魔法による全方位からの攻撃。
それを受けてギシギシと小屋は軋み、崩落へのカウントダウンが始まる。
その間も絶え間なく攻撃は続き、カウントダウンはさらに加速してゆく。
そして。
ミシィ、と小さな決定的な音がした。
まず四方の柱が崩れた。ほぼ同時に屋根が落ちる。
その屋根に押しつぶされるように、壁板も崩れ去る。
壁が崩れる勢いで土煙が上がった。
小屋が土煙に隠れ、姿を見失う。
小さく魔法の風が吹き、視界を塞ぐ土煙が掻き消えた。
数秒前までソコにあった小屋は、もう何処にもない。
ただ瓦礫の小山があるだけ。中の者達はどうなっただろうか?
押し潰されて、踏み潰されたカエルのようにペシャンコになったか。
それとも瓦礫の中でしぶとく、運悪く生き延びているのだろうか。
どちらにせよ、終わりは見えた。
周囲の森から、木々を掻き分け三人の人影が現れる。
全員形状に違いはあるが、杖を持つメイジ。
三人ともフードを被っていて、その顔を見ることは出来ない。
しかし身長は170を全員超えているだろう。
服の上から見ても体格はそこそこ以上のものを持っているように見える。
城や豪邸で使用人を抱えて暮らすだけの上流貴族でないことは明らかだ。
そもそも上流貴族が、こんな辺鄙なところにそうそういるハズもないが。
「これで死んだか?」
「イヤ、まだ分からん。キッチリカッキリ止めを刺す」
「…同感」
寄り集まって出した結論は、完全に止めを刺すこと。
もちろん、ほぼ死亡は確定だろうが万が一ということもある。
「精神力をドブに捨てるような気がしてヤなんだがなー」
「…迂闊」
「別にいいじゃんよ。「書類」の処理も終わったらしいし、これで完璧に終わりさ」
「おいッ!!」
っと、と口を押さえて辺りを見回す(どうやら男達らしい)ヤツ。
本気で怒ったように、叫んだ男が睨みつける。
「……ワリィワリィ。そう怒るな、俺が後始末するからよ」
かなりヤバイと判断して、逃げるように瓦礫の山へと近づく。
「さっさと灰にして、寝かせて貰いますかね、と」
炎の呪文を精神を統一して唱えだす。
跡形もなく焼き尽くすには多少精神力を必要とするゆえ、その詠唱も多少だが長くなる。
だがほぼ何秒かで唱えきれるレベルの呪文であった。
たかが数秒、されど数秒。その瞬間が命取りよ。
ドバッ!ズドドドッ!ドッババババッ!!!
呪文を唱える男の目の前で、突然瓦礫の山が噴火するかのように宙に吹き飛んだッ!!!
「あ?」
呆けるしかない男。後ろの二人も何かに取り憑かれたかのように宙を見上げる。
だがさらに事態は急転する。
男は見た。瓦礫の中に埋もれながらも、虎視眈々と輝く瞳を。
自分に向けられた牙を、その杖をッ!
迂闊にも男は呪文の詠唱を、宙に吹き飛ぶ瓦礫に気を取られて中断していた。
そのため大きく集めた魔力は霧散し、一瞬ではあるが魔法を使った瞬間と同じ状態が出来上がっていた。
瞬間的な連続での魔法使用は難しい。
それが集中力を欠いた状態でなら………尚更にッ!
男の周囲に生まれる氷の矢、ウィンディ・アイシクル。
風と氷の共演。吹き荒れる「雪風」が男を芯から凍てつかせるッ!
「バァァッハアアアアァァァッ!」
風と氷に撫でられるように、その身を切り裂かれ杖を取り落とす。
さらに残った氷の矢が落ちた杖を追尾して粉砕した。
瓦礫の間から小さな人影が這い出してきた。続いて同程度の影と、それよりも大きな影。
最初がタバサ、次に康一とアニエスである。
彼らは生き残っていたのだ。
ボロボロな姿ではあるが確かに生き残っている。
何故あの檻のような、魔法の監獄から生き残ったのか?
答えは、小屋の崩落直前。
その数十秒間の出来事に全てがあった。
「逃げ道が……ない………っ……」
心砕けそうなタバサの出した結論。
何処にも逃げ道はなく、これから自分達は死ぬ。
生き埋めになって死ぬか、魔法で死ぬかの違いはあるが結果は変わらない。
今にも崩れそうな小屋の中で、タバサは母を想い静かに泣いていた。
「それはチョット違うんじゃあないですか、タバサさん?」
タバサの後ろから声がした。
魔法を行使し続けるゆえ、振り向くことは出来ないが確かに聞こえた。
康一の言葉が。確かに聞こえた。
「道っていうのは、「在る」もんじゃあないんですよ」
「………え?」
そして康一は、フフッと面白そうに笑う。
「アニエスさんも小屋が潰れることなんか、気にしちゃあいけませんよ。
違うんですよ。「ブッ潰れる」から、イイんじゃあないですかッ」
「…一体何を言っているんだ、コーイチッ?
わたしにはサッパリ理解できんぞッッ!?小屋が潰れたら全員死んでしまうんだぞーーーッ!!」
この状況で笑える康一の神経が理解できずにアニエスは叫ぶ。
気でもふれたのか?イヤ、違う。タバサには分かる。
康一の笑い方は気がふれたとか、どうにもならずに笑うしかないとか、そんなチンケな笑い方じゃあないッ!
何か確信めいた、理由在る笑い方だッ!
ミシリ、と何か決定的な音がした。
「崩れる……ッ」
見ると、今まで小屋を支えていた柱に亀裂が入っていた。
一箇所耐えられなくなると連鎖的に他の箇所も耐えられなくなる。
そして空が墜ちて来る。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉッッ!」
康一達を押しつぶそうと、蟻を踏み潰す人の足のように天井が迫る。
そして壁も崩れ、外からの魔法が崩落する小屋の「圧力」と「質量」によって、たった一瞬ではあるが「押し戻された」ッ!
「ブッ潰れるからイイんですよッ、これで一瞬ですけど手が空いてくれるんですからねッッ!!」
「バカなッ!何言っているんだッ、そんな一瞬でわたし達に一体何が出来るって言うんだーーーーーッ!」
そうだ。コレッポッチの時間が生まれたからって何が出来るというのだ。
何処にも逃げることなんか出来ないのに。
「一瞬あれば十分なんですッ、叩きこめッ!ACT3!!」
『ワカリマシタ、康一様』
宙に浮くACT3が妙な構えをとった。
まるで拳法のような、両手の平を合わせて腕ごとねじれを加え半回転させたポーズ。
『必殺、エコーズ・3・FREEZE!!』
ドババババババンッ!!
叩き込まれた対象を超重くする能力、ACT3必殺の3・FREEZE。
そして叩き込まれたその先は。
ズンッ、と地面が鳴った。
「右も、左も、前も、後ろも、上もダメ。なら残ったのはたった一つッ!」
床に刻まれた無数の拳跡。
「下だああああぁぁぁアアァァッ!!」
ドガンッッ、と床がブチ抜ける。同時にその場の三人は「下」へと落下した。
「さっきスデにACT1を出したときに、エコーで確認しといたんです。こんな辺鄙なとこなんですからヤッパリ必要なんですかね。
人間が生きていくには、水とお日様と「食べ物」がいる。水は何処かで汲んでくるのかもしれない。太陽だって問題ない。
でも狭い小屋の中に「食べ物」だけが何処にも、何も無かったッ。
だったら答えは一つ。僕達の見えないところに「食べ物」を置いとける場所があったッ!!」
宙に浮いた浮遊感を感じながら、タバサは思わず言った。
「………地下…貯蔵庫……ッ!」
呆然としたようなタバサとアニエスを康一が抱きとめ、その康一をACT3が受ける。
ACT3で受身をとった康一がスタンドをACT2に変える。
しっぽ文字に「ピカァ」の文字を刻んだ。するとACT2の尻尾の先に着いた文字がランプのように輝いた。
突然暗い地下に光が差して驚く二人を手で制し、康一は上を見上げる。
つい一瞬前までいた小屋は完全に崩れ落ちていた。小屋の床に開いた穴は、上手いことマントが塞いでくれていている。
お陰で地下にまで瓦礫の山が侵入してくることはなかった。
いつかマントは破れるだろうが、ACT2の能力で補強しておけば何も問題はない。
しかもここは食料の貯蔵庫なのだ。
ここから暫く出れなくても食料があるからどうということもないし、水だってタバサの魔法で何とかなる。
未だに呆然とするタバサに向かって康一は確かに言った。
「道ってのは「在る」もんじゃあないッ、「創る」もんなんですッッ!!」
それを受けてギシギシと小屋は軋み、崩落へのカウントダウンが始まる。
その間も絶え間なく攻撃は続き、カウントダウンはさらに加速してゆく。
そして。
ミシィ、と小さな決定的な音がした。
まず四方の柱が崩れた。ほぼ同時に屋根が落ちる。
その屋根に押しつぶされるように、壁板も崩れ去る。
壁が崩れる勢いで土煙が上がった。
小屋が土煙に隠れ、姿を見失う。
小さく魔法の風が吹き、視界を塞ぐ土煙が掻き消えた。
数秒前までソコにあった小屋は、もう何処にもない。
ただ瓦礫の小山があるだけ。中の者達はどうなっただろうか?
押し潰されて、踏み潰されたカエルのようにペシャンコになったか。
それとも瓦礫の中でしぶとく、運悪く生き延びているのだろうか。
どちらにせよ、終わりは見えた。
周囲の森から、木々を掻き分け三人の人影が現れる。
全員形状に違いはあるが、杖を持つメイジ。
三人ともフードを被っていて、その顔を見ることは出来ない。
しかし身長は170を全員超えているだろう。
服の上から見ても体格はそこそこ以上のものを持っているように見える。
城や豪邸で使用人を抱えて暮らすだけの上流貴族でないことは明らかだ。
そもそも上流貴族が、こんな辺鄙なところにそうそういるハズもないが。
「これで死んだか?」
「イヤ、まだ分からん。キッチリカッキリ止めを刺す」
「…同感」
寄り集まって出した結論は、完全に止めを刺すこと。
もちろん、ほぼ死亡は確定だろうが万が一ということもある。
「精神力をドブに捨てるような気がしてヤなんだがなー」
「…迂闊」
「別にいいじゃんよ。「書類」の処理も終わったらしいし、これで完璧に終わりさ」
「おいッ!!」
っと、と口を押さえて辺りを見回す(どうやら男達らしい)ヤツ。
本気で怒ったように、叫んだ男が睨みつける。
「……ワリィワリィ。そう怒るな、俺が後始末するからよ」
かなりヤバイと判断して、逃げるように瓦礫の山へと近づく。
「さっさと灰にして、寝かせて貰いますかね、と」
炎の呪文を精神を統一して唱えだす。
跡形もなく焼き尽くすには多少精神力を必要とするゆえ、その詠唱も多少だが長くなる。
だがほぼ何秒かで唱えきれるレベルの呪文であった。
たかが数秒、されど数秒。その瞬間が命取りよ。
ドバッ!ズドドドッ!ドッババババッ!!!
呪文を唱える男の目の前で、突然瓦礫の山が噴火するかのように宙に吹き飛んだッ!!!
「あ?」
呆けるしかない男。後ろの二人も何かに取り憑かれたかのように宙を見上げる。
だがさらに事態は急転する。
男は見た。瓦礫の中に埋もれながらも、虎視眈々と輝く瞳を。
自分に向けられた牙を、その杖をッ!
迂闊にも男は呪文の詠唱を、宙に吹き飛ぶ瓦礫に気を取られて中断していた。
そのため大きく集めた魔力は霧散し、一瞬ではあるが魔法を使った瞬間と同じ状態が出来上がっていた。
瞬間的な連続での魔法使用は難しい。
それが集中力を欠いた状態でなら………尚更にッ!
男の周囲に生まれる氷の矢、ウィンディ・アイシクル。
風と氷の共演。吹き荒れる「雪風」が男を芯から凍てつかせるッ!
「バァァッハアアアアァァァッ!」
風と氷に撫でられるように、その身を切り裂かれ杖を取り落とす。
さらに残った氷の矢が落ちた杖を追尾して粉砕した。
瓦礫の間から小さな人影が這い出してきた。続いて同程度の影と、それよりも大きな影。
最初がタバサ、次に康一とアニエスである。
彼らは生き残っていたのだ。
ボロボロな姿ではあるが確かに生き残っている。
何故あの檻のような、魔法の監獄から生き残ったのか?
答えは、小屋の崩落直前。
その数十秒間の出来事に全てがあった。
「逃げ道が……ない………っ……」
心砕けそうなタバサの出した結論。
何処にも逃げ道はなく、これから自分達は死ぬ。
生き埋めになって死ぬか、魔法で死ぬかの違いはあるが結果は変わらない。
今にも崩れそうな小屋の中で、タバサは母を想い静かに泣いていた。
「それはチョット違うんじゃあないですか、タバサさん?」
タバサの後ろから声がした。
魔法を行使し続けるゆえ、振り向くことは出来ないが確かに聞こえた。
康一の言葉が。確かに聞こえた。
「道っていうのは、「在る」もんじゃあないんですよ」
「………え?」
そして康一は、フフッと面白そうに笑う。
「アニエスさんも小屋が潰れることなんか、気にしちゃあいけませんよ。
違うんですよ。「ブッ潰れる」から、イイんじゃあないですかッ」
「…一体何を言っているんだ、コーイチッ?
わたしにはサッパリ理解できんぞッッ!?小屋が潰れたら全員死んでしまうんだぞーーーッ!!」
この状況で笑える康一の神経が理解できずにアニエスは叫ぶ。
気でもふれたのか?イヤ、違う。タバサには分かる。
康一の笑い方は気がふれたとか、どうにもならずに笑うしかないとか、そんなチンケな笑い方じゃあないッ!
何か確信めいた、理由在る笑い方だッ!
ミシリ、と何か決定的な音がした。
「崩れる……ッ」
見ると、今まで小屋を支えていた柱に亀裂が入っていた。
一箇所耐えられなくなると連鎖的に他の箇所も耐えられなくなる。
そして空が墜ちて来る。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉッッ!」
康一達を押しつぶそうと、蟻を踏み潰す人の足のように天井が迫る。
そして壁も崩れ、外からの魔法が崩落する小屋の「圧力」と「質量」によって、たった一瞬ではあるが「押し戻された」ッ!
「ブッ潰れるからイイんですよッ、これで一瞬ですけど手が空いてくれるんですからねッッ!!」
「バカなッ!何言っているんだッ、そんな一瞬でわたし達に一体何が出来るって言うんだーーーーーッ!」
そうだ。コレッポッチの時間が生まれたからって何が出来るというのだ。
何処にも逃げることなんか出来ないのに。
「一瞬あれば十分なんですッ、叩きこめッ!ACT3!!」
『ワカリマシタ、康一様』
宙に浮くACT3が妙な構えをとった。
まるで拳法のような、両手の平を合わせて腕ごとねじれを加え半回転させたポーズ。
『必殺、エコーズ・3・FREEZE!!』
ドババババババンッ!!
叩き込まれた対象を超重くする能力、ACT3必殺の3・FREEZE。
そして叩き込まれたその先は。
ズンッ、と地面が鳴った。
「右も、左も、前も、後ろも、上もダメ。なら残ったのはたった一つッ!」
床に刻まれた無数の拳跡。
「下だああああぁぁぁアアァァッ!!」
ドガンッッ、と床がブチ抜ける。同時にその場の三人は「下」へと落下した。
「さっきスデにACT1を出したときに、エコーで確認しといたんです。こんな辺鄙なとこなんですからヤッパリ必要なんですかね。
人間が生きていくには、水とお日様と「食べ物」がいる。水は何処かで汲んでくるのかもしれない。太陽だって問題ない。
でも狭い小屋の中に「食べ物」だけが何処にも、何も無かったッ。
だったら答えは一つ。僕達の見えないところに「食べ物」を置いとける場所があったッ!!」
宙に浮いた浮遊感を感じながら、タバサは思わず言った。
「………地下…貯蔵庫……ッ!」
呆然としたようなタバサとアニエスを康一が抱きとめ、その康一をACT3が受ける。
ACT3で受身をとった康一がスタンドをACT2に変える。
しっぽ文字に「ピカァ」の文字を刻んだ。するとACT2の尻尾の先に着いた文字がランプのように輝いた。
突然暗い地下に光が差して驚く二人を手で制し、康一は上を見上げる。
つい一瞬前までいた小屋は完全に崩れ落ちていた。小屋の床に開いた穴は、上手いことマントが塞いでくれていている。
お陰で地下にまで瓦礫の山が侵入してくることはなかった。
いつかマントは破れるだろうが、ACT2の能力で補強しておけば何も問題はない。
しかもここは食料の貯蔵庫なのだ。
ここから暫く出れなくても食料があるからどうということもないし、水だってタバサの魔法で何とかなる。
未だに呆然とするタバサに向かって康一は確かに言った。
「道ってのは「在る」もんじゃあないッ、「創る」もんなんですッッ!!」