ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

敗走! ジョータローと逢えてよかった

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敗走! ジョータローと逢えてよかった

降り続けた雪により銀色に染められたアルビオンの降臨祭十日目、最終日。
街の西側に駐屯していた連隊が武装してやって来たと思ったら、連合首脳部の泊まる宿をいっせいに襲撃した。
反乱である。
街の西区に駐屯していた連隊および一部ゲルマニア軍が反乱を起こし、各地で連合軍と交戦を開始した。
シティオブサウスゴータに駐屯していた部隊の崩壊は早く、反乱などまったく予期していなかったために指揮系統は混乱していた。
反乱の原因すら解らない。兵から不満の声が上がっている訳でもないし、内通者らしき存在もまったく無かった。
勝利を祝った戦友が虚ろな表情で武器を向けてきたがため、王軍の士気は低く戦意を持てないものまでいる。
昼前には市内の防衛線は崩壊し、至る所で王軍は壊走を開始した。
そして偵察の竜騎士の報告により、アルビオン軍主力がシティサウスゴータを目指し進軍を開始したとの知らせも入る。
連合軍はロサイスまでの退却を決定。
この命令は慰問隊には一切知らされぬまま実行され、魅惑の妖精亭の面々は承太郎が知らせてくれねば置いてきぼりになるところだった。

ロサイスに到着した連合軍は、まだ危機を脱した訳ではなかった。
事情を飲み込めてない王政府は撤退を認めず、やっとの事で許可が出たのは半日後。
敗軍が乗船を開始した時、アルビオン軍主力の進軍が予想より早いと報告が入り、連合軍すべてが乗船しアルビオンから退却するより早く、主力五万に連合軍から離反した二万を加えた七万の軍がロサイスに到着する方が早い。
連合軍が生き残る手段はひとつ、七万の大軍を足止めするしかなかった。


ルイズは意気消沈していた。
今までにない最低な喧嘩を承太郎としてしまい、ただでさえ気分は最悪なのに、反乱が起きて大混乱になりロサイスまで敗走してしまうだなんて。
楽しかった降臨祭の最後がこれだなんて、あんまりだ。
でも、ルイズにはまだそれよりさらに最悪たりえる事態が迫っていた。
それは乗船を待つための天幕にまでやって来た伝令兵が伝えてきた。
司令部へ来い、との命令を聞きルイズは一人で命令を受けに行く。
そして、蒼白な顔で司令部から出てきたルイズは、なぜかロサイスの街外れに向かう。
気になった承太郎は、それがルーンの働きかけなのか解らぬ苛立ちを噛みしめながら、ルイズの後を追いかけた。街外れの寺院に到着すると、
ルイズは馬丁から馬をもらいまたがろうとした。
そのルイズの肩を、承太郎が掴む。
「そっちは街の外だぜ」
「……解ってるわよ」
震える声で答えるルイズの握られる命令書を目ざとく見つけた承太郎は、スタープラチナを使って即座に奪い取り目を通す。
「……何だこれはッ」
「字、勉強したんだから読めるでしょ? 虚無の魔法で敵軍を足止めするの」
ルイズが答えると、命令書に興味を持ったデルフリンガーが鞘から口を出す。
「おでれーた。しんがりを任されるたぁ、すげーな。
 しかも敵軍は七万ときた。てーしたもんだ。でもどうやって足止めすんの?」
命令書にはこう書いてある。
『ここから五十リーグ離れた丘の上で待ち構えて虚無を放て。
 敵に見つからぬよう、陸路で迎え撃ち、魔法が尽きるまで敵軍を足止めせよ
 尚、撤退も降伏も認めない。何としても街道を死守せよ』
つまり、死ね、と命令されたのだ。ルイズは。
「……本気で行くつもりか?」
「……何よ。心配してるの? 私みたいな女、嫌いなんでしょ?」

ルイズは承太郎を睨みつけたが、瞳には恐怖や悲しみの色が濃く刻まれていた。
だがそれでもルイズは任務を遂行しようとする。
「軍は私を認めてくれている。虚無の私を認めてくれている。
 だからこんな大役を仰せつかる事ができたの、とても名誉な事だわ。
 私が行かなきゃ、みんなが死ぬ。ギーシュやメイド、魅惑の妖精亭のみんなが。
 ……私の事はほっといで。私はあんたのご主人様になれなかった……駄目なメイジよ」
肩に乗った承太郎の手を払い、しかしルイズは馬に乗ろうとしなかった。
どうしてだろう。行く覚悟はできているのに、足が動かない。
承太郎がすぐ後ろにいると思うと動けない。
その瞬間、雷が全身を駆け巡るかのように、ルイズは唐突に閃いた。

――ああ、そうか。ジョータローと喧嘩したままじゃ、イヤなんだ。

閃いて、顔が熱くなる。何で、そんな事を閃くのか考えつくのか思ってしまうのか。
相手は、無口で、デカくて、無口で、何考えてるか解らなくて、無口で……。
そんな奴を相手に、どうしてこんな気持ちになってしまうんだろう。
昨日、言われたのに。

『俺はてめーみたいなうるせえ女が一番ムカつくんだ!』

一番、一番……誰よりも、ムカつく相手。それがルイズ。
ふと、ルイズは思い出した。
フーケのゴーレムの下から承太郎が現れた時の安堵と喜び。
ワルドが裏切った時、壁を破って承太郎が現れた時の安堵と喜び。
ヴァリエールの湖の上で、承太郎が手を差し伸べてくれた時の……。

カァッ、とますます顔が熱くなる。
自覚してはいけない、必死に目をそらしていた感情が湧き出てくる。
もし相手が普通の貴族の男性だったなら、目をそむけなかったかもしれない。でも。

「ジョー……タロ。あんたが私の事を嫌ってるっていうのは、よく解ってるわ。
 キュルケみたいに色っぽくないし、タバサみたいに賢くないし、
 メイド……シエスタみたいに料理が得意じゃなければ素直でもない。
 何より、すぐ怒鳴って、やかましくて、ムカつくんでしょ?
 でも、最後のお願いくらい、聞いてくれる?」

どうせ、どうせ死んでしまうなら。
連合軍の盾となって、七万の軍勢に蹂躙されて死ぬのなら。
せめて、最後に――。

ルイズが振り返ると、厳しい表情の承太郎が言葉の続きを待ってくれていた。

「結婚式、したいの」

恐る恐る差し出した手を、承太郎が優しく掴み返す。
するとルイズは高鳴る鼓動を必死に抑えて、寺院の中に向かった。
「か、勘違いしないでよね。あんたが私の事を嫌ってるのは知ってるし、私だって別にあんたの事、そんな目で見てたりなんかしないんだから。
 ただ……やり直したいの。結婚式の思い出が、裏切り者のワルドとだけなんて、それって……すごくさみしいって言うか……だから、この際、あんたでもいい」
寺院の中にはすでに人影は無かった。
ステンドグラス越しの夕陽が荘厳な雰囲気に仕立て上げ、静謐な空気が漂う。
ルイズは祭壇の前まで行くと、承太郎と向かい合った。
何を考えているのか解らないポーカーフェイスの承太郎は、相変わらず無言。
誘ったのは自分なんだから、何か言わなくちゃ、言わなくちゃと焦燥感がつのる。
「ち、誓いの言葉、言わなくちゃ。ええと……えっと、えと……」
「悪いがウェールズが言ってた誓いの言葉は覚えてねーぜ」
「て、適当でいいのよ、適当で。どうせ、その、お遊びみたいなものなんだし」
そう、こんなものはお遊び。ごっこ遊び。
でも、それでもちょっとは、照れたり、恥ずかしがったり、戸惑うとか、嬉しそうにするとか、してもいいんじゃない?
何で無言。何で無表情。何を考えてるのか全然解んない。ほんと、解んない。

「わわ、私……ルイズ・フランソワーズ……は、その」
一生懸命言葉を考えるうちに頭が茹だってきて、訳が解らなくなってくる。
何を言えばいいかなんていくら考えても解らないし、いっそ勢いに任せて唇がつむぐがままに何か喋ってしまえばいいかもしれないとも思う。

「私は……!」
うん、それがいい、そうしよう。思考を放棄して後は本能に任せよう。
「あんたを勝手に召喚しちゃって、悪かったと思ってる」
今さら謝るの? もう嫌われちゃっているのに。
「で、でも。あんたは異世界の人間だから、召喚しなきゃ、一生……逢えなかったから」
逢えなかったら、この今は無かっただろうから。
「例えあんたにとっては不服でも、私は、ジョータローと……」
つらい事もあったけど、嫌われたりもしたけれど、今までの過去を否定したくないから。
「ジョータローと逢えてよかった」
これは私の、正直な気持ち。だと思う。
「この際だから、あんたも好きな事、何でもいいから言ってみなさいよ。
 ……私への文句だろうと、特別に許して上げるわ」
これで最後だから、正直な気持ちが聞きたい。
正直な気持ちが――。

「ルイズ。おめーはわがままで口うるさくて高飛車で偉ぶっていてムカつく」
特別に許すって行ったけど取り消したい気分になるルイズだった。
怒りがフツフツと燃え上がり、顔がさっきまでとは違う理由で赤くなる。
「だが……誇り高い貴族であろうという志の高さは認めていた」
持ち上げてから落とすのと、落としてから持ち上げるの、それぞれ違った効果があるけれど、まだ話の途中みたいだから油断はできない。
「……かつてDIOを倒すために旅をした仲間達のように……。
 いつしかお前を信頼している自分に気づいた……だが……」
だが、と来た。だが、何なのか。
ルイズにはその続きが想像できなかった。
「その気持ちが俺のものなのか、ガンダールヴのルーンによるものなのか判らなくなった。
 おめーの虚無の詠唱を聴くたび、俺の精神は昂り、同時に安らぎを覚えた。
 デルフリンガーが言うにはそれがガンダールヴの本能らしい……。
 そしてコントラクト・サーヴァントした使い魔は主人に忠実になるそうだな。
 人間を使い魔にした場合も同じような効果があったとして不思議は無い……」
「あ……あの、ジョータロー? 何の……何の話よ、それ」
「だから……これが俺とガンダールヴ、どっちの気持ちかは解らねーが……。
 ルイズ、俺はお前を見殺しにはできない。仲間を喪うのは……二度とゴメンだぜ」
「ジョ……」
「アルビオン軍は俺が足止めする」
突然承太郎はスタープラチナを発現させ、ルイズの首に当て身を食らわせた。
意識が暗闇に落ちる中、ルイズは承太郎に抱き支えられるのを感じた。

ルイズが気絶したのを確認すると、空気を読んで黙っていたデルフリンガーが口を開く。
「結局相棒は伝説通り虚無の盾になるつもりかい?」
「……俺の精神がルーンによって操作されたものなのかは解らないが、少なくともルイズの精神は操られたものじゃあない……それで十分だ」
承太郎の瞳には、エジプトへの旅の間ずっと宿っていた黄金色の光が、色あせる事無く輝いていた。まるで星のように。

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