ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

仮面のルイズ-17

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アルビオンの宮殿、ニューカッスルのバルコニーに立つ老メイジが、空を見上げた。

城の遥か上空に浮かぶ巨大な船を見て、老メイジは顔をしかめた。
「パリー様」
「ん、何じゃ」
空を見上げていた老メイジは、衛士から「パリー」と呼ばれ振り向いた。
この城の城主であるアルビオンの陛下ですら、この老メイジに格別の信頼を置いている。
オールド・オスマン程ではないが、この城では最年長のメイジなのだ。
城の者達からは、尊敬の念を込めて「パリー様」と呼ばれていた。

「親衛隊との連絡が途絶えました」
「…なんと」
城を見張っている巨大戦艦『レキシントン』号を見て、パリーはため息をついた。
かつてアルビオンの艦隊旗艦だった『ロイヤル・ソヴリン』号は、貴族派が最初に反乱を起こし、王党派から奪取した戦艦だった。
その戦艦は城の周囲を旋回し、空から砲撃による睨みをきかせており、船が城にはいることが出来ない。
そのため、現在はニューカッスル城へ物資を運び入れることが出来ない、人力で運べる量はたかが知れている。
この巨大な城を維持するには、どうしても船による物資の運搬が必要になる。
外部との接触、補給路の確保を担当している親衛隊からの連絡が途絶えたと聞いて、いよいよ叛徒との決戦が目前に迫ったと、老メイジパリーは確信した。

「潜伏先が襲撃されたようです、別働隊が現状を調査しておりますが、生存は絶望的です」
「そうか…」
パリーは再度空を見上げる。
巨大な戦艦は、ゆるゆると降下したかと思うと、ニューカッスルの城めがけて砲門を一斉に開く。
大砲の音が大気に拡散し、”どこどこどこ”と太鼓のような音になって響く。
発射から数秒、ニューカッスルの城壁に砲弾が着弾し、城壁の一部を轟音と共に破壊した。

衛士が呪文を詠唱すると、空気中の水分が集められ、擬似的な雲が作られていく。
燃え上がる着弾地点に向けて杖を振ると、雲は局地的な雨となって火災を消し止めた。

夜中、自室で思惟していた老メイジ・パリーの耳に驚くべき報告が入った。
コンコン、と扉がノックされ、衛士が名を名乗り入室の許可を待つ。
パリーは椅子に座ったまま許可を出した。
「間者から緊急の報告が入りました!」
「緊急?」
「はっ、城下で叛徒の動向を調査していた親衛隊ですが、六カ所の拠点は同時に襲撃され、すべて壊滅状態とのことです」
「なんと…」
「ただ、一カ所、ロンディニウム東通り七番地の拠点からは、衛士のものと思われる遺体は発見されませんでした」
「何?皆脱出したのか?」
「遺体はすべて叛徒どものものと見られます、おそらく、汚水路を利用して脱出したと思われますが、既に汚水路にも貴族派の傭兵どもが殺到しており…」
「わかった、引き続き調査させよ」
「はっ」

衛士は一礼して退室したが、扉を開けた途端別の衛士が報告に来た。
「申し上げます! 先ほど生き残りと見られる親衛隊22名が、傭兵を2人連れて戻りました!」
「なんと!帰還したのは皆親衛隊で間違いはないのか」
「はっ、間違いありません」
「うむ…その傭兵というのも気になる。では、ワシが行こう、せめて生き残った者だけでも労ってやらねばな…」
そう言うと、よいしょと椅子から立ち上がり、衛士を連れて老メイジは部屋を出た。

「姉御、さっきの像、ありゃ銀かなあ、すげえよ」
「キョロキョロしてると田舎者丸出しよ」
ゲストルームには、個人的な客人をもてなすための客室が併設されており、ルイズとブルリンの二人はそこで待たされていた。
とても戦時下とは思えない程綺麗に整えられたその部屋は、調度品の数こそ少ないものの、『白の国』アルビオンらしく白を基調とした作りになっている。
ブルリンは恐縮したり、金目の物を見ては驚いたりしていたが、ルイズは違った。

ブルリンから聞いた話では、傭兵は酒場や集会場のような場所で、金を渡されるのが一般的だという。
それなのに客室に通され、テーブルにはワインまで置かれているのを見ると、どうも自分が予想していた『傭兵家業』のイメージと異なり、調子が狂う。
「すげえ!サウスゴータ42年ものとか書いてあるぜ、このワイン」
「あんたねえ、子供じゃないんだからはしゃぐのは止めなさいよ」
「おう、ご、ごめんよ姉御、つい…昨日の興奮が冷めねえんだよ」
「昨日の?ああ…」

昨日、と言われて思い出す。
ルイズとブルリンが、何処かの館に監禁されていたことを。

アルビオン貴族派の傭兵を名乗っていた男達は、ルイズの読み通り王党派の衛士だった。
適当に交渉してみようと考えていたが、屋敷内の足音が慌ただしく動いているのに気づいた。
ルイズは様子がおかしいと思い、聴覚に集中して周囲の話し声を拾う。

『まずいぞ…包囲されてやがる』
『貴族派に嗅ぎつけられたのか』
『あの二人の傭兵は囮だったのか?』

どうやら、ルイズとブルリンは貴族派の間者だと思われているようだ。

「まずいわね…ブルリン、部屋を出るわよ、あんたは私の後ろにいなさい」
「どうしたんだよ姉御」
「貴族派に囲まれてるわ、しかも私たちが間者だと疑われてる」
「えーっ!?」
「静かになさい、とりあえず貴族派を追っ払うわよ」
そう言って無造作に扉を開けた。
扉の前で立っていた見張りの男は、突然扉が開いたことに驚いて杖を取り出したが、それよりも一瞬早く、ルイズは力づくで杖を奪い、男の顎を掴んで宙に浮かせた。
「…!……!」
宙に浮き、じたばたと足をばたつかせる見張りの男を持ち上げたまま、ルイズは正面玄関のある広間までやって来た。
「なっ、貴様!」
それを見て一人の男がルイズに杖を向ける。
服装は傭兵だが、手に持った杖は『エア・ニードル』を作りやすいように、フルーレのような形状をしていた。
あんな仰々しい杖を使うのは貴族の、それも衛士ぐらいのものだろう。
「違うわよ、アタシはあんた達、王党派に雇われる気で来たのよ」
「王党派……既に我々が王党派だと知られていたのか」
「まあね、ところで外にいるのは何人ぐらいなの?」
「それは貴様らのほうが知っているんじゃないか」
広間に他のメイジ達も集まり、こちらに向かって杖を向けているのを見えた。
彼らは、人質ごとルイズ達を殺すのを躊躇しないだろう。

…きっと、母ならそう教育する。

ルイズは持ち上げていた男を床に下ろすと、その男に杖を返した。
「誤解しないで欲しいわね、そんな人を疑ってばかりじゃ、アルビオンの名が泣くわよ」「……そ、そうだ、俺だって恩人が貴族派にやられたから、王党派を探したんだ」
ブルリンが口を挟む、微妙に震えているようだ。
「あんたは黙ってなさい」
「へ、へい」
「とりあえず今は、この屋敷を囲む貴族派を追い払う事でしょう。外は何人いるの、配置は?」
ルイズがそう言って扉を見る、衛士はルイズを怪しんでいたが、ここで言い争っても埒があかないと悟り、現状を説明しだした。

「見張りの話では、メイジを含めた傭兵が35人程、この屋敷を囲んでいる、玄関から15メイル先の門にいるメイジがリーダーだと思われるが…」
衛士の言葉をルイズが中断させた。
「馬鹿じゃないの、そんな目立つところにリーダーが居るわけ無いでしょうが、そこにいるのは連絡役程度の奴よ、本命は空にいないの?」
「空にも、屋根の上にも敵はいない、この屋敷は庭があるので、傭兵は屋根の上に飛び移れないはずだ」
「…指揮官でなくても、あからさまに屋敷を包囲しているなら高所からの視点は確保するはずだわ、この館に地下はある?」
「!?」
衛士の顔色が変わり、慌てて他の衛視に指示を飛ばした。
「汚水路を確認しろ!脱出経路をふさがれる前に!」
「なるほどね…汚水路か、戦力を脱出経路の防備に集中させなさい、私は玄関から打って出るわ」
「正気か!?それとも、外から傭兵共を引き入れる気じゃないだろうな」
「行動で証明してあげるわよ」
そう言ってルイズはフードを深く被り直し、顔を隠す。
「姉御、俺は?」
「アンタは…そうね、ボウガンか何かを探して、裏口の援護に回りなさい」
ルイズはピクニックにでも行くかのように、ごく自然に、表に出た。

正面玄関には、雨よけの屋根があり、人の胴ほどの門柱がそれを支えている。
ルイズが正門前から門を見ると、何人もの傭兵らしき男達がルイズの姿を見て驚いた。
傭兵達の後ろにはメイジらしき人物がいて、こちらを見てはいた。
ふと、そのメイジが隣にいる男に話しかけた。

ルイズは慌てて振り返った。
玄関の中には、杖を持って待機している衛士しか居ない。
ブルリンはもう裏口へと回ったのだろう。
ほっ、と安堵のため息をつく。

彼が裏切ったことをブルリンに悟られてはならない、何故かそんな考えが頭をよぎった。

再度正面を向き、門の外にいるメイジと、その隣にいる”彼”を見る。
メイジはその男に金貨を一枚渡した。

その男は、金貨を受け取って笑い、ルイズを見て笑った。
「裏切ったのね、ジョーンズ…」
ルイズの呟きは、誰にも聞かれることはなかった。

冷静に、鋼鉄のマスクを被った母のように、敵を見る。
獣を使役している者はいない、空中にも敵はいない、視界にはメイジが一人と傭兵が十八人。
『嬢ちゃん、どーすんだ?』
背中のデルフリンガーが語りかける、ルイズは少しだけ嬉しそうに答えた。
「決まってるじゃない、追っ払うのよ」

ルイズは無造作に右腕を振る、右脇の門柱が砕け、石つぶてが飛ぶ。
大砲の散弾のような勢いで吹き飛んだ石つぶては、正門前に待機していた傭兵達に難なくぶつかり、水を入れた風船が破裂するような音を立てて、傭兵達を肉塊に変えた。
次に、左脇の門柱を力づくで引き抜き、中央のメイジに向けて、渾身の力を込めて投げた。
メイジは隣にいる男…ジョーンズを盾にして逃げようとしたが、人間一人を盾にしたところでは意味がない。
門柱は、ジョーンズとメイジの上半身を吹き飛ばし、背後の建物をも倒壊させた。
『左右から来るぞ!』
デルフリンガーの言葉に反応し、右に残った門柱の土台を傭兵達に向けて蹴飛ばす。
次に背中のデルフリンガーを抜きつつ、左側に向き直り、荷車の取っ手を押すようにデルフリンガーを両手で構え、突進した。

………ぐちゃぐちゃと肉片から血の滴る音が鳴り、後に残るのは人間だったモノ。
正面玄関を襲撃しようとしていた者達は、わずか一分にも満たない戦闘で全滅した。

「…一発当たっちゃったか」
誰かが持っていたのか、一本のナイフがルイズの脇腹に刺さっていた。
ルイズはそれを事も無げに引き抜くと、懐にしまい込んだ。

「姉御!裏口はやられた!撤収だ!」
ブルリンが玄関から首だけ出して叫ぶ、ルイズは(ナイフ引き抜くの見られなかったかしら?)と考えながら、玄関へと急いだ。

館の中には汚水路に通じる道があり、ルイズ達はそこに飛び込んだ。
水のメイジが汚水の流れをコントロールして、汚水の中に隠れた隠し通路へとルイズ達を招き入れる。
皆が隠し通路に入ったところで、汚水路から屋敷を襲撃しようとしていた傭兵達が到着する。
あらかじめ仕掛けていた火の秘薬に、一人のメイジがファイヤーボールを打ち込み、汚水路は火海となって傭兵達を焼き殺した。


こうして、ルイズ達は窮地を脱し、ニューカッスル城に入城することになる。

昨日の出来事を思い返していたルイズの耳に、ノックの音が届く。
ルイズは思考を中断し、扉に目を向けた。
返事を待たずに扉が開かれ、一人の衛士が入ってきた。
「失礼致します、陛下の代理として、長老のパリー様がご挨拶されたいとのことです」
精悍な男性を思わせる声が部屋に響く。
続いて、オールド・オスマンとはまた違った貫禄を持つ、老メイジが部屋に入ってきた。
「勇敢な方々、衛士の危機を救ってくれたようでございますな、ありがたいことです。」
「…別に、そうしなきゃ無頼の徒を信用してくれないと思っただけよ」
「仲間を助けてくれました以上は、無頼の徒などとは思えません。私はニューカッスル防衛の指揮を執っているパリーと申します」
パリーが名乗ったのを聞いて、ルイズとブルリンも席を立つ。
「私は…『石仮面』よ、それで通してるわ」
「お、俺はブルート、仲間からはブルリンと呼ばれてまさぁ」
「名乗りいただき嬉しく思います。さ、立ったままでは疲れましょう、どうぞ腰を下ろしてください」
二人はパリーに促されるまま腰を下ろした、それを見てパリーも向かい合った席に座る。
「お二方は傭兵だそうですが、今の王党派に雇われてもなんの”うまみ”もありませんぞ」
ブルリンが拳を握りしめる、ルイズはあえてそれを無視し、ブルリンに喋らせることにした。
「う、うまみとかは関係ねえです。俺は、世話になった人が、貴族派の連中にやられたって聞いたんで、貴族派に喧嘩を売れればいいんでさぁ。」
「お世話になった方が? …そうでしたか」
「記憶喪失で彷徨ってた俺を世話してくれて、傭兵のツテも紹介してくれた人で…」

ブルリンが自分の境遇を話している間。ルイズは部屋パリーをじっと見ていた。
オールド・オスマンのように飄々とはしていない、おっとりとした口調の裏に計算高さを感じる。
この城の防衛を任されているだけあって、杖から決して手を離さない。
パリーの後ろに立つ衛士は、椅子の影になり手元が見えないが、おそらく杖を構えているだろう。
本当に油断も、隙もない。

「そちらのお嬢さんは、なぜ王党派に?」
「………貴族派は下品だからよ」
ほう、とパリーが声を漏らす。
「下品とは、いや、これはまた驚きですな。…石仮面殿は、元は名のある貴族の方とお見受けしますが」

パリーの言葉にルイズが驚く。
しかし、当然といえば当然だ、背筋をただして上品に座る傭兵など聞いたことがない。
現に、ルイズの隣に座るブルリンと比較すれば、育ちの良さは一目瞭然だった。
傭兵スタイルが板に付いてきたと思いこんでいたルイズは、表情には出さないものの、心の中ではため息をついていた。
「家名なんてもう覚えて無いわ、思い出す気もない、今は…今は、気ままに生きるだけよ」
そう言ってルイズは笑みを浮かべる。
「ほほ、なるほど、出自など問いませぬ、ただ仲間達の命を救って下さったことを感謝致します」
パリーがにっこりと笑った。


その後、傭兵として何をすれば良いのか、報酬はどの程度なのかを相談した。
パリーの話では、王党派に雇われるような酔狂な傭兵は皆無だとか。
現時点では、ルイズとブルリンの二人しかいないらしい。
「その方がやりがいがあるぜ、なあ姉御!」
ブルリンはそんな風に息巻いていたが、それがルイズの不安を煽った。
ルイズ一人が生き残る自身はある、しかし…ブルリンが生き残れるとは限らない。

もし、この男が死んでしまったら…私はどうするべきなのだろう。



ルイズの思考は、自分の死ではなく、仲間の死の不安へと傾いていった。

ルイズとブルリンはゲストルームで寝泊まりすることになった。
ブルリンは久しぶりに身体を洗いたいと言っていたので、今頃は厨房の裏で水浴びでもしている頃だろう。
ルイズが久しぶりの上質なベッドに寝そべって、体を休めていると、デルフリンガーが話しかけて来た。
『なあ嬢ちゃん、これからは”石仮面”って呼んだ方がいいのか?』
「……そうしてくれると嬉しいわ」
『でもよ、一つ聞いていいか?なんであの時俺に本名を教えたんだ?』
「誰かに…覚えていて欲しかったのかもしれない」
『そーか』

ルイズは窓の外に目を向けると、月を横切るように、巨大な戦艦が風に乗って移動しているのが見えた。

戦時下とは思えない程、静かな沈黙が流れた…。

「ねえ、デルフ、私からも質問させて」
『俺に分かることなら答えてやるよ』
「あんた、最初は私に使われるのを嫌がってたでしょ」
『ああ』
「最近は妙に物わかりいいじゃない、どうしてよ」
『あー、そりゃな、おめえ…なんか知らないけど、人間の血は吸わないみたいだしな』
「…これから先、吸うかも知れないわよ」
『そんときゃ大騒ぎしてやるってーの』
「言うじゃない、あんたも6000年生きてるなら、私の意識を乗っ取って止めて見せなさいよ」
『何だと、やってやろうじゃねえか』
「できるの?」
『できる! …ような気がする』

「アンタって、ブルリンと同じでどっか間抜けねえ…ふふ…あはははは!」

ルイズは久しぶりに、腹の底から、笑った。



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