決して…君、聞いてる?」
このまま自分はこの悪魔に魂を抜き取られてしまうのだろうか?
(注・もう一度言いますがこのタバサは寝てません)
いや、仇も討てないまま、こんな場所で朽ち果てるわけには行かない!
どんなことをしても生き残るのだ!母の為に!
「………きゅう」
  秘 技 ・ 死 ん だ フ リ !!
(注・しつこいようですがこのタバサは寝てません)
「ちょっと、君大丈夫かい!?」
必死になって悪魔が自分を揺さぶっている。
どうやらうまくいった様だ。死んでしまえば魂をとろうとはしまい…
(注・重ねて言いますがこのタバサは寝てないせいでちょっとおかしいです)

「きゅいきゅい!そこの悪魔!お、お姉さまをはなすのね!」
しまった、自分の使い魔が!上空で待機しておくように言ったのに…
「こ、恐くなんか無いんだから!きゅいきゅい!」
「な!?この竜はいったい!?」
薄目を開けて、様子を確認しようとするタバサ。しかし

    ウォォォォォォォオム!バルバルバルバル!!

「きゅい!やっぱり恐い!食べないでぇ!!」
なんという迫力か!間近でバオーの変身を見てしまったタバサは、
「………きゅう」
今度こそ本気で気を失ってしまった。

バル!?(訳・君、大丈夫か!?)
きゅいきゅい!?(訳・お姉さまが!お姉さまの魂がぬかれちゃった!?)
バルバル!?(訳・こ、この竜が何かしたのか!?)
きゅいきゅい!(訳・こっち見てるのね!今度はわたしの番なの!?)
きゅいきゅいバルバルきゅいバルウオオオムきゅいきゅい
「あーなんだ…とりあえず相棒もそこの竜も落ち着け」
      きゅい?        バル?



「シャルロット!」
「おとーさま!」
幼いころのタバサが、屋敷に帰ってきた愛する父親に抱きつく。
「暫く帰らなくてすまなかった、寂しかったかい?」
「だいじょうぶ、おかーさまがいるもん」
「そうかい、タバサは良い子だね」
そう言ってタバサの頭をなでる。
この温かく、大きな手になでられるのがタバサは大好きだった。
「前にあったときはまだ赤子だったが、これは愛らしく成長したものだ!
 いや、こんな娘を持ててお前は幸せだな!」
タバサが父の隣に佇む人物に気付く。
「おとーさま、この方は?」
「この人は私の兄さんだよ」
「おとーさまのおにーさま?えっと…おじうえさま?」
「そうだよシャルロット嬢。いやはや、愛らしいだけでなく頭も良いようだな。
 まったくもって羨ましい!」
「そんな、兄さんの娘のイザベラだって良い子じゃないか」
「おお、そうだイザベラだ!シャルル、すまんがイザベラを呼んで来てくれんか?
 二人を合わせるために来たようなものだからな!」
「わかったよ、兄さん」
父が部屋を出て行くのを確認した後、タバサの叔父が笑顔で口を開く。
「そうだ我が姪よ!おもしろい話を聞きたくないかね?」
「うん!聞きたい!」
無邪気に答えるタバサ。
「そうか!聞きたいか!うむ、それでは………」

「兄さん、イザベラを連れて…どうしたんだいシャルロット?」
タバサが部屋の隅で震えている。
「はっはっはっ!我が姪にはちょっと刺激が強すぎたかな?」
「兄さん?」
「話をせがむので恐い話を少々な。しかしこんなに恐がってくれる相手も久しぶりだ!」
「兄さんも好きだね」
大人二人が話しているのを尻目に、父が連れてきた女の子がタバサに近づく
「アナタだれ?」
「わたしイザベラ、アナタとはイトコなんだって。
 こわかったでしょ?おとーさまったらわたしにもしょっちゅうあんな話するの
 ほら、もうだいじょうぶよ」
「ホント?イザベラおねーさま」
「お、おねーさま…?」
「………命からがら逃げ出した男が、やっと人影を見つける。
 『おや、どうかしましたか?』『恐ろしい怪物があそこに!』
 『その怪物というのは、こんな顔をしてませんでしたか』そう言った男の顔は…」
「やぁ!おねーさま!」
「おねーさま…(ゾクゾク)」


まどろみの中で声が聞こえてくる、どうやら夢を見ていたらしい…
どんな夢かは忘れてしまったが、なんとなく不快な夢だったような気がする。
「わかってくれたかい?」
「きゅい!つまり貴方は悪い悪魔じゃないのね?」
「いや、だから悪魔じゃねーって」
「わかってるの!悪魔がとりついてるのね!でも人間の意識が消えてないの!
 きゅいきゅい!カッコイイ!!」
「だからそうじゃねーって」
「ん?君、目が覚めたのかい?」
あの使い魔が、自分が目を覚ましたことに気付く。
とっさに辺りを見回し、自分の杖を探す。
「オメーの杖ならここだぜ」
声のほうを向くと、使い魔の足元に杖が転がっているのが見えた。
「きゅい!大丈夫なのお姉さま!この悪魔さんは悪い悪魔じゃないの!」
「だーから悪魔じゃねえって、さっきから言ってるだろ!」
一匹と一振りをおいて、育郎がタバサに杖をわたす。
「話は聞いたよ…君のお母さんが病気なんだって?」
思わずシルフィードを見るタバサ。
「きゅい…お姉さまごめんなさい。しゃべっちゃった!
 で、でもこの悪魔さんなら大丈夫なの!わたしの事も秘密にしてくれるって!」
「しっかしまぁ、韻竜が生き残ってたぁな。もう絶滅したかと思ってたぜ」
その言葉で、もし誰かに自分の使い魔が喋る所を見られたらと気付き、辺りを見回す。
「大丈夫、今この周りに人はいないよ。シルフィードの声はだれも聞いていない」
「…どうして?」
「なにが?」
「ひょっとしておめーも相棒が悪魔だなんて言うんじゃねーだろーな?」
デルフリンガーの言葉に答えず、育郎を警戒した目で見るタバサ。
「…しかたないな」
「いいのかい相棒?」
「じゃないと彼女も安心できないだろ?君、信じられないかもしれないけど…」


「信じられない」
育郎の話を聞いたタバサがそう答えた。
「だろうね…」
「ま、異世界なんつってすぐに信じるような奴はそーはいねえやな」
「きゅい!異世界って魔界のこと?ホントにそんな世界あるの?」
「だからな…」
「とにかく僕は悪魔じゃない。こことはまったく違う世界の技術で、僕の身体はこんな風になってしまったんだ…化け物なのは変わりないかもしれないけどね」
そう言って寂しげに笑う育郎を、黙ったまま見つめるタバサ。
「それと、僕は病気を治した事は無いから、君の母さんを治せるとは言い切れない。それでもいいなら」
「どうして?」
「え?」
「私の頼みを聞く理由が無い」
「何故といわれても…」
「それに私は貴方を倒して、力づくで言う事を聞かせようとした」
「倒すって…ああ、あの変な踊りか。笑いを堪えるのに必死だったぜ」
「いや、その…なかなか可愛かったよ」
「きゅい!そうなの!お姉さまとっても可愛かったの!」
「………それはそれ」
思い出したら恥ずかしくなってきたのか、頬がわずかに赤くなった。
「何故?」
「何故って…」
育郎が暫く考え込んでから、自分に言い聞かせるように答える。
「そうだな…僕は自分の中の力を恐れている、あの怪物の力、人殺しの力を…けど、その力で誰かを助ける事が出来るのなら」
「あーなんだ、要は相棒はびっくりするほど人が良いんだよ」
デルフが育郎の言葉をさえぎった。


「……そうかな?」
「そうだって。俺6千年生きてっけど、相棒ほどのお人よし、そうはいなかったぜ」
「6千年!?すごいのね!」
「だろ?もっと褒めて良いぞ」
きゅいきゅいと騒ぎ出すシルフィードとデルフ。
「信じる…」
「え?」
唐突にタバサが口を開いた。
「貴方を信じる」
「…ありがとう」
微笑む育郎に、首を振るタバサ。
「礼を言うのはこっち…それと、ごめんなさい」
そう言って頭を下げる。
「良いんだよ。誰も怪我をしなかったし、それに大きな友達も出来たしね」
「友達?」
育郎がまだ騒いでいるシルフィードとデルフリンガーに目を向ける。
「だから、ありがとう…」
そう言って育郎はタバサの頭をなでた。
温かい手だった、友人のキュルケに撫でられている時に似ているが、少し違う。
しかし随分と昔に、こんな風に頭をなでてもらった気がする。
「あ、ごめん。つい…」
貴族に軽々しく触れてはいけないと言うルイズの言葉を思い出し、育郎は手をはなす。
「…気にしてない」
というか、もう少しそのままでもかまわなかった。
「何か言ったかい?」
「なんでもない…」


「そういえば…」
寮に帰る途中、育郎と並んで歩くタバサが、ふと頭に浮かんだ疑問を口に出した。
「どうやって治療を?」
少し困った顔をして、育郎が答える。
「変身した僕の血を飲ませ」

ズササササササササッ!

「あーなんだ、あんま気にすんな相棒」
「いやいいよ…確かに少し引かれても仕方ない気がするし」
「…ごめん」
思わず凄い勢いで後ずさり、柱の影に身を隠してしまったタバサであった。

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