ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔ファイト-25

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「そうよ、みんな静かになさい!」
 むっ、この偉そうな声は!
 月明かりの下、月よりも赤い髪が跳ね上がった。月のように美しいおっぱいを持つその女は……。
「キュルケ!」
 ゴーレムが進行方向を変えた理由が今分かった。
 敵の攻撃と味方の自爆でどうしようもなくボロッボロになったわたし達よりも、効きもしない炎を背後から撃ってくる赤毛の方が鬱陶しかったんだ。
「お集まりいただいた皆々様、今から歌劇をおっぱじめますわよ。主演女優はあ、た、し」
 ああっ、あの女、短時間でばっちり化粧し直してる!
「なァに格好つけてるの! あんたの炎はこれっぽっちも通用しなかったでしょ!」
「あたしが魔法だけの女とでも思って? 反吐でも吐きながら桟敷席でご観覧くださいな」
「待ちなさいってば!」
「あんたはそこであたしの活躍見てなさいルイズ。近づいたら命の保障はしないわよ」
 何かよく分からない。でもとてもまずいような気がする。
 魔法が通用しないのにしゃしゃり出るってことは、魔法以外の手段を使うってことよね。
 キュルケが使う魔法以外の手段っていえば、使い魔くらいしかないわよね。
 キュルケの使い魔っていえば、水をお湯に変える……。
「や、やめなさいキュルケッ! あんたそれで何をどうすれば勝てると思うの!?」
「この子がわたしの中で騒ぐのよ。殺戮こそが全て、闘争こそが生きがい、闘わせろ、闘わせてくれ……って」
 無茶苦茶言ってる。
 兵隊蟻だってそんなこと考えるかもしれないけどね、だからってドラゴンにかかっていけば踏み潰されて終わりでしょ。
 ゴーレムはキュルケを障害物とさえ考えていないようで、全く歩みを緩めない。
「やめてキュルケ! 逃げて!」

 愚かな真似をやめさせるため、走り寄ろうとしたわたしの肩に堅く厚い手が置かれた。
「蚤の無謀は勇気とは呼べん」
「ぺティ! あんたキュルケ見捨てる気!?」
「落ち着きたまえルイズ嬢。キュルケ殿の勇気、どうやら蚤の無謀ではないようじゃ」
「蚤の無謀以外の何だって言うのよ!」
 キュルケはその場から動こうとしない。足を止めたまま、胸の谷間から引き抜いた杖を天に掲げた。
「ルイズ。まさかあんた、この子が水をお湯にするだけの力しか無いと思っていないでしょうね」
 不敵とか大胆とかいう形容のぴったりくるその顔は、いかにもキュルケって感じ。悔しいけどかっこいい。
「あれはあくまでも訓練。この子の力をコントロールするための練習ってやつよ」
 杖の先がわなないた。何かが、得体の知れない何かが集まっていく。
「あたしはこの子の力が暴走しないよう制御するための器。あたしだけがこの子の力を抑えることができるの」
 ゴーレムがキュルケの目前に、その巨大な足を突き出した。
 風圧で豊かな髪がはためき、もっと豊かなおっぱいがプルプルと震えるも、キュルケ自身は両の足でしっかりと地面を掴み、小揺るぎもしていない。
 杖を振り、先に集めていた「何か」を飛ばした。一直線に飛んだ「何か」はゴーレムの膝を直撃する。
「何よあれ……」
 震えていた。巨大な土の塊が鳴動していた。
 歩行時の振動なんてものじゃない、大きな揺れがわたし達のいる所まで響いてきた。
 立っているのもやっとという揺れなのに、キュルケは平然とおっぱいのみを揺らしている。
「分子空動波……って名前らしいわ。お味はいかが?」
 ただ震えているだけじゃない。何かおかしな形に……膨らんでいる? 縮んでいる?
 作ってる途中のシチューみたいな……あれはひょっとして……沸騰している!?

 ぐっつぐつに煮えたぎって、赤い泥みたいになった土が崩れていく。
 崩れた膝では自重を支えることができずに尻餅をついた。キュルケは最初の位置から一歩も移動していない。
 三十メイルからなる巨躯が倒れ、強い地響きとともに土の飛沫が飛んできてもキュルケは動かない。
 キュルケに達する直前で、飛来した土くれはどこへともなく消え去った。
 見てるわたしは何をしているのか全く分からないんだけど、そんなわたしの思いはオール無視、キュルケは追撃の手を緩めない。
 謎の衝撃――キュルケ曰く分子空動波――を次々に撃ち込み、
「随分タフなのね……でもそういうところ好きよ。練習台に持ってこいなんですもの」
 苦し紛れに伸ばしてきた手を空中三回転で回避した。今度は空から正射を始める。
 ってことはフライと同時に使ってるってことよね。やっぱりあれ魔法じゃないんだ。
 ゴーレムは全身がまだらな赤に染まり、まともに動くこともままならない。
 見下ろし、キュルケは微笑んだ。そりゃもう妖艶に。なんていうか抱いてください。
「それじゃそろそろフィニッシュといきましょう。ギャラリーも飽きちゃうからね」
 いやいや飽きてませんって。
 破壊の女神が巨人の胸に降り立った。熱くないのかしら。
「分子……地動波」
 着地点を中心に、緋色の亀裂が縦に走った。横に、斜めに、縦横無尽に駆け抜けた。
 体の部分部分を鉄にして抵抗しようとしているみたいだけど、鉄も岩も同じように沸騰している。
「ドラゴンズ・ドリームやヨーヨーマッとは性質の違う力」
 うおっ、タバサ。復活したと思ったらいきなり解説するのね。忙しい子。
「波紋とも違うようじゃ。おそらくはまた別の世界……魔人とでも言うべき力じゃな」
 このメンバー、解説役が多いわね。
「な、なんだかよく分からないけど……すごいことしてるってことだけは分かるよ」
 マリコルヌ、あんたは別に出てこなくてもいいから。
「濃密な宇宙エナジーを感じます。おそらくは第三平行世界における汎宇宙的生命体の力を借り……」
 あんたも引っ込んでなさい。

 うっはあ、暑い暑い、ここまで熱が届くってどういうことよ。
 キュルケ平気な顔してるけど、あの子神経通ってないんじゃないの?
 ゴーレムが崩れていく。もうすでに原型留めちゃいないけど、それよりも激しく崩れていく。沸騰が気化に移行しつつあった。
 タイミングを合わせたんでしょうね、キュルケがパチンと指を弾くと同時にゴーレムは塵になった。
 塵に……ゲホッ、ゲホゲホッ、ちょ、ちょっと、風に乗って流れ……ゴホゴホゴホッ!
「さよなら来訪者!」
「何がさよなら来訪者よ! ゴホッ! フーケはまだその辺にいるかも……ゲホッ!」
「そんなのあたしの知ったことじゃないわ」
 無責任よ! ゴーレム倒したんだからフーケも倒す義務がある! たぶん!
「みんな気をつけて! フーケがまだその辺に潜んでいるわ!」
「さすがモンモランシー、素晴らしい推理だ! みんな、警戒を怠るな!」
 今わたしが言った事復唱しただけでしょうが。
 ま、何にしても気をつけなきゃいけないわね。今のわたし達がボロボロの状態ってのは変わらないわけだもの。
 あのレベルの魔法を使う余力は無いでしょうけど、それでも警戒に値するわ。
 一人一個師団のキュルケとはるか遠くへ逃げたグェス、マ役リ立コたルずヌ以外の全員で背中合わせに輪を作った。
 うっ……臭うと思ったら右隣にヨーヨーマッがいる。何か冷たいと思ったら左隣はワルキューレじゃないの……ひょっとしてわたし嫌われてる?
「しかしこのまま待っていてもいいものじゃろうか。逃げられてもまずいのではないかね」
 そりゃそうだけど……でも、こちらから攻勢に出るには視界が悪い。
 塵になったゴーレムのせいで五メイル先も見えやしない。キュルケっていつも考え無しなのよね。

 学院からの応援を待とうにも、そんなもの待っていれば本当に逃げられちゃう。
 かといってこちらから出て行けばいい的よね。
「……手詰まりね」
「まだ」
 タバサ? あのね、親友の尻拭いしようって気持ちは分かるけど、あまり無理しない方がいいわよ。
「攻撃する」
 眼鏡が……眼鏡じゃない。眼鏡の奥がキラリと光った。
 風に流されたのか、それとも確固たる意思の元動いたのか、ドラゴンズ・ドリームが主の前で浮遊している。
 タバサが首肯し、ドラゴンズ・ドリームが大きく頷き返した。
 いったい何をする気なの? 自分の体よりも大きな杖を頭の上まで振り上げて……え?
 ドラゴンズ・ドリームに向けて振り下ろした! ……新手のプレイ?
「大凶、決定」
 すいません、わたしには趣旨も意味も理解できません。
 要するに、タバサがドラゴンズ・ドリームを殴りつけた。ここまでは分かる。
 趣旨はともかくとして何をやったかは分かる。で、ここからが理解不能なのよ。
 タバサに殴られたドラゴンズ・ドリームは何一つ変わることなく浮遊し続けていた。
 なぜか殴った杖の先が欠けている。右前方からくぐもった悲鳴と誰かが倒れたような音。
 で、タバサの「大凶、決定」宣言。はい、意味が分かりません。
 わたしにできることといえば、次第に晴れていく塵の煙幕を待つことだけ。
 少しずつ、ほんのちょっとずつ、視界が開けてきた。月の明かり、星の明かりが中庭を照らす。
 四方八方に飛び散る城壁、ゴーレムが暴れた跡、なぎ倒された木、それら破壊された物の中に横たわる人影。
「あれは……ミス・ロングビル!」

「大丈夫ですか、ミス・ロングビル!」
 いの一番で駆け寄るわたし。貴族の鑑ね。
 付け加えておくと、助け起こすドサクサでおっぱい触ってやろうなんて思ってないわよ。
 あーあ、誰がやったのよコレ。頭頂部で立派なたんこぶがぷっくりと膨れていた。
 ちょっとつついてみようかな。
「フーケ」
「は? 何言ってるのタバ……」
「動かないで! 動けばお友達の命が無いわよ」
 抱き起こそうとしたミス・ロングビルは、わたしの首に腕を絡めて抱き締めた。
 背中におっぱいの感触が……ひょっとしてミス・ロングビルって……わたしのことが……。
「お察しの通り、あのゴーレムを動かしていたのは、わたし」
 ええそうでしょうね。そうでしょうとも。現実逃避しようとしてましたよ。
 しかしミス・ロングビルが土くれのフーケだったなんて。予想もしなかったわ。
「動くなと言ってるでしょう、ミス・ツェルプストー。あなたの力でお友達ごと灰にするおつもり?」
 あっ、キュルケが杖を下ろした。闘いこそ生きがいなんて言ってたけど、わたしのことも考えてくれてはいるのね。
「全員近寄るな! 指一本動かせば小娘を殺す!」
 普段は絶対に見せない表情でロングビルが怒鳴った。
 じりじりと近寄ろうとしていたぺティが足を止める。止めるしかない。
 ていうか近寄ろうとしてたのがぺティだけってどういうことよ。あなた達わたしがどうなろうといいってわけ?
 ああ、どうしよう。このままじゃマリコルヌを超える足手まといだ。
「悪いけど一次撤退させてもらうわよ。そろそろ学院の方も騒がしくなってきたようだし」
 人質にとられたわたし、人質をとったミス・ロング……フーケ、手が出せないキュルケ達。
 皆が皆焦っていたのに、一人と一匹だけが泰然自若に構えていた。タバサとドラゴンズ・ドリームだ。

「……勇気があるのね。お友達が生きようが死のうがどうでもいいの?」
「ちょっと違う」
 ちょっとなの? わたしとしては全然違っていてほしいんだけどな。
「あなたは大凶。すでに決定済み」
「ふん、わけの分からないことを」
 フーケは自分の太股のあたりをまさぐった。
「あなたはそこでじっとしてなさい」
 今度は胸元をまさぐった。
「じっとしてさえいれば……」
 落ち着き無く足元に目をやっている。
「この子は無事に……」
 心なしか顔が青ざめてきたような……ゴソゴソと全身を探っていた。
 これ、ひょっとして……。
「あの……ミス・ロングビル……じゃなくてフーケ」
 二十メイルは離れた木の影から、グェスがこちらに向けて手を振っている。
「何? 今、人質とお話している暇はないんだけど」
 そんなこと言いながらわたしの質問に返事してくれるあたりこの人も律儀よね。
 手を振るグェスの右手にはわたしの杖が握られ、左手には見覚えのない杖を一本握っていた。アレって……アレよね。
「あなたひょっとして、杖を失くしたんじゃ……」
 フーケは動きを止めた。体温が上がり、そして下がり、滲み出た汗が服越しに伝わってきた。
「……そんなわけないでしょう」
 ぺティが走った。キュルケも走った。タバサも走った。ワルキューレ軍団も走った。主に押されたヨーヨーマッや大釜背負ったギーシュまで走った。
 巻き上がる土ぼこり、かき消された悲鳴、巻き込まれないために逃げ出すだけで精一杯。
 ふう。ちょっとあなた達、わたしの分も残しておきなさいよ。


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