ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

仮面のルイズ-12

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愁いを帯びた顔の人は、首都から港へと街道を歩き。
甲冑や武器を背負った男達は港から首都へと歩いている。

街道の流れに取り残されるように、一組の男女が壊れた建物を見上げていた。

フードを被り顔を隠した女性は、建物の内部をのぞき込む。
そして髭面の大男は、放心したような顔のまま、こう呟いた。
「こりゃあ、どういうこった」

アルビオンの首都、ロンディニウムの大通りのはずれにある建物は、木の骨組みに石の壁という、単純で丈夫な作りのものだった。
木の骨組みに残る焦げ跡、内側に向けて崩された石の壁、この建物は明らかに何者かによって破壊されている。

大男は無言で建物の中に入る、天井を見上げると空が見えた。
二階建てだったであろうこの建物は、天井も二階も無くなっており、燦々たるありさまだった。
酒場として作られていたのか、カウンターらしきものがかろうじて原形を留めている。
髭面の男は、カウンターの後ろに回り込み、何かをごそごそと探し始めた。

もう一人の女性は周囲の様子を見る、すると、街道沿いの建物が何軒か列をなして崩れているのが見えた。
その女性は背中の大剣を少しだけ引き抜くき、剣に向かって話しかけた。
「デルフ、どう思う?」
『壊れてんのはこの酒場だけじゃない、建物の崩れ方も不自然だ、こいつは何かあるぜ』
「何かあるなんてのは分かってるわよ、この壊れ方に心当たりが無いか聞いてるの」
『…ドラゴンが力尽きて、滑空しながら墜落したとか』
「なるほど、それなら考えられるわね」
デルフリンガーの言うとおり、何かが建物の屋根を引っかけて墜落したようだ。
周囲の建物を見ると、壁はよりも屋根の損害が酷いように見えるので、おそらく想像通りだろう。

そういえば、髭面の男は壊れた建物の中で、何をしているのだろうか?
壁がある程度残っているので、外から中の様子が分からない。
「何か捜し物?」
そう言って建物の中に入ろうとすると、奥から慌てたように男が叫んだ。
「来るな! 街道沿いにもう一件酒場があるんだ、俺はちょっと捜し物をするから、先に行っててくれ!」
『ルイ…石仮面の嬢ちゃん、あんな事言ってるけど、どうすんだ?』
石仮面と呼ばれた女性…ルイズは、思案する様子もなく「先に行くわ」と呟き、王城に向かって街道を歩き始めた。


男の言った通り、街道沿いに大きな酒場があった。
酒場の中に入ってみると、傷だらけの軽装鎧や、顔や体に傷のある男達がたむろしており、お世辞にもいい雰囲気とは言えなかった。
ルイズは空いている四人がけの席に座る、すると、体格のいい給仕が注文を取りに来た。
「前払いでお願いします、ご注文は?」
「特大スペアリブ、生で」
「生?…血の滴るようなレアですね、すぐ出来ます」
ついつい生でと言ってしまったが、給仕は勝手にレアだと誤解してくれたので、少しだけほっとした。
背もたれに体を預けてしばらく待つと、給仕がテーブルに料理を措いた。
四人がけのテーブルを埋め尽くすほどの皿に、これまた巨大な肉の塊が乗っている。
壁に掛けられたメニュー表を見ると、小さな文字で『五人前です』と書かれていた。
(オークの頭ぐらいかな…)
食欲をなくすような例えだが、ある意味的確だと思えるほど大きい。
それをルイズは手づかみで食べ始めた。
テーブルに措かれたナイフとフォークは使わず、手で肉をちぎり、骨を割り、口に放り込んでいく。
山のような肉と骨の塊はみるみるうちに減っていった。
ルイズをからかってやろうと考えていた荒くれ者達は、ゴリゴリと骨が砕ける音を聞き、背筋に寒いものを感じ元の席へと戻っていく。
周囲からの奇異の視線に気づいたルイズは、フードを深く被り直した。

ルイズは心の中で呟く。
(やっぱり量が多かったかなあ…)

デルフリンガーも心で呟く。
( ( そういう問題じゃねえよ! ) )

料理を食べ終わると、給仕がおそるおそる皿を回収しに来た。
ルイズはワインを頼むと、出てきたグラスに驚いた。
荒くれ者が集う店にしては不釣り合いなほど上等なワイン、そして、シンプルかつ上品なグラスだった。
先ほどまでルイズを遠巻きに見ていた男達は、ルイズがフードを下ろし、ワインを飲む姿を見て、先ほどとは違った驚きを感じていた。
オーガのような女性を想像したが、フードの中から出てきたのはまだ顔の幼い女性ではないか。
しかもワインを飲む姿が妙に上品で、様になっている。
もっともついこの間まで貴族としての英才教育?を受けていた身、当たり前といえば当たり前の事だが、それを知る者はここには誰もいなかった。

ギィー、と扉が開かれ、酒場に一人の男が入ってくる。
2mはある背丈と、乱雑なひげを蓄えたその男は、どすどすと足音を立ててルイズの隣へと歩いていった。
「悪ぃ、遅れちまった」

髭面の大男がルイズの隣に座ったのを見て、客達がざわめく。
時折『殺されるぞ』『食われちまうんじゃないか』とか、かなり失礼な言葉も聞こえてくる。
しかし、それ以上に驚かされたのは、ルイズとこの男が親しげに話しているという事実だった。

「もう食べちゃったわよ、あんたもワイン飲む?」
「いいのかい姉御?じゃあ俺も貰おうかな」
「ちょっと、姉御っての止めなさい、あと、グラスをそんな握り方するのは下品よ」
「そ、そうか?」
「こう持つのよ…こう」
「ややこしいナァ」

その場にいる男達は、皆揃って『美女と野獣』という何処かの国の童話を思い出した。
が、すぐにそれを撤回し『美女っぽい野獣と野獣』というタイトルが頭に浮かんだという。

しばらく他愛ない話をしていると、一人の男が近づいてきた。
「な、なあ、ブルリンじゃねえか?」
ブルリンに話しかけた男は、頬が裂けたような傷痕を持っていた。
「ジョーンズ!おお、ジョーンズじゃねえか!」
どうやらブルリンの知り合いらしい。
ジョーンズと呼ばれた男がブルリンに耳打ちすると、ブルリンはルイズに「ちょっと…」とだけ言って、店の奥にある席に移った。

奥の席は少し暗く、二人がけの席になっており、密談をするにはうってつけの形になっている。
ルイズはフードを被り直すと、聴覚に集中し始めた。

『それじゃ、ペイジも、プラントも、ボーンナムもやられたのか!』
『ブルリン、おめえ、声が大きいぞ』
『す、すまねえ…』

奥の席に座る二人の会話を聞こうとして意識を集中する。
すると、奇妙なことだが、騒がしい酒場の雑音の中から、二人の声だけが選り分けられるようにして聞こえてくる。
これも吸血鬼の能力なのだろうかと考えながら、ルイズは二人の会話を聞いた。

『ジョーンズ、マスターに会ったのはいつだ?』
『…月ぐらい前だ、ブルリン、お前は?』
『俺もそれぐらいだ…なあ、マスターの息子はどうなったか知らないか』
『一足先にラ・ロシェール近くの村に疎開してるよ、マスターの故郷らしい。ところでマスターは?』
『…カウンターの裏で、瓦礫に潰されて…』
『そうか…』

聞かなければ良かったと、ルイズは後悔した。
あの髭面の大男ブルリンは、見た目と違ってずいぶん優しい心の持ち主らしい。
ルイズを先に行かせたのも彼の気遣いだろう。皮肉なことだ。
瓦礫と化した酒場に、金目の物など残っているとは思えない。
酒場のマスターを埋葬するためにルイズを先に行かせたのに、ルイズは彼を疑ってしまった。
「金目の物でも探しているのか?」と。

よく考えてみれば、「ルイズ」はもう、死んだことになっている。
ロングビルに「私が死んで誰か悲しんだ?」と、聞いてみようと思ったが、自分の死を誰が悲しんでくれたのか、確かめるのが怖くて聞けなかった。
死を偽装するという、ある意味で最低な行為をしている自分に、嫌気がさす。

ルイズの思考が自分を責め始めた時、ジョーンズの口から、驚くべき話が飛び出してきた。

『ありゃ貴族派の自作自演なんだ』
『ジョーンズ、そりゃどういう意味なんだ』
『酒場のあたりをぶち壊したのは王党派の船だけどな、あの船には誰も乗ってなかったんだ』
『脱出用の船を使ったから、誰も乗ってなかったんじゃないのか?』
『いや、その脱出艇が問題なのさ、脱出用の船から降りた連中が、貴族派にいたんだ、それも同じ奴らが乗る船が何度も墜落している』
『どういうことだ、分かんねえよ』
『だからよ、王軍の空軍は、もう貴族派に掌握されちまってるんだよ、王軍の装備そのままにな』
『って事は、王党派の船と貴族派の船が戦って、王党派の船ばかりが町に落ちてくるのは…』
『そう、貴族派のイメージ戦略も兼ねてるって訳よ、それを調べようとしたから、ボーンナムも、ペイジも、プラントも…たまり場にしていた酒場も狙われたんだ』
『………』
『………』


しばらくして二人の会話は終わり、ブルリンはルイズの待つ席へと戻ってきた。
待たせてすまない、と、ブルリンが謝る前に、ルイズはブルリンのみに聞こえるような声で言った。

「私、王党派につくわ」


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