ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの来訪者-13

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学院長室の前。
育郎とルイズを後ろに控えさせ、ミス・ロングビルが扉をノックする。
「学院長、イクロー君を連れてきました。ミス・ヴァリエールも一緒です」
「うむ、入りたまえ」
その声に従っての扉を開けると、頭の剥げた教師の横に育郎の見知った顔があった。
「おじいさん!?」
「…あんた、学院長とも知り合いなの!?」
ルイズが驚いた顔で育郎を見る。
「学院長?じゃあ、おじいさんが?」
「うむ、ワシがトリスティン魔法学院学院長のオスマンじゃ!
 …そういえば言っとらんかったのう」
ポリポリと頬をかくオスマン氏。
「ねえ…あんたミス・ロングビルや学院長となんで知り合いなのよ?」
ルイズが小声で、と言っても周りの人間にまる聞こえだったが、育郎に問う。
「えっと………」
別に『もっと恐ろしい者の片鱗を味わった』わけではないが、
育郎はありのままを話すべきかどうか悩んだ。
「水場を探していたイクロー君が、私の部屋に使い魔をもぐりこませた
 オールド・オスマンを見つけたんです」
が、ミス・ロングビルは躊躇無く真実を話した。
「学院長…あなた…」
「い、いや違うんじゃよミスタ・コルベール!み、ミス・ロングビル…
 生徒の前でそんな事をばらされたら、学院長としてのワシの威厳が!」
入学式の時カッコつけて二階から飛び降りようとしたが、着地の魔法に失敗し、
のた打ち回った姿を見せられているので、威厳など存在しないのだが…
とはいえ、ルイズはそんなことを説明するのも面倒なので黙っていた、
そのかわりにミスタ・コルベールと同じように冷たい視線を送っておく。

「んな事はどうでもいーじゃねーか、それより相棒に話があんだろ?」
「おや、それはインテリジェンスソードですか?珍しい」
ミスタ・コルベールが育郎の手の中のデルフを興味深げに見る。
「ミスタ・ゴマシオ、これ以上話を横道にそらさんでくれんかの?」
「す、すいませんオールド・オスマン…あと私はコルベールです。
 というか、さっきちゃんと名前呼んでませんでした?」
抗議するコルベールを無視して、オスマン氏が育郎に向き直る。
「さて、君を呼んだのでは他でもない、君に聞きたい事があるんじゃが…
 君の…あの姿の事じゃ…」
「はい………」
予想はできている、というかそれ以外ないだろう。
おそらく魔法を使って、広場での決闘を見ていたのだろう。
「その前に…ミス・ロングビル、ちと席を外してもらえんかの?」
「いえ、私も一緒に聞かせてください…ある程度の事情は聞いていますので」
その言葉に驚くオスマン氏。
「なんじゃと?何故ワシに話さなかったのじゃ!?」
「いえ…あんな姿になれるとまでは聞いてなかったもので…」
ふむ、と頷き、髭をいじりながらしばらくオスマン氏は悩んだが。
「まあ、いいじゃろ…ただし他言無用じゃぞ」
「わかっております」
その言葉に頷いた後、改めて育郎に目を移し、本題を切り出した。
「単刀直入に聞かせてもらおう。君は何者なのかね?」


「………」
育郎は返答に窮していた。
なにせあの『力』の事は、自分自身でさえ良く分からないのだ。
まずは自分がどこから来たのか、そこから話さなければならない。
「ルイズやロングビルさんには話しましたが…
 僕は………この世界とはまったく別の世界から来たんです」


           魔  界  !!!

それは年中曇り空で、山は噴火し、河や池には水の代わりに血が流れ、
なんか空気は悪いわご近所の付き合いまで悪いわ、やたら凶暴なゴリラがいるわ。
そんな晩御飯のおかずを買いに行くのにも一苦労なんじゃないかと思わずには
いられない、弱肉強食なとても住みにくそうな世界である!
あと悪魔とか住んでる。

なんて事をオスマン氏とコルベールは想像したッ!

「…おじいさん?」
「あ、いや続けてくれたまえ」
「はぁ…そして、僕の世界では魔法は存在しません」
「魔法が存在しない!?君、それはどういう事かね?」
育郎の言葉に、コルベールが興奮した様子で問いかける。
「僕の世界では魔法が迷信とされていて、代わりに科学技術が発達しているんです」
「『カガク』?その『カガク』という技術は魔法が使えなくとも使用できるんだね?
 例えばどんなことができるんだ?この世界の魔法より優れているのかね!?」
「ゴホン…あーコルベール君、その話は後で」
オスマン氏が咳払いをして、ミスタ・コルベールを制する。
「す、すいませんオールド・オスマン…君、後でその事を詳しく話してくれないかね?」
「ええ、かまいません」
「ま、それはそれとしてじゃ…君の世界では、人は皆あのような姿になれるのかね?」
「………いいえ」
首を振ってオスマン氏の言葉を否定する育郎。
「僕自身この『力』のことは良く分からないんです…」
「ふむ、と言うと?」
「話すと長くなります…」
そう前置きして、育郎は己の身に降りかかった出来事を話し始めた。

ただの学生だった自分は、家族と一緒に出かけているときに事故に会った。
目を覚ました時、そこは病院ではなく、見知らぬ場所で、一人の少女が傍らにいた。
少女の話により自分が『ドレス』という組織に捕らえられ……

おそらくその時、『ドレス』が自分にあの『力』を………
逃げる自分達に『ドレス』の殺し屋達が命を狙ってやってきた。
何度も死にそうになるたびに、意識を失い、知らないうちにあの姿になっていて、
殺し屋達を逆に撃退していったらしい。
そして…一緒に逃げていた少女が『ドレス』に捕まり、自分は少女を助ける為に、
この『力』を自分の意思で操り『ドレス』に戦いを挑んだと。

「…スミレを逃がした後、僕は『ドレス』の研究所の自爆に巻き込まれたはずでした。
 けど、気がついたらこの世界に召喚されていたんです」
育郎が全てを話し終わると、学院長室は重い沈黙に包まれた。
そんな中、オスマン氏が搾り出すように声を発する。
「………にわかには信じられん話じゃの」
「はい………」
育郎自身こんな話、簡単に信じてもらえるとは思っていない。
「じゃがの…少なくともワシは信じるよ」
「………え?」
「会ったばかりで変な話じゃが…ワシは君という人間は信頼に値する人間だと、
 そう感じるんじゃよ。少なくとも、君がこんな嘘を言う人間だとはとても思えん…」
「おじいさん…」
「だからの、少なくともワシだけは君のいう事を信じよう!」
力強く、トリスティン魔法学院の学院長であるオールド・オスマンは言い切る。

「わ、私も信じます!」
オスマン氏の隣に立つ、コルベールがそう叫ぶ。見れば目が潤んでいた。
「き、君…辛かっただろうに……わ、私に出来る事があれば何でも言ってくれ!」
ミス・ロングビル育郎の手をとり、
「イクロー君…困ったことがあったら何でも相談してくださいね…」
優しい声でそう告げる。
「ありがとうございます…でも、僕はここにいるわけには…」
「な、なんで!?」
今までうつむいて育郎の話を聞いていたルイズが、顔を上げて育郎を見る。
「ワシらに迷惑をかけたくない、そう言いたいんじゃな?」
「はい………」
オスマン氏の言葉に頷く育郎。
「ど、どういう事なのよ?さっき剣も似たようなこと言ってたけど…」
途惑うルイズに、オスマン氏が続ける。
「彼はこの世界にも『ドレス』のように、彼を狙う者たちがいるのではないかと
 危惧しておるのじゃよ。そして、それは間違ってはおらん……
 事実この国にもそんな組織はある。君にも心当たりはあるじゃろう?」
「…………はい」
王立魔法研究所、アカデミーと呼ばれる、自分の姉も勤めるあの機関に知られれば、
育郎を実験動物にしようと躍起になるだろう。
「でも、それならなおの事、私達の傍にいたほうが…」
オスマン氏がため息をついて答える。
「彼はな…それによってワシらに迷惑がかかる事を心配しとるんじゃよ
 先程の話の中にいた、さらわれてしまった少女のようにな…」
オスマン氏の言葉にルイズは押し黙り、再び部屋に重苦しい空気が流れる。

「ま、いざとなれば『ドレス』っちゅうのと同じように少年がアカデミーを
 壊滅させるかもしれんがの………なんつって!」
「………」
「………」
「………」
「いや、その…場を和ませようかと…ごめんなさい…」
『洒落になってねーよジジイ』という視線を受けて気まずそうにするオスマン氏。
「まあ、それはそれとしてじゃ。少年よ、そのようなことを気に病む必要は無い」
「ですが…」
「なに、仮にもワシは王立魔法学院の学院長じゃぞ?
 宮廷連中がとやかく言おうが、ワシがなんとかして見せるわい!」
「おお、さすが学院長!」
「見直しましたわ、オールド・オスマン!」
「そうじゃろそうじゃろ!」
褒められて調子に乗ったオスマンはミス・ロングビルの尻を豪快に撫で回す。
「見下げ果てましたわ、オールド・オスマン…」
「学院長………」
とりあえず膝蹴りを叩き込むミス・ロングビルであった。


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