ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

16 悪辣な店主、悪辣な客

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16 悪辣な店主、悪辣な客


「おめえ、自分を見たことあんのか? そんな姿勢で剣を振る? おでれーた! 冗談じゃねえ! 剣士ってのはもっと背筋がピシッ!としてるもんだぜ!
 おめえにゃ剣はもったいねえ!棒っきれがお似合いさ!」
声が聞こえる。柄の悪い、女の声が。

苛立ちが増幅する。この街に来てから何一つ上手くいっていない。いや、「この世界」に来てからか。必要なものは何一つ手に入らない。剣? 誰が欲しがっている?

デーボは声のする方を見る。乱雑に積み重なった剣。奥に空間でもあるのか。近づく。見つけて殴る腹積もり。
「くんじゃねーよ! さっさと帰りやがれ! おめーもだよ! 貴族の娘っ子!」 なおもわめき散らす女声。後ろからルイズの怒り声。失礼ね!
声質を対比して大雑把に判断。二十歳を超えてるだろう。それでこの台詞。どんな育ちの悪さだ。店主を振り返る。頭を抱えている。
壁を探る。左右を見回す。特に何も見当たらない。
「なに探してんだよ。おめえの目は節穴か!」 すぐ胸元から声。錆の浮いた薄手の長剣。細い刃。柄にL字型の飾り。そこから声は発せられている。
剣が喋ったのか。まさか。音を出す何かが埋め込まれてるのだろう。これも魔法か。ひょいと手を伸ばす。
「触んな! 耳ちょんぎるぞコラァ!」 さらなる暴言が飛ぶ。かまわず取り上げ、眺める。何かが埋め込まれてるようには見えない。左手甲に光るルーン。デーボの顔を照らす。
「やい! デル公! お客様に失礼なことを言うんじゃねえ!」 店の奥から叱責の声。デル公と呼ばれたこれは言い返す。言い返す?なぜ反応できる?
「お客さま? 剣持ったこともないようなヤツがお客様? ふざけんじゃねえよ! その首、ねっこ……」 黙りこくる剣。それを尻目に、ルイズが店主に聞く。
「それって、インテリジェンスソード?」 当惑した声。興味深げにデーボの持つ剣を見ている。希少な物なのか。剣は黙ったままだ。
「そうでさ、若奥さま。意思を持つ魔剣でして。どこの魔術師が始めたんでしょうかねえ、剣を喋らせるなんて……。
 こいつは口が悪いわ、客にケンカを売るわで閉口してまして……。おかげでこのとおり、閑古鳥が鳴いてまさあ」
嘆く店主。数少ないカモからむしり取ろうとしているところを、この剣に妨害される。

「おでれーた。見損なってた。てめー、『使い手』か」 沈黙の後、剣が呟く。使い手? なんだそれは。
「ふん、自分の実力も知らんのか。まあいい。てめー、俺を買え」 必要ない。さっきからそう言っている。
「買えよ」 剣を元に戻す。「買いなって」 ふと後ろを見る。ルイズが側まで来ていた。
「損はさせねーから」 ルイズは錆の浮いた刀身をみる。眉間に皺。「頼むよ。な、このとおり」 他の剣を見、複雑な表情。

「これ、おいくら?」 置かれた剣を再び手に取る。買う気か、こいつは。
「それなら、百で結構でさ」 財布の中身、全部。恣意的な数字。適当な商売しやがって。ルイズは安いじゃない、などと意外そうな顔。安くない。財布の中身全部だ。
「こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさ」 店主は顔を背けながら、手をひらひら振る。顔が緩むのを隠している。
ルイズは財布を取り出す。払うのか。この剣に。

「五十だ」 思わずデーボは口を挟む。ここで全部使って、服はなしか? 冗談じゃない。くそ。飾り窓も酒場も、もう届きそうにない。衣服ぐらい確保したい。
「お客さん…。あんまり無茶言っちゃいけませんや」 店主の目がスッと細まる。剣呑な表情。脅しのつもりか。世間知らずの貴族と、その愚鈍な従者とでも考えているか。
くそ。エボニーデビル。

ルイズが振り向く。睨む。構うものか。衣食住の全てが最低限だ。一つぐらいマシなものを得て何が悪い。スタンドを動かす。
隅に飾り置かれた全身鎧が、鉄の軋む音を立てつつ動き出す。店主は音のする方に目をやり、目を見開く。ぎょっとした表情。
「ちょ、ちょっと。やめなさいよ」ルイズが慌てたように言う。暴力はダメよ。店主の顔が引きつる。剣が驚きの声を上げる。おでれーた。やかましい。貴様など値切ってやる。
エボニーデビルは数歩進む。店内は静まり返る。立ち止まり、手近な長剣を掴む。ことさらゆっくりと抜く。鞘ずれの音に体温を奪われるかのように、青ざめる店主。
「三つで三十だ」 短剣と槍、そして喋る剣。三つで金貨三十枚。無茶な要求。お互い様だ。開き直る。

店を出る二人と一振り。ルイズに財布を返し、デーボは剣を抜く。
「てめー、俺を金貨十枚とはいい度胸じゃねーか」 文句をたれる剣を右手に、左手に槍を持つ。ルイズに言う。下がってろ。剣を振りかぶる。
「まあいーや。あのゴウツクバリも、たまには痛い目見ないとな。それにこれから退屈しのっ」 槍の柄に振り下ろす。スカンと軽い音を立て、切り落とされる。
「いきなり何しやがる!」 剣は振るものだろうが。鞘に戻と黙る。
槍を立てかけ、ポケットから短剣を取り出す。これを着るのも今日で終わりだ。有効に使ってやる。纏うボロ布を大きく切り裂く。短剣を再びポケットへ。
股下ほどの長さになった槍をボロ布で幾重にも巻く。むき出しの槍を持って表通りを歩くわけにはいかない。
ルイズは財布の中身を確認していた。怪訝そうな顔。まだ八十枚も残ってるわよ。釣りだろ。促して、路地裏を出る。ポケットに残りの数枚。

消え去る二人を見送った後、物陰から顔を出す女が二人。一人は本に目を落とす。もう一人は感情のまま、武器屋へずかずかと入り込む。
十数分の後、店から出てくる赤毛の女。手には大振りの大剣を抱えている。満足げに語る。それを見た青髪の女は歩き出す。街の外へ向かう二人。
立て続けに損害を受ける武器屋。店先に『準備中』の札がおどる。

服飾店への道々、説教をくらうデーボ。心の中は明るい。
服を受け取り、着替える。とてもお似合いですよ。恐ろしく白々しい世辞。礼に店員の顔を握りしめようとするも、背後から蹴りを入れられる。
まあいい、もう少しだ。あとは人形が届けば、とりあえずの準備は終了だ。あとは何とでもなるだろう。デーボは誤算を二つ抱えている。

街を出、駅で馬を引き取る。馬は遥か昔に乗ったきりだが、体が覚えていた。行きはそれだけで済んだ。帰りもまた、馬の上でひたすら揺さぶられる3時間。
野党の一人も出ず、往復6時間。尻の皮と肉が耐えかねる。学院に戻る頃にはまともに歩けなくなっていた。治るまでは大人しくしているしかない。一つ目。

寮のルイズの部屋に戻る。扉の前に誰かがうずくまっている。癖のある金髪。ギーシュ。顔を上げ、疲れた声で言う。人形が届いたよ。
ギーシュの部屋に入って最初に目に付いたものは、二種類の人形だった。二つ目。


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