ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

フリッグの舞踏会にて

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ルイズが到着する、ちょっと前の舞踏会場。
新たなる出会いを求め、それなりにおめかしをした
マリコルヌ・ド・グランドプレは、
人生かつてないほどの衝撃を受けていた。
その視線は、近くのテーブルで豪華な料理と格闘している女の子……
タバサに余すところ無く注がれている。
いつもの制服ではなく、黒いパーティードレスに身を飾った彼女からは、上品な雰囲気が醸し出されている。
しかしタバサはそんなことなど全く気にしたようもなく、
ただひたすらにテーブルの上の料理と格闘している。
その子供っぽさが、衣装が生み出す上品さとの間にギャップを生み出し、
マリコルヌの魂(ハート)を激しく震わせていた。

「…………………ベネ」
今もまた、汚れた口元を無造作にゴシゴシと拭うタバサを見て、
マリコルヌのハートが更にヒートする。
燃え尽きるほどに。
気がつけば、マリコルヌはふらふらとタバサに近づいて行っていた。

「……ね、ねぇ、ミス・タバサ」
なけなしの勇気を総動員して話しかけたマリコルヌだったが、
タバサはそんな彼を無視した。

だがしかし、マリコルヌは諦めない。
『モテない歴=年齢』のマリコルヌには、
女性に無視をされることなど慣れっこだった。

「き、綺麗な夜だね、ミス。
……でも今夜は、き、ききき君の方が、綺麗だよ!」
綺麗と言われたことに反応したのか、
タバサが初めてマリコルヌの方を向いた。
無知な子犬のように首をかしげるタバサに、
マリコルヌはもう辛抱たまらなかった。
脈ありだ、と脳内で勝手に審判を下したしたマリコルヌは、
すぐさまダンスの申し込みをした。

「よ、よければ、ぼぼ僕と一曲、ダンスを踊ってくれませんか!?」
―――言った、はは、言ってやったぞ!
うわはは!つ、ついに僕にも女の子が!!
し、し、しかも!
ここここんなロロロロリっ娘! しかもメガネ! 完璧!
バンザイ!
マリコルヌは、これから起こるだろう至福のひとときを妄想して、1人心の中で悶えた。
しかし、タバサはマリコルヌの申し込みには応えずに、
マリコルヌの後ろのテーブルにあるワインボトルを指さした。

「取って」

「へ?
あ、もちろんだとも!!」
一瞬呆気にとられたが、
麗しのミ・レイディのお願いとあり、マリコルヌは超高速でテーブルのワインボトルを取り、
グラスに注いでタバサに手渡した。
タバサはグラスを受け取ると、
それを水のように一気にグビグビと飲み干した。
その豪快な飲みっぷりに、マリコルヌは目を白黒させた。
直ぐに空になってしまったグラスをテーブルに置き、
タバサは真っ赤な顔でひっくとしゃっくりをした。
小柄な少女がさらす無防備な様子に、
マリコルヌははっと息をのんだ。
もう限界だ。
ぐいっとタバサの腕を掴む。

「は、放して……」
「だ、大丈夫!
僕はこれでも、ダンスの教養はふ、深いんだ。
きききききっと、上手に君をリリ、リードしてみせるさ!
心配しないで、さぁ!
さぁ!」
タバサの片手を掴んだまま、鼻息荒く詰めかけるマリコルヌ。
ぶっちゃけもう犯罪者だ。
「や、やめて…触らないで……あ、頭が………」
飢えた狼の視線を向けられて、たじろいでいるかに見えた。
か弱い抵抗をするタバサだったが、
ふと、彼女の体の力がすうっと抜けた。

それをオーケーのサインと見たマリコルヌが、
タバサを体ごと引き寄せようとした瞬間……

「心配するのはてめえの方だぜ……
このアホがァアア!!」
突如として口調が変わったタバサ。
しかし、マリコルヌには疑問の声をあげることなど出来なかった。
グワシィ! とノドを掴まれ、宙ぶらりんにされたからだ。
ちなみにこのマリコルヌ、男子の中でもとりわけ身長の高い男ではないが、
明らかにタバサよりも大きい。
大きいはずだ。

「な……何だ……あんた!?
その体は……!?
ね、年齢がぁあ……!!」
気がつけば、タバサはいつのまにか175サントほどまでに大きくなっていた。
キュルケよりも大きい。
肩口で切りそろえられた髪はそのままに、
スラリと伸びた細い足。引き締まったウェスト。
朱を引いたような唇。
猛禽類のような冷たく、鋭い目。
ドレスのサイズが合わなくなったせいで、
限りなくギリギリなミニスカートになってしまっている。
バストはもうはちきれんばかり。
何とも扇情的だ。
とりわけ変化が顕著だったのは、胸だった。
一言で言うと、
で     か     い。

ついさっきまで平原のようだったソレが、
メロンさながらたわわに実り、重力に反旗を翻す様は、
まさに胸革命(バスト・レヴォルーション)。
旧体制(アンシャン・レジーム)はひっくり返ったのだ。
ボンッ! キュッ! ボンッ! な大人タバサに罵られ、
お姉さまスタイルもいいなぁ、なんて不覚にも思ってしまったマリコルヌ。
彼は隠れMだった。

驚異的な腕力でマリコルヌにネックハンキングツリーをかましながら、
ありったけの憤りを詰め込んでタバサが言った。

「いつも寄ってくる……
こんなアホが……」

"タ、タバサ様が!
おおお…タバサ様がぁああ!!
タバサ様が戦闘態勢に入られたぞぉおお!!!"
などと、遠くから悲鳴交じりの歓声が聞こえてくる。

「この世はアホだらけなのかァアア!!」
そして、タバサの怒りの鉄槌が、マリコルヌ目掛けて無慈悲に振り下ろされた。

『タバサ・クリムゾン』!!!
"ドグシャア!"、と壮大な音を響かせて、哀れマリコルヌはテーブルごと叩き潰されてしまった。奇妙なことに、その口には何やら野菜のような物がつっこまれている。
地獄のトロルも泣いて謝るはしばみ草だ。
悲鳴を上げる暇もない、一瞬の出来事だった。

地面に倒れるマリコルヌタのとなりに、
タバサが静かに佇む。

「これが………『タバサ・クリムゾン』だ。
私が時を数秒吹き飛ばした。
その間起こった出来事は全て無かったことになり、
後には『お前がはしばみ草を食った』という事実だけが残る……!」
マリコルヌは口から泡を吐き始めている。
やがて、タバサの体がガクガクと痙攣を始めた。
痙攣が収まった後には、元の身長に戻ったタバサの姿があった。
タバサは床に倒れ伏すマリコルヌには一瞥もくれず、
食事を再開した。

To Be Conti…「おいキュルケ」

「はい」
いきなり呼び捨てなタバサに、キュルケは直立不動で即座に答えた。

「昼間、廃屋に向かっていたとき……ルイズの奴が、
『根掘り葉掘り聞き出すのは良くない』とか言ってたよな?
そうだろ?」
………………タバサはこの後、再び爆発することとなった。
キュルケは心の中で悲鳴を上げた。


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