ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

14 狭い道、狭い抜け道

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14 狭い道、狭い抜け道

馬を街に並立している駅に預ける。デーボとルイズは徒歩で門をくぐる。上空を旋回する影には、二人とも気づかない。

半端な情報がルイズの頭に霧をかける。異世界から来た使い魔。どこまでが本当の話?それとも全部……。だったら何故、あんな途方もない話を?
新しいことを知るたびに、それ以上の勢いで疑問が生まれてゆく。ルイズは歩き出す。足取りは亀のように緩やかだ。重い財布が疲労感を錯覚させる。ルイズは半ば無意識に、使い魔に財布を預ける。
「持ってて。重いから」 デーボがほんの少し眉を上げたように感じた。気のせいだろう。見直せばいつもの無表情。
財布の有無は歩行速度に影響を及ぼさないようだ。白い石作りの街並みを、二人はゆっくりと進む。

降って湧いたような幸運を、どう自分の手に収めるか。デーボはひどくゆっくり歩きながら思案する。逃げるのは簡単だ。見つかるのも同じくらいに。
大して広くもない通りを見回す。様々なペースで歩く様々な人間。道端で声を張り上げる男たち。道端には露天が溢れている。ありとあらゆるものが売られている。
「一つの頭に二つの胴体!お得な魚の開きだよ!値段は一尾分!」「パイナップルはいらんかねー!?切って食べれば甘くてうまい!ヘタを抜いたら大爆発!」
「麻痺を治し痺れをとる、気孔マッサージはいかが?」「撃ってびっくり不発弾!一発たったの10ドニエじゃい!」
「ガムはいらんかねー。噛みかけだよー。噛めばまだまだ甘いよー」「そのリングがスゲーお似合いですよ。死ぬまでつけてな!」
混雑具合は申し分ない。しかし、この道幅。5メートルほどだろうか。これでは逃げる姿を逐一晒すハメになりかねない。自分の身長が恨めしい。
もっと広い通りへ出るべきだ。街の分岐の起点となるような、そんな巨大な所へ。デーボはそれとなく言う。
「狭いな」 ルイズが肩をぴくんと振るわせる。あわてたように振り向く。「え、なに?」 上の空だったのか。後悔が襲う。気を取り直せ。チャンスはまだある。

「狭いな……。この通りは」 重ねて言う。周りの建物を見回す。ぶらさがった看板に壜の絵。ここが酒場か。
数軒をはさんだ建物から、胸甲をつけた男が出てくる。腰には剣。警邏の兵。看板にはバツ印。酒場にやけに近い。治安維持には効果的だが、これでは困る。
「狭いって…、これでも大通りなんだけど」 予想外の答えが前方から放たれる。デーボは耳を疑う。「…これでか?」 どうにも雲行きが怪しくなってきた。
「ブルドンネ街。トリステインで一番大きな通りよ。この先にトリステインの宮殿があるわ」
逃亡計画は破棄だ。後先考えずに逃げださずに良かった。言い聞かせる。

しょうがない。せめて飲み代を分けてもらおう。金が入り用になったとたんに、金を預かることになった。これも何かのめぐり合わせだろう。
こっちを見ていないとはいえ、素手で金をジャラジャラいわせる愚挙は犯さない。エボニーデビルがその姿を現す。ルイズが立ち止まる。

なんだ。
見えているのか。ルイズは険しい顔でこちらを見ている。デーボの顔ではない。表情は峻厳だが、瞳は茫洋と揺らめいている。悪魔はデーボの右隣に移動する。ルイズもそれにつれて視線を動かす。
観察。視点が細かく震えている。何かを見極めようとするかの如く。そもそも、スタンドの発現の後にルイズは振り返った。見えているのではない。感じ取っている……のか?
「しまいなさい、その…すたんど」 ジトッとした上目遣いで命令するルイズ。デーボは素直に従った。

なんの成果もあげずに服飾店に到着する。ガラスのはられた扉を引き、中へ入るルイズ。付き従うデーボ。内心は忸怩たる思い。
店内に客はいない。柔和な笑みを浮かべた腰の低い店員が、揉み手をしながらやってくる。引きつれ、ルイズは店内を回る。雑談を交えながら一周。
魔法を使う盗賊が、仕事の場所をこの城下町に移しつつあるらしい。王宮にでも盗みに入るつもりか。
ルイズはデーボの顔を見る。「どう?」 ふと思いつく。
「オーダーメイド、出来るか」 デーボは店員に言う。胡散臭げな態度を笑顔の下に押し込めて応対する店員。ええもちろん。ですが、お時間は多少いただきますが。 そうでなくては困る。

着慣れた服装を注文する。なんでもよかったが、そう言うわけにもいくまい。袖なしの皮のコード。皮のパンツ。皮のグラブ。ついでにブーツも新調。

ルイズに引っ張られる。店の隅で怒りの囁き。
「なに考えてんのよ!夜まで待つつもり!?」 そのつもりだ。別に付き合う必要はない。先に帰ってくれて構わない。そう言う。
「あんたは?」 ぶらぶらしながら待つ。財布は返す。ここの分だけよこしてくれ。懐から財布を取り出す。ルイズに手渡す。

計画と呼ぶもおこがましい単純な行程。金を受け取る。酒場で飲む。服を受け取り、店員を殺す。金は酒に変わり、服屋は死体に変わる。まったく単純。
自分ひとりでは警戒されるか?内金の一つも払えばいい。
学院に戻るかどうかは…、その時の気分次第だ。

ルイズは受け取った財布をしまわない。
「あんた、何か企んでるんでしょ」 言いながら目つきを悪くする。まさか。金は返したぞ。
「それが逆に怪しいのよ」 重さを感じさせない動作で、デーボの顔の前に財布をつきだす。さっきのスタンドが悪印象を与えたか。それとも道すがらの話か。
二人が小声で言い合う所に、店員が顔を出す。争点の財布が目にとまる。ずっしりと金貨の入った、重そうな財布が。
「できるだけ急いで。チップははずむから」 ルイズが先手を取る。金を持つものの言葉。商売人は逆らわない。はい、それはもう!店員は裏返った声で叫び、日の落ちる前に仕上げることを確約する。店の奥に走りこむ。

勝ち誇った顔のルイズ。無表情のデーボ。二人はそろって店を出る。物陰からそれを見つめる人影。赤い髪と青い髪。
キュルケは歯噛みする。昨日はほっぽり出していた使い魔と、今日は仲良くお買い物?対抗心に火が灯る。
タバサは本を読んでいる。ここまで連れてきて、自分の仕事は終わりだ。ブーメランを擬人化したかのように、心中には帰りたいの一語。

あてもなくぶらついている。先導する人間がいなくなり、二人は並んで歩いている。
さて、どこで時間を潰そうか。ルイズは考える。
どこかで遅い昼食でも食べようか?いいやだめだ。この辺りの店ではだめだ。自分の舌には下賎だし、使い魔には高級すぎる。
小物でも眺めて過ごすか?この男を連れて?周りの自分達を見る目を想像。楽しめる気がしない。却下。
店での話を思い出す。トライアングル級の魔法を使う盗賊。通称、「土くれ」のフーケ。貴族を専門に狙うという。まさか学院までは遠征してこないだろう。馬でも片道3時間かかる。

そうか。服を受け取って、寮に戻る頃にはすっかり遅くなっているだろう。夜道に野党が出ないとも限らない。隣を歩くデーボを見あげる。
表情は伺えない。もしかして、本当になにも企んでなんかいなかったのかも。
「そうね……よし」 呟きが漏れる。デーボがこっちを見る。
「あんたに、剣、買ってあげる」 まったく私ってば、なんて使い魔思いなんだろう。そうと決まれば善は急げ。懐から地図を取り出して広げる。あっちね。
ずんずんと進むルイズの後を、デーボが無言で追う。小さく開いた口。閉じた歯の隙間から溜息が漏れ出る。

大股で歩く小さい影と、それを追う大きい影。恋人同士には間違っても見えないだろう。主従の関係が醸し出す雰囲気とは、二人のそれはまた違っている。
一人は自覚していないし、もう一人には心底どうでもいいことだ。

二つの人影が前を行く大小を追いかける。赤い髪と青い髪。


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