ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-34

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匿名ユーザー

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「嘘・・・どうしてフーケが!?」
岩石を切り抜いて作られたラ・ロシェールそのものを素材にして錬金された
巨大ゴーレム。突如出現したそれの肩に長い緑髪をなびかせて座っている女は、
忘れもしない土くれのフーケだった。自分の言葉を中断されて少し助かったと
思ってしまい、ルイズはぶんぶんと首を振る。フーケは端正な顔を不機嫌に
歪めてルイズに答えた。
「実に親切なお方がいらっしゃってねぇ わたしみたいな美人はもっと世の中に
貢献しなくちゃいけないっておっしゃってね 牢から出してくれたのよ」
皮肉たっぷりにそう言って、フーケはじろりと隣を睨む。彼女の刺すような視線の
先にいたのは、白い仮面をつけた黒マントの貴族の男だった。フーケの言動に
一切の反応を示さず、腕を組んで冷厳とルイズ達を見下ろしている。
「個人的にはあんた達なんかとは二度と関わりたくないんだけどね
これも仕事よ、恨まないことね!」
言うが早いか、ゴーレムの柱を束ねたような腕が高速で振り下ろされた。いつの
間にか己の剣を握っていたギアッチョは、ルイズを小脇に抱えるとベランダの
手すりを踏み台にルーンの力で数メイルを飛び上がった。直後岩で出来た
ベランダを粉々に破壊したその拳に見事に着地して、ギアッチョはピクリとも
動かない表情のまま口を開く。
「やっぱりよォォ~~ オレは戦うのが性に合ってるみてーだなァァ」
「ちょ、ちょっと!どどど、どこ触ってんのよこのバカ!離しなさいよ!」
小脇に抱えられたままルイズがじたばたと騒ぐ。
「どこ触ろうと同じだろーがてめーの身体は 黙ってねーと舌噛むぞ」
「おなっ・・・!?」
ルイズの頭にガーンという音が響き渡った。心に深いダメージを負ったルイズの
ことなどつゆ知らず、ギアッチョは戦闘態勢に入った眼でフーケ達を睨む。

足場にしている拳に振り落とされる前に、「ガンダールヴ」の脚力で一瞬のうちに
肩へと駆け上がる。デルフリンガーを持つ方向に身体をひねり二人まとめて
横薙ぎにブッた切るつもりだったが、
「チィッ!」
仮面の男が一瞬の機転でフーケの首根っこを掴んで後方へ落下した為、
デルフリンガーは虚しく宙を切った。ギアッチョは特にイラだった顔も見せずに
地面を覗き込む。レビテーションをかけたのか、男とフーケは無事に地上に
降り立っていた。フーケと結託しているのなら、仮面の男とその仲間には当然
ホワイト・アルバムのことは知られているだろう。もはや隠す必要もないと考えて
ギアッチョはゴーレムを凍結しようとするが――下のほうから聞こえてきた怒声や
物音がそれを中断させた。
「どうやら・・・あいつらも襲われてるみてーだな」
放っておくべきか一瞬迷ったが、酒を飲んでいるならマトモに戦えていないかも
知れないと考え、ギアッチョは助けに行くことを選択した。もはや抵抗もしない
ルイズを小脇にかかえたまま、見るも無残に破壊されたベランダから部屋に
飛び込み、扉を蹴破って廊下を走り、手すりを乗り越えて階段を飛び降りる。
果たしてギーシュ達は、全員無事に揃っていた。もっとも、テーブルを盾にして
いる彼らの頭上では無数の矢が飛び交っていたが。
ギーシュ達と共にワルドがいたのを見て、ギアッチョはピクリと眉を上げる。
背格好といいタイミングといいあの仮面の男がワルドだとギアッチョは殆ど確信
していたのだが、どうやら自分の推理は間違っていたらしい。考え込む彼に
気付いて、ギーシュが声を上げる。
「ギアッチョ!無事だったのかい!」
その声でキュルケ達は一斉にギアッチョを見た。ギアッチョはフンと鼻を鳴らすと、
ルイズを引っ張ってキュルケ達の後ろに身を伏せる。

ギアッチョはフーケがいることを伝えたが、どうやらその必要はなかったらしい。
戸口からは思いっきりゴーレムの足が覗いていた。「それはともかく」と前置きして、
キュルケは鬱オーラ全開で俯くルイズを見る。
「ルイズ、あなた大丈夫?」
「・・・・・・尊厳を汚された・・・」
「は?」
意味が分からずに怪訝な声を上げるキュルケだったが、「一年後に後悔しても
許してあげないんだから」だの「まだ変身を三回残してるのよ きっとそうよ」だのと
肩を震わせながらブツブツと呟いているルイズを見てなんとなく事情を察した。
とりあえずルイズは放置することに決めて、彼女はギアッチョに向き直る。
「どうするの?ギアッチョ」
言外に「魔法を使うのか」と尋ねるキュルケに、ギアッチョは思案顔で黙り込んだ。
しかしギアッチョが結論を下す前に、ワルドが口を開く。
「諸君、このような任務は半数が目的地に辿り着けば成功とされる」
周りの状況などおかまいなしに本を読んでいたタバサが、それを受けてワルドを
見る。ぱたりと本を閉じると、キュルケ、ギーシュ、そして自分を指差して「囮」と
呟いた。ワルドは重々しく頷いて後を引き継ぐ。
「彼女達が派手に暴れて敵を引きつける 僕らはその隙に、裏口から出て
桟橋へ向かう」
その言葉に、ルイズが弾かれたように顔を上げた。
「ダメよそんなの!フーケもいるのよ!?死んじゃったらどうするのよ!」
「いざとなれば逃げるわよ それにわたし、今ちょっと暴れたい気分なのよね」
キュルケは余裕の笑みでそう嘯く。それに追従してタバサが「問題ない」と言い、
ギーシュは相変わらずガタガタ震えていたが、「いいい行きたまえよ君達!
ぼ、ぼぼ僕はフーケのゴーレムに勝った男だぜ!」
と誰が見ても明らかに分かる虚勢を張り上げてルイズ達を促した。

「行って」というタバサの声と、「行きなさい」というキュルケの声が重なる。
ルイズはそれでも二の足を踏んでいたが、
「別にルイズの為にやるわけじゃないんだからね 勘違いされちゃ困るわよ」
というキュルケの発破で、何とか行く決心がついたようだった。「わ、分かって
るわよ!」とキュルケを睨むと、「おーおー、素晴らしきは友情だね」と笑う
デルフリンガーに二人で蹴りを叩き込んで走って行った。それを追ってワルドも
裏口へ去って行く。去り際ルイズが小さく呟いた「ありがとう」という言葉に
意表を突かれて一瞬顔が赤くなったキュルケだったが、コホンと一つ咳をすると
すぐいつもの顔に戻った。
「それで、今度はどんなお言葉を下さるのかしら?」
未だ動かないギアッチョに余裕の仕草で笑いかける。ギアッチョは溜息を一つ
つくと、彼女達に向き直って口を開いた。
「このまま死なれちゃ寝覚めが悪いんで忠告しといてやる
・・・命を賭けてまで戦おうとするんじゃあねーぞ」
慈悲の欠片も見当たらないような表情で、しかしギアッチョはそう言った。
「無理を悟ったらとっとと逃げろ 桟橋とやらで追いつかれたところでどうせ
オレが何とか出来るんだからな」
一見どうでもいいような口調でそう言って、ギアッチョはガシガシと頭を掻く。
そうならない為に今まで隠して来たんじゃないのか、等と言う気は誰にも
なかった。一様に真剣な顔で頷く三人に一瞥を向けると、彼は無言で
ルイズ達の後を追った。
音を立てずに駆け去るギアッチョの後姿を見送って、キュルケはふぅと
溜息をつく。
「全く、この主にしてこの使い魔ありって感じよねぇ」
やれやれといった風に笑うキュルケに、タバサはこくりと頷いて杖を握った。
大きな音を立てて自分の顔を叩いて、ギーシュは一つ気合を入れる。
「よ、よし!行こうじゃないか二人とも!」
「ええ、火傷しない程度にね」
二人して杖を抜き放ち、ニヤリと笑いあった。


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