ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

仮面のルイズ-7

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泥と血だらけのミス・ロングビルが、トリスティン魔法学院に帰還した。
ロングビルは衛兵に「土くれのフーケが…」と告げ、そのまま気絶。
現在は水のメイジ達による治療を受けている。

ロングビルが帰還した翌日には
『ゼロのルイズが命と引き替えに土くれのフーケを倒した』
という噂が学院中に広まっていた。

ロングビルが握りしめていた杖の破片に、ラ・ヴァリエール家の紋章が入っていたと、誰かが話してしまったのだ。
一気に噂は広がり、生徒達の耳にも入ることになった。

教師達は頭を抱えていた、なにしろ、ラ・ヴァリエール家といえばトリスティン屈指の名門だ。
責任問題となれば、魔法学院の教師が皆首を切られてしまうのではないか…
そう考えて震え上がる者も少なくはない。

授業はすべてキャンセルされ、学院は生徒達のうわさ話と、教師達の不安による喧噪に包まれていた。

「それで、ミス・ヴァリエールは君の目から見てどんな生徒だったかね」
「向上心が強く、魔法の知識は優秀でしたが…」
「魔法が成功しない、とな」
「はい、原因は分かりませんが、ほとんどの魔法を『爆発』という形で失敗しております」
「ふむ、君は先ほど向上心といったが、それは違うじゃろうな。ラ・ヴァリエール家の三女が失敗ばかりしていたのなら、周囲からの風当たりも強かったじゃろうしのう」
「…おっしゃる通りです、コンプレックスから来る向上心だと考えられます、土くれのフーケを追ったのもそれが原因かと…」
「思い詰めておったかもしれんな、あの娘は…」

オールド・オスマンが水パイプを吸おうと杖を手に取るが、すぐに取りやめる。
生徒が一人死んだ。 いや、正確には元生徒が一人死んだ。
ロングビルが魔法学院に帰ってから既に三日経つ。
三日の間に、爆発の起こった場所へと教師を何名か向かわせて様子を探らせ、ラ・ヴァリエール家の居城に使者を出した。

ルイズの生存は絶望的、それがオールド・オスマンの出した結論だった。
ルイズが退学する何日か前、練金の授業で小石を爆発させ体に大火傷を負ったと聞いていた。
級友達が、水の秘薬をルイズに与えたが、回復するまでに一週間以上かったところを見ると火傷はかなり酷かったのだろう。

教師の一人、疾風のギトーによる報告では、森の奥に直径60メイル(m)にもなるクレーターが作られていた。
仮に、それがルイズの作り出した爆発であったとするならば、ルイズは跡形もなく…

「学院長!」
学院長室に飛び込んできたのは疾風のギトーだった。
「なんだね、血相を変えて」
「ラ・ヴァリエール公爵夫人、カリーヌ・デジレ様がご到着なされました!」

コルベールとオールド・オスマンは、意外な人物が、しかし考えてみれば当然の人物が現れたと知って、体を強ばらせた。

医務室では、体中に包帯を巻かれたロングビルが、ベッドから上体を起こしていた。
虚ろな目で淡々と何かを喋っており、ロングビルの頭には杖が押しつけられている。
その杖を持っているのは、トリスティンの魔法衛士隊、マンティコア隊の隊服を着た男性。
そして、もう一人別の女性が、ロングビルの言葉に耳を傾けていた。
その女性のマントにはマンティコアの刺繍が繕われている。

ロングビルはどこか惚けたような、力のない発音で言葉を続ける。
「私がフーケの作り出したゴーレムに捕らわれた所に、ミス・ヴァリエールが馬で駆けつけました。
 フーケの作り出したゴーレムの腕が爆発し、私は地面に投げ出されました、地面に落ちた私を助け起こしたミス・ヴァリエールは、フーケの持ち出した箱を探せと私に指示しました。
 ミス・ヴァリエールは名乗りを上げて、魔法を詠唱し、フーケのゴーレムの足を爆破し、動きを封じておりました。
 その隙に私がフーケの小屋に入りました、そこで鍵の開けられた鉄箱と、一冊の本を発見し、持ち出しました。
 私は、フーケの乗っていた馬を奪い、フーケを足止めしていたミス・ヴァリエールを馬に乗せて、逃げようとしました。
 しかしミス・ヴァリエールは馬から飛び降りると、馬の尻を杖で叩き、私の乗る馬を走らせました。
 私が手綱を引いて馬を制止しようとした瞬間、ミス・ヴァリエールは何らかの魔法を詠唱して、ゴーレムを爆破させ…気がついたときには、私は本を抱えて地面に倒れておりました」

ロングビルの上体がベッドに倒れ込む、すると、ロングビルの頭に杖を押しつけていた男が言った。
「嘘はついておりません、まだやりますか」
もう一人の女性は、「不要です」とだけ言ってから、医務室の椅子に腰掛け、深いため息をついた。

しばらくの沈黙の後、ノックの音が医務室に響く。
返事を待たずに開けられた扉から、オールド・オスマンが入ってきた。
「ミセス・カリーナ・デジレ様、こちらにおられましたか」
「…今の私はカリーナ・デジレではありません、元マンティコア隊隊長、カリンとして、土くれのフーケ襲撃の顛末を聴取します」
とりつく島もないな、と考えつつも、”烈風のカリン”による…
…ルイズの母親による事情聴取が始まった。

オールド・オスマンはこの学院の全権を委任されている、いかにマンティコア隊の元隊長が相手といえど一歩も引くことはない。
それに、オスマンは内心に怒りを覚えていた、ロングビルの隣に座っているメイジは『重要参考人を水の秘薬で治療している』らしいが、それは半分嘘だろうと踏んでいた。
意識のないロングビルが何度か嘔吐を繰り返していたが、その時の吐瀉物を厳重な容器に入れ、蓋をしていたのだ。
おそらくあれは水の秘薬を用いた自白剤か何かだろう。
教師ではないが、ロングビルもトリスティン魔法学院の職員には違いない、オールド・オスマンは、微々たるものではあったが、目の前に座る”烈風のカリン”への不快感を隠さなかった。

オールド・オスマンからの聴取が終わる頃には、ロングビルの傷は回復し、意識も元通りになっていた。

それを確認したカリンは、ロングビルの隣に座っていた部下に命じて馬を手配させ、ロングビルを連行していった。
その姿を見た何人かの教師は『ロングビルはミス・ヴァリエールを死なせた責任を取らされるのか』と想像し、どうか自分にも飛び火しないようにと祈ったという。

連行されたロングビルだが、実際は連行された訳ではなかった。
土くれのフーケがどのようなルートを通ったのか、案内させられていたのだ。
馬の後ろをマンティコアが追尾してくる姿は、どことなく恐ろしい。
馬の蹄の痕が残っていた場合、『フーケ』『ロングビル』『ルイズ』の三名が後を追ったという話自体に信憑性が無くなってしまうところだったが、昨日の雨のせいで足跡はすっかり流されていた。

しばらく馬を走らせ、森の奥へとたどり着くと、そこには巨大なクレーターがあった。
クレーターには昨日の雨が溜まっており、まるで小さな池のようになっていた。
硫黄から作られた火の秘薬が、空行く戦艦や城壁を破壊することは知られている。

しかし、秘薬も無しにこれほどのクレーターが作られたという事実が、カリンとその部下の背筋を震わせた。

「…ミス・ロングビル、これは間違いなくルイズの手に依るものですか」
「え、は、はい、気絶してしまったのでハッキリとは申せませんが、ミス・ヴァリエールの魔法によって作られた物だと思います」
「そう、ですか」

カリンは馬から下り、フライの魔法を使ってクレーターの中心まで移動する。
深さは約3メイル(m)、直径約60メイル、爆風の影響で周囲の木々はなぎ倒され、クレーターの周囲はめくれあがった地面と木片が散乱している。

それを確認するとカリンは、ロングビル元へと移動した。
ロングビルは馬から下り、何かを話したそうにしていたが、カリンはそれを制止した。

「あ、あの、カリン様」
「ミス・ロングビル…ミス・ヴァリエールは短絡的な行動に走り命を無駄にした、これを肝に銘じ、トリスティン魔法学院の生徒には同じ失敗を繰り返さぬよう、よく申しつけなさい」
「えっ…そ、そんな言い方は!ミス・ヴァリエールは必死で」
「必死であったとしても、トリスティンの臣民として生まれた以上、その命は呵るべき時に散らすべき。ミス・ヴァリエールはその時を誤りました」

ロングビルは、目の前にいる女性『烈風のカリン』の言葉に衝撃を受けた。
娘の死に際してもこのような事を言えるのかと、怒りすら湧く思いだった。

…しかし、カリンの肩は、震えていた。

「私は魔法衛士として規律を守り、一切の反逆を許しませんでした」

そう言って、ロングビルに背を向ける。

「命を無駄に消費することは反逆にも等しい行為だとは思いませんか」

ロングビルは、何も答えられなかった。

しばらく黙っていると、カリンは部下に命令を下した。

「ミス・ロングビルを魔法学院に丁重にお送りしなさい、私はここで単独調査をします」
「はっ」

部下は杖を胸に掲げて返事をすると、ロングビルを馬に乗るように促し、カリンの乗ってきた馬を引き連れて、この場を離れようとした。

『ウウウウウ…』
マンティコアが鳴く、恐ろしげな姿そのままの鳴き声だったが、その声は主人の心を代弁するかの如く、どこか悲しそうだった。





その場から立ち去ろうとした時、ロングビルは確かに嗚咽を聞いた。

『鋼鉄の規律』『烈風のカリン』そう呼ばれ恐れられた女性は、池の縁に膝を落とし、肺の底から絞り出すような声で、泣いていた。


学院に戻ったロングビルは、オールド・オスマンに呼び出された。
「ミス・ロングビル、この度は大変な苦労をかけた、ミス・ヴァリエールは退学届けを受理した後に亡くなられた、学院に落ち度はない、よってお咎め無しと決まったんじゃが…何か言うことはあるかね」
「………ミセス・カリーナ様は、無駄に命を散らすことの愚を、私に説かれました」
「鉄の規律を信条とするのも辛いじゃろうな…内心では涙を流しておるじゃろうに」
「それと裏口脇に置かれていたミス・ヴァリエールの荷物は、後ほど回収に来られるそうなので、預かっていて欲しいと言われました」
「それはもうワシの耳に届いておるよ、ところで…む?」

オールド・オスマンが扉に注意を向ける、ロングビルも扉の前に立つ何者かの気配を察知したのか、杖を振って扉を開けた。

ガチャリと音がして扉が開く、するとそこには一人のメイドが立っていた。
「あっ」
「何の用ですか?」
ロングビルがメイドに問いかけた。
メイドは最初震えていたが、意を決して、ロングビルに一つの質問をした。
「あの…ミス・ヴァリエール様が…亡くなられたって…」
「あー、ミス・ロングビル、その娘をこちらに」
オールド・オスマンが、メイドを部屋に入れるように指示する。
メイドは一礼して学院長室に入る、調度品だらけの部屋に入るのは怖いのか、どこか落ち着かない。
「その服は厨房付きのメイドじゃったな、ミス・ヴァリエールの事が気になるのかのう?」
「あ、あの…」
厨房付きのメイド、シエスタは、どもりながらも話を始めた。

ルイズが厨房のメイドにも気にかけてくれていた事、包帯を支度してくれたお礼と称して足を治して貰ったこと、等々…
半月ほどの短い期間ではあるが、ルイズがとても良くしてくれたことを話し出した。

オールド・オスマンは優しそうな目でシエスタを見て、その話をじっと聞いていた。
一通り話が終わるとシエスタは泣き崩れてしまった。
それを見たオールド・オスマンは、ロングビルが取り返した本を取り出すと、シエスタに手招きをした。
「ミス・ロングビル、ちょっと席を外してくれんかの」
「はい」
ロングビルが部屋を出ると、オールド・オスマンはシエスタに本を見せた。

「この本はのう…宝物庫の中でももっとも厳重に保管されていたものじゃ、この本はシエスタの曾祖父母にも関係があるのじゃよ」
「えっ、ひいおじいちゃんと、ひいおばあちゃんに…ですか?」
「そうじゃ、表紙が読めるかの」
「えっと…『太陽の書』ですか?」
「そうじゃ、ところでシエスタ、おまえさんの曾祖母リサリサ殿は、何の仕事をしていたか知っておるか?」
「いえ…知りません、ひいおばあちゃんは何をしているのかよく分からない人だったって、聞いていますから」
「そうか、まあ、そうじゃろうな…この本はな、シエスタの曾祖父、ササキタケオ殿が、吸血鬼退治を生業としていたリサリサ殿の『技術』について記した本じゃ」
「きゅ、吸血鬼退治って、そんな、貴族様でもないのに吸血鬼退治なんて」
「本当のことじゃよ、ワシがこうやって生きていられるのもな、リサリサ殿とササキタケオ殿から、波紋という技術を教わったからじゃ」

シエスタは、混乱しそうになる頭を必死で押さえていた。
吸血鬼といえば、熟達したメイジが立ち向かっても勝てるとは限らない。
それほど狡猾で残忍な存在だ。
それを平民が退治していたと聞くだけでも驚きなのに、自分の曾祖父母が…

「もっとも、ワシは戦えるほどの力は持てんでな。その代わりワシが研究していた延命の魔法が、ワシに限り有効になってしもうたよ」
おかげで何度か魔法アカデミーに監禁されて解剖されそうになってのぉ~と、と笑うオールド・オスマンに、シエスタは冷や汗を流した。
「さて…この本は再度厳重に封印することになるじゃろう、何せこの本の内容は、貴族と平民の絶対的な立場を揺るがす可能性があるんじゃ」

「この本の内容が表沙汰になれば、ハルケギニアはまた大戦争に見舞われるじゃろう。それを未然に防いでくれたのじゃよ、ミス・ヴァリエールは」

「シエスタや、彼女のことを忘れないでやっておくれ、それが生きている者ができる唯一の餞(はなむけ)なんじゃよ」

「はい…私、絶対にルイズ様のことを忘れません…」


オールド・オスマンは廊下で待機していたロングビルを呼びつけ、シエスタを使用人塔まで送らせた。
ロングビルはシエスタを送り届けると、自分も部屋に戻った。
すでに時刻は夜、軽く杖を振り、ランプの明かりを灯すと、その蓋を開け、火を露出させた。
ディティクト・マジックを唱え、部屋に何も仕掛けられていないのを確認する。
そしてロングビルは髪の毛を書き上げ、生え際に出来ているでき物のようなものを指でつまみ、引きずり出した。

ずるり、と、人差し指と同じぐらいの長さが、頭から抜け出る。
太さは裁縫に使う針と変わらない。
それをランプの火の中に投げ込むと、まるでミミズがのたうち回るかのように、暴れ、そして燃え尽きた。

傷口に傷薬を軽く塗り込み、包帯を軽く巻き付ける。
そして一日の疲れを癒すためベッドに倒れ込んだ。


あの針のようなものは、ルイズの髪の毛であり、ルイズが「母が尋問に来た場合」を想定して、ロングビルに埋め込んだものだ。
頭に直接作用することで、水のメイジが調べても、ディティクト・マジックでも反応しない。
その上、自白剤の作用を肩代わりすることで、水のメイジが調合した自白剤も役立たないのだ。

フーケが宝物庫の壁をぶち破り、中から宝物を盗み出せたのはルイズのおかげだった。
ルイズが魔法の練習をした時、誤って宝物庫の壁にヒビを入れてしまった。
宝物庫は、スクエアクラスのメイジ数人がかりで固定化したという、非常に強力なもの。
それを破ったということで『土くれのフーケはスクエアクラスだった』という説が有力になっていた。

ロングビルは、何もかもルイズの思い通りになったここ三日の出来事を思い返し、笑みがこぼれた。

これから将来のことを考えると、愉快で愉快で、たまらない。



だが…ルイズの母の嗚咽だけが、ずっと耳に残っていた。


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