ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-32

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匿名ユーザー

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この宿、「女神の杵」亭が砦であった頃の栄華を偲ぶ中庭の練兵場。
そこがギアッチョとワルド、二人の決闘の舞台だった。
腰を落として我流というよりは全く適当に剣を構えたまま、ギアッチョは心中で舌打ちする。
――怒らせて手の内を曝け出させるつもりだったが・・・やっぱりそう上手くはいかねーらしい
敵もさる者、この程度の挑発で逆上するような器量ではないようだ。「流石は女王の護衛隊長ってわけか」とギアッチョは一人呟く。
しかしそれならそれで別にいい。少なくとも戦い方の一端は把握出来るはずだ。
ギアッチョは己の左手に眼を落とす。その甲に刻まれたルーンは、手袋の下からでもよく分かる光を放っていた。
「どうしたね使い魔君 来ないのならばこちらから行くよ」
一向に動こうとしないギアッチョを挑発すると、ワルドは地を蹴って駆け出す。
戦い慣れた者の素早さで一瞬にしてギアッチョに肉薄すると、レイピアのように作られた杖で無数の刺突を繰り出した。
風を切り裂いて繰り出されるそれをギアッチョはデルフリンガーで次々と捌く。
――こいつはすげぇな・・・正に「身体が羽のように軽い」ってやつだ。
己の剣捌きに一番瞠目していたのは、他ならぬギアッチョ自身であった。
素の状態でもワルドの突きをかわす自信はあるが、今のギアッチョは例え千回突かれようがその全てをかわし切れる程に楽々とそれを捌いていた。
が、予想以上の「ガンダールヴ」の能力に意識が完全にワルドから逸れていた為、突きと同時に行われていた詠唱にギアッチョは気付けなかった。
詠唱が完了したと同時に目の前の空気が弾け、
「うぉおッ!?」
空気の槌をモロに受けてギアッチョは吹っ飛んだ。
ごほッと肺から空気を吐き出しながらもギアッチョはとっさに空中で体勢を整え、デルフリンガーを地面に突き刺して転倒を回避する。
「おいおい、ガードぐらいしたらどうだい? 手加減はしてあるが下手をすれば肋骨が折れるぞ」
羽根帽子のつばを杖の先端で持ち上げて、ワルドはニヤリと笑った。

ルイズが心配げに見守る中、ギアッチョはチッと一つ舌打ちをしてから剣を抜く。
「大丈夫かいダンナ」
「ああ?この程度じゃノミも殺せねーぜ」
若干ふらつきながらも、デルフリンガーにギアッチョは何でもないといった顔でそう返す。
ギアッチョは無傷で勝つことも少なくはなかったが、スタンド使い同士の戦いでは瀕死の怪我を負ったり手足が切り飛ばされたりなどということは珍しい話ではない。
それに比べれば今のダメージなど正に蚊に刺されたようなものであった。
余裕の笑みを浮かべるワルドにガンを飛ばして、今度はこっちの番だと言わんばかりに走り出す。
ワルドは杖を突き出して既に詠唱を終えていたエア・ハンマーで迎撃するが、歪んだ空気の塊が衝突する寸前ギアッチョは「ガンダールヴ」の脚力で右へ飛び避けた。
規格外のその脚力をフルに利用して、ギアッチョは一瞬でワルドの背後を取る。
そのまま身体をねじらせてデルフリンガーを一閃するが、ワルドは一瞬の判断でギアッチョに体当たりし、身体でその腕を止めた。
「・・・君、今首を狙ったな」
身体を衝突させ合った格好のまま、ワルドが鋭い眼で睨む。
「わりーな いつものクセでよォォー、次からは気をつけるとするぜ
それよりてめー・・・なかなか素早い判断が出来るじゃあねーか」
「当然だ 女王の護衛を任される者の実力を舐めないことだな」
言うが早いかワルドはぐるりと回転してギアッチョに向き直り、そのまま流れるような動作で三発目のエア・ハンマーを放った。
下からアッパーの要領で撃ち出された風の槌はギアッチョを空高く打ち上げる――はずだったが、
「何・・・?」
ボドンッ!!といういつもの景気のいい打撃音は全く聞こえず、上空高く吹っ飛んでいるはずのギアッチョは数十サント浮き上がっただけで大したダメージもなく着地して
いた。
デルフの口からは「おでれーた」という言葉が漏れていた。どうやったのかは分からないが、今自分は魔法を吸収した気がする。
しかし彼が己のしたことを完全に理解するより先に、ギアッチョは次の行動に移っていた。


メイジではないギアッチョは、今の現象をただの不発か角度その他の問題―― 要するに偶然だと考えた。
喋る魔剣を乱雑に構え直すと、色を失くした双眸でワルドを射抜く。
――同じ魔法を三連発・・・工夫も何もありゃしねえ 手の内見せる気は更々ねえってわけか
まあそれもいいだろう。剣のいい練習台にはなる。ギアッチョは足に力を込めると、地面を変形するほどの勢いで蹴って走り出した。
一方ワルドは、エア・ハンマーを打ち破ったものの正体に早くも勘付いていた。
――あの剣に我が風が吸い込まれるのを感じた・・・どういう原理かは知らないが、どうやら魔法を吸収するマジックアイテムのようだな・・・
杖をヒュンヒュンと振り回してから構え、ワルドは呟いた。
「それならそれでやりようはある」

「彼はどうして魔法を使わないんだろう?」
決闘を見物に来ていたギーシュが、ロダンの彫刻のようなポーズで言う。
同じく本を閉じて二人を見ていたタバサは、それを聞いてぽつりと口を開いた。
「力を隠してる」
「まあ、確かに王宮の関係者にアレがバレたら一悶着ありそうだものねぇ」
うんうんと頷いてキュルケが同意する。その横ではルイズがずっとブツブツ文句を言っていた。
「何よあのバカ・・・いつもいつも勝手なことばかりするんだから・・・!そりゃ使い魔だって物じゃないけど、たまには言うこと聞いてくれたっていいじゃない!
ワルドもワルドよ いつもはこんなことする人じゃないのに・・・」
怒りと不安がないまぜになった顔で呟くルイズの肩にポンポンと手を置いて、ギーシュは遠い眼をする。
「分かってやりたまえルイズ 男にはやらねばならない時というものがあるのさ」
分かったようなことを言うギーシュにジト眼を送ってから、ルイズは複雑な顔でギアッチョ達に視線を戻した。
「全然分からないわよ バカ・・・」


決闘直後とは正反対に、今度はギアッチョが怒涛の勢いでワルドを攻め立てていた。
袈裟斬りから斬り返し、そのまま薙ぎ払いから突きを繰り出し、全く型というものを感じさせない動きで息つく暇なく攻め続ける。
言ってしまえば完全にでたらめな剣捌きなのだが、「ガンダールヴ」の力で繰り出される剣撃は力といい速度といいそれだけで大変な脅威であった。
しかしワルドは風を裂いて繰り出されるそれをひらりとかわしするりと受け流し、涼しい顔で避け続ける。
そしてギアッチョがデルフリンガーを大きく振り下ろした瞬間、ワルドは攻勢に転じた。
地面まで振り下ろされた魔剣を完璧なタイミングで踏みつけ、同時に手刀で喉を突きにかかる。ギアッチョは即座に左手でそれを払いのけたが、その瞬間胸に押し当てられた杖までは手が回らなかった。

ドフッ!!

空気が炸裂する音が響き、
「ぐッ!!」
人をあっさり数メイルも吹き飛ばす衝撃を再び真正面から喰らって、ギアッチョは豪快に吹っ飛んだ。ギアッチョはなんとかバランスを保って着地したが、
「剣を手放したな、使い魔君 勝負ありだ」
主人の手から離れた剣を踏みつけたまま、ワルドが勝利を宣言する。てめー足をどけやがれとデルフリンガーがわめいているが、彼はそれを軽く無視して続けた。
「やはり『ガンダールヴ』、とてつもない膂力だが・・・君の太刀筋はまるで素人だ」
自分を睨むギアッチョから眼を外して、ワルドはルイズへと歩いて行く。
「分かったろうルイズ 彼では君を守れない」
そう言ってルイズの肩を抱くと、後ろ髪を引かれるルイズを伴ってワルドはギアッチョに振り返ることもせず宿へと戻っていった。
そりゃあ剣なんざ今日初めて使ったからな、と彼が心の中で笑っていたことも知らずに。


恐る恐るギアッチョの様子を見ていたギーシュ達は、どうやら彼が怒っていないと知ってバタバタと駆け寄った。
「怒らないのね?ギアッチョ」
「意外」
キュルケとタバサが珍しいといった顔でギアッチョを見る。そんな彼女達に眼を向けて、ギアッチョはフンと鼻を鳴らして笑った。
「初めて剣を使った人間を本気で攻撃する野郎に怒りが沸くか?笑いをこらえるのに必死だったぜ」
初めてという言葉に、三人の顔はますます驚きの色を濃くする。
「ええ!?だ、だってあんな凄い動きしてたじゃない!」
その場の疑問を代表して口にするキュルケに、
「ルーンが光ってた」
フーケ戦の時と同じ、とタバサが鋭く指摘した。ギアッチョは数秒の黙考の後、
「・・・全くよく観察してるじゃあねーか ええ?タバサ」
諦めたように溜息をつくと、手袋をずらして左手をかざした。
「『ガンダールヴ』のルーンらしい 伝説の使い魔の印だとよ」
「が、がん・・・?何・・・?」
何それと言わんばかりのギーシュとキュルケにタバサが説明する。
「あらゆる武器を使いこなしたと言われる、始祖ブリミルの使い魔」
「嘘っ!?」「凄っ!」とそれぞれの反応を返す彼らの前で、ギアッチョは既に鞘に収めていたデルフリンガーを抜き放った。途端、左手のルーンが光り出す。
ギーシュ達がおおーだのうわーだのと感嘆の声を上げるのを確認してから、ギアッチョはデルフを収め直した。
「伝説だなんだと言われてもよく分からんが、あらゆる武器を操れるってなマジらしい 武器に触れるとそいつの情報が勝手に流れ込んで来る上に体重が無くなったみてーに身体が軽くなりやがる 大した能力だぜ」

練兵場跡でガンダールヴについてひとしきり歓談したところで、ギーシュがうーんと唸る。
「しかしやっぱり悔しいなぁ」
「ああ?」
「君の魔法は隠さなきゃならないってことは分かるんだが、君はワルド子爵にきっとある日突然伝説の力を得ただけのただの平民だと思われているだろう?
それがどうにも悔しいというか歯がゆいというか」
ギーシュの言うことがよく分からず、ギアッチョは怪訝な顔で聞く。
「何でてめーが悔しいんだ」
「いや、だって僕達友達じゃないか」
「・・・友達ィ?」
ギアッチョが素っ頓狂な声を上げるが、ギーシュは全く真面目な顔で先を続ける。
「ルイズもギアッチョも僕の友達だよ 友達が軽く見られるのを何とも思わない奴はいないさ そうだろう?キュルケ、タバサ」
常人ならば赤面するような台詞をこともなげに言ってのけて、ギーシュは実に爽やかな笑顔で二人を見る。タバサは数秒ギアッチョを見つめると、小さくこくりと頷いた。
キュルケはそんなクサいセリフを振るなと言わんばかりにギーシュを睨むが、睨んだこっちが申し訳なくなるほどいい笑顔のギーシュについに負けて、はぁっと大きく溜息をついて口を開く。
「・・・ま、ヴァリエール家に対する累代の宿怨はとりあえず忘れておいてあげなくもないわ」
あくまで余裕の態度を通すキュルケだったが、タバサにぽつりと「素直じゃない」と言われて、
「ち、ちち違うわよっ!」
と途端に顔を真っ赤に染めて否定した。そんなキュルケをタバサは無表情の
まま「素直じゃない」とからかい、「違う!」「素直じゃない」「違うっ!」「素直じゃない」の言い争いをギーシュは笑いながら見物していた。


ギアッチョは「友達」というものが嫌いだった。プロシュートではないが、そんなものは幸せな環境というぬるま湯に浸かっている甘ったれたガキ共のごっこ遊びだと思っていた。
普段友達だ何だと声高に叫んでいる奴等ほど急場でそのオトモダチをあっさり見捨てて逃げるものだ。
暗殺の過程や結果でそんな人間を何人も見てきたギアッチョには、「友達」などという言葉は唾棄すべき虚言以外の何物でもなかった。
見ようによっては淡白な関係だったが、彼はリゾットチームの仲間達とは常に鋼鉄よりも固い信頼で結ばれていた。
だからこそ、ギアッチョには「友達」などというものは上辺だけの信頼で寄り集まる愚者を指す言葉にしか思えない。

しかし。しかしギーシュ達はどうだ?ギーシュはルイズをバカにしていたが、家名を賭けてまで彼女に謝罪をした。フーケ戦では身体を張ってフーケの小ゴーレムを
受け止めた。
キュルケはルイズと宿敵であるような素振りを見せているが、ギアッチョがルイズを殺しかけた時真っ先にそれを止めた。ギアッチョがルイズに危害を加えないかを心配してフレイムに監視をさせていたし、フーケ戦ではルイズが心配で彼女に続いて討伐を名乗り出た。
タバサはシルフィードを駆ってギアッチョを止めた。宝物庫の件では文字通り命を捨てる覚悟でルイズ達を救い、その後も怒ることなく討伐を助けた。
そして何より、見なかったことにして逃げ帰ることも出来たというのに、彼女達は己の危険を顧みず傭兵達と剣を交えてまでルイズを助けに来たではないか。

バカバカしい、と言おうとしてギアッチョは口を開く。しかし楽しげに笑いあうギーシュ達にそう言い捨てることは、どうしても出来なかった。
――甘ったれ共が・・・
心中そう呟くが、ギアッチョにはもう解っていた。それはカタギには戻れない自分への、ただの言い訳だ。
人殺しだったイタリアの自分と、全てがリセットされたこの世界の自分。彼らの友情を受け入れることは、この世界での生を受け入れること。
ギアッチョは何一つ言葉を発せずに立ちすくんだ。
決断の時は、近い。

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