ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第十八話 『アルビオン暴風警報発令!』

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第十八話 『アルビオン暴風警報発令!』

ニューカッスル城から脱出する『イーグル』号の甲板の縁でウェザーは鍾乳洞を眺めていた。本当は見ていなかったのかも知れないが、とにかくそこを見ていたのだった。
甲板上にはウェザー以外にも脱出する非戦闘員たちが大勢乗り込んでいるためにかなりの人数が甲板にも溢れている。
不意に背後から声をかけられた。
「すみません、この船って後どれくらいで出るんでしょうか?」
若い女の声だった。しかしウェザーは振り返るでもなく答える。
「他で聞いてくれ」
「あれ?あなた・・・・・・あなたはまだ出発しないんですか?」
「・・・・・・・・・・・・」
視界の端にきれいな肌をした女の手が見えた。いつの間にか隣に移ってきていたらしい。そこでようやくウェザーはその女の姿を見た。
白いシャツに黒いプリーツスカートで、そこから覗く白い手足は眩しい。きめの細かい肌と声からまだ若い、それもルイズと変わらないくらいだろうと想像できた。
ただ、その素顔は目深に被ったつばの広い帽子のせいで見ることができない。上から見下ろすウェザーとややうつむき気味な少女では顔があわなかった。
「いや・・・理解できなくて悪いが、出発するのは俺じゃあなくてこの船だ」
「そうじゃあなくって・・・あなた、迷ってるのでしょう?呪われた自分には何もできないのに心は決まってる・・・そう顔に書いてあるもの」
心の中をズバリ当てられたウェザーは動揺して女から目をそらして再び壁を見るが、焦りから汗が垂れていた。落ち着いて再び隣を見ようとしたとき、左目の視界が陽炎のごとく揺らいで、少女の顔がよく見えなくなってしまったのだ。
「なんだ・・・これは?」

目を擦るが一向に視界は良くならない。そうこうしているうちに、視界がクリアになった。ただし、どこか知らない景色をとらえていたが。
「これは・・・・・・ウェールズと、ワルド?まさかルイズの視点か?」
使い魔が『主人と視覚を共有できる』ということを思い出したウェザーは右目を押さえてルイズの視界を注視する。ワルドの目つきが変わった。何か悪い予感がする。しかし、体は動いてくれない。
「どうして行かないの?」
今度は左目に手を当てて少女を見る。相変わらず顔は見えなかったが、心配してくれているのがなぜだかわかった。
「・・・俺には・・・・・・ペルラを死なせてしまった俺に・・・愛している者たちを救うことなどできるはずがない・・・・・・」
すると少女の口元が微笑んだ。魅力的な口元だった。ウェザーは自分より二回り近くも幼い少女を見ていることができなくなってしまい、また視線を泳がせた。
「あなたは純粋だから後悔しているのね。でも、後悔しないで。彼女はあなたと出会えたことを心から幸福に感じていたから・・・・・・あなたが生きていて嬉しいの。だって・・・今は心に嬉しいそよ風や激しい嵐、楽しい日差しも差すし、雨だって降るの。だってね・・・」
「・・・・・・まて・・・まさか・・・・・・君は・・・」
少女がウェザーの手をそよ風のように優しく包んだ。ウェザーは初めてのデートでお互いに恥ずかしがりながら、それでもしっかりと握った手の感触をはっきりと思い出した。


       「あなたの心にあたしはいるから」


「君はまさかッ!」
ウェザーが勢いよく隣を見るが、そこにはすでに誰もいなかった。慌てて甲板中に視線を探らせると、例のつば広の帽子が目に付いた。急いで追いかけようとするが、ぎゅうぎゅう詰めの甲板では人混みをかき分けるのに時間がかかってしまう。
帽子は見る見る遠くへいってしまう。
「待ってくれ!ペルラ!君は・・・君は俺のせいでッ!」
叫びながら追いかけるが距離は離れていき、ついに消えてしまった。ウェザーはかまうことなく追いかけたが、反対側の舷縁についてしまった。どこからか風に乗って声が聞こえてきた。
(ウェザー・・・どうか世界を呪わないで。あなたと出会えたことを、あたしは愛しているから・・・だからウェザー、あなた自身を呪わないであげて・・・・・・あなたを信じている彼女を助けてあげて・・・)
「ペルラーーッ!!」
ウェザーは手すりに額を押し付けた。その肩が小刻みに震えている。その時、船員の出発の合図が上がった。
「これより本艦『イーグル』号は出航します!」
船がドックから徐々に離れていく。ウェザーはゆっくりと立ち上がると、手すりの上に乗った。
「お、おい君ィッ!危ないぞ!」
「気にするな。蹴り殺すぞ」
それだけ言うとウェザーはそこから飛んだ。距離はすでに十メートルは離れている。人間が飛べる距離じゃあない。
しかし見ていた人々が息を呑んだ瞬間、背中から突風が吹いてきた。いままであれだけ凪いでいたというのに、嵐のような風が吹き、ウェザーを捕まえるとそのまま港まで運んでいったのだ。
「こんな俺でも・・・信じてくれるのか?ルイズ・・・」
唖然とする甲板上の人たちを尻目に、ウェザーは礼拝堂目指して駆けだした。



「ウェザーッ!」
「待たせたなルイズ」
礼拝堂の扉に背を預けてウェザーは立っていた。相変わらず用途不明の角付き帽子も、ただでさえ高い背をさらに高く見せているつま先立ちも、渋さを湛えた男前な顔も、まぎれもなくウェザーのものだった。
「君は・・・もう『イーグル』号は出航したのではないのかね?」
ウェザーはそれには答えずにワルドめがけて強風をぶつけた。ワルドはひらりと舞い上がり、風をつかんで綺麗に着地した。その間にウェザーがルイズに駆け寄る。
「ウェザー・・・来てくれるって信じてた・・・」
「俺もお前が頑張ってるって信じてたよ。ところでウェールズは・・・」
ルイズの視線が始祖ブリミル像の下に向かった。そこには、白い礼装を赤く染め上げたウェールズが倒れていた。急いで風のセンサーをウェールズの周りに張ると、かすかにだが空気の乱れが感じられた。
「・・・・・・まだ呼吸をしているな」
「ホント?・・・そうか、咄嗟に腕で防いだからだわ!」
「よし・・・お前はウェールズのところへ行け。俺はワルドを倒す!」
二人が同時に別れたのを見てワルドは一瞬どちらに行こうか迷ったが、ウェザーに向けて杖を構えた。
「まずは一番厄介な君からだ。『ガンダールヴ』!」
杖の先から風の塊がウェザーめがけて迫ってくる。
「シャアラァッ!」
気合いと共に突きだした風圧のパンチがいとも容易く風の塊を打ち砕いた。そのまま突っ込んで拳を叩き込むがすんでの所でかわされてしまった。再び距離が開く。
「・・・・・・テメエ・・・手え抜いてんじゃねーぞ!決闘でそんなちゃちな魔法ごときじゃ俺は止められないことぐらいわかってるんだろう?それとも風のメイジなだけにマジでエアヘッドなのか?」
ウェザーの挑発にもワルドは余裕の表情を崩さない。杖を構えて薄く笑うだけだった。
「ふふふ・・・大した自信だな。だが、あの決闘で僕に勝ったからと言って調子に乗らないで貰いたい。君の言うとおり、僕はまだ底を見せてはいないのだからね」
「俺の手の内を見るためだったってのか?」
「その通りだ。おかげで君の――『ガンダールヴ』の力は把握できた。今武器を持たぬ君は以前よりも機動力に欠ける。しかも必殺の稲妻を軽減した。そして御教授しよう。風が最強たる所以を!」

ウェザーが風を使った突撃をかけるのと同時にワルドが呪文を詠唱した。
「ユビキタス・デル・ウィンデ・・・・・・」
呪文が完成して瞬間、ウェザーはワルドの姿がダブって見えていた。しかしそれは幻覚などではなく、たしかに二人いたのだ。さらに二人が三人に、三人が四人、四人が五人にわかれてウェザーを囲むように移動する。
「分身ッ!?なるほど、『桟橋』の男もお前の分身体か」
「いかにも。そしてただの分身ではないぞ!風は偏在するのだ!一人一人が意思を持ち魔法を唱え、君を追いつめていく!」
そう言うと五人のワルドたちがウェザーの周りを縦横無尽に移動し始める。ウェザーは首と目を動かし、必死にワルドたちの動きを追うが、その際に死角ができてしまいそこをワルドたちの魔法が襲う。
「ぐぅ・・・!」
ギリギリでかわしているが、徐々にウェザーのからだが切り刻まれていく。
「「「「「ワハハハハハハッ!これが我が必殺の陣形、『偏在の結界』!我がワルツの前に倒れ伏すがいい『ガンダールヴ』!」」」」」
五体のワルドの高笑いが四方八方から聞こえてきて耳障りなことこの上なかったが、ウェザーはニヤリと笑った。
「まあ、別々の場所にいられるよりはましか・・・」
「んむ?何か言ったかね?」
「ああ、言ったぜ。『ウェザー・リポート』ってな!」
瞬間、ウェザーを中心としてワルドたちを巻き込むようにして竜巻が立ちのぼった。上空に飛ばされたワルドたちは壁に激突して、風のように消えていった。
「カハッ!」
「今のは壁に叩き付けられたルイズの分だ・・・そしてどうやら、消えなかったお前が本物らしいな」
ウェザーがワルドを睨みつける。ワルドは口の血を拭うと、憤怒の形相で立ち上がり再び分身を作りだした。
「芸がないな・・・」
「黙れ!芸がないのは貴様の方だ!貴様と違い僕はメイジだぞ?操れるのは風だけではない!」
三体のワルドがウェザーを囲み、二体が上空へ舞い上がった。

「「「くらえ!『ライトニング・クラウド』!」」」
「「『ウィンド・ブレイク』!」」
地上では稲妻が、上空からは押しつぶすように風の塊が降り注ぐ。
だがウェザーは迷うことなく上空を選ぶと、エアバッグを足の下に作りトランポリンのようにして飛んだ。そのまま両の拳で『ウィンド・ブレイク』を撃ち抜き、二体のワルドを殴り飛ばす。どちらも偏在だ。
「飛んだな?上空に逃げ場はないぞ!そして桟橋での三倍の『ライトニング・クラウド』をくらえい!」
閃光が唸りを上げて空中のウェザーに疾る。しかしウェザーが手を向けた途端に雷の軌道が曲がってしまった。天井や壁に雷があたり瓦礫を落としていく。
「なにッ!」
「桟橋の三倍?俺はマイナスの電荷を含んだ空気を十倍用意したんだぞ?もっと頑張って見せろ!」
天井から降ってきた瓦礫をつかむとワルドめがけて投げつける。風をまとった大砲と化した瓦礫がやすやすと二体のワルドの頭と喉を穿った。しかし残り一体――本体はだけは咄嗟にガードしたことで多少ダメージを軽減しながら吹っ飛んだ。
「・・・まさか!」
「気付いたか?これが僕の逃走経路!」
ワルドは空中でくるりと体を回転させて着地した。ウェールズを庇っているルイズの目の前に!
「しまった!」
「もう遅い!」
「いやあッ、放して!」
もう一発を放ろうとしたが、それよりも先にワルドがルイズを盾にしてしまったために、振りかぶって止まった。
「てめえ・・・」
「汚いと言うのかい?まさかこの期に及んでそんな下らないことを言わないでくれよ」
ウェザーが奥歯を噛み締めたその時、ルイズが意味ありげな視線を送っていることに気づいた。ウェザーの手の中の瓦礫をみて、それからウェザーを見た。二人はアイコンタクトで小さく頷いた。

「んん?どうしたのかね?この程度で抵抗は終わりかい?」
「そうだな、もう・・・終いにしようぜ!」
その瞬間、ルイズがワルドの腕に噛みつき、同時にウェザーが瓦礫を投げつけた。
一瞬緩んだ拘束からルイズは脱しようとしたが、すんでのところで髪の毛を捕まれて持ち上げられ、ワルドの代わりにその細い肩に瓦礫を突き刺す羽目になってしまった。赤い血が流れる。
「ルイズッ!」
「あ・・・はあ・・・・・・」
「く、危ない危ない・・・ダメじゃないか『ガンダールヴ』、主人を傷つける使い魔は、しっかりと教育しなければいかんなあ」
そう言ってワルドはルイズをしっかりとロックして呪文を唱えた。偏在が再び現れてウェザーを囲む。
「おいたが過ぎる使い魔は――」
偏在四体が全員杖の先から青白い空気の渦を作りだした。
「「「「「串刺しの刑だッ!」」」」」
咄嗟に両腕で身を庇うが腕や肩に深々と杖が刺さり鮮血が吹きだした。その返り血を浴びたワルドの分身体たちが歓喜に顔を醜く歪ませる。
「く・・・う・・・・・・」
ウェザーの膝が崩れ落ちた。ワルドたちがその様子を見下ろしている。
「うぇ・・・ざー・・・」
「ハーハッハッハッハッハ!僕は伝説に!あの『ガンダールヴ』に勝ったんだ!やはり世界をつかむのはこの僕だ!これは暗示だ、伝説を打ち倒した僕こそが『世界』を掌握するにたる人間だというね!」
「ワルド・・・どうして?昔は・・・昔はこんなふうじゃなかったわ」
「昔?覚えていてくれたんだね、僕のルイズ。嬉しいよ」
言葉とは裏腹にルイズを拘束する腕に力が入っていく。

「い・・・たい・・・」
「なに?よく聞こえないよルイズ。小鳥のようなさえずりでは僕の耳には届かない。聞かせたいのならば・・・地獄のような絶叫を聞かせてくれ!」
一気に力を入れられたことにより、ルイズの腕はいとも簡単にあらぬ方向に曲がってしまった。ルイズの声にならない叫びにワルドが恍惚となる。
「~~~~~~~~~~ッ!!」
「んっん~、良い声だ。さすがは僕のルイズだ」
しかし、そんなワルドにとうとうウェザーが切れた。咆吼と共に立ち上がってくる。
「うおおおおおおおおお!!」
「無駄だ『ガンダールヴ』!お前が手を出せばルイズが――え?」
ワルドは目の前の光景が信じられずに間抜けな声を出してしまった。偏在たちが、喉に赤い槍を刺しているのだ。なにが起きたのか全く理解できていない顔をしたまま消えていった。
「全くもって、お前の長話に助けられたぜワルド。乾燥させて血槍を作り出すのにはすこし時間がかかるんでな・・・・・・そしてルイズ、お前の『覚悟』、確かに受け取ったぞ」
「なにいッ!」
なんとルイズの肩の傷口から血槍が伸びてワルドの喉元に刺さったのだ。ルイズの髪に隠れて気づけなかったのだ。
「ワルド・・・これであなたに届いたでしょう?あたしだって・・・ちっぽけだけど、やるときはやるの・・・よ」
「うおああッ!」
喉に刺さった血槍によってルイズは解放され、ウェザーが引き寄せてウェールズごとワルドから離した。だが、ウェザーも力が抜けて膝を突いてしまった。そこに背後から声が聞こえてくる。
「やって・・・くれる。だが、一手遅れたな。ルイズを助ける前に僕を倒すべきだった。この距離ならば僕の風の方が速い!」
あいかしワルドはすでに完成した呪文をウェザーめがけて撃とうとした瞬間に、いきなりバランスを崩して転倒してしまった。立とうとしても腕に力が入らない。
「な・・・なんだこれは・・・!?立て・・・ない・・・何かまずいぞ!」

「エンポリオが見つけてくれていた・・・潜在の中に眠っていた力だ。生物にとって最も身近にある猛毒・・・それが『酸素』だ。100%純粋な酸素は生物にとっては猛毒でしかない。
高濃度の酸素が鉄を錆びさせるように、人体の細胞分子からは電子を奪い、細胞を破壊していく!『ウェザー・リポート』・・・すでにこの部屋に純粋酸素を集めていた」
ルイズとウェールズは雲のスーツを着ることで純粋酸素から逃れている。
ワルドはウェザーの言っていることが理解できなかった。わかったことは、逃げなければヤバイと言うことだけだった。しかし体を反転させるのが限度で、体に力が入らなかった。その肩をウェザーがつかむ。
「やった・・・ウェザーが捕らえた!」
ウェザーに引き倒されたワルドが何かを言っている。
「ぐおっ・・・よ・・・よすんだウェザー君・・・」
背後を取られたワルドがもがくように動くがウェザーは決して逃がさない。
「決闘、桟橋、船内・・・君を殺すつもりならいつだってできた・・・だが君の『ガンダールヴ』が僕の力になると思ったから・・・右腕だけですんだんだ。これは・・・僕の都合のいい命乞いなんかではないんだ・・・」
苦しそうに切れ切れで喋るワルドをウェザーは冷たい目で見つめている。
「ルイズの才能と君の『ガンダールヴ』があれば・・・『世界』は目の前なんだ・・・手に入れるんだ・・・僕は『世界』を・・・『母』を手に入れなければならない・・・やめるんだウェザー君・・・僕を殺そうとするのはうあめるんだ・・・」
ルイズは唇をかんだ。醜い・・・これがわたしが憧れたワルドの真の姿なのか・・・。
見れば、ウェザーの瞳が正義に燃えている。
「そ、そうだ・・・僕が『世界』を手に入れたらその半分をあげよう!どうだね?破格だろう!は、はは「お前は・・・もう喋るな・・・」
醜くすがりつくワルドをウェザーがぴしゃりとはね除けた。
「お前は同じだ・・・『天国』を求め、積み上げた犠牲をやむなしと吐き捨てたあいつと・・・プッチと変わらない・・・お前のような奴には・・・『世界』どころか雲すら掴めはしない・・・お前は自分が『悪』だと気付いていない・・・もっともドス黒い『悪』だ・・・」
ワルドが混乱している・・・ワルドが怯えているッ!ワルドの!あの絶望に怯えている顔ッ!

「おおおおおおおおおッ!!」
「や・・・やめろ『ガンダールヴ』!お前は間違っている!平民のくせに・・・」
「ウェールズの分!トドメだッ!ワルドォォォーッ!!」
ウェザーの渾身の拳がワルドを吹き飛ばす。
「あげぎがあぁぁぁあぁあッ!」
地獄のような悲鳴と血を巻き上げてワルドが壁にめり込んだ。
「ウェザーが・・・勝った!」
「いや・・・まだだ」
「ウェールズ皇太子!?」
勝利に飛び跳ねようとしたルイズを諫めたのはウェールズだった。血を失ったからか酷く白く見える。
「まだと言うと?」
「聞こえないかい?馬の蹄と竜の羽音が・・・どうやら時刻はまもなく正午を迎えるようだ・・・・・・」
それはつまり『レコン・キスタ』総攻撃の時間。勝ち目のない、滅びの戦だ。
「そうだわ、ウェールズさま!お逃げになって!そのお体ではどのみち指揮なんて無理ですわ!」
「それは無理だ。このニューカッスル最後の船はすでに出た。逃げ道はないし、もとより逃げる気はない・・・」
まだルイズが何かを言おうとするが、ウェザーがウェールズに顔を近づけたので何も言えなくなってしまった。
「ようするに、あいつらを追っ払えばいいんだろう?」
「君は・・・確かに強い。スクウェアクラスに勝つ平民など聞いたことがないほどだ。それでも、相手は五万だ・・・」
「・・・なんとかしてやる」

「なぜそこまで言える?なぜ君は僕にかまうんだ!」
「愛する者同士が他人の無粋な手によって引き裂かれるのはもうたくさんだからだ。そんなもの、俺は認めねえ」
ウェザーの真っ直ぐな瞳にウェールズが息を呑んだ。
「あの王女は本当に純粋なんだ・・・お前の存在が彼女の心を照らす太陽であり、潤いの雨であるんだ!きっと春の日差しのような恋なのだろう。だが彼女は王女という立場をわきまえるのだろうな。
お前がいなくなれば表面上何事も無いかのように過ごし、政略結婚に臨むだろう。だが、そうなれば彼女の心の中にはもう二度と!雨さえ降らない!」
ウェザーがウェールズの胸ぐらを掴んで上体を引き起こして尋ねた。
「お前はアンリエッタを愛してねえのか?」
「・・・愛していないはずなど・・・」
「聞こえねえ。蹴り殺すぞ」
「私はアンリエッタを愛している!世界中の何よりもだッ!!」
しばし二人の視線が交差したあとで、ウェザーが笑った。そこへ兵士が駆け付けてきた。
「ウェールズ様!戦闘の準備をお早く――こ、これは一体!」
「ちょうどいい。おいお前、ケガを治せる奴を連れてこい。大至急だ。それから兵士を門出口に集めておけ」
兵士は平民がぞんざいな口をきくので怪訝な顔をしていたが、ウェールズが命令すると飛んでいこうとした。それをウェザーが呼び止める。
「大事なことを言い忘れてたぜ」
全員が何事かとウェザーを見る。少しタメを取ってから、ウェザーは言った。

「カタツムリに気をつけな」


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