ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

仮面のルイズ-16

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匿名ユーザー

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「ミス・ロングビル、非常に言いにくいことなのじゃが……君はミス・ヴァリエールに利用されたかもしれん」
オールド・オスマンが机の上に小さな箱を置く、その中には小指の先ほどの石ころが、沢山詰まっていた。
ルイズの部屋から回収された『それ』は、元々は仮面の一部だったという。
オスマンが試しに血を一滴垂らしたところ『骨針』と呼ばれる針を飛び出させたが、その衝撃に耐えられず粉々に砕け散った。
『石仮面』と呼ばれるそれは、人間を吸血鬼へと変身させるそうだ。
リサリサは石仮面によって吸血鬼になった人間と、その吸血鬼を捕食する存在と戦い続けてきたらしい。

石仮面がルイズの部屋にあったという事は、ルイズは石仮面を被り吸血鬼になってしまった可能性が高い。
もしくは、何者かを呼び出して吸血鬼にされてしまったのか…

どちらにせよ、ルイズはロングビルを目撃者に仕立て上げる事で、「ルイズは死んだ」と思わせたのだと言う。

「そんな突拍子もない話を言われても、俄には信じられません」
ロングビルが答えると、オスマンは疲れたようにため息をついてから、ロングビルに言った。
「ま、考えすぎならそれに超したことは無いがの。じゃが石仮面が現れたという事実は受け入れねばならん」

ここに来てロングビルは、石仮面というキーワードがどれだけ危険なのか認識した。
現在、ルイズは石仮面を名乗っているはずだ、オールド・オスマンの耳に石仮面の名が届けば、真っ先に吸血鬼だと疑うだろう。
オスマンの話を聞いて、ロングビルは心の中でルイズに毒づいた。
(あの娘ったら、石仮面なんて名乗るのはマズイわよ)
次に考えるべき事は、吸血鬼に対する対抗手段と、吸血鬼の能力をどの程度認識しているかを知ることだ。
ロングビルは、オールド・オスマンから可能な限り情報を引き出そうと、質問の内容を変える事にした。

「しかし、吸血鬼の討伐なら今までにもあったと思いますが、なぜ『石仮面』にだけ、神経質に?」
「………それはじゃな」
オールド・オスマンは机の引き出しから一冊の本を取り出す、それは、土くれのフーケが盗み出し、ロングビルが持ち帰った事になっている、あの本だった。
「ミス・ロングビル、この本の表紙が読めるかね?」
「いいえ、見たこともない文字ですわ」
「じゃろうな、この本に書かれた文字はシエスタの曾祖父の故郷の文字じゃ、ワシも全ては読めん、しかしいくつかの項目を抜粋する程度ならできる」
そう言ってオールド・オスマンは本を開く。
てきとうなページを見つけ、指でなぞりながらその部分を読んだ。
「ええと…”吸血鬼は自らの血液を用いることで白骨死体をも蘇生させ、グールとして使役する”」
「…白骨? 蘇生?」
ルイズの再生能力は見て知っているが、白骨をグールとして再生させると聞いて、ロングビルが驚く。
「他にもあるぞ。”ハルケギニアにおける吸血鬼と異なり先住の魔法を使うことはできないが、グールを際限なく作り出すことが可能である…”」
「さ、際限なく!?」
基本的にハルケギニアで吸血鬼と呼ばれる存在は、グールを一人一体しか持つことが出来ない。
牙を隠せばディティクト・マジックでも反応しないため、先住魔法とも違う能力ではないかと言われている。
そんな凶悪なものが、魔力とは関係なしに際限なく作り出せると言うのは尋常ではない。「ミス・ロングビル、肝心なのはここからじゃ、心して聞きなさい」

『波紋は、太陽の生み出すエネルギーと同一の波長を持ち、生命力そのものを司る。
 しかしハルケギニアに於ける太陽光は、その波長が微弱であると考えられる。
 石仮面により吸血鬼と化した者、ならびにグールは、太陽の元を堂々と歩き、人類を蹂躙する危険が…』

「…………」
ロングビルは、何も言えなかった。
ルイズが太陽光の下を堂々と歩けるのは、直接見て知っている、しかしグールまでもが日中堂々と活動し、しかもその数を無数に増やしていたら、途方もなく危険なことだ。
そうなれば、誰と会うにしても安心できなくなる。

何よりも疑心暗鬼による人間同士の戦乱に発展が勃発してしまうかもしれないのだから。

「…驚くのも無理はなかろ、ワシが危機感を持った理由を、分かってくれるかの?」
いつになく真剣な、どことなく疲れたような表情でオールド・オスマンが言う。
ロングビルは何も言えなかった。
ただ、ルイズが言っていた言葉を頭の中で反芻していた。

『人間から少し血を貰うかもしれないけれど、食屍鬼(グール)にはしない。奴隷なんて欲しくないし、人間とは仲良くしたいもの』
(信じて良いんでしょうね…本当に、本当に信じて良いんでしょうね…!)

「ミス・ロングビル」
「はっ、はい!」
「ミス・ヴァリエールが吸血鬼だというには、説得力に欠けるかもしれん。しかし万が一の可能性を考えて、今から対策を練らねばならんのじゃよ」
「………」
ロングビルは無言だった。

オスマンは、命の恩人が吸血鬼だったという説をロングビルに突きつけたのだ。
ショックを受けるのは仕方がないだろうと考えて、要点だけを説明することにした。
「君はワシに”土のライン”だと説明したが、実力は”トライアングル”じゃろう、家名を失った以上、実力を隠したいのも分かるが…波紋を効果的に活用するための”道具”を作りたい。そのために練金に長けた者が必要なんじゃ、分かってくれ」
トライアングルだと気づかれていたのは驚きだが、石仮面の話に比べれば、まだまだ些細なことだ。
「え…つ、つまり、ミス・シエスタに協力しろという事なのですか」
「その通りじゃ、表向きは『珍しい魔法の調査』で通してくれ。魔法が必要なときは彼女を手伝ってやって欲しいしのぉ」

ロングビルは顎に手を当てて、少しだけ考え込む素振りを見せた。
「…わかりました、私で役に立てるなら、やらせて頂きますわ」
「すまんの、本当に申し訳ない、君にとっても、シエスタにとっても、ヴァリエールは恩人じゃろうて。だが、その恩人がハルケギニアを危機に陥れかねんのじゃから…」

懐から杖を取り出したロングビルは、胸の前で杖を掲げた。
「もう、こんな形で誓うことは無いと思っていましたが…”杖にかけて”」

オールド・オスマンは、満足そうに頷いた。

タルブ村で昼食を取った三人は、日が沈む前に魔法学院に帰っていた。
「~♪」
「キュルケさん、すごく嬉しそうですね」
ワイン樽を抱きしめるように抱えて歩くキュルケは、鼻歌交じりでかなり機嫌のようだ。
タバサは考える。
キュルケが男の話をするときも、貴金属の話をするときも、サラマンダーを召喚した時も、あれほど楽しそうな姿は見せなかった。
つまり、今のキュルケの状態は一言で言うと…
「酔ってる」
「…やっぱり、そうですよね」
タルブ村で飲んだワインは極上とは言わないが、とても飲みやすく、そして軽い。
キュルケは昼間なのに何杯もお代わりし、このワインを買いたいと言い出した。
ベリッソンからプレゼントされた金貨300枚相当の指輪をシエスタの父に押しつけて、樽ごと酒を貰ってきたのだ。
タバサはキュルケに駆け寄ると、キュルケの代わりにレビテーションを唱えて樽を奪った。
そしてキュルケの手から杖を抜き取るが、キュルケはそれに気づいていない。
「泥酔……。介抱してくる」
レビテーションを唱え、タバサはキュルケと酒樽と部屋へと運んでいく。
「空を飛べるって、いいなあ」
シエスタは、メイジにとっては当然の技術を見て、心底羨ましそうに呟いた。


学院長室に行こうとしたシエスタは、廊下でミス・ロングビルとすれ違った。
「あ、ミス・ロングビル、ただいま戻りました」
「………あ、ミス・シエスタ、オールド・オスマンがお待ちですよ」
「はいっ」
ロングビルは、元気よく返事をしたシエスタの後ろ姿を見送った。
ふぅ、とため息をつく。

とりあえず『石仮面』という名前は危険だと、ルイズに忠告しなければならない。。
次に、シエスタがルイズを殺すために育てられようとしていると伝えなければならない。
でも、そんな残酷なことを、どうやって伝えればいいのだろう………



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