ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔ファイト-24

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「いるんだよねェ、マジとジョークの区別がつかないお馬鹿さんがさ」
「グェス、わたしを見ながら言うのはやめなさい。まるでわたしがお馬鹿さんみたいに聞こえるじゃない」
「お馬鹿さん以外の何だっていうわけ?」
「何か言ったキュルケ!?」
「人とは常にままならぬものじゃ。思いも寄らぬ災いは時として甘露の蜜となり生を潤すであろう」
「皆さん、ミキタカさんを責めないであげてください。ミキタカさんは純粋なだけなんです」
「彼は紙一重」
「紙一重とはよく言ったもんだネェーオネエサマ。キュイキュイ」
「皆様」
 いつになくシリアスな声音に、勝手気ままに言いたいことを話していた皆が口を閉じた。
 声の主であるヨーヨーマッに十数からなる視線が注ぐ。 
「わたくし、今すぐここから逃げ去ることを提案いたします」
「何を言っているのヨーヨーマッ」
「どうやら大変に怒っておられるようでございます」
 ヨーヨーマッが右手を上げて指し示した先には月が……無い。
 雲一つ無いはずの綺麗な星空だったのに、月が無い。
 月を隠していた巨体が動き、一歩踏み出した。
「ゴ、ゴーレム! なんでここに!?」
 わたしの疑問に答えることなく、ゴーレムは一歩ずつゆっくりと確実に歩みを進めている。
 足を上げ、下ろすたびに地面がゆれ、わたし達のお尻が飛び上がった。
 学院を守る城壁を蹴倒し……どう見てもわたし達に向かっています。

「つまりこういうことじゃないの。ミス・ロングビルに呼びかけるつもりでキーシュはフーケと叫んだ」
「ふんふん」
「ところが本物のフーケが近くに潜んでいた。居場所がばれたと思ったフーケがゴーレムで襲い掛かってきた」
「おおっ! 素晴らしい推理だ! さすがはモンモランシー!」
「そんな不自然極まりない推理披露してる場合じゃないでしょ!」
 キュルケが走った。というか飛んだ。
 フライトで飛翔、振り回される拳を避けて後ろに回り、でっかい図体に炎を浴びせたけど、そんなものまるで効きやしない。
 挟み撃ちの形でタバサが巨大な竜巻をぶっつけたけど、圧倒的な質量の前にはそよ風も同じ。
 何よ、トライアングルだなんて偉そうなこといって肝心な時に役立たずなんだから。
 終始一貫して役立たずを貫くわたしやグェスの方がまだマシよ。
 疾風の速さで駆けつけたぺティが蹴りを叩き込んだけど、ちょこっとばかり欠けただけ。行った時と同じく疾風の速さで戻ってきた。
 ギーシュがワルキューレを展開したけどまず役に立たない。マリコルヌは青くなって震えてる。
 ここでいよいよわたしの出番と杖に手を伸ばしたけど空を掴んだ。あ……?
 あ……ああ……そっか。グェスに盗られた杖取り返すの忘れてた……。
「本当に土くれのフーケなの? 野良ゴーレムだったりしない? ところでグェスどこ?」
「モンモランシーの名推理が外れるわけないだろ。野良ゴーレムなんているもんか。君の使い魔ならゼロコンマ二秒の速さで逃げたよ」
 ゴーレムがまた一歩踏み出した。飛んできた小石がわたしの爪先近くで転がっている。
 そろそろ危なくなってきた。グェスじゃなくても逃げた方がよさそうね。
「ゴーレムで宝物庫の壁を壊す気かしら」
「それは無かろう。宝物庫の壁は鉄の拳でも壊すのに難儀するはずじゃ」
 ここまで断言できるって……もしかしてぺティ試したのかしら。

「どこかの馬鹿が壁にヒビでも入れてりゃ別だろうけどねっ、ねっ、ねっ」
「そんな大馬鹿がいるわけないわよね。てことは……狙いはわたし達?」
「そうですね。モンモランシーさんの言うことが正しければその通りです」
「何を言うキーシュ、美の化身とでもいうべきモンモランシーがでまかせを言うとでも……」
 和んでる場合じゃないでしょう。ああ、来る、来る、来る、来る……!
「みんな、逃げて!」
 そんなこと言われなくたってスタコラサッサでしょうけどね。でも一応言っておかないと。
 誰よりも先に、もちろんわたしよりも先に逃げ出したグェスに舌を打ちつつわたしも逃げた。
 ぼうっと見ていたミキタカを、彼にすがりつくシエスタごと抱えてぺティが跳び、ドラゴンズ・ドリームとともにタバサも離脱。
 ゴキブリ的な動きでガサガサと大釜が移動、捕食するようにモンモランシーを捕まえて危険区域から脱出した。
 その大釜にヨーヨーマッもついていく。けして素早いとはいえないものの、ゴーレムだって速くはない。
 あれ……でもまだ一人いたような……。
「マリコルヌッ!」
 皆が振り返った。
 ただ一人、マリコルヌだけがじっとしていた。あのままじゃ踏み潰される。
「逃げなさいマリコルヌ!」
「あ、あう、あううううう、腰、腰が……」
 なんてお約束なやつ。
 今から手を伸ばしたって、マリコルヌもろとも押し潰されておしまいよ。もうどうにもならない。

 皆が惨事を予想する中、意外なヤツが意外な行動に出た。
「旦那様、痛い目にあうのはわたくしめの役目にございます」
 逃げようとしていたヨーヨーマッが踵を返し、タックルでマリコルヌを吹き飛ばした。
 転々とゴーレムの足から離れていくマリコルヌ。そしてヨーヨーマッに土の足が下ろされた。
 地響き、土煙とともに、わたし達は何が起きたのか理解する。
 ただ踏み下ろすだけじゃなく、踏んでから駄目押しにグリグリっと押し潰した。
「ああっ、もっともっとォォォ……」
 足の下から聞こえていた声が次第に小さくなっていき、やがて完全に消えてしまった。
 入れ替わるようにして響くモンモランシーの悲痛な叫びが、わたしの平らな胸を打つ。
「ヨーヨーマッ!」
 ゴーレムが足をどけたところに大きな足型ができていて、そこには……なんて惨い。
 ヨーヨーマッが変わり果てた姿で倒れ伏していた。
 倒れるというか、伏せるというか、どこがどうなって何がどうしているのか分からないほど潰れてしまっている。
「そんな……」
 大釜の中から這いずり出てきたモンモランシーが口を押さえて立ち上がる。ああ、見てられない。
「なんで……なんで……!」
 涙声のモンモランシーがかわいそうでかわいそうでわたしももらい泣き。
 凄惨な死体に近づいていき、あと三歩というところで彼女の膝が崩れ、前のめりに倒れた。
 悲しみに肩を震わせ、痙攣しているみたいに足も震わせ、口からは泡を吹いて、白目をむき……あれ?
 なんか悲しんでるって感じじゃないみたいだけど。悲しみのあまり気絶した?

「大丈夫? モンモラ……」
 ん? これ? え? くんくんくん……ん? あ? う? うううう? ウウウウウウ……!?
「くっ……くさァァァァァい!」
 くっ、くさっ! くさぁあああッ! 何この匂いッ!? 何、なんなの!?
 ヨーヨーマッの死体から匂いが……どんどん……風で……広が……くっさァァァァ!
 うげっ、うげっ、ウゲェェェッ! ゴベッ、ブゲッ、ほごばアアアア!
 コラグェス一人で逃げるなァ! マリコルヌはわたしに向けて吐くんじゃない!
 ああ、ギーシュの大釜が小刻みに震えてるわ! ミキタカ、あんたなんで平気な顔してるのよこの非人間!
 シエスタはここぞとばかりにミキタカへ抱きついてる。わたしの方ちらちら見てるし。くっ悔しいけどそれよりも! 臭い!
「波紋の呼吸さえできていれば多少の異臭など問題に……」
 ぺティ、今はそんなこと聞いてないから! とりあえず、とりあえずここから離れないと!
 ゴーレムも含めて命に関わる!
「タバサ、あんた何ぼうっとしてるの!」
 立ちすくむタバサの手をとり、引っ張ろうとしてわたしは気づいた。ドラゴンズ・ドリームがいなくなっている。
 タバサはわたしに応えようともせず、変わらずその場に直立していた。
 その表情は白一色に染まり、髪と同じ紺碧の双眸は土くれ一掬いさえ映していない。
「この子……たったまま気を……!」
 頭がくらくらしてきた。そうだ、ゴーレムは。ゴーレムはどこに。
 足音が響くけど、なんだか遠ざかっているような……わたし達には興味を失った?
 どこかに行ったの? わたし達を置いて? ヨーヨーマッの臭いのせい?

 いや、とりあえずゴーレムはいい。離れつつあるってことは、最大の問題ではなくなっているってことですもの。
 ゴーレムから逃げることも大事だけど、その前にしなきゃいけないことがある。
 現状何とかしなきゃいけないのはモンモランシー。
 あんな所に放置したら絶命確実、少なくとも体に匂いが染み込むに違いない。
 グェスみたく逃げ出したいけど、由緒正しい貴族であるわたしは仲間を見捨てて逃げたらアウトアウト。
 比較的まともに動ける者の義務として、助けなければなりますまい。おぐえっ。
「ぺティ、タバサをお願い! ミキタカはマリコルヌの背中さすってあげて!」
 わたしはモンモランシーを抱き上げようとしたけど、見た目以上に重くて到底無理。
 胴体に手を回して引きずろうとしたけど、これまた重くてわたしじゃ厳しい。
 相手が女の子とはいえ、自分より大きな体格の人間運ぼうってのがそもそも無理なのよね。
「お手伝いしましょうか」
「ああ、お願い。あなた足の方持って。わたし頭の方……持つ……エエエエエエッ!? ヨーヨーマッ!?」
「なんでございしょう。わたくしめが何か」
 生きてるゥゥゥ!?
「うわああああああああああ!」
「ウゲッ、ウオゲッ、ウゲゲゲゲゲエエエェ……」
「ひいいいいいいいッ!」
「ねっねっねっねっねっねっねっねっ」
「ルイズさん、次は何をすればいいのでしょうか」
「コォォォォォ……」
「オブゴブオブッ、ゲブゲブゲブッ」
「しししししっ、しし、静かに! みみみみみみんな静かに!」
「おお、お嬢様、なんと変わり果てたお姿に。御髪も乱れておいでです。わたしがキュートに編みなおしてさしあげましょう」
「ねー、ルイチュー、まだ終わんないのー?」
「ししし静かに! た、頼むから静かに! みみ、みんな落ち着きなさい! オヴぇっ」


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