ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

仮面のルイズ-9

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匿名ユーザー

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「WRYYYYYYYYYYYY!!!!」

肉片が散らばり、血しぶきが樹木を濡らす。

まず一匹目。
腕力を試すために投げられた剣によって死んだ。
次に二匹目。
どの程度の勢いで血を吸えるのか試すため、心臓に腕を突きさして血と水分を完全に吸い取った。
そして三匹目。
巨大な棍棒で顔面を殴られたので、その棍棒を殴り返した、ルイズの手も棍棒も、オークの顔面も砕けた。
四匹目。
殴られたせいで口に溜まった血液を、可能な限りの勢いで噴き出した、すると逃げようとしたトロル鬼の脳髄を背後から貫く結果となった。
最後に五匹目。
棍棒を捨てて命乞いするトロル鬼の頭を掴んで、火を消した時と同じように、体温を下げる…
トロル鬼は瞬く間に氷のオブジェと化し、軽く爪で弾くと、バラバラに砕け散った。


周囲を警戒し、他に動物の気配がないことを確認すると、ルイズは満足そうに頷いた。
肉体の能力はだいたい確認できた、潰された顔も、砕けた手も既に復元され、元通りになっている。
それこそ髪の毛の一本まで完全に復元されているのだが、ここでふと困ったことに気づいた。

ハルケギニアの吸血鬼は日光に弱い、光に当たっただけでも火傷してしまう。
しかしルイズは違う、伝承よりもはるかに強く、強靱な生命力を備えている。

その代わり、吸血鬼が使えるはずの先住魔法が使えない。
吸血鬼やエルフ等、知能の高い亜人種は、先住魔法と呼ばれる自然界のエネルギーを利用した魔法を行使する。
現在、絶滅したと言われている『風韻竜』は、先住魔法を使い人間に変身することもできたと言われている。

今のルイズは生命力が強すぎるため、意図して再生を止めないと、どんな怪我も『元の姿形に』治してしまうのだ。

ルイズは地面に散乱している骨を見て、変装の手段を思いついた。

その二日後、トリスティンの城下町で、宮殿へと続く大通りを歩く一人の女性がいた。
ミス・ロングビルである。
彼女はトリスティン魔法学院に所属するメイジではあるが、貴族ではない。
魔法学院の教師達は、注文した品物を馬車で届けさせる事が多く、彼女のように城下町までやってきて秘薬や日用品を買うのは珍しい。
「こんにちは」
「…?」
突然、隣から声をかけられた。
ロングビルに歩行のペースを合わせて歩くその女性は、頭までフードをすっぽりと被っており、赤みがかった茶色い髪を房にして右肩から前に垂らしている。
どこかで聞いたことのある声だと思ったが、自分と同じぐらいの身長で、赤毛の女性には心当たりがない。
「どちら様かしら」
「分からない?私よ、わたし」
ロングビルの足が止まる、この声には一人だけ心当たりがある、しかし、目の前にいる人物は記憶の中の人とは全く別人に見えた。
「ねえ、昼食はまだ?よかったら一緒に食べましょうよ」
「え、ええ…いいわよ、でも、生ものは勘弁して欲しいわ」
引きつった笑顔で答えるロングビルに、フードの中から笑みを返した。

城下町のはずれにある小さな劇場、ここでは夜は演劇が上演され、昼間は漫談を堪能することが出来る。
軽食をとりながら鑑賞できるので、昼間でもまばらに客が入っている。もっとも繁盛しているとは言い難いが。
フーケは、フードを被った女性を端の方席に案内し、自分も隣の席に座った。

座ってすぐにサイレントの魔法を唱え、会話の内容が漏れぬように注意する。
この劇場は、舞台を明るく見せるため、客席は適度に暗い。
顔も見えにくいので、交渉に便利な場所として重宝しているそうだ。
「…サイレントの魔法ね、いいなあ、私なんて”ゼロ”なのに」
「吸血鬼は先住魔法が使えるんじゃないのかい?」

”吸血鬼”
この言葉を周囲の観客が聞いていたら、冗談を言っているのだと笑われるか、本気で恐れられるかのどちらかだろう。
サイレントの魔法で声は周囲に漏れないが、人間が食屍鬼(グール)にされず、吸血鬼と会話しているなどと知ったら、皆驚いて腰を抜かすに違いない。
吸血鬼と呼ばれた少女は、先住魔法すら使えない事実に苦笑した。
「無理みたい、まあ、それを補う技術やアイテムがあればいいんだけれど…」
「あんたの能力に先住魔法が加わったら、それこそ誰も太刀打ちできないのにねえ」
「そう都合良く行かないみたい、あーあ、折角魔法が使えると思ったんだけどなあ…」

舞台の上では、ギターらしき楽器を使って音楽を演奏しつつ、一人の男がくだらない小話を話している。
時々、周囲から笑い声や、時にはヤジも飛ぶが、二人にはその声も届かなかった。

「吸血鬼って言ったって、ちょっとぐらい弱点がないと、可愛げがないわよ」
「あら、言ってくれるじゃあない、フーケお姉さん」
「お、お姉さんって…そういうの止めておくれよ、アタシはそっちの趣味はないんだ」
「私より年上のクセして照れちゃって、キュルケみたいに根が純粋なのね」
「年上?ああ、アンタ吸血鬼になったばかりなんだっけ…なんかアンタの方が年上のような気もするわ、その姿も」
フーケは、隣に座る女性の姿をまじまじと見た、どんな魔法を使ったのか知らないが『ゼロのルイズ』と呼ばれていた頃と比べて、明らかに背が伸びているし髪の色も違う。
「これはね、ちょっと骨を借りたの」
「骨?」
「そう、森の奥に傭兵らしき女性の骨が転がっていたわ、それを手足に埋めて、背を伸ばしたのよ」
「せ、先住魔法を使う吸血鬼より、よっぽど化け物じゃない」
フーケが青ざめる。
「化け物ね…、骨を見つけた時、トロル鬼に襲われたわ。この骨の持ち主もトロル鬼にやられたと思ったんだけど、ちょっと違うみたいなの」
「?」

「この骨、鋭い刃で斬られたような痕が、何百カ所もあるのよ。手作業だとは思えないわ、『エア・カッター』を食らったんじゃないかしら?」
「なるほどね…女の傭兵なんて、いたぶられて殺されるのも珍しくないからね…」
「メイジの傭兵が、この女傭兵をいたぶって、森の奥に放置したんでしょうね、平民から見たらメイジも立派な化け物だと思わない?」

爛々とした瞳でフーケを見るルイズ、フーケはその瞳に飲まれて、静かに頷くしかできなかった。

「ところで、その髪は?」
「ああ、そこの店で買った染料よ、服を染めるらしいけど」
「…今度会ったときのためにマトモな髪染めを用意しておくわ」

しばらくして漫談が終わると、舞台を改めるために緞帳が下りる。
それを期に二人は劇場を出ることにした。
「連絡の方法はまた後で伝えるわ、それと、これからはルイズじゃなくて別の名前で呼んで貰える?」
「別の名前って、どんな名前よ」
「そうねえ…『石仮面』とでも呼んで頂戴」



ルイズと分かれたロングビルは、城下町の馬舎に預けてある馬に乗って、魔法学院へと帰って行った。
「石仮面…か、仮面の下は人間のつもりなのかね…偉そうなこと言って、未練たらたらじゃないか」
そう呟いて、空を見上げる。
ロングビルは、故郷に住む人…正確には人とは言い切れないのだが…自分の守るべき人を思い出す。
「ハーフエルフの保護者…今度は吸血鬼のお世話…何やってんだろ、アタシってば」

一方ルイズは武器屋を目指していた。
ロングビルから武器屋の場所を教えてもらったのだ。
元々貴族であるルイズが武器を使おうと思ったのは、これからの身のフリを考えてのこと。
ディティクトマジックにも反応しないこの体なら、人間に混じって仕事をしていても問題はない。
しかし、魔法を使えばメイジだとバレてしまうし、爆発を起こせば『ゼロのルイズ』の噂に引っかかるかもしれない。
身分を隠して金を稼ぐには、この腕力を利用して傭兵になるのが一番だと考えた。

名誉と家柄を重んじるトリスティン貴族であるルイズが、仕事として傭兵を選んだのにはもう一つ理由がある。
トロルを倒したときの精神的な余裕が、貴族として生きてきたルイズの価値観を崩していた。

トロルに口づけする女性などいやしない。
しかし、人間が動物を食べるときは口を使う。
『動物』ではなく『食物』として扱えば、動物の体の一部が人の口に触れるのはごく当然のことだと思える。

ルイズはトロルの屍体を噛みちぎり、血を吸い、肉を食らった。
人が香りを嗅ぐだけのために草花を摘むのと同じように、トロル鬼の命をつみ取った。

それでも、人間の血を吸うのは、どこかためらいがある。
使い魔、ペット、それら動物を無碍に殺せないのと一緒で、人間を殺すのはなるべく避けたいと考えていたのだ。

だが『敵』なら殺せる。

『害虫の駆除』なら罪悪感もない。
そんなことを考えながら、やっと見つけた武器屋に入っていった。

「野郎よくもニセモノを掴ませやがったな!」
「…?」
武器屋の中では、奇妙な光景が展開されている、身長2メイル(m)近くはある大男が、カウンターごしに店主(らしき人物)を掴み上げているのだ。
胸ぐらを掴まれ宙に浮いた店主は、ヒィヒィと泣くような声を出して、必死に謝ろうとしている。
「あ、あの剣は、ゲルマニアで練金された極上の品だと聞いて、入荷したんでさ!あ、アッシも騙されたんでございやすよ!」
「うるせえ! てめぇ自信満々で俺に売り付けただろうが、死にたくなかったらイロつけて金を返して貰おうじゃねえか!」
「ヒーッ!」

どうやら、大男はこの店でニセモノを掴まされたらしい。
ルイズはそんな騒ぎを無視して、壁に掛けられている剣を手に取った。
吸血鬼の腕力で扱えばどんな武器でも人を殺すことは出来る、しかし、なるべくなら長持ちする武器が欲しい。
「ねえ、この店で丈夫そうな武器って言ったら、どれかしら」
ルイズが大男を無視して、店主に話しかける。
「ああ!?今取り込み中だ、女は失せな!」
大男がわめきはじめるが、ルイズは意に介さない。
「おい、てめえ、聞いてるのか!」
男は店主を離した、ちょっとだけ宙に浮いていた店主はそのまま床に落ちて、しりもちをついてしまった。
「それと…剣とか、槍とか、大人数を相手するのに効率の良い武器が欲しいのよ、見繕ってくれないかしら」
「このアマ!」
無視されたのがよほど頭に来たのか、大男はルイズの顔面を殴りつけた。
バキッ、ゴキッと音がする。
しかしルイズは一歩も動かない。
男は三分間ほどルイズを殴り続けていたが、びくともしないのを見て、さすがに顔色を変えた。
「お、おめえ、何なんだよ」
「……トロル程じゃ無いわね」
そう言いながらルイズは、側に置いてある箱を手にとって、大男に手渡した。

鉄製の槍が数十本本納められている箱を、『とても軽そうに』手渡されたが、思いがけない重さ手を滑らせ、て箱を足の上に落としてしまった。
ギャース!と叫んで片足立ちでピョンピョンと逃げていく大男の姿が滑稽で、店主とルイズは思わず笑ってしまった。
「あはははははは!あー、やっぱり見かけが全てじゃないのね」
『おでれーたな!細身の娘っ子のどこにそんな力があるんだ?』
と、突然どこからか声がした、この店には店主とルイズしか居ないはずだが、確かに声が聞こえた。
店内を見渡すがどこかに人が隠れている気配もない、ルイズは首をかしげた。
「お、おいデルフ!お客の居る間は喋るなって言ったろう!」
『んなこと言ったってなー、人間だって大道芸に拍手すんだろ?あれと同じよ、同じ』
店主がデルフと呼んだそれは、店の一角、長剣が並ぶ棚に立てかけられていた。
カタカタと刀身を揺らして喋っているそれは、どこからどう見ても『剣』だった。
「インテリジェンスソード?珍しいわね」
「へぇ、その通りでやす。こいつは特に口が悪くて厄介な奴ですが…あ、先ほど丈夫な武器とか言ってませんでしたか?」
店主がルイズの言葉を思い出し、ぽんと両手を叩いて言った。
「でしたらそいつをお持ち下せぇ、昔、こいつがあまりにも口が悪いんで火のメイジ様に頼んで溶かして貰おうと思ったんでさ」
『あんときゃ熱かったなー』
「ですが、トライアングルのメイジ様の炎でも、こいつは溶けませんでした、錆びも浮いて見た目は悪いですが、丈夫さなら折り紙付きでさぁ」

ルイズは口元に指を置いて、少し考え込む仕草をすると、デルフと呼ばれたその剣を手に取った。
「気に入ったわ、これを頂戴」
そう言いながらカウンターにデルフを置く、すると先ほどまでの威勢の良さそうな声ではなく、どこか慌てたような声でデルフが叫んだ。
『ま、待て!こいつに俺を渡すな!こいつは…』
デルフの叫びもむなしく、店主はデルフを鞘に仕舞ってしまう。
「こいつの名前はデルフリンガーと言うそうでさ、鞘に入れちまえば声も聞こえなくなります、さっきの男を追い払ってくれたお礼にお持ち下せぇ」
ルイズが金を払おうとすると、店主がそれを制止した。
ルイズはロングビルから借りた金貨を数枚、無理矢理カウンターの上に置いて、武器屋から立ち去っていった。

トリスティン魔法学院。
ルイズの部屋に、オールド・オスマンが佇んでいた。
何度も魔法を失敗し爆発させたのか、部屋の中央の床にはヒビが入り、壁も何カ所か砕けている。

そして床には一枚の大きな紙が敷かれていた。
その上には薔薇の造花が一本、香水が一つ、メイド服が一着、乾燥ハシバミ茶一袋、ゲルマニア特性おっぱいの大きくなる膏薬が置かれ、手向けられていた。
「東方のお供え物とかいう習慣じゃったな、気持ちは分からんでもないが…後かたづけも考えて欲しいのう」
オールド・オスマンは部屋を見渡すと、部屋の修理に必要な箇所をチェックしていく。
本来ならロングビルの仕事だが、今日は虚無の曜日なので城下町に出かけている、オスマンもたまには自分で仕事をしようとルイズの部屋にやってきたのだ。
本当は、ルイズの母カリーナ・デジレが、この部屋に余計なことをしていないかと危惧して見に来たのだが、そんなことは人には言えない。

ヒビの入った壁に触れ、ヒビの深さを測ろうとした時、『何か』の破片が食い込んでいるのを見つけた。
練金の呪文で周囲を土に変えて、『何か』の破片を取り出す。
それは石のようでありながら、骨のように軽い、何か不思議な材質で出来ていた。
光にかざして見てみると、丁度、唇のような膨らみから、牙が突き出たような形をしている。

背筋に氷を差し込まれたかのように、オールド・オスマンの体が震えた。
脳裏に浮かぶのは、ロングビルが取り返した、あの本だ。


『石仮面を被り吸血鬼となった者は太陽によって消滅する。
 されどハルケギニアの大地に注ぐ太陽光は脆弱であり、 吸血鬼を破壊するには至らない。
 リサリサの知る種の吸血鬼が、ハルケギニアに訪れたときのため、 口伝によって伝えるべき波紋を、あえて書に残す。』


「これは…これは本当に偶然か…!」
オールド・オスマンは、実に100年ぶりに、恐怖と武者震いの混じった悪寒を感じた。




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