ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

刻印! 三人目の足音

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刻印! 三人目の足音

「虚無の担い手と使い魔はそれぞれ四人ずつ。
 伝承だと四つの王家から虚無の担い手が生まれるらしいっス。
 ロマリアは俺の召喚者さんと、この俺ヴィンダールヴの東方仗助。
 トリステインはルイズさんとガンダールヴの承太郎さん。
 ガリアはジョゼフ王で、使い魔は何者なのかは不明……。
 ただ、その使い魔がレコン・キスタに協力してるって噂もあります。
 これが俺の召喚者から聞いた虚無の情報です」
さらっととんでもない情報を吐く仗助に、ルイズは目を白黒させた。
「あああ、あんた、それ軍の司令部には報告したの?」
「まさか。承太郎さんとルイズさんが特別ってだけさ、同じ虚無仲間ですからね~」
場所はルイズの天幕で、夜も更けた頃仗助がこっそり訪ねてきたと思ったら、
いきなり虚無に関する大暴露を開始したのでルイズは驚きっぱなしだ。
「俺や承太郎さんが元の世界に帰るためには、ルイズさんの協力も必要だしよぉ~。
 レコン・キスタが狙ってる聖地をロマリアも狙ってるんスよ。
 そのためには虚無の力がひとつでも多く必要で、
 聖地に行けば虚無の伝説について色々解るはずらしいんです。
 つまり『元の世界に帰る手がかりも聖地にある』ってのが俺の召喚者の考えなんだよ」
それを聞いてルイズは複雑な気持ちになる。
承太郎は、元の世界に帰さなきゃならない。
でも……承太郎がいなくなってしまうのは、何か、ヤだ。
使い魔がいなくなるというのも困るけど、もっと違う理由があると思う。
その理由から目をそらしていると自覚して、理由を知る事を恐れている。
承太郎は、この世界に残る気は無いんだろうか?
もし残ってくれたら、嬉しい。
しかし承太郎は表情ひとつ変えず、感情を読ませない。

「やれやれ……聖地か。今はレコン・キスタとの戦争でそれどころじゃあねーな」
「だから連合軍を勝たせるべく俺が来たって訳っスよ~。
 俺と承太郎さんがいりゃあ怖いモン無し!」
異世界に召喚され、知り合いどころか日本人すら一人もいない毎日を送ってた仗助は、
承太郎と再会できた事によりかなりテンションが上がっていた。
といっても十七歳の承太郎のため、ある意味初対面ではあるのだが。
「だが気になるのは……ガリア王が呼び出したという使い魔だ。
 俺と仗助、虚無の使い魔の条件は……『スタンド使い』である事かもしれん。
 だとするとスタンド能力と虚無の使い魔としての能力を持つ強敵が待ち受けている。
 仗助……虚無の使い魔の能力について何か知っているか?」
「虚無の使い魔は全部で四人いるそうです。
 あらゆる武器を使いこなすガンダールヴ。あらゆる獣を操るヴィンダールヴ。
 そしてあらゆるマジックアイテムを操るミョズニトニルン。
 ただ四人目の使い魔は能力どころか名前すら解らねーみたいです。
 俺の召喚者も調べてはいるんですが、今のところ手がかりゼロ」
「……そうか」
仗助が知りえる虚無の情報は現段階ではこれくらいだった。
ロマリアにいるという仗助の召喚者ならばもっと情報を持っているかもしれないが。
「ところで仗助。お前を召喚したロマリアの虚無の担い手は……信用できるのか?」
「……正直に言えば微妙っスね~。色々と隠してる感じがします。
 俺も探りは入れてるんですけど、何しろアウェイっスから……」
どうやら仗助はあまり召喚者に入れ込んでいないようだ。
しかし使い魔のルーンが精神を操り主のために行動させるのではないかという疑念は、
この程度の情報ではまだ晴らす事はできない。
もしかしたら惚れ薬の後遺症でまだ精神が正常ではないだけかもしれないと、
希望的観測を持つ事もできるが、虚無の詠唱を聴いている時の高揚感は別問題だ。
なぜならタルブの村で虚無の詠唱を聴いた時はまだ、惚れ薬を飲んでいないのだから。
仗助も虚無の詠唱を聴いたら何か感情に変化が現れるのだろうかと思い質問してみたが、
仗助はまだ召喚者が虚無の魔法を使うところに居合わせていないらしい。

無言で承太郎が何かを考え込んでいると、場の空気が沈んできた。
仗助も次第に居心地の悪さを感じ、何とかしろよという目つきでルイズを見る。
と、ルイズは何かを閃いたように「あっ」と小さな声を上げた。

「ねえ。あんたを召喚したのって、教皇聖下?」

とびっきりの発見をして大喜びしている子供のような笑顔でルイズは言い、
仗助が「ゲッ」と呟き、承太郎は溜め息をつく。
その反応にルイズは空気を読んでない発言をしたのではと冷や汗を垂らした。
「あ……あの、ごめん、今の忘れて」
「はぁ~……正解っス。教皇の聖エイジス三十二世ですよ、俺の召喚者は」
ガックリと肩を落として仗助は告白した。
ルイズも冷静に考えてみれば、教皇が虚無の担い手だなんてかなりヤバイ話と理解する。
というかガリア王が虚無の担い手っていうのも相当のものなのだから、
もっと早く気づいて然りではあるのだが。
「ところで承太郎さん……その反応、もしかして気づいてました?」
「……まあな。虚無の担い手は四つの王家から生まれる。
 ヴァリエール家は王家の親戚だし、ガリアは国王自身が虚無の担い手だ。
 となればロマリア王族の誰かだという推理は、刑事コロンボじゃなくとも簡単だぜ」
ついでに言えばウェールズが死んだ今、アルビオン王家は根絶されており、
もはやアルビオンから虚無の担い手が現れる事はないだろうとも考えていた。
王族の誰かが浮気じじいよろしく隠し子でもこさえていれば話は別だが。
そういえばゲルマニアは蚊帳の外なのだろうか。
風のルビーがアルビオンにあったから、四人目の虚無もアルビオンに違いないのだが。
「この件はくれぐれも内密に頼みますよ~、
 教皇もいずれはトリステインに正式に協力を仰ぐつもりらしいっスから。
 今ルイズさんから話が伝わっちまうと、政治的にゴタゴタしかねるかも……」
「うっ……。ま、まあこの戦争が終わるまでは黙ってて上げるけど、
 私は女王陛下直属の女官なんだから、報告はするわよ」

敵にも虚無がいる可能性があるとはいえ、
ルイズにまで色々と話してしまったのは失敗だったかと仗助は頭を抱えた。
承太郎を使い魔にするくらいだからもっと空気の読める賢い人を想像していが、
典型的なムカつく貴族タイプっぽいような感じがするし、
水と油のように承太郎とは合わないタイプの人間なんじゃあないかとまで思う。
「承太郎さん……何でルイズさんの使い魔やってんスか?
 イメージと合わないんスよね~……承太郎さんのキャラクターじゃないっていうか」
「……ルーンは刻まれてるが、こいつの使い魔になった覚えはねーぜ」
「はあ。まぁ俺も本心から使い魔はやってませんけど……。
 人間の尊厳とかプライドとか、お偉い貴族様は考えてくれね~しよぉ~」
仗助の発言に心当たりありまくりのルイズは、
やっぱり承太郎が自分をご主人様と認めない理由はそういった点にあるのかと悩む。
今では平民への理解も多少できた……ような気がする、多分だけど。

その後仗助は竜騎士隊で竜を扱う腕を見せるため、竜舎へと出かけていった。
ヴィンダールヴの能力のおかげで誰よりもうまく竜に乗れると仗助は自信満々で、
腕前に嫉妬した竜騎士隊が彼の髪型を馬鹿にして大惨事が起こるけれど、
それは本編とはあまりカンケー無い話なので割愛する。

ルイズが一人で作戦会議に出かけ、竜騎士隊の護衛達もそれについて行くと、
一人きりになった天幕の中でベッドに腰掛けた承太郎は問いかけた。
「お前は虚無の使い魔に関して何か知っているのか……?」
「……うん? もしかして俺に訊いてんのか?」
「今ここにいるのは俺とおめーだけだぜ」
「そういやそうだな。それにしても久し振りだな、ほとんど背景と化してたよ」
そんな調子で喋り出したのは、承太郎が背負うデルフリンガーである。

「で、虚無の使い魔について何が知りてーんだ?
 はっきり言って全部思い出した訳じゃねーから、答えられるか解んねーぞ」
「そうだな……例えば虚無の詠唱を聴いている時、俺は高揚感や安心を感じた。
 あれはいったい何だ? ガンダールヴのルーンがそうさせているのか?」
「そりゃそうさね。主人の詠唱を聞いて元気になるのは、
 赤んぼの笑い声を聞いて母親が顔をほころばすのと理屈は一緒さ。
 そういう風にできてんのさ、ガンダールヴってのは。
 別に悪い事じゃねーだろ? ガンダールヴの役目は敵を倒す事じゃーない。
 ご主人様の詠唱を守るのが仕事だ。何か不服かい?」
「…………つまり……このルーンは俺の精神に影響を与えるって事か」
「まーそうなんじゃねーの?」
肯定され、承太郎は左の拳を握りルーンを見た。
惚れ薬を飲んでルイズを愛していた時、それが当然だと思っていた。
疑いもしなかった。
解除薬を求めたのは、そうしないとルイズが自分の愛を認めないという事と、
それを飲んでもルイズを愛する心は変わらないと確信していたから。
だが違った。
それと同じではないか?
このガンダールヴのルーンは知らぬ間に自分の精神を操り、
主を守らせよう従わせようと己にささやき続けているのではないか?
あのタルブの空、日食の中に飛び込むのが間に合わなかったのは、
もしかしたらこのルーンが元の世界に帰すまいと働いて、
ゼロ戦の操縦に干渉してきたからではないだろうか?
思えばあの時、疲労からか操縦桿を握る手に力が入らなかった。
本当に疲労のせいなのか? そう錯覚していただけではないのか?
ルイズに青銅を錬金させる賭けをした後、なぜ自分はルイズの部屋に戻った?
やかましい女、騒がしい女が嫌いな自分がなぜ、ルイズを気に入っている?

「どうしたね相棒。何を悩んでなさる」
「……てめーには関係ねー」
「俺が思うにだね相棒、おめーさんはもっと人に頼った方がいいんじゃないかい?
 悩み事があるなら、俺みてーな剣じゃなく、人間に相談してみなよ。
 おめーさんは一人でたいていの事はできちまうから、
 かえって何でもかんでも自分一人で抱え込んじまうんでねーのかい?」
「フン。たかが剣の分際で好き勝手言ってくれるじゃねーか」
「これでも六千歳なんでね」

しかし承太郎は誰にも相談せず日々をすごした。
次第にルイズも承太郎の異変に気づき出し、
何か悩みでもあるのかと訊ねてくるようになったが、
承太郎は頑として心を開かなかった。
もし自分の推測が正しかったら、それはルイズを傷つけるだろうから。
しかしその優しささえ刻まれたルーンの仕業なのかと思うと彼はゾッとした。
何度か軍の作戦に参加し、ルイズを守り、敵を倒し、
虚無の詠唱を聴くたびに奮える心をわずらわしく思いながら承太郎は戦う。
するとなぜか次第にガンダールブのルーンの光は鈍り、
ウェールズと戦った時ほどの力を発揮できないようになってしまった。
悪循環にハマりつつも、やはり承太郎は相談する相手を持たなかった。
コルベールかタバサがいれば相談できたかもしれない、
この際キュルケでも構わないとさえ承太郎は思う。
ギーシュはサウスゴータ解放の際に見かけたが、
手柄を立て勲章をもらい実兄から褒められている姿を見れば、
わざわざこんな相談事を持ちかけるのは無粋と感じられた。
そんな日々はある日突然変化を迎える。

アルビオン軍が休戦を申し込んできた、理由は降臨祭のためだ。
戦時であろうと降臨祭には休戦するのがハルケギニアの慣例である。
降臨祭は十日ほど続き、その準備も含めて二週間の休戦。
不可侵条約を破り魔法学院を襲って生徒を人質に取ろうとしたアルビオンの申し入れ、
とても信用できるものではなかったが兵も疲労が溜まっているため、
アンリエッタは今すぐにでも艦隊と『虚無』の力で敵を滅ぼしたいのをこらえ、
枢機卿マザリーニの苦言を聞き入れ休戦の申し入れを飲んだ。

神聖アルビオン共和国との休戦が発効して三日目のシティオブサウスゴータにて。
連合軍が徴収した宿屋の一室を得たルイズは暖を取っていた。
高度三千メイルに位置するアルビオンの冬は早くつらいものなのだが、
承太郎は暑さだけではなく寒さにも強いのか相変わらず学ラン姿である。
で、その承太郎はというと冬の寒さに負けず普通に外出して行った。
慰問隊がうまい料理とうまいワインを持ってきたというので、仗助と一杯やるらしい。
ちなみに承太郎はワインよりもアルビオンで作られる麦酒(エール)を好んでいたが。
仗助と合流した承太郎は、トリスタニアから出張してきたどの居酒屋で飲むか相談し、
どうせ異世界の店なんだからいい店なんて見分けつかないから適当に選ぼうとすると、
突然広場で「ジョータローさん!」と女性に声をかけられた。
聞き覚えのある声に承太郎が振り向くと、そこにはシエスタの姿があった。
ついでに魅惑の妖精亭の店員達と、店長のキモいオカマのスカロンも一緒に。

「だいたいこの辺りよ」
薄暗い部屋の中、土くれのフーケは地図の一点を杖で指した。
「ふむ、少々難儀しそうな道のりだな。山歩きをせねばならん」
あごヒゲをさすりながらワルドが言う。
「仕方ないでしょ。空を飛んでったら連合軍に見つかりかねないわ」
「ふっ……サウスゴータの事はお前に任せるのが一番か、マチルダ」
そして三人目の少年が右手の薬指に嵌めた指輪を撫でながら呟く。
「道案内はよろしくお願いします。降臨祭が始まったら作戦開始ですから」
最後にそう呟いた少年は、額を隠すように帽子を深くかぶっていた。


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