ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔ファイト-21

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 部屋に戻るとグェスが床に正座して待っていた。どんなふうに声をかけたものかしらね。
「あのね……」
 わたしの言葉を打ち消すように、
「ごめんなさい!」
 また下手に出てきたものね。こいつのことだから適当な言い訳で取り繕うと思ったわ。
「ごめんなさい……」
 あ、涙。これじゃ怒ることもできやしない。
 グェスは正座から頭を下ろし、そのままの姿勢でわたしににじり寄ってきた。
「あたしって臆病なのよ。ホントは逃げないでルイチュと一緒に戦いたかった。でも足が逆らうの」
 とうとうしゃくりあげ始めた。
「いざとなると腰が引ける。逃げたくないのに逃げちゃうの」
 すすり泣きが号泣へ。顔中が涙と鼻汁で汚れている。で、わたしにすがり付いてくる、と。汚れるわよね。
「ここに来る前、あたしには大親友が一人だけいたの。でも彼女はあたしを置いて逃げていった」
 汚れるから離れなさいとか言ったらさすがに薄情かな。
「理由は分かってる。彼女はあたしという人間を知っていたもの。いざという時に逃げ出してしまうあたしという人間を」
 これは本格的にかわいそうになってきたわ。
「使い魔失格ってのは分かってる……でもお願い。あたしを捨てないで。あなたに捨てられたら生きていけない……」
 どうやら本気で詫びを入れているようね。これなら許してもいいかな。
「あのね……」
「それでね!」
 許そうとしたんだけど、またしてもグェスに止められた。
 なんなのよ、あんたはわたしに許しの言葉も言わせないつもり?
「泣いて謝るだけで許してもらおうってのは都合よすぎじゃない? 親分見捨てたんだからお詫びを形にしなくちゃいけないと思ったのよ」

 グェスはベッドの下の隙間に手を差し入れた。
 わたしほどではないにしても、彼女だって細い腕だから、差し入れることはとっても簡単。
 ただ、それを抜くのに往生していたみたい。彼女は肩を揺すり、膝を曲げ、腕に力を入れて、大きな袋を取り出した。
 やっとの思いで取り出したる麻袋の尻を持ち、逆さにして揺すりあげた。
 中から出てくる統一感の無い物の数々が、整頓の行き届いた部屋の一角にうずたかく積みあがっていく。
「これをルイチュにプレゼントするわ。ね、ルイチュ。あたしを許してほしいの」
「これを……わたしに?」
 一振りの剣、凝った装飾のなされた香水の壜、大ぶりの瑪瑙を飾った高そうな指輪。
 初見では統一感が無いという感想を抱いたけど、あれは間違いだった。ある種の共通点はあった。
 それは、とても高価そうなな品々だということ。わたしのお小遣いじゃ手に入りそうにないものばっかり。
 迷宮の奥に配置されたチェストの中にこれほど相応しい物もそうないでしょうね。
「すごいじゃないの!」
「へへっ、そうでしょ。許してくれる?」
 グェスはお金を持っていなかったはずよね。つまり、これはグェス自信が生成したということになるじゃない。
 ただの平民とは思えない雰囲気がある女だったけど、まさかこんな力を持っていたなんて!
「そうね。これなら許してあげるわ。こんな力があることを隠していたのは腹立たしいけど」
「隠したりするわけないじゃない! 聞かれなかったから黙っていただけのことなのよ」
 一息で鼻汁をすすり上げた。流れていた涙はすでに乾ききっている。切り替えの早いこと。
「先住の魔法ってやつなの?」
「先住の魔法? たぶん違うと思うよ」
 へぇ、違うんだ。ミキタカやぺティみたいなものかと思ったんだけどな。
「この力はね、あたしの心の力なの。『グーグー・ドールズ』って名前をつけたんだ」
 心の力、ねえ。なんだかミキタカが食いつきそうな胡散臭い話。

 ま、原理はどうでもいいわ。わたしは研究者じゃないもの。
 それよりも、無能だと思っていた使い魔の有能っぷり……いや有能なんて生易しいものじゃないわ。
 これはもう万能と言っていい能力じゃないかしら。
 だってすごいじゃない。好きな物が作り出せるのよ。錬金の魔法なんて目じゃないわ。
「ほら、これが『グーグー・ドールズ』。かわいいでしょ」
 力なんて言うから魔法みたいなものを想像していたけど、どっちかというと使い魔だったみたいね。
 グェスが掌を広げると、そこにはグーグーと鳴く小動物がしゃがんでいた。
 人の形をしているけど、指先に生えた鉤爪、まばらに生えた乱杭歯、何より大きさが人間ではないことを証明してた。
 かわいいという言葉が大きさを指してのものだとしたら、確かにこれは間違いなくかわいいサイズね。グェスの掌ほどしかない。
 動きを指してのものだとしたら、かわいいと言えなくもないものでしょう。グェスの指にしがみつく仕草は小さなお猿さんみたい。
 造作を指してのものだとしたら、グェスの趣味はどうかと思う。だってツギを当ててなんとかこさえたお人形みたいなんだもの。
 しかもちょっと向こうが透けて見えてるし。心の力っていうのは幽霊か何かなの?
「これを見せたのは大親友とあなたの二人だけよ。ルイチュだから見せたの」
 でも、幽霊だの不細工だの言えば気を悪くするだろうし、わたしは曖昧に頷くだけだけど。
「あたしの大親友も心の力が使えたんだ」
「へえ」
 水族館っていうのは研究所か何かだったのかしらね?
「パワーは向こうの方が強かったかもしれないけどさ、便利さとプリティーさなら圧倒的に勝ってたと思うのよね」
「そりゃ負けるわけないでしょうね。好きな物を生み出す力なんておとぎ話でしか聞いたことがないもの」
「は? 好きな物を生み出す……? 何のこと?」

 怪訝そうなグェスの顔を見て、今度はこちらが怪訝顔。何のことってあんたの能力でしょ。
「だって、これ全部あなたが作り出したんでしょ」
「ちょっとルイチュ勘弁してよー。作ったりできるわけないじゃない。これ全部かっぱらってきたのよ」
「かっぱら……え?」
 わたしの耳ってばどうかしちゃったらしいわね。何だかとんでもない幻聴が聞こえたみたい。
「ごめんなさいグェス。もう一度言ってもらえない?」
「作ったりできるわけないじゃない。これ全部かっぱらってきたのよ。これでいい?」
 かっぱらう……ええと、わたしの知らない意味があったりするのかも。
 そうよね、泥棒をしただなんて疑ったりしたらグェスに失礼だもんね。
「ちょっと勘違いしちゃって。かっぱらうって言葉に聞き覚えがなかったものだから」
「ルイチュって育ちがいいのねェ。さっすが貴族。かっぱらうってのはギる……盗むってことよ」
 盗む……ええと、わたしの知らない意味が……無い。
「……その盗むってのは比喩的な表現なのよね? 何かのメタファーとか」
「何それ? あたしが言ってるのは直接的な意味よ。他の部屋から色々持ってきてやったの」
 あ……眩暈。
「グーグー・ドールズの力はね、物を生み出すんじゃなくて物を……」
「ちょっと黙りなさいグェス」
 ああ、よくよく見れば見覚えのある品がいくつかあるわ。てことはやっぱり……。
 キッと睨みつけてやったけど、グェスはどこ吹く風でグーグー・ドールズの顎を撫でていた。
 気軽にとんでもないことしてくれたわね。どうしようこの高そうな物の数々。
 鍵と……なんて言ったらいいのか……包み? 中身は分からない。ちょっと気になるけど開けるわけにはいかないでしょうね。
 香水の壜? 香水っていうとモンモランシー? なんかこれ……持ってきたらマズイものだった気がするんだけど……ものすごく。
 こっちは皮の袋ね。中身は金貨がたくさんってまんまじゃないの!

 指輪、ピアス、チョーカー、ブレスレット、各種貴金属。また換金性の高い物ばかり……。
 これは随分古ぼけた剣だけど、この学院に剣提げてるメイジなんていたかな。
 衛兵から掠め取ってきたのかしら。とりあえず抜いてみた。
「おでれーた。お嬢ちゃんあんた」
 鞘に入れなおした。恐る恐るもう一度抜いてみる。
「『使い手』か。人は見かけに」
 また入れた。これってもしかしなくても……。
「インテリジェンスソードじゃないの!」
「さすが魔法の世界ね。剣までしゃべるなんて」
「そうじゃなくて! 魔法のかかった剣ってのは高いのよ!」
「ボロボロじゃない」
「ボロでも高いの!」
「マジ? そりゃ拾いもんね」
「拾い物じゃなくて盗品でしょうが!」
「同じ同じ」
「違うわあああ!」
 わたしは興奮している様を全身で表現していたけど、グェスにはたぶん通じていない。
 グーグー・ドールズと並び、首を傾げてわたしを見てる。なんでそんなに慌ててるの? 嬉しいの? って感じで。
「あのねグェス。平民が貴族の物盗んだりしたら殺されても文句言えないのよ。分かる?」
「バレなきゃ罪にもイカサマにもならないでしょ。それに盗まれたのは貴族のボンボンばっかだし」
 なにこのかっ飛んだ遵法意識。平民とはいえ、同じ種類の生き物と話している気がしない。


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