ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

仮面のルイズ-8

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匿名ユーザー

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トリスティン魔法学院とその関係者達は、いつもと変わらぬ平穏を享受していた。
ルイズが土くれのフーケを倒したという噂も、いつの間にか語られなくなり、一部を除いてルイズの存在は忘れ去られてしまった。

そんな中、ロングビルは思いがけない客の来訪に驚いていた。
オールド・オスマンから、書庫の資料を持ってきてくれと頼まれたロングビル。
彼女は、よりによってルイズを一番馬鹿にしていたと言われている『微熱のキュルケ』からルイズに関する話を聞きたいと言われたのだ。
「ミス・ツェルプストー、今は仕事中ですので、後ほどにして頂けませんか?」
「手間は取らせないわ、『土くれのフーケ』の隠れ家があった場所を教えて欲しいの」
ロングビルは思いがけない質問に、二度目の驚きを隠せなかった。
「ふ、フーケの隠れ家ですか? なぜ貴方がそんな事を…」
「教えてくれるの?くれないの?どっちなのよ」
キュルケは多少不機嫌そうに喋る、ロングビルは隠す理由もないと思い、フーケの隠れ家があった場所を教えた。
キュルケは居場所を聞くと、一言礼を言ってその場を立ち去った。


翌日、虚無の曜日。
この日は休日であり、学院の生徒達も思い思いの休日を過ごし、普段とは違った騒がしさがある。
町に出かける者もいれば、楽員の周辺で魔法を使って遊ぶ者もいるし、図書室で読書に励む者もいる。

この日の午前中に、風竜と呼ばれるドラゴンが魔法学院から飛び立ち、フーケの隠れ家跡へと向かっていった。
ロングビルは塔の窓からそれを見かけると、魔法学院の馬を借り、ドラゴンの後を追った。

「きゃああああああー!?」
風竜の上でシエスタが叫ぶ、生まれて初めての空の上、生まれて初めての高さに、シエスタは驚いていた。
「あら、貴方空は初めてかしら、あまり叫んでいると舌を噛むわよ」
シエスタの後ろからキュルケが声をかける。
「……シルフィード、遊んじゃ駄目」
『きゅい、きゅい!(お姉さま、この人太陽の臭いがするの、不思議な人!)』
「そう」
シルフィードと呼ばれた風竜が遊んでいると気づいたのは、主であるタバサだった。
テレパシーのようなものでシルフィードの言葉がタバサに伝わる、タバサはテレパシーを使わずに言葉で命令する。
端から見れば、竜と人間がお互いの言葉で会話しているという妙な光景だが、メイジと使い魔の関係を知るものであれば特に驚くことはない。
しかし、平民の出であるシエスタは『本当に会話できるんだ、凄いなー』と、今更といえば今更な感心をしていた。

いつものメイド服をはためかせて、平民の少女は空を行く。



一方、ロングビルは馬を走らせていた。
キュルケが風竜に乗っていると確信したロングビルは、200メイル以上の距離を開け、馬で後を追っていた。
念のためにどこからか調達した花束も持ってきている、これを跡地に添えると言えば、自分の行動が疑われることもないだろう。


(情報の収集と、今後のために…)
ロングビルの表情は、凛とした『有能な秘書』ではなく、既に『土くれのフーケ』のものになっていた。

フーケの隠れ家があった場所、つまり、ルイズの起こした爆発の爆心地は、とても凄惨な出来事の現場とは思えないほど美しかった。
「綺麗…」
空からその光景を見たシエスタが、思わず言葉を漏らす。
考えようによっては不謹慎だと思われたかもしれない。
しかし、池となり、周囲に草花の生い茂るこの場所は、キュルケにもタバサにも少なからず感動を与えていた。

シルフィードが池の傍らに着地し、三人は地面に降りる。
シエスタは地面に降りてすぐにシルフィードに臭いを嗅がれ、頭をこすりつけられて困惑していた。
どうやらよほど気に入られたらしいが、それを知るのはシルフィードの言葉が分かるタバサのみ。
キュルケは美味しそうな臭いでもするのかしら?と、これまた危ないことを考えていた。
三人は、改めて池を見る。
クレーターは雨水を貯めて池となり、周囲に草花を生い茂らせ、見る者の心を楽しませていた。
誰が持ってきたのか分からないが、小舟までそこに置かれている。

この光景を見て、土くれのフーケを道連れにルイズが死んだ場所などと、誰が思うだろうか。

「凄いわね、短い間にこんなたくさんの花が咲くなんて」
「不自然」
キュルケが感心するが、タバサはどこか納得いかないと言った感じだ。
何に納得できないのだろうと、ふと考え込む、答えはすぐに見つかった。
花の種類が揃いすぎているのだ、誰かが庭園の手入れをするように、規則正しく様々な種類の花が並んでいる。
トリスティン魔法学院とその周辺では見られなかった種類のものまで生えている。
「あ、これ煮込むと美味しいんですよね」
てどこか的はずれなことを言うシエスタに、キュルケとタバサは思わず吹き出した。

「花を見て食べ物の話をするんだから、もう。ところでさっきから気になっていたんだけど…そのバスケットは何?」
キュルケがシエスタの持っているバスケットを指さす。
「あ、これですか?これはお供え物です」
「オソナエモノ?」
「はい」
そう言うとシエスタはバスケットの中を見せた、中にはイチゴのタルトが入っている。
「何、あなたピクニック気分で来たの?まあこの景色を見たらそれも悪くないと思うけど…」

そう言ってキュルケが不機嫌そうな顔をする。

シエスタは、キュルケの訝しげな視線を受けて、慌てて弁解した。

「ち、違います、ピクニックじゃなくてお供え物です」
「だからそのオソナエモノって何の事よ」
シエスタはバスケットの中からタルトを一切れ取り出すと、それを紙に包んだ。
「何やってるの?」
キュルケの質問に答えながら、池の側に寄って、紙に包んだタルトを地面に置いた。
「私、お爺ちゃんから教わったことがあるんです。年に一度、死んだ人に生きている人と同じように接して、その人の残してくれた教訓を忘れないようにするそうです」
そう言ってバスケットから小さな花束を取り出し、紙に包んだタルトの脇に置いた。
「ひいお爺ちゃんはちょっと変わった人でした、東方の果て、ロバ・アル・カリイエから『竜の羽衣』というマジックアイテムを使って飛んできたと言うんです」
シエスタは立ち上がり、キュルケに向き直る。
「ロバ・アル・カリイエから飛んできたなんて誰も信じていません、でも、ひいお爺ちゃんは、亡くなった人にはお供え物をするんだとか、手を合わせて祈るんだとか、いろんなことを教えてくれたんです」
シエスタの言葉に、キュルケが感心したように呟く。
「へぇ、不思議な習慣があるのね、でも食べ物を捨てるのと一緒でしょ、貴族ならともかく平民にはそぐわない風習じゃない」
「違いますよ、その分は粗食で我慢するんです、喜びは皆で分け合って皆で楽しみ、悲しみは皆で分け合って皆で慰めるって、そう言ってました…って、ごめんなさい!私、貴族様にこんな事まで喋って…」
シエスタが両手で自分の口元を隠し、慌てて謝る。
「別にいいわよ、東方の果ての話なんて滅多に聞かないし、それに…」

キュルケは池を見た、今までの悲しみを洗い流すかのように光が反射し、水面が輝いている。
「ルイズなら”こんなんじゃ足りないわよ”なんて言って怒るんじゃないの?そのタルト私たちの分もあるんでしょう、私も一口分、オソナエモノにさせて貰うわよ」
「私も」
ずっと黙って話を聞いてたタバサも、キュルケと一緒になってお供え物をするという。
シエスタは、それこそ輝くような笑みを二人に見せた。

『きゅいきゅい!』
突然、シルフィードが鳴き出した、シルフィードが誰かを見つけたと理解したタバサは、シルフィードの示す方を見た。
そこには、馬に乗ったロングビルがいた。
池の周囲に生えた草花に驚いたのか、惚けたような表情のままこちらに近づいてくる。
「…驚きましたわね」
そう呟いて馬から下りたロングビル、その手には花束が握られていた。
「ミス・ロングビル…貴方も?」
キュルケの言葉に、ロングビルは静かに頷いた。

「ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ、シエスタ。…私も混ぜて貰えないかしら」

そう言ってロングビルも、加わり、四人は悲しみを乗り越えるように、ルイズの思い出話をした。
途中でロングビルが、「平民を連れてくるなんて珍しいわね」と疑問を口に出したので、シエスタと知り合う切っ掛けを話すことになった。


そもそもキュルケがシエスタを連れてきたのは、シエスタがルイズの死に動揺していたのがきっかけだ。
いつもように食堂で朝食を取っていた時、ルイズが死んだといううわさ話をしている貴族に「本当ですか!?」と問いかけてしまったのが始まりだった。
ぞの貴族達はシエスタを乱暴に払いのけると、メイドが貴族の話に口を出すなと言って怒り出した。
それを制止したのはギーシュだった、彼は良くも悪くも純粋で、女性が傷つけられようとしているのを見て黙っては居られないらしい。
もっとも、相手はギーシュより実力が上の『ライン』だったので、ギーシュは青ざめながら弁解する羽目になった。
噂を聞きつけたキュルケが、ルイズの死は本当なのかと二人に問いつめなければ、ギーシュはボコボコにされていただろう。
それがきっかけとなり、キュルケとタバサは、シエスタと知り合ったのだ。


そのお礼といっては何だが、ロングビルはこの池に花が植えられ、小舟が置かれている理由を三人に話した。
(烈風カリン殿が話していた『ルイズが小さい頃遊んでいた池を…』って、この事だったのね…何よ、厳しいフリして親ばかじゃない)
ルイズが小さい頃遊んでいた池を再現したものだと説明し、キュルケ、タバサ、シエスタの三人は、たまらず涙を流した。

その頃、ルイズは森の奥を歩いていた、人間が近づかないような奥地であり、オーク鬼やトロル鬼の出現が危惧される地帯でもある。
吸血鬼の鋭敏な感覚と、高い記憶力のおかげで道に迷うことはない。
ルイズは可能な限り遠回りをして、トリスティンの城下町に向かっていた。

「……あら?」
ふと、歩みを止める。
巨大な樹木の根元に、女戦士のものと思われる白骨死体が転がっていた。
鎧はぐちゃぐちゃにひしゃげており、圧倒的な力で破壊されたのだと想像できる。
白骨に近づくと、周囲の茂みからガサガサと音がして、大きな動物が姿を現した。
トロル鬼と呼ばれる亜人種が現れ、ルイズを取り囲んだ。
象のような皮膚にゴリラのような体格、単純なパワーでは人間の遙か上を行くトロル鬼は、小さいトロルと違い、人間の敵として認識されている、なぜなら彼らは人間を『食べる』からだ。
一人の少女の周囲には五匹のトロル鬼という、きわめて絶望的に見える状況がそこにあった。

「そういえば…まだ、ちゃんと試してなかったわ」
そう言いながら、ルイズは足下に落ちている剣を拾った。
固定化の魔法がかけられている長剣は、持ち主が白骨死体となったにもかかわらず、錆びずに輝いている。
ルイズはそれを無造作に、正面にいるトロル鬼に向かって、投げた。
バァン!
と音を立てて、トロル鬼の体は爆発したかのように左右に裂け、ぐちゃりと血の滴る音を立てて地面に崩れ落ちる。
固定化のかけられたはずの剣は、その衝撃に耐えきれず砕け、破片は周囲の木々を傷つけ、穿ち、散らばった。
『グオ?』
他の四匹は何が起こったか分からず、一瞬首をかしげるが、次の瞬間には怒り狂ってルイズへと飛びかかってきた。
そして…ぐちゃりと音が鳴る。
ルイズの腕が、飛びかかってきたトロル鬼の分厚い大胸筋を貫いていた。

「安心して…
 木の根っこが養分を吸い取るかのように
 理にかなったとても自然な事よ」

ズギュンッ!


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