ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は刺激的-14

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 ヴェストリの広場は昨日とは打って変わり熱気に包まれていた。
「諸君!決闘だ!」
 薔薇の造花を掲げ上げたギーシュに呼応し、歓声が沸き起こる。
「頼んだぞ平民!オレ達の分までぶちのめしてやれー!」
「平民っ!ギーシュをぶっ殺せー!オレが『許可』する!!」
「お前の背中はオレ達が守ってやる!思う存分戦えーー!!」
「あ~~ん…頼もしいわ~。私のサイトさん」
「そのキレイな顔を吹っ飛ばしてやれーー!!」
「年齢=童貞を舐めんなーー!!!」
 モテるギーシュに対する嫉妬と好きな子に告白をして「私、ギーシュ様が好きなの…御免なさい」と断られた
 恨みによって、決闘ではなく処刑を期待する男達の怒号で広場は溢れかえっていた。
 ちなみにギーシュのファンと彼氏彼女持ちの連中は、広場入り口でモテない男達によって阻まれている。
「お前…随分嫌われてるんだな」
「う、うるさい!彼らは別だ!!」
 キザな男ではあるが交友関係が広く、誰に対しても気軽に話しかける事ができるギーシュは周りから好かれる
 タイプの男であるが、浮いた話も多く(その多くは噂だが)女生徒からの人気も高い事から、一部の生徒からは 
 蛇蝎の如く嫌われていた。(かつてはマリコルヌもその一人だった)
 ギーシュにしてみれば言い掛かりも甚だしい事だが、それを口にしたら最後、広場から生きて出られない事は
 嫌でも理解できた。
 ホームグラウンドで試合に臨んだら観客席が全て相手側のサポーターで埋まってました。
 そんな絶望的な状況下で顔を青褪めながらも闘志を燃やそうとサイトを挑発する。

「とりあえず、逃げずに来たことは誉めてやろうじゃないか。本当にありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。逃げたら後が怖そうだし」
 ギーシュが心の底から感謝を述べ、サイトがそれに答える。一瞬ほのぼのとした雰囲気が漂うが、それも束の間
 薔薇の造花をあしらった杖を振り、ギーシュは青銅の騎士を錬金する。
「君の相手はこのワルキューレだ。さあ!掛かってきたまえ!」
 余裕綽々でサイトに宣言するギーシュに対し周囲から非難の声が上がる。
「このタマナシヘニャチンがぁーー!!素手でやれ!素手で!!」
「平民相手に恥ずかしくないのか!!」
「サイトさ~ん。眼の中に親指つっこんでグリッ!とやっちゃえー」
「任せろ平民!お前ら魔法で援護するぞ!!」
 流石にギーシュも非難の嵐に耐え切れず、もう一度杖を振りサイトの前に両刃の剣を作り出す。
「その剣を取りたまえ使い魔君。いや、マジでお願いするよ」
 ギーシュが手を合わせて懇願して、サイトも素手では不安なので剣を手に取ると、何故か身体が軽くなった気がした。
「さあ勝負といこう。行け!ワルキューレ!!」
 今まで剣など持った事がないサイトは見よう見まねで構え、青銅の騎士を迎え撃つ。
 瞬閃、青銅の皮膚を軽々と斬り裂き、ワルキューレは宙を舞う。
 自慢のゴーレムを一撃で葬り去られたギーシュと一撃で葬り去ったサイトの二人は、全く同じ表情を浮かべ呆然と
 二つに裂かれて落下するワルキューレを見つめた。

「見ましたか学院長!やはり彼はガンダールヴに間違いありません!!」
「ふうむ……」
 遠見の鏡に映された光景に興奮するコルベールと神妙な面持ちでそれを見つめるオスマン。
 コルベールがサイトに記された見慣れぬルーンを調べた結果、かつて始祖ブリミルに仕え、盾となりて守り通した
 伝説の使い魔『ガンダールヴ』のルーンに類似している事を突き止め、それが本物かどうかを確認する為に
 二人が考え出した結論はサイトと誰かを戦わせると言うものだった。
 無論、生徒の使い魔であるので死なせたり重傷を負わない様に配慮し、その為ギーシュに白羽の矢が立った。
 彼の作り出すゴーレムならば、頑丈で手加減もできるのでサイトを試すには丁度良い相手なのである。
 渋るギーシュをオスマン秘蔵の金髪ロール娘の卑猥な画集で釣り、なんとかそれを承諾させたのであった。
「あの三文芝居が始まったときは、どうなるものやら冷や冷やしたもんじゃがの」
「まあ、結果的に決闘になったから良いでしょう」
 遠見の鏡には二体、三体と作り出されその都度サイトに破壊されるワルキューレの姿が映る。
「確かに強いが…まだガンダールヴと決まった訳ではない。それに…」
「はい。仮に彼がガンダールヴだとしても王宮に知らせる訳には参りませんね」
 国民から『鳥の骨』と揶揄されるマザリーニ枢機卿が、腐敗しきった貴族連中に睨みを効かせてはいるが、
 彼自身、その忠義にも関わらず仕えている王族に嫌われ、砂糖に群がる蟻の様に甘言で用いて王族を惑わし、
 利を貪ろうとする貴族達が住まう宮殿に知らせればどうなるか、それは火を見るより明らかである。
「この事はワシらだけのヒ・ミ・ツじゃぞ」
「判っております。」

 五体目のワルキューレが真一文字に断ち割られ、広場に歓声が轟く。
「まだやるか?」
「当たり前だ!」    
 強がってはみても、ギーシュの残りの精神力を総動員しても武器を持ったワルキューレを二体錬金するのが
 関の山、それでは到底サイトには勝てない。
 オスマンからは手加減する様に申し付けられたが最早そんな状況ではなかった。
 ギーシュは周りの自分を囃し立てる声も聞こえないほど集中し、如何にしてこの強大な敵に勝つかを考えた。
 そして一つの案が浮かび、それを実行に移した。
「行くぞ!出てこいワルキューレ…ああっ!」
 ギーシュの錬金したワルキューレは上半身は原型を留めないほど醜く膨らみ、バランスを崩して地面に倒れこみ、
 身体を支えようと腕を伸ばすが自重を支えきれずに腕が潰れる。下半身は形こそ変わらないが上半身とは
 反対の方向を向き歩くことさえままならない。誰が見ても明らかな失敗にギーシュの顔が情けなく歪む。
「ギーシュ!負けを認めちまえー!!」
「お前もコッチに来い。ここは居心地いいぞ」
「サイトさーん!相手が泣くまで殴るのをやめちゃダメですよ~」
「平民!チャンスだギーシュを斬り殺せー!!」
 錬金に失敗したギーシュが泣きそうな顔で自分が戦うと手招きする。サイトにはもう戦う気はないが、決着を着けねば
 場が収まりそうにないので、仕方なく失敗したワルキューレを飛び越えギーシュの前に立つ。
「もういいだろ?オレの勝ちだ」
「ああ、恐れ入ったよ。僕では相打ちがやっとだ」
 ギーシュが両手を挙げて首を振る。不審に思ったサイトが問い詰めようとすると、背後の失敗したワルキューレが
 動き出し、醜く膨らんだ上半身を内側から破って通常のワルキューレが姿を現してサイトに槍を突きつける。

「なんだ?!どうなってんだ!」
「…そうか。あれは失敗じゃない!錬金したワルキューレの上に失敗した様に見せかける為に
 薄い膜の様な青銅を被せたんだ!オレ達はまんまとダマされたんだよ!!」
「クソッ!一杯食わされたぜ!!」
 騒ぎ立てる観客に華麗に一礼し、ギーシュはサイトを見る。
「と、言う訳さ。使い魔君」 
「……参ったな。勝ったと思ったんだけど」
 困った様に頭を掻くサイトに、ギーシュは手を差し出した。
「僕の名は、ギーシュ・ド・グラモン。君は?」
 サイトは差し出された手を見て逡巡した後、その手に自分の手を重ね合わせる。
「サイト。平賀才人だ」
 お互いの健闘を称え握手する二人を見て、観客達も毒気を抜かれて拍手を持って祝福する。
 ここに貴族と平民の垣根を越えた友情が生まれようとしたその時、突然爆発が起きて二人は吹き飛んだ。
「このバカ犬!御主人様に逆らってなにしてんのよー!!」
「ちょっとルイズ!ギーシュまで巻き込まないで!!」
 ルイズとモンモランシーが言い争いながら乱入し、片方は襟を掴んで広場から退散して、もう片方はその場で
 手当てを始めてハートが飛び交う空間を作り出す。
 状況が掴めず呆然とする観客達が次第に引き上げ、締まらない形で決闘イベントはお開きとなった。


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