ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第六話 【行進曲は高らかに奏でられる】

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匿名ユーザー

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静まりかえっていた……。
もう誰も声をあげなかった。うめき声すらあげなかった。
キュルケも…その隣にいる青髪の少女も…
給仕していたシエスタも…

そして…”彼”の主人であるルイズさえも……

彼女らの耳に聞こえてきたのは
まだ荒い息づかいをしているフーゴの呼吸音と
ギーシュの顔から流れ、シーツを伝わって落ちていく

『血』の音だけだった…


『紫霞の使い魔』

第六話 【行進曲は高らかに奏でられる】



 フゥゥーーー……

深い呼吸音。そして…『悪魔』がゆっくりと顔を上げた。
『平民』が『貴族』を殴り殺すなど、あっていいはずがない!
まさしく、狂気の沙汰だ…。少なくとも生徒たちはそう思った。

『悪魔』の顔は無表情で何の感情も読み取れなかった。
ゆっくりと…彼は周囲を見渡した。

目を向けられた者は小さく悲鳴を上げて、テーブルの下へ隠れ!
これから目を向けられる者は『悪魔』の視界から逃れるように後ずさる!
まともに顔を合わせることが出来る者など居ようはずもない。

そんな中、フーゴの目が…止まった。
視線の先にいるのは…彼の主人、『ゼロのルイズ』。

「うっ………!」

無言の間々、射抜くような目で彼女を見据える。

な…何よ…!不満があるなら言ってくれればよかったじゃない!
いいい、言わなかったあんただって悪いのよッ!
それを……それを………!

言葉に出したかった。けれども息をすることすら ままならない。
心臓どころか魂までも握られているかの様な この感覚。

私がアイツに恐怖している!?自分が!?あんな『平民』に!?
ありえない!?何で動けないの!?何で声が出ないの!?
何で!?何で!?何で!?

不意に、フーゴの視線が逸れた。もう興味を失ったのだろうか?
ルイズは解放され、生徒たちには緊張が走った!

次に彼が目を向けたのは…床にへたり込んだシエスタだった。

「ヒッ……!」
何!?何!?何!?わ…私!?
私は何にも…!?何にもしていないのに!?

彼女の心中に響く叫びなど介さないかのように
ゆっくりと、フーゴは屈んで…血に塗れた手を伸ばす。

「…イ…ヤァ……イヤァ……!」

ガクガクと震えながら後ずさるシエスタ。

殺される!?殺される!?殺される!?殺される!?
コロサレル!?コロサレル!?コロサレル!?コロサレル!?
ころされる!?ころされる!?ころされる!?ころされる!?


だが、また気が変わったのか…彼はその手を戻した。
それでも…シエスタを気絶させるには充分過ぎる行動だったが。

再び周りを見渡す。その鷹のような視線を持って…。


 ピクッ…

微かな動き。
それはテーブルに突っ伏した人物の発したものだった。
そう、ギーシュはまだ生きていたのだ!

瞬間!それに飛びつくかのようにフーゴが彼の傍らへ向かう!
生徒たちはざわめき始めた…。

トドメを…完全にトドメをさす気なんだ……!
『悪魔』は、まだ暴れ足りないのだ!
ここにいる全員を…殺し尽くすまでは!!

生徒たちの行き着く予想…いや『予測』は それだった。
果たして『悪魔』はその手を彼の首元へ……

 ザシュウッ!
 ガシィッ!

薔薇。
いや、杖を握った腕。そして…それ自体を握った腕。
杖の先端は『悪魔』によって逸らされていた。

ギーシュ・ド・グラモン!グラモン家四男坊!彼は甦った!
その自慢の顔は己の血で深紅に染まり!腫れ上がり!
突き出した腕は止められたというのに!フーゴを睨む眼はギラついていた!
何故!本来小心者たる彼が!『悪魔』に杖を向けることが出来たのか!?


勇気?無謀? 否!否!否!
彼の心にあったものは『怒り』!
こんな無様な目を!こんな屈辱を味あわされた『怒り』!

そう、憎しみは感染する…。まるで『病魔』のように…!

「…そうだ……。ここから先は…レディたちの名誉のためではない…。
 僕個人!『ギーシュ・ド・グラモン』…いや、我が『グラモン家』の名誉のため!
 貴様に!決闘という名を借りた…『公開処刑』を受けて貰う!」
そういうとギーシュは掴まれている腕を振り払った
フーゴは己に浴びせられた『死刑宣告』を黙って聞いている…。

「平民風情にここまでコケにされたのは初めてだ…!
 ヴェストリの広場で待っていろ…!そこが貴様の墓場だ!
 逃げたら殺す!逃げなくても殺す!貴様には『死』しか存在しない!!

 ……おい。そこのかぜッぴき。僕を医務室まで連れて行け…!」
「ひいいいいいいいっ!ひいいえええええーーーっ!」
この修羅場に巻き込まれてしまった犠牲者が悲鳴をあげた。
「早く連れて行けッ!!
 コッパゲが薄給を溜め込んで購入した
 高級育毛剤を運ぶようにな……」
『レビテーション』を使えば楽だろうに…。それとも考える余裕がなかったのか
マリコルヌは律儀にも、ギーシュに肩を貸して食堂から出て行った。
この騒動の中心人物であるフーゴも三度辺りを見回した後、退出した…。

嵐が去り、呆然とその場に立ちつくす生徒たち。
いや…一人だけ!たった一人だけだが!
彼らの後を追い駆けるものが居た!


「待ちなさい!」
食堂から出たフーゴの背に向かって掛けられた声。
振り向くと、そこに立っていたのは 彼の主
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
通称、『ゼロのルイズ』…。

「…ああ。あなたですか……」
彼からは既にあの 荒ぶるような『怒り』は感じない。
同時に、あの 陰から支えてくれる『優しさ』も感じなかった。
それがとても怖かった。…怖かったのだ。

「さ…さっきのアレは…?さっきのは一体…何?」
極めて抽象的。もっと詳しく言いたいことがあったけれども
頭が混乱して言葉に出来なかった。
けれども、彼が質問の意味を理解するのには十分だった。

「生まれつきキレやすいんですよ。ぼくは…
 本当に我ながら良く耐えたと思いますよ」
もう慣れてしまったことだ。キレることも、その後の周囲の反応も。
ただ”彼ら”との付き合いが長かったために、忘れてしまっていただけ…。
なんで朝食の時にキレなかったのか、不思議なくらいだった。

「あれだけやられて不満を感じない人間は…
 いないでしょう。古今東西においてもね」
と、彼は語る。
知らず知らず…いえ、わざとあんなモノを食べさせたりした私も
悪かったかもしれない…。でも…でも……!


「……やっぱり。私に言ったことは嘘だったのね……!」
ルイズの目に涙が浮かぶ。
「期待を持たせるような言い方をしておいて……!
 ご機嫌を取るためだけに……!」
自分が『ゼロ』じゃないと励ましてくれた
けれど その言葉は結局、うわっ面からでた言葉…。
虚言。虚偽。虚辞。虚構。虚語。虚妄。
全部嘘!全部嘘!全部嘘!全部嘘!全部嘘!
だけど、ソイツは……

「ぼくは『この世界』に来てから一度も嘘は付いていません。
 それだけ言えば…充分でしょう?」
ソイツは私を励ましたときのように笑顔を浮かべた。
けど…わかっている。それも……『嘘』。

「…信じないわよ……。そんなこと……」
騙されない…。そんな笑顔には騙されない。
そんな笑顔で騙して欲しくはない…。

「『信じる』、『信じない』はあなたの勝手です。
 信じてくれた方が嬉しいですけど…」
きっと『嘘』…。そうに違いないけれど……

ソイツの悲しげな微笑みを見て
どこか信じたくなった。『彼自身』を…。

「今度はこちらが質問させて貰いますが…
 『ヴェストリの広場』は何処ですか?」
道がわからなければ、前には進めない。
でも、彼が進む道は………。

「行ったら…殺されるわよ…。ただの殴り合いならともかく
 本気になったメイジ相手に平民が勝てるわけないのよ!
 絶対に勝てるわけ……」
そう言って制止しようとするルイズ。
その姿はまるで『あの時の自分』のようだった。
無謀すぎる船旅へと向かう”彼ら”を止めようとした自分自身と…。

本当に…よく似ていますね。彼女とぼくは。
だから、使い魔として呼び出されたのかな…?

フーゴはルイズに聞こえないように呟いた。

「死にませんよ…ぼくは。死んでしまったら…



 あなたの鬱憤を誰が受け止めると言うんですか?」  



『風』と『火』の塔の間に位置する中庭、『ヴェストリの広場』。
日中においても日陰であるため、決闘をするにはうってつけである。
だが、今日行われるものは『公開処刑』なのだ…。
貴族に刃向かった者の末路がどうなるのか
怖い者見たさ半分で集まった野次馬達。
彼らの視線の先には、広場の中央に佇む『悪魔』…
パンナコッタ・フーゴの姿があった。

フーゴがきてから一時間後──
魔法によるものなのか、完全復活したギーシュが現れ
野次馬達は役者が揃ったことに沸き立った!

「ほぅ、逃げ出さずに待っているとは…。
 誉めてやろう。『脱走囚』を探し求める手間が省けたからな」
一時間も経っていたからか、それとも『薔薇の美しさ』が復活したからなのか
随分と余裕と落ち着きを取り戻している。
「こちらも男に追い回されるのは迷惑ですからね…」
フーゴが冷ややかに言い放つ。

「では、始めるとするか……。『公開処刑』を!」

ギーシュが杖を振るうと一枚の花びらが舞い
青銅の鎧を纏った女戦士の像が出現した。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦わせてもらおう……。
 コイツは『ワルキューレ』…。覚えておくといい。
 貴様の処刑執行人の名だ!!」
ギーシュは自慢のゴーレムを前にして、満足げに腕を組んだ。
「そりゃどうも……」
対するフーゴの反応は、意に介さずといった様子だった。

「どうだ?今からでも遅くはない…
 這い蹲って涙ながらに許しを請えば
 命だけは……」
「断る!」
確固たる意志を持ち、フーゴは拒否した!
屈服する必要など何処にも存在しない!
そんな『死刑囚』の様子を『愚かな行為だ』と言わんばかりに
呆れ顔のギーシュ。かるく溜息をついた。
「そうか……。ならば無様に敗北して死ぬがいい!!」
その言葉と共に
ワルキューレが青く光る腕を振るい、フーゴに躍りかかった!

「違うね……」
──迫り来る拳に対して何の恐怖感も湧かなかった。──

「負けるのは……」
──傲慢からではない。慢心からではない。──

「ぼくの能力を見る……」
──”彼ら”が立ち向かっているものに比べれば…──

「おまえのほうだな……!」
──こんなものは…脆弱たる存在だったからだ!──

『ソイツ』は静かに…『肉体』という鞘から解き放たれ…

周囲を『紫の霧』で包み込んだ。

To Be Continued…

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