ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔-11

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
「ロハンの奴、遅いな……」
フリッグの舞踏会の翌日。ブチャラティはルイズの部屋も前で、岸辺露伴を待ち合わせしていた。
昨日の夜から二人はルイズの部屋では寝ていない。
ルイズが寝た後、二人は部屋の前で解散し、それぞれの部屋に向かう。
そして翌日、ルイズが起きる前に部屋の前に集合し、ルイズを起こすことになっていた。
現在、ブチャラティは男子寮の、ギーシュ隣の部屋に住んでいる。
ほとんど寝泊りするだけなのだが、現代人が安眠できるような寝室の設備を整えられていた。
すべて、グラモン家の者により手配されたものだ。
「遅くなったな。おはよう、ブチャラティ」
露伴がけだるげに歩きながら話しかけてきた。
一方露伴は、コルベールの部屋に隣接する、教員用の部屋を与えられていた。
そこの部屋を仕事場として使用している。デルフリンガーはこの部屋に置きっぱなしだ。
「おはようロハン。だがこの時間では、ルイズが遅刻する可能性があるぞ。おそらく朝食前に自分で洗濯する時間の余裕はないだろうな」
ブチャラティはルイズに、洗濯については自分自身ですることを納得させていた。
「ああ、僕が遅れたのはそのことと関係があるのさ。今日の授業はすべて中止だ。
僕はコルベールと共同でそれを告知していたんだ」
「? とにかくルイズを起こそう」
ブチャラティはドアをノックした。間をおかずにあけようとする。

「開いてるわよ…」
弱弱しい声が中から聞こえる。ブチャラティと露伴が思わず顔を見合わせた。
ルイズは使い魔を召喚してからというもの、かなり寝坊助になっており、普段はブチャラティに起こされるまでは目を覚まさないのが普通なのだ。
「珍しいな、起きているのか。おはよう、ルイズ」
「なるほど、今日の小雨は君のせいだったのか?早いな、ルイズ」
二人が部屋に入りながら朝の挨拶を行った。
「…筋肉痛で、途中で目が覚めたのよ…」
「あんなダンス。長時間するんじゃなかった」
中には、いまだベットにうつぶせに突っ伏しているルイズがいた。
枕を抱えながら、恨めしげにブチャラティを見つめている。半べそをかいているような顔だ。
「教えたのは俺だが、最後まで踊ったのはお前だろうが…」
そう答えたものの、ブチャラティも悪いと思ったのか、いつもよりやさしげにルイズに話しかけた。
「もうかなり遅い。着替えて朝食の準備をするんだ」
「ああ、そうそう。今日のことで連絡がある。本日の授業はすべて中止だ。
ほとんどみんな筋肉痛でね。教師陣もご多分にもれずってやつさ。
オスマンはギックリ腰で大変なことになってる。
ま、メイジにはあのダンスは酷だった。と、いうことかな?」
「……まあ、4時間もぶっ続けでやればな…」
露伴はさも楽しそうにしゃべっている。ブチャラティははしばみ草を噛み潰したような表情をして聞いていた。

「ちなみに、どうしても食堂にこれないようなら、使い魔か何かで厨房の人間に連絡してくれ、とのことだ。後で朝食を持ってきてくれるらしい」
「そんなマナー違反のことはできないわ…ちゃぁんと食堂でとります」
ルイズは気丈な声で露伴に答えた。
「わかった」
「まって、ブチャラティ」
部屋を出て行こうとした二人をルイズが呼び止めた。右手をブチャラティに向けて伸ばしている。
「なんだ?自分で着替えるんだろ?」
「そうだけど……その…」
「その前に起こしてくれない?」

ブチャラティの口から大きなため息が発生した。

何とか着替えを終了したルイズは、筋肉痛に悩まされながらもブチャラティと共に朝食が始まる直前に歩いて食堂に到着することができた。
座っているメイジは皆つらそうな表情をしている。が、ほとんどのメイジがここに集まっている。
さすがに筋肉痛のためだけに、自室に朝食を運ばせるような事は恥ずかしいのだろう。
すでに座っている中に、キュルケがいた。その隣にタバサが座って、朝食のお祈りの時間を待っている。
さすがのキュルケも今日は元気がないようだ。タバサはいつも通りだったが。
「タバサ。あんたなんでそんなに平気なの?」
「普段の運動のおかげ」
―――

朝食後、デザートがメイドによって運ばれてきた。
その中に黒髪のメイドと、彼女の配膳を手伝う露伴の姿があった。
ルイズが驚いたようすでたずねる。
「何であんたがこんなところへ来ているのよ?」
「ああ、手伝いさ。平民はみんな筋肉痛にはならなかったんだが。
一人、急遽寮へ朝食を配達する人間が必要になってね。
その代わりに僕が食堂の配膳の手伝いを行っているんだ」
本来であればこのような事は絶対に手伝わない露伴であるが、今回はマルトー親父たってのお願いである。
断って、彼の機嫌を損ねるわけには行かなかった。
そのような話をしている後ろで、メイドの姿をした少女が何かを拾い、ルイズたちから離れてギーシュに話しかけていた。

「あの、メイジ様?こちらを落としましたか?」
「ああ、すまないね。これは確かに僕のだ。
ミス・モンモランシー特性の香水でね。僕のために特別に調合してくれたんだ」
紫色の香水が入ったビンが、メイドからギーシュに手渡される。
彼の交際は広く伝わっているため、誰も茶化そうとしなかった。
メイドは退室しようとしたが、ギーシュがそれを呼び止めた。
「待ちたまえ、君」
「な、なんでしょうか?」
メイドは怯えきっている。平民が貴族に呼び止められる事は、たいていロクな目にあわない事を彼女は知っていた。
学院の生徒は世間知らずなだけにタチが悪い。運が悪いと、半死半生になってしまうこともあった。

「君、名前は?」
「シ、シエスタです……何か粗相を致しましたか?大変申し訳ございません!」
「いや、謝るのはこちらのほうだ。ミス・シエスタ。
君のような美しい人の名を今まで知らなかったとはグラモン家一生の不覚。
どうだい?今日、一緒に僕の部屋でお昼でも」
「はい、すみません!……ええ?」
「す、すげえ!」
「さすがはギーシュだ」
「もうアイツの二つ名は『二股』でいいんじゃねーか?」
周りが騒然とする中、ギーシュの隣に座っていたブチャラティがたしなめた。
「そこまでにしておけ、ギーシュ」
「これは親切で言ってるんだがな…お前の真後ろに、モンモランシーがいるぞ」

「……え?」
壊れたぜんまい仕掛けのおもちゃのようにゆっくりとギーシュは振り返った。
この隙にシエスタは厨房に逃げ帰ってゆく。

「ウフフフフフフフフフフフフフフフフ……あなたには『躾』が必要のようね…」
「や、やあ。モンモランシー。今日も笑顔が素敵だね」
「そう?ありがとうギーシュ。朝食が終わったら、私の部屋にいらっしゃいな。大切なお話があるの」
『ステキ』な笑顔のまましゃべりつつけるモンモランシー。だが、ブチャラティはある種の『凄み』を感じていた。

「いや、残念だなあ。僕はこれから用事があるんだ…」
逃げるように席を立つギーシュの腕をモンモランシーがつかんだ。あくまでも笑顔のままだ。
「なに?それはわたしのステキな笑顔よりも魅力的な用事なのかしら?」
「い…いや、魅力的じゃ、ないです」
「なら来なさい。今すぐ」
「はい……」

ギーシュは腕をつかまれたまま連行されていった。


「ありゃ?ギーシュはどこにいるか知らないか?」
唖然とするブチャラティに露伴が話しかけてきた。
「多分、当分は用事で戻らないだろうな……」
「まいったな……ルイズに頼まれ事があったんだが…」
頭をかきながら露伴が話を続ける。

彼によると、頼まれ事とは、『ルイズが仕立てを依頼した制服を洋品店まで取ってくる』というものであった。
ミセス・シュヴルーズの授業中に『錬金』に失敗していたときや、自室で爆発を起こした際、ルイズはかなりの制服を失っていた。
おまけに、ルイズは今朝まとめて洗濯を行うつもりだった。が、今朝は筋肉痛なので洗濯ができない。
誰かが代わりに洗濯しても、今朝は小雨なので洗濯物が乾かないかもしれない。これが『火』系統のメイジであれば、簡単に乾燥できたのであるが、あいにくとルイズは『ゼロ』である。
「キュルケに手伝ってもらう案は即効で却下されたし」
結果的に、着られる状態の制服は、今身につけているものを除けばなかった。
そのため、今日中に新しい制服を調達する必要があった。
何でも、露伴はギーシュに『お願い』をすればイイや、と思って簡単に引き受けてしまったという。
「おまえ、そういうのは自分で行けよ…」
「でもさ。ルイズが仕立てた場所が問題なんだ」
場所はブルドンネ通り沿いにある、洋品店である。
修繕を行った洋服店は言って普通。というかまじめで健全な店なのだが…
なんというか、その…主力商品が貴族用の女性の下着などで…
男性には非常に入りにくい店なのであった。
「君も知ってると思うが、仕立てを頼んだ店が『例のあの店』なんだ」
「それは知っている。デルフリンガーを買った日、お前を見つける前にその仕立て屋で注文してたからな…
でもその頼みを聞いたのはお前だろう。ロハン、君自身が取りに行くべきだ。」
「いや、そうでもないさ」
「なぜなら、正確にはルイズは『自分の使い魔』に頼んだんだ。それに、ルイズが筋肉痛なのは君が教えたダンスのせいじゃあないか?」
「ぐッ……」
思わぬ反撃に口をつぐむブチャラティ。
露伴はすかさず反撃に出る。
「でも、まあこの状況下だと、僕たちどちらか一人がとりに行かなきゃならないだろーな」
「そこでだ。ここはひとつ、勝負しないか?」
――――

「ところで、露伴。君、もし目の前に大金の入ったカバンが落ちてたら…どうする?」
ブチャラティがにこやかに話しかけている。
「もちろん拾うさ」
ロハンも機嫌よくリラックスした表情で返答した。
「じゃあ、俺が私服警官で、それを見ちゃってたら?」
「『ヘブンズ・ドアー』で記憶を消すな」
「ハハハ、君ならそーするだろうな」
「ああ、そーするな。フフフ…」

「フフフフフフフフフフフフフフフフ 」

「ハハハハハハハハハハハハハ」


二人の笑い声がタイミングよく止まる。両者とも、目は笑っていない…
ここはトリステイン魔法学院の食堂、アルヴィーズの食堂である。
ブチャラティと露伴は長大なテーブルの中央付近に、対面して座っていた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


二人の間のテーブル上に、無造作にばら撒かれたトランプの山ができていた。
露伴とブチャラティはババ抜きをやっている。
現在、ブチャラティが2枚、露伴が1枚の手持ちであり、露伴がカードを引く番だ。
ブチャラティは左肘を机につき、左拳で頭を支えていた。カードは右手で持っている。
露伴が意を決して相手のカードを引こうとしたとき、不意にブチャラティが話しかけた。
「君は『右』を選ぶな…違うか?」
「…僕を揺さぶるつもりか?」
「ああ…そうさせてもらおう」
「君は僕に、『自分は右を選ばせたい』と思っている…」
「だから、普通に考えれば右が『ババ』ということになるが…僕がそーいう風に考えることも考慮して左に『ババ』をしてるかもしれない…
しかし、君の最大の目的は…このように僕に無駄な思考をさせて疲労させ、『精神的な隙を作ろう』ということだ…違うかい?」

お互い『ババ』を引き合う状況が続いていた。3時間も。
朝食が終わってからすぐ始めたが、もうすぐ昼食の準備を始めなければならない。


「さてね…ど ち ら が『ババ』だろうな?」

「僕は前回まで3回連続で『右』を選んで『ババ』を引いた…
そうすると、なかなか『右』は選びにくいってモノが人情だろ?」
「だがな…ここはあえて『右』を選ぶ!悪運の『右』を味方につけてやる!!!!」

彼が選んだのは、『右』のカード。
露伴は、自らの息を止め、引いたカードを裏返してゆく。カードの図柄を確認するためだ。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドド



「イヤ、マジに恐れ入ったよ。君はやはりものスゴク根性のある奴だ…」
「……」
露伴がめくったトランプには、生意気そうなボストンテリアの絵が描かれている。
嫌な汗を出す露伴。対照にブチャラティはほっとした様子で自分の額の汗を腕でぬぐっていた。
「君ならあえて『右』を選んでくれると思っていたよ…」
「フン、君にたった一つチャンスが増えただけじゃあないか。今度は君が『ババ』を引く番だ…」
いかにも余裕をぶっこいた口調であったが、露伴の唇の端がピクピクと動いているのを
ブチャラティは見逃さなかった。

「あ、あの~」
露伴の背中に可愛らしい声がかかった。
今朝露伴と一緒にデザートを配っていたメイドだ。
「私、何でここにいなきゃいけないのかわからないんですがぁ…」
「お仕事、戻っていいでしょうか?」
彼女はここにいるのがとてもむず痒いかのように、左手の甲を右手でをさすりながら露伴に話しかけた。
本来なら、この食堂には平民はいてはいけないのだ。
いくら今日が休日扱いだとしても、三人の平民が特別な用もないのに、
このようなところにいるのがメイジにばれたならどんな目にあうかを想像して、彼女の瞳は怯えの色を強くした。
「いや、だめだシエスタ。マルトー親父さんには許可をもらっている。
君にはここにいて、どちらとも『スタンドを使っていない』という監視を続けてほしい」
「わ、わかりました…」
(それにもう、とてもここの雰囲気に耐えられないんですぅ~)との心の声をグッとおさえ、彼女は張り付いた笑顔で突っ立っているしか方法がなかった。


「絶対お前に行かせるぞッ!!ロハン!!」
「いや、あそこに行くのは君のほうだッ!」
「あの…お二人とも、お互いにどちらに行かせようとしてるんですか?」
「ああ、洋品店の『エルメェス』だ。そこでルイズが制服を作らせていてね。
どちらかがとりに行かなくちゃあならないんだ。それも今日中に」

「それなら……私が行きましょうか?」



「「あ」」
この日、とてつもなくさわやかな笑顔で馬に乗り、疾走するメイドの目撃情報が相次いだ。
「ぶっちゃけホレた」とはマリコルヌの談。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー