ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

学院! メイジとメイド その③

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学院! メイジとメイド その③

承太郎がシエスタに案内されたのは、食堂の裏にある厨房だった。
コックやメイド達が忙しそうに働く様は、地球のそれと変わりはない。
厨房の隅の椅子に座らされた承太郎に、シエスタはシチューを持ってきてくれた。
「貴族の方々にお出しする料理の余り物で作ったシチューですが……」
「……ありがとよ、礼を言うぜ」
こっちの世界に来て初めて他者から優しく承太郎は、初めて精神的休息を取れた気がした。
そしてシチューを一口。
「ほう、こいつはうまい。色々な国を旅してみたが、こんなうまい物は初めてだぜ」
「ジョータローさんは他の国からいらしたんですか?」
「まあな。ちぃーと遠い所から、いきなり召喚されちまったって訳さ」
「大変ですね……。トリステインはどうですか? いい国でしょう?」
「まだ学院から出た事がねーから何とも言えねぇな……。
 すまないがもう一杯もらえるか?」
「ええ、いいですよ。でもどうしてご飯抜きにされちゃったんですか?」
「メイジってだけで威張りちらしてやがるから、軽くケチつけてやっただけさ」
「勇気がありますわね……」
シエスタは唖然とした顔で承太郎を見つめた。
承太郎は空になった皿をシエスタに返し、ルイズにすら見せた事のない微笑を見せる。
「うまかったぜ、ありがとよ」
「よかった。お腹が空いたらいつでも来てくださいな。
 私達が食べてるものでよかったら、お出ししますから」
「そいつは助かる。ついでにもうひとつ頼み事があるんだが……」
「何でしょう?」
「…………洗濯を、頼みたい」
「洗濯ですか? 他の方の分のついででよろしければ……」
「いや、洗濯してもらうのは俺の服じゃなく……俺を召喚した奴の物だ」
「ミス・ヴァリエールの?」

冷静沈着な承太郎も、さすがに頼みづらそうな口調で言った。
「学院の洗濯物はあんた達が洗濯しているとキュルケって奴から聞いてな、
 そこであいつの服……も、洗濯してくれるとありがたいんだが」
さすが下着という単語を出すのははばかられた。
ポルナレフなら多分不自然に咳き込みながら小声で言いそうだが、
自分はそういうキャラクターをしていないという自覚が承太郎にはあった。
「はぁ……ですが生徒の皆様はご自分の魔法で洗濯していらっしゃいますが?
 いえ、ミス・ヴァリエールは、手洗いしているらしいですけど」
「……使い魔の仕事だと言われて、押しつけられちまってな。
 言う事を聞くつもりはねーんだが……やっかい事もごめんなんでな」
「貴族の方のご指示でしたら、従うべきだと思います」
「…………」
承太郎は、目の前の無垢なメイドの言い分についに白旗を上げる。
こんな屈辱は多分、生まれて初めてだ。
ザ・サンのスタンド使いに騙された時より馬鹿らしい。
「だが……俺が女の下着まで洗うっつーのは……」
「あっ、ああ、それは確かに……わ、解りました。
 ミス・ヴァリエールに下着……いえ、洗濯物を渡されたら、私に渡してください」
シエスタは赤面し、しどろもどろになりながらも了承してくれた。
こういうトラブルは自分のキャラクターじゃない、
ポルナレフのキャラクターだ、と承太郎は強く思った。
そして、仲間がいた幸福がどれほど素晴らしいものだったかを実感する。
もしここにポルナレフがいたら、彼が代わりにトラブルに遭っていただろう。
「すまねえ……心から感謝するぜ」
「いえ、困った時はお互い様です」
シエスタのしとやかで気配りのある対応に、承太郎は大和撫子を見た気がした。

「シエスタ。あんたに世話になりっぱなしってのも申し訳ねー。
 もし俺に何か手伝える事があったら何でも言ってくれ、力になるぜ」
ルイズの身の回りの世話なんかお断りだが、シエスタの手伝いならしてもいいと思った。
「なら、デザートを運ぶのを手伝ってくださいな」
ケーキの並んだトレイを承太郎が持ち、シエスタがひとつずつ貴族に配っていく。
そんな事をしていると、金色の巻き髪に薔薇をシャツに刺したキザなメイジがいた。
周りの友人が口々に彼を冷やかしている。
「なあ、ギーシュ! お前、今は誰とつき合っているんだよ!」
「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」
「つき合う? 僕にそのような特定の女性はいないのだ。
 薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」
貴族っていうのはみんなこうなのかと承太郎は呆れたが、
彼のポケットからガラスの小ビンが落ちるのを見ると、一応教えてやった。
「おい、ポケットからビンが落ちたぜ」
しかしギーシュは振り向かない。
無視か? それとも単純に気づいてないマヌケか?
承太郎は床に落ちた小ビンを………………爪先で蹴飛ばした。
コツン。ギーシュのかかとに小ビンがぶつかる。
そこでようやくギーシュが振り向き足元を見た。
「落し物だぜ色男」
「これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」
ギーシュが否定したため、事実彼のポケットから落ちた物だとしても、
これ以上とやかく言わ必要は無いだろうと承太郎は判断した。
だがギーシュの周りの友達が騒ぎ出す。
「その香水は、もしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」
「そうだ! その鮮やかな紫色はモンモランシーが調合している香水だぞ!」
「つまりギーシュは今、モンモランシーとつき合っている。そうだな?」
「違う。いいかい? 彼女の名誉のために言っておくが……」
ギーシュが言い訳しようとすると、茶色いマントの女子生徒がやって来て泣き始めた。

「ギーシュ様……やはり、ミス・モンモランシーと……」
「彼等は誤解しているんだ、ケティ。僕の心の中に住んでるのは君だけ……」
パチン。ケティと呼ばれた少女がギーシュの頬をはたく。
「その香水が何よりの証拠ですわ! さようなら!」
ケティが去った後、今度はモンモランシーがやって来た。
「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ……」
「やっぱりあの一年生に手を出していたのね?」
モンモランシーはテーブルに置かれたワインをギーシュの頭にドボドボとかけた。
「嘘つき!」
と怒鳴ってモンモランシーは去り、沈黙が流れた。
ハンカチで顔を拭いたギーシュはなぜか承太郎を睨む。
「君が軽率に香水のビンなんか拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。
 どうしてくれるんだね?」
「知るか、二股かけてるてめーが悪い」
ギーシュの友達はドッと笑ったが、ギーシュは眉を釣り上げた。
「いいかい? 給仕君、僕は君が香水のビンを蹴った時、知らないフリをした。
 話を合わせるくらいの機転があってもいいだろう?」
「てめー……頭脳がマヌケか? 知らないフリをされた後、俺は一言も喋ってねーぜ」
また、ギーシュの友達がドッと笑う。
「それと俺は給仕じゃねぇ、服装で解りやがれ」
「ああ、確かゼロのルイズが呼び出した平民だったな。
 平民に貴族の機転を期待した僕が間違っていた、行きたまえ」
「二股かけるてめーが悪いんだろうが。勝手に責任転嫁すんじゃねえ」
「どうやら君は貴族に対する礼を知らないらしいな」
「貴族ってだけで威張り散らす能無しに払う礼儀なんざ知らねーな」
「よかろう、君に礼儀を教えてやろう。ちょうどいい腹ごなしだ」
「おもしれぇ……やってみな」
ルイズは女だから殴らなかった。だがギーシュは男だから殴る。
旅をして大人になった承太郎だったが、売られた喧嘩から逃げるような真似はしない。

ギーシュはくるりと背を向けると、キザったらしく言った。
「ヴェストリ広場で待っている。ケーキを配り終わったら、来たまえ」
そう言ってギーシュは友達を連れて立ち去る。
承太郎はヴェストリ広場の場所をシエスタに聞こうとして、
彼女の表情が強張っている事に気づく。
「あ、あなた、殺されちゃう……。貴族を本気で怒らせたら……」
そう言い残し、シエスタは逃げ出してしまった。
入れ替わるようにルイズがやってくる。
「あんた、何勝手に決闘の約束なんかしてんのよ!」
「成り行きでな」
「あんた、謝っちゃいなさいよ。今ならまだ許してくれるかもしれないわ」
「……やれやれ。あいにく売られた喧嘩から逃げた事はないんでね」
「解らずやね。絶対に勝てないし、あんたは怪我するわ。
 いいえ、怪我ですんだら運がいい方よ!」
「メイジとやらの腕前を見るいい機会だ。なぁに、何とかなるさ」
「メイジに平民は絶対に勝てないの!」
「ヴェストリ広場ってのはどこだ?」
ルイズを無視して、承太郎は自分を見張るために残っていたギーシュの友人に訊ねた。
「こっちだ。平民」
ケーキの乗ったトレイをテーブルに置いて、承太郎は彼に案内されるまま広場へ向かう。
メイジ……どの程度の実力かは解らないが、まだ半人前の学生が相手だ。
腕試しには丁度いいし、ギーシュをぶっ飛ばせば平民としての自分の評価も変わり、
待遇も改善されるだろうという考えもあった。
「ああもう! ほんとに! 使い魔のくせに勝手な事ばかりするんだから!」
承太郎の真の力を知らないルイズは、承太郎の敗北を確信しながら後を追った。
使い魔のご主人様であるという責任感を持って。


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