ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

決闘! 青銅vs白金

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決闘! 青銅vs白金

ヴェストリ広場。普段人気のないこの場所は、噂を聞いた生徒であふれ返っていた。
「諸君! 決闘だ!」
ギーシュが薔薇の造花を掲げ、歓声が上がる。
しかしそんな中、ルイズは不安げに黙りこくっていた。
承太郎は無言でギーシュを睨みつけている。平民が、貴族に勝てる訳ないのに。
「逃げずに来た事は褒めてやろうじゃないか」
「…………」
「フンッ、無愛想な奴だな、まあいい、始めるか」
ギーシュがそう言った瞬間、
承太郎は両手をポケットに突っ込んだまま無防備に歩き出した。
(あの馬鹿! 殺されるつもり!?)
ルイズは心の中で叫ぶ。
承太郎がギーシュに殴りかかる前に、二人の間に飛び出して止めるべきだろうか。
貴族であり承太郎のご主人様である自分が謝ればギーシュも許してくれるかもしれない。
しかし無情にもギーシュは薔薇の造花を振った。
花びらが宙を舞い、甲冑を着た女戦士の人形が現れた。
身長は人間と同程度、硬い金属製らしく淡い陽光を受けてきらめいている。
「ほう……それが魔法ってやつか」
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」
「…………」
「言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。
 従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手をするよ」
ワルキューレと呼ばれた甲冑騎士が承太郎に向かって突進し拳を繰り出す。
その右拳が、ブウンと大きく空を切った。承太郎がサイドステップで回避したのだ。
「ほう、平民のくせになかなかいい動きをするじゃないか」

己の優勢は変わらないとばかりに、ギーシュはワルキューレを操る。
右手、左手、右手、左手、次々と拳を連打する。その一発一発の迫力を見て観客は歓声を上げる。
あんなの一発でも喰らったらお陀仏だ。
一発でも喰らったら。
右手、左手、右手、左手、次々と拳は空振りする。
ようやくギーシュは事態を飲み込みだす。拳が、全然、ちっとも、当たらない!?
「所詮、青銅は青銅か」
承太郎が呆れたように言う。
野次馬達がざわめき出し、ギーシュは承太郎を睨みつける。睨み返される。
「同じ騎士でも……俺の知る『銀』の騎士はもっと素早かったぜ」
「な、何だと!?」
「扇風機みてえにブンブン振り回すだけなら生身で避けられるぜ。
 青銅のギーシュとか言ったな……だったら覚えとけ!
 てめーが『青銅』なら! 俺は『白金』だァー!!」
「黙れー!」
ワルキューレが拳を振り上げ、思いっきり承太郎に殴りかかる。
またしても避けられるかと思った一撃を前に、承太郎は動かない。
その光景に多くの生徒は困惑し、一部の生徒は興奮し、ギーシュは勝利を確信した。
ルイズは顔面蒼白になって唇を震わせ――承太郎の姿がかげろうのように一瞬歪み――。
「や、やめ……」
大気が震えるほどの轟音が響き、腹部を陥没させたワルキューレがほぼ垂直に宙へ舞った。
上昇し、そして落下するワルキューレの軌跡を全員の視線が追う。
無残にも、ワルキューレは地面に激突し動かなくなった。

何が、起きたのか、ギーシュも、ルイズも、誰も理解できなかった。
気がついたらワルキューレがいきなり吹っ飛ばされていた。

ルイズは慌てて承太郎を見る。両手はポケットに突っ込んだままだ。
だったら、膝で蹴った? 膝であのワルキューレの甲冑をへこませた?
馬鹿な、貴族とか平民とか関係なく、人間の力では無理だ。
そう、拳だろうと膝だろうと、素手の人間にあんな真似はできない!

「何を……した?」
ギーシュが問う。その表情には困惑と、焦りの色が浮かんでいた。
一方承太郎は無言にして平然。ギーシュを真っ直ぐに睨んでいる。
「何をしたと聞いているんだ! 平民!」
「さあな……自分で考えろ」
承太郎が一歩前に踏み出す。その足音が、重い。まるで腹に響くようだ。
ギーシュは直感的に危機を感じ、再び薔薇の造花を振るう。
花びらが舞って新たに六体のゴーレムが現れた。
全部で七体のゴーレムを操るのがギーシュの能力。
野次馬の生徒達はギーシュが本気を出した事に驚いた。
「ほう、一度に複数の騎士を操れるのか。たいしたもんだ」
「かかれぇー!」
一体のワルキューレを盾代わりに自分の側に置いたギーシュは、
残りの五体をいっせいに承太郎へ向けて飛びかからせた。
ギーシュは承太郎が何をしたのか見極めようと、承太郎の動きを観察する。
ワルキューレが迫る、承太郎は両手をポケットに突っ込んだまま悠然と歩いている。
ワルキューレが殴りかかる、承太郎はポケットに手を突っ込んだまま。
いや! 違う! ギーシュは目を見開いた。
承太郎の右手が一瞬だけ飛び出し、ワルキューレの頭をひしゃげさせた。
しかし承太郎は右手をポケットに入れたままだ。
「何だ! 何をしたんだ!?」

承太郎は右手をポケットにしまったまま、右手でワルキューレを殴り飛ばしたのだ。

ありえない光景にギーシュの頭は混乱する。
新たなワルキューレが承太郎に掴みかかろうとして、今度は左の肘で胸元を打たれる。
続いて手刀がワルキューレの右肩から胸までを引き裂くように陥没させる。
先程同様、承太郎は左手をポケットから出していない。
その異様な光景に周囲の生徒達がざわめき出した。

「あの平民、何をしたんだ?」
「手が増えたように……見えたような……」
「ま、まさか魔法を使ったのか!?」
「よく見ろ! 奴は杖を持っていないじゃないか! 魔法なんて使えるはず……」
「い、いや、ギーシュの薔薇みたいな、小さな杖を隠し持ってるのかも」
生徒達の騒ぎ声を承太郎はしっかりと聞いていて、ようやくポケットから手を出した。
「……やれやれだぜ」
帽子のつばをつまんで、わずかに下ろす。
「こ、答えろ! 貴様、まさかメイジなのか!?」
ギーシュが怒鳴り、二体のワルキューレを承太郎の左右に配置する。
残る一体は位置を動かさず己の警護につけたままだ。
「どうやら見えているらしいな。
 てめーが『メイジ』だからか、それとも『この世界の人間』は全員見えるのか……」
「見えて……? 何の話だ!
 さっきから僕のワルキューレを殴っている『それ』はいったい何だ!?」
「俺はてめーら貴族が気に入らねぇ。だから親切に教えてやる理由はねーぜ。
 俺の能力の正体より……自分の身の安全を心配するんだな……」
「わ、ワルキューレ!」
ギーシュが薔薇を振る。
先程まで素手で殴りかかっていたワルキューレが、地面から錬金されたスピアを装備した。
「へ、平民が、貴族に逆らうなんて……あってたまるものか~ッ!」
悲鳴のように叫んだ直後、二体のワルキューレが左右から同時にスピアを突き出す。
「スローすぎてあくびが出るぜ。俺を倒したかったらこんなすっとろい奴を二匹出すんじゃなく……。
 残像で何人にも見えるような超スピードで動きッ! 凄まじいスピードと優れた剣さばきのッ!
 シルバーチャリオッツみてーなゴーレムを作るんだなーッ!!」

承太郎はスピアが刺さる直前に地を蹴って飛び上がり、空中で上下回転し両手を伸ばす。
その手はスピアの直前で止まり、そこからさらに異なる腕が伸び! スピアを掴んだ!
「オラァーッ!」
ワルキューレを殴り飛ばすほどの腕力で掴んだスピアを、承太郎はそれぞれ内側に引っ張る。
すなわち挟み撃ちをしてきた左右のワルキューレがお互いの腹部をスピアで貫くという、
同士討ちの形にして倒し――承太郎は軽やかに二体の残骸を背に地面へ着地した。
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
鋭い双眸が睨むのは、最後の一体のワルキューレの影に隠れる青銅のギーシュ。
「くっ、くく、来るな、来るなぁっ!」
ギーシュは半狂乱になって叫んだ。否定した、拒絶した。
まさか、こいつは平民のはずだ。なのになんだ。魔法が使えるなんて反則だ。
でもこんな魔法は見た事がない。系統は何だ!? 火? 水? 風? 土?
それとも……それとも、先住魔法だとでもいうのか!? あるいは、失われた……伝説の……。
混乱しながらも最後のワルキューレをけしかける。
スピアを持って一直線に承太郎へ向かって突進する。
その重量感、速度、物理的な破壊力は十分のはずだった。
承太郎はそのスピアの先端を、左手から出した左手で掴んでワルキューレの重量すべてを受け止めた。
そして、右手から出した右手でワルキューレの腹部を殴る。
「オオオラァッ!」
拳がワルキューレの腹部を貫通したと思った直後、かげろうのようにもうひとつの右腕は消えた。
粉砕されたワルキューレの装甲の破片が飛び、ギーシュの指をかすめて薔薇の造花を弾き飛ばす。

――杖を落とされたら負け。それが決闘のルール。

だが空条承太郎はそんなルールをご存知ない! 構わずギーシュに向かって前進する。
彼が一歩踏み出すごとに地響きが起きているような錯覚をギーシュは覚え、
恐ろしさに後ずさりをした時にはもう、承太郎は彼の眼前に立って見下ろしていた。

「ひっ……ま、参っ……」
「オラァッ!」
承太郎はスタンドを使わず、生身の拳でギーシュの鼻っ柱を叩いた。
大仰に転倒したギーシュは、鼻からボタボタと血をこぼし、涙目になっている。
以前の承太郎なら、ここからさらに追い討ちをかけ必要以上にぶちのめすところだが、
ここがアウェイだという事実と、仲間との旅で成長し多少丸くなった性格がそれを押し留めた。
「立ちなッ! ぶっ倒れてるところ悪いが……てめーにはまだ『用』がある」
威圧感たっぷりの声を聞き、ギーシュは震え上がった。
まさに一目瞭然! この勝負、使い魔平民承太郎、彼の完全勝利である。
その光景にもちろん野次馬一同驚愕した。
キュルケはすっかり興奮し、熱のこもった視線を承太郎に向けている。
無関心に思えたタバサも、承太郎がワルキューレを一体倒したあたりから異変に気づき、
冷静に承太郎の動きを観察し、決着が着く瞬間まで承太郎から視線を離さなかった。

ルイズは、混乱していた。
承太郎の腕から出てきた異なる腕。
あれは魔法? ジョータローはメイジ? 魔法だとしたら系統は何? 私の使い魔は何者?
ギーシュを倒した。ドットクラスとはいえ、メイジを倒した。圧倒的な力の差を見せつけて!

――私は、いったい何を、誰を召喚してしまったの?

自分が今、何をすべきか解らない。
勝利した使い魔を褒めればいい? 貴族を傷つけた使い魔を叱ればいい?
むしろ――自分が彼をどうこうする資格などあるのだろうか。
私はご主人様、けれど魔法が使えない。
彼は使い魔、けれど魔法らしき不思議な力を使える。
野次馬達が上げる歓声が、やけに遠くに聞こえた……。


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