ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

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その日、ジャイロは才人と学院の講堂で、椅子に腰掛け、机に肘をついていた。
食堂で朝食をとり、床に置かれたパンとスープを空にする。そのあとは洗濯でもしろというお決まりのコースだろうと、ジャイロは思っていた。
そんなら、またいつものように図書室に行くかな、と思っていたが。
「今日は二人とも、私と一緒に来なさい。授業を一緒に受けさせてあげる」
そう、ルイズが許可をした。
これまで、授業についてきたのは才人一人だった。ジャイロも含めて二人一緒に授業を受けるというのは、これが初めてのことだ。
ジャイロが初めて覗いた講堂は、思いのほか広い造りだと思った。二人増えても余裕で空席がある。
ほどなく教壇にミセス・シュヴルーズと呼ばれた教師が立ち、授業が始まる。……その間、二人は無言で彼女の授業を聞いていた。
ジャイロは生きた言葉、とりわけ単語の発音などがより多く聞けるのが面白いと思っていたし。
才人は自分のいた世界では全く出てこない、魔法の勉強そのものを、面白く聞いていた。
「――さて。これまでに数度、私はみなさんに授業をしてきましたが、私が皆さんに教えたのは『土』の系統です。その特色を復習してみましょう。ミス・ヴァリエール?」
呼ばれて、ルイズはハイ、と応え、真っ直ぐ立ち上がる。
「よろしい。それではミス・ヴァリエール。『土』の系統、その魔法の特色とは、何ですか?」
「はい。『土』は恵み――創造の力に優れ、それを象徴する魔法を行使することを得意とします。先の授業で行った『錬金』が、その代表的なものだと」
よろしい。お座りなさい、ミス・ヴァリエール。と教師は小さく拍手する。
「いいですかみなさん。彼女が言ったとおり『土』はあらゆる物質に干渉し、制御、操作することを得手とします。つまりあらゆる魔法の基礎、根幹を成すと言っても過言ではないのです」
そう言った彼女の授業は、今日で次の段階に進むようだった。

「ほぉー。魔法にゃあ属性ってモンがあって、それぞれ得意、不得意があんのか。なーるほォーどネェ」
耳を小指で掃除しながら、ジャイロが納得する。
「ちょっと、ニョホあんた行儀悪いわよ。きちんとしなさい」
ルイズがジャイロの姿勢に文句をつける。
「そりゃ悪りィ。ニョッ、ホ、ホ、ホ。しかしおチビ、さっきはご名答だったな」
「当然じゃない。勉強してるもの」
胸を張って威張る。だが、思ったほど突き出ないのが哀しい。
「……その調子じゃ、分かってねーだろ?」
ルイズが眉をひそめる。
教壇では、他の生徒が、錬金の実践を行っていた。
ルイズは復習という名目で、自分があたるはずだった錬金の実践を、スルーされていたことに……、全く気付いていなかった。
ルイズとジャイロがひそひそとなにやら会話していたとき。
才人はヒマになりつつある頭で、ぼーっと授業を眺めていた。
この調子なら居眠りするのも時間の問題だろうと、認識していたのだったが、ころん、と何かが落ちる音がする。
見ると、隣のキュルケが、ペンを椅子の下に落としていた。
なんだよ、けっこうそそっかしいとこあるんだな、と、思った彼の耳に、いつのまにか――、キュルケの口が接近していた。

「……ねえ」
柔らかな吐息が、囁きと一緒になって、才人の耳にあたる。
「え? な、なに?」
吐息に動揺しながらも、平静を装って尋ねる。
「……とって」
甘く湿った吐息が、また、あたった。
「な、な、なにを?」
ヤバ、真っ赤になってきた。と自分でもわかるくらい、顔が熱くなっている。
「……最後まで、言わせたいの? ……いじわる。お願い、とって。あたしの大事な……。もう、……我慢、できないの」
ハイ。ボカァモゥガマンデキマセン。
局地的に反応してしまう言葉責めに、チェリーな少年は抵抗する術を持たなかった。
彼女の願いを聞き入れ、いそいそと机の下に潜り込む。
キュルケのペンを掴み、戻ろうと上を見上げた才人の視界には、……普段絶対拝むことのない、爆弾二個が目の前にあった。
思わず、彼は見つめる。……一秒経過。二秒経過。三秒経過。四秒経過。五秒経過! フハハハ! まだまだ止めていられるぞ!
誤解の無いように言えば、このとき才人は呼吸をすることを忘れるほど、食い入るように見ていた。そりゃもう、ガッツリと。
プチン。
異様な音が聞こえた。煩悩で才人の血管が切れた音――ではなく、キュルケが自らの手で、ブラウスのボタンを、一個、外した音であった。
……つ。
鼻血が流れる。だってもう、見えちゃったんだもの。下乳。シタチチね。シタチチ。
「……はあ。暑いわ、この教室」
そう言うと、またキュルケは、一つ、ボタンに手をかけ、プツン、と、外す。
ぷるん。
ゼラチン質たっぷりのナニかが、弾けて、震えた。
ペンを持ってないほうの手で、鼻を押さえる。既に才人の鼻は両方から、濁流が止めどなく流れている。残った理性で、必死に血液ごと押さえ込んではいたが。
いやもうホントに、あのクッションに顔埋めたい。……そう、不謹慎なことを真面目に、才人は考えていた。

キュルケは賢い女性である。
いかに行動すれば、男を虜にするのかを心得ている。
それは己自身が学び取ったものでもあり、ツェルプストー家の血筋の成せる業とも呼べる代物でもあった。
彼女が少しその気になっただけで、少年はもはや骨抜き寸前であった。
この少年だけを手篭めにするのならば、彼女は仔細無く成し遂げるであろう。
――だが、問題があるとすれば、敵は一人ではなく、二人であるということ。
残る一人を手にかけるには、同じ手は通じぬ。
艶仕掛けで絡め落とすには、彼奴は手練ている。
ならばこその、策であった。
少年は既に陥落寸前の身。あとは懐柔することなど、造作も無いことであると――彼女は考えている。
それを利用して、二の矢を放つ。
この策は功を成す。……自信が、あった。
だが、確かめねばならぬ。
彼奴が健常か、不能か。
そのため、彼女は、自身のブラウスを、はだけて見せた。
人二人分遠くにいる彼によく見えるよう――、大きく、めくって見せた。
果たして、彼は動くか。……それとも、否か。
動けば良い。動かずば、――動かずば。果たして、彼は。
……ちらり。
見た! 動いた!
その事実が、彼女の勝利を磐石なものとした。
若く、健康的な乙女の張りのある乳を見て、何も思わぬ男子などいようか!
いるはずがない!
少なくともこれで、彼奴は、ロリペドよりグラマー趣味であることが濃くなった。
『何をいうか! 胸の無い少女こそ至高である!』などと言い出しそうな子爵など、いようはずがない! いたら其奴は短命に終わる!
これで――策は実った。
キュルケは最後の一手を打つ。
正気にては大業成らず。
恋愛道は死狂い也。


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