ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

タバサの大冒険 第6話

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 ~レクイエムの大迷宮 地下6階~

「エコーズAct.1のDISC……」
 文字を書き込むことで、書き込まれた文字そのままの「音」を発すると言うスタンドの能力を発動させ、タバサは床に擬音を表わす言葉を次々と刻み込む。
この世界でタバサが始めて出会ったDISCのスタンド、エコーズAct.3が進化する前の姿。
 それが、たった今彼女が発動させているエコーズAct.1だと言う。
 今ここにいる世界が“時間”と言う感覚その物が存在しないような場所であるせいか、この世界に来たばかりの頃に出会ったエコーズAct.3の記憶も、もう随分と懐かしい物のように感じる。
 だが、自分はあのエコーズAct.3のことを決して忘れないだろうとタバサは思う。
 今ここで自分が戦っていられるのは、エコーズAct.3が己を犠牲にしてまで、自分の為に道を開いてくれたからだ。そして今、エコーズAct.3と深く繋がった存在であるエコーズAct.1までもが、今こうして自分の為に力を貸してくれていることに、タバサは言葉に表わせない深い感慨を覚えていた。
「…………Act.3」
『タバサ急げ!すぐにヤツが追い掛けてくっぞ!』
「! …わかってる」
 腰のベルトに指したデルフリンガーの言葉に現実に引き戻され、床にエコーズAct.1の文字を仕掛け終わったタバサは大急ぎで、先程逃げて来た場所とは逆の方向――
 即ち現在のタバサから見て真正面の方向に向かって疾走する。
『――何処へ行こうと逃すものか!我がハイウェイスターのスピードは時速60km!
 お前がこのフロアー内にいる限り、その追跡からは決して逃れられないのだーッ!』
 ちらりと後ろを振り返って確認すると、もの凄いスピードで床を疾走する足跡がタバサ達に向かって接近して来る。だが、ハイウェイスターと名乗ったスタンドが一直線にタバサに向かって接近して来ると言うことは、敵はそう簡単に立ち止まることが出来ないということでもある筈だ。
 それを見越したからこそ、タバサは先程自分の進行方向上に罠を仕掛けたのだった。

 「ピ!」「ポ!」「ガチャン!」「ドゴォ!」「レロレロレロレロ」「ズキュゥゥゥン!」

 やがて見込み通りに、背後から物凄い騒音が響き始めたのをタバサは確かに耳にした。
『うぬうぅおぉぉーッ!?クソッ、この音は康一のエコーズの仕業かァ!?うぐおおォォォォ!!』
 そうした一連の「音」が聞こえると共に、タバサは一旦その場で足首をぐるりと半回転。
 エコーズAct.1による「音」によって悶絶しているであろうハイウェイスターに向けて、タバサは先程とは全く逆の立場となって接近して行く。もう一つの人型の姿を晒してのたうち回るハイウェイスターを確認すると共に、タバサは両手を構えてDISCのスタンドを発動する。
「……エンペラー!」
 幾らハイウェイスターが直接的なパワーに劣るとは言え、超高速で動き回るそのスピードは脅威だ。 
 敵が混乱している今の内に、距離を置いて確実に仕留めたい。
 そうしたタバサの意志を正確に受け取って、彼女の意志のままに操作される銃弾型のスタンドエネルギーが、ハイウェイスター目掛けて一直線に突き進んでいく。
 そして、そのまま彼女の狙い通りにエンペラーの弾丸がハイウェイスターの頭部を撃ち抜く!
 転げ回っていたハイウェイスターの体が一瞬ビクリと震えて、力を失って地面へと倒れ伏す。
『クハッ……!や、やってくれたな……だがお前の「臭い」はもう覚えたッ!
 お前の養分を一滴も残さず吸い尽くすまで、ハイウェイスターの追跡は終わらないィィィッ!!』
 頭を撃ち抜かれながらもなお勝利を確信した咆哮を上げながら、ハイウェイスターは消滅して行った。
『……フーッ。これでまた一段落、ってヤツかぁ?』
 もううんざりだ、とでも言いたげにデルフリンガーが憂鬱な溜息をついた。
 そして相変わらずの無表情ではあったが、今のタバサの気分もそんな彼と全く同じ物だった。



 生まれ故郷であるハルケギニアに帰還するべく、レクイエムの大迷宮の最深部を目指す途中で、タバサとデルフリンガーがこの階層に足を踏み入れてまず最初に発見したのは、石造りの部屋だった。
 タバサ達がこの世界に迷い込む直前までいたハルケギニアの古代遺跡によく似たその部屋の中には、今は離れ離れになってしまっている親友のキュルケや、
クラスメイトであるゼロのルイズ、青銅のギーシュ、そしてルイズの使い魔である平賀才人――
 トリステイン魔法学院に通う今のタバサにとって、大切な友人達の姿があった。

「…………罠」
『ワナだよなぁ』

 それを見た二人は即断した。
 様々な世界の“記録”が形を成しているこの世界ならば、確かにハルケギニアで離れ離れになってしまった彼らの“記録”も何処かに存在しているかもしれない。
 実際にレクイエムの大迷宮を訪れる前に、あのトリステイン魔法学院で働くメイドの少女シエスタや、魔法学院の建物それ自体の“記録”に、タバサ達は出会っている。
 しかし彼女らの前に広がっているその光景は、あまりにもあからさま過ぎた。
 誰かが自分達に幻覚を見せて、罠に誘い込もうという魂胆は明白だった。
 最初はタバサ達も、多少名残惜しい気はした物の、無視して先へと進むつもりでいた。

 ――だが、出来なかった。
 例え幻であろうとも、それが罠だとわかっていたとしても。
 タバサの掛け替えの無い人達が何者かに襲われ、傷付けられようとしている姿を見てしまったら。
 万が一にでも、それが罠では無いという可能性があるのだとしたら。
 タバサは“彼ら”を助けに行かない訳にはいかなかったのだ。

 結果として、タバサとデルフリンガーはその幻覚の罠を仕込んだスタンド「ハイウェイスター」と、その部屋で共に待ち受けていた鋼鉄製の車型のスタンド「運命の車輪(ホイール・オブ・フォーチュン)」
に部屋の中へと誘い込まれて窮地に陥る羽目になった。辛うじて、一枚だけ保持していた瞬間移動の発動効果を持つペットショップのDISCによって、階層内の別の部屋へと逃れることは出来たが。
 しかしハイウェイスターが持つ「相手の臭いを覚えて、高速で自動追跡出来る」と言うもう一つの能力によって、タバサが何処に逃げようとしても、ハイウェイスターは執念深く階層内を逃げ回る彼女を追い掛け続けて来た。
 そしてハイウェイスターは、本体から距離が離れていても力を発揮出来る「自動追尾型」のスタンド。
 例外こそあれど、そうした自動追尾型のスタンドは精密動作性を犠牲にする代わりに、どれだけダメージを受けたとしても、本体であるスタンド使いとは受けたダメージを共有しない場合も多々ある。
 ハイウェイスターもそうした本体とダメージを共有しないタイプのスタンドだった。
 先程からタバサも隙を突いては攻撃を加えているのだが、何度撃退してもその度にまた“新しい”ハイウェイスターが、一度覚えたタバサの「臭い」を嗅ぎ付けて、彼女の体から全ての養分を吸い尽くそうとして襲い掛かって来る。

 この階層に辿り着いてからと言うもの、そんなイタチごっこの繰り返しだ。
 こんなジリ貧の状態が続けば、いつかタバサは養分を吸われてカラカラのミイラになってしまうだろう。
 ハイウェイスターだらけの部屋、まさに「ハイウェイスター・ハウス」とでも言った所だろうか。
 不幸中の幸いと言うべきか、ハイウェイスターと共にタバサを罠に掛けた運命の車輪の方はハイウェイスターと違ってタバサの位置を直接は感知できないらしく、まだ再会してはいなかったが。


『さーて。マジでこれからどーするよ、タバサ』
「……本体を、叩かないと」
『ま、そうなるわな、やっぱ』
 ハイウェイスターの本体であるスタンド使いは必ずこの階層の何処かにいる筈だ。
 それを叩かない限り、ハイウェイスターは何処までもタバサを追跡して来るだろう。
 デルフリンガーの問いも、それを改めて確認する為の形式的な物だ。
 では、具体的にどうすれば良いか?タバサ達はその為のアイデアに、まだ至っていなかった。
『だとしてもなァ。何とかして本体のヤローを見つけねーと話にならねーんだよな』
「それは多分…平気」
 そこで少し曖昧な口調になってから、タバサはぽつりと口を開いた。
「心当たりは、ある」
『なんだってぇ!?アンタ、アイツの本体が何処にいんのかわかるのか!?』
「多分。でも確証は無い」
『それでも予想だけなら付いてんだろ?まったく、スゲーおでれーたぜ、オレはよ』
 感心するデルフリンガーを余所に、タバサはいつもの無表情で思案を巡らせる。
 確証が無いとは言った物の、スタンド使いの居場所はまず自分の推測に間違いは無いはず。
 ならば、後は如何にしてハイウェイスターと接触せずに本体まで近付けるかどうか、だ。
『それでタバサ、ヤツの本体は何処にいるんだ?生憎とオレにゃあ全然思いつかねーぜ……』
「……すぐにわかると思う。だから」
 タバサは銀色に輝く一枚の発動用DISCを取り出しつつ、もう片方の手で腰に挿したデルフリンガーの刀身を引き抜く。そして一旦デルフリンガーの柄を逆手に持ち替えて、一見しただけでは、まるで朽ち果てる寸前のボロボロの状態に見える彼の刀身を地面に滑らせる。
『ン……?おい、タバサ?』
「あなたに、目になって欲しい」
 そのままタバサは、銀色のDISCを頭に差し込んで、そこに刻み込まれている能力を発動させた。

『悪には悪の救世主が必要なんだよ、フフフフ…』

「う……っ……!」
 その刹那、タバサの視界が深い闇へと覆われる。何一つ見えない完全な黒の世界。
 だが、逆に鋭敏に研ぎ澄まされた聴力が、階層内のあらゆる“もの”の動きを彼女に知らせる。
 再び行動し始めたハイウェイスターも、そして未だに出くわしていない運命の車輪の存在も、今のタバサには文字通り手に取るように感知出来ている。
『タバサ…!お前さん――ひょっとして“目を潰した”のかよ!?』
「うん。これで、本体の場所がわかる」
 視力と引き換えに敵の動きを感知する「ンドゥールのDISC」の為に、一時的にではあるが瞳から完全に光を奪われたタバサは、片手に握り締めたデルフリンガーを杖代わりに地面に突き立てて、目的の場所に向かって歩き出す。
『なあ、タバサ』
 前が見えていない為に、危なげな足取りで歩くタバサに向けて、デルフリンガーは言う。
『オレ、最初にお前さんと会ってから結構経つけどよお。なんつうか、この世界に来るまで お前さんがここまでガッツのある奴だったなんて、マジで思いもしなかったぜ……』
「……生きる為」
『あん?』
「生きる為なら、当たり前」
 手に握り締めたデルフリンガーを頼りに歩くタバサは、いつも通りの無感情な声で呟く。
「だから、あなたの力を貸して欲しい」
 それは、本心からのタバサの言葉だった。メイジとして魔法を使う為の杖を失ってしまった以上、元の世界にいた頃のように、自分一人の力では戦えない。スタンドのDISCだけでは無い、今もこうして自分の側にいてくれるデルフリンガーの存在が、今のタバサには必要なのだ。
『……わーったよ。そこまで言われちゃ、オレも男だ!ここで断ったらオレの男がすたるってもんだ。
 ああタバサ、出口はもうちょい右だぜ。大体2メイルちょい……よし、そこだ』
「……ありがとう」
『いいってコトよ。その代わり、ヤツらをぶっ倒す作戦はお前さんに任せるからな』
「うん。最初から、そのつもり」
 デルフリンガーと共にハルケギニアに帰って、皆と再会する為にも、ここで死ぬ訳にはいかない。
 タバサは手の中のデルフリンガーをより強く握り締めながら、目の前に広がる闇の中を歩いて行く。



「ム…!?ほっほ~う、ハイウェイスターの野郎より先に俺を潰しに来たのかァ?
 だがスタンドのパワーは奴よりも、俺のスタンド「運命の車輪」の方が上なんだぜェ~…?」
 部屋の中で運命の車輪、その運転席でスタンドを操作しているスタンド使いが高笑いを上げる。
 タバサはンドゥールのDISCによる盲目の中、高速で移動して来るハイウェイスターの動きを
「音」で感知しながら、その接触をデルフリンガーのアシストによって出来る限り回避することで、ようやくハイウェイスターに出会うことなくこの場所まで辿り着いていた。
『…なあタバサ。先にコイツを倒そうってのはわかるけどよぉ、あの足跡野郎の方はいいのかよ?』
 どこか不安げな口調で、デルフリンガーがタバサに向けて聞いて来る。
『コイツだってそう弱い相手じゃねーだろうし、急いで倒さねーと後ろから足跡野郎に挟まれちまうぜ?』
「……何とかする」
 いつも通りの口調で、タバサは言う。
『何とか、ねえ……まあ構わねえけどよ。ヤバくなったら遠慮なくオレを使ってくれよ?』
「そうする」
 既にンドゥールDISCの発動効果が切れて、元の視力を取り戻しているタバサは運命の車輪の姿を見据えながらも、デルフリンガーの言葉にこくりと頷いた。
「ククク…作戦会議は終わったらしいな?それじゃあ、逆にテメエの体をヒキガエルみてーにペシャンコに潰しちまうぜェ!ウヒッホァ!」
 言うが早いか、運命の車輪がアクセルを吹かしてその車体をタバサに叩き付けるべく突っ込んで来る。
 本体の意志がそのまま具現化したような運命の車輪の姿は、攻撃的かつ獰猛だ。
 まともに激突すれば、小柄なタバサの体など間違いなくグシャグシャに潰れてしまうだろう。
 そんな訳にはいかない。タバサは真横に跳躍し、運命の車輪の走行軌道を回避。
 そのまま、新たに手に入れた装備DISCのスタンドを攻撃の為に展開する。
「クレイジー・ダイヤモンド…!」

 ドラララララララァッ!!

 スタンドの拳による超高速のラッシュが、運命の車輪の側面に叩き込まれる。
 あわよくば運転席を剥き出しにして、中のスタンド使いに直接攻撃出来れば――
 だが、そんなタバサの淡い期待が通じる程、運命の車輪も甘い相手では無い。
 クレイジー・Dからのダメージを車体表面に拡散させ、“少し車の表面が薄くなった”程度に抑え込む。
「ヒャホアハァ!力押しでもしようってのか?パワーなら負けねェってさっき言ったばかりだろォが!」
 狭い室内で強引に方向を変えながら、再びタバサに向けて運命の車輪が爆走を始める。
 もう一度タバサは横に避けようとして、両脚に力を込める。だが、その瞬間。
「…………ぅッ!?」
 突然、右足に鋭い痛みが走る。
 運命の車輪の突進自体は辛うじて避けられた物の、今のダメージによって跳躍の為の脚への負荷が中途半端になってしまった為に、タバサは体勢を崩して床に転がり込んでしまう。
『タバサ!?』
「うぅっ……フー・ファイターズ……!」
 大急ぎで射撃DISCの発動効果によって傷口にプランクトンを詰め込み、応急処置。
 何とか立ち上がれるようになったタバサの前には、既に運命の車輪が三度目の突進を仕掛けるべく、圧倒的な鋼鉄の質量から生じるその凶悪で車体をタバサの方向へと向けている。
「ククク…一体何をされたのかわからない、ってツラをしてるなァ?」
「…………っ」
「ウヒャホァ!俺の攻撃の謎はすぐ見えるさ!貴様がくたばる寸前にだけどなァ!」
 運命の車輪の表面が輝いたと思った瞬間、タバサの体に再び何かに貫かれるような衝撃が走った。

「あう…っ!」
『クソッ!ヤツの攻撃が見えねェ!一体何を撃って来やがったんだ!?』
「…………油」
『何ィ!?』
「油を…ぶつけて来た……」
 タバサが受けた傷跡から、鼻を突き刺すような独特の刺激臭が漂って来る。
 更に良く見れば、傷口を中心として、彼女の服にキラキラと輝く粘り気のある液体が染み付いていた。
「冷静に気付くとはおたくシブいねぇ~。そぉうッ!貴様の言う通り、そいつは確かにガソリンさ!」
 タバサも聞いたことのある言葉だった。
 トリステイン魔法学院の教師コルベールが名付けた「竜の血」という物質。
 異世界より現れたと伝えられる空駆ける鉄の乗り物、竜の羽衣を動かす為の燃料のことを、同じく別の世界からやって来た青年、平賀才人が“ガソリン”と呼んでいたのを、タバサは覚えていた。
 ――やはりスタンド使い達は平賀才人と同じ世界の住人なのだ!
 今までの疑惑が改めて確信へと変わったことを、タバサは今はっきり自覚していた。
 そして同時に思い出す。
 竜の血、いやガソリンは乗り物を動かす為にそれ自体を燃やして使うのだと言う。
 先程の攻撃の正体は、運命の車輪の燃料として積み込まれたガソリンを超圧縮して、弾丸として高速で撃ち出して来た物だった。 そして今、弾丸として撃ち込まれたガソリンは再び液体に戻って、タバサの身体にくまなく染み付いている。
「そして!この運命の車輪のガソリン弾を食らった貴様はッ!」
 運命の車輪の言葉が終わる前に、突然タバサは背後から何者かに体を掴まれ、身動きが取れなくなる。
「…………っ!?」
『もう絶対に助からないって訳だぜ……!』
 後ろを振り向けば、先程からタバサを追跡し続けて来たハイウェイスターが、
背後からのしかかるようにして彼女の身体をガッチリと捕らえていた。
『このままテメェの養分をカラカラになるまで吸い取ってもいいんだがよォ~……
 のんびりしてるとまたどんな反撃食らうかわかんねぇからなぁ~?
 吸える分だけ吸ってから、後は確実に決めさせてもらうぜェ?なあ、ズィー・ズィーの旦那ァ?』
「う……あぅ……っ!」
 そう言ってタバサの体内の養分を吸いながら、ハイウェイスターはタバサの体を固定したまま離さない。
「クククッ……離すなよハイウェイスター!例えテメーが燃え尽きちまったとしてもよォ!」
『ああ、いいぜ?俺は自動追尾型のスタンドだからなァ、どんだけダメージを食らっちまったとしても本体にはなーんにも影響が無いからな…また新しいハイウェイスターを出せばいいだけだもんなァ!』
 そして運命の車輪の中から、バチバチと火花を散らした電線がタバサに向けて近付いて来る。
『マジでヤバいぞッ!タバサ、何か手はねぇのかよ!?』
「…………っ!」
「逃れる手段などあるものかァ!この運命の車輪とハイウェイスターのコンビは無敵だ!
 電気系統でスパークして俺の気分がハイ!ってヤツになるまでコゲちまいなァァァァッ!!」
 そしてハイウェイスターに組み敷かれたタバサに電線が絡み付き、服に染み付いたガソリンと化学反応を起こして盛大な炎を上げて燃え上がる。
 その中心にいたタバサは、彼女の体を拘束し続けるハイウェイスター諸共に炎へと包まれて行く。
「ううあぁぁぁぁ……っ!ああぁっ……!!」
「ヒャホハァハハハハハハーッ!!勝った!第六話、完ッ!!」
 運命の車輪の本体、ズィー・ズィーは運転席から異様に筋肉で盛り上がった腕を突き出し、そして目の前で炎の柱に包まれるタバサに向けて勝利を宣言する。その瞬間――
「うぬッ!?」
 運命の車輪の車体を貫通して、小さな何かが運転席の中のズィー・ズィーの頬を掠めて飛んで来る。
 良く見ると、カブト虫のような物体がそのまま運転席の中をフラフラと飛んで行き、やがて消滅した。
「タワーオブグレイだとォ?チッ、つまらねェ抵抗をしやがって」
 かつての仲間の一人が操っていたスタンドの姿を確認して、ズィー・ズィーは舌打ちする。
 確かに「灰の塔(タワーオブグレイ)」も、小さいながらに中々の破壊力とスピード、そして精密動作性を持っており、奇襲などの戦法で運用すれば恐ろしい効果を発揮することは間違いない。
 だが、真正面から撃って来て運転席のズィー・ズィーを倒せる程、都合の良い威力を持つ訳でも無い。
「クククッ……しかしあの小娘、後何秒で黒コゲになるかねぇ~?ちょっと賭けてみるか?ウヒャホハハ」
 陰湿な笑みを浮かべながら、ズィー・ズィーはハイウェイスターごと燃えるタバサの姿を見やる。
「ン?」
 と、そこでズィー・ズィーは自分の膝の上に何か異物が転がっているのを発見した。
「なんだ…サイコロ…?なんでこんなモンがこんな所に……」
 ズィー・ズィーは膝の上にあった正六面体の物体を拾い上げて、まじまじと見やる。
 そして、サイコロからチロチロと赤いモノが見えたと同時に、それは運命の車輪の中に一気に広がってズィー・ズィーに向かって覆い被さって来た。
 肌が削り取られ、灰の中の空気までが一瞬にしてカラカラになっていくような、そんな恐ろしく鈍い刺激が、紅く燃え上がる炎と共に運命の車輪の運転席に充満して行く。
「何ィィィィーッ!?」
 ズィー・ズィーが手にしたサイコロは、既に元の形を取り戻して運転席の中に炎を撒き散らしていた。
 それは、先程までタバサの着込んでいた黒いマントだった。
 運命の車輪の火花によって全身を燃やされる直前、タバサはハイウェイスターに組み敷かれたままで自分の姿を自在に変えられる「ミキタカのDISC」を発動させ、運命の車輪のガソリンをたっぷり吸って火の付き始めたマントだけをサイコロに変えた。そしてサイコロに変えたマントを撃ち出したタワーオブグレイに持たせて、運命の車輪の中に送り込んで来た。
 タワーオブグレイは攻撃の為に撃ち込まれたのではない、ただの運搬役に過ぎなかったのだ。
「うぉわぁぁァァァ!?クソッ、あの小娘ェェェ!!
 だッ、だがッ!奴とて炎に包まれてるのは同じこと!火ダルマになる運命は変わらな――」
 それでも自身の勝利を疑わずにタバサの方を見たズィー・ズィーは、そこでついに言葉を失う。
『――ふぃ~!まったく、今度ばかりは死んだかと思ったぜェ~……』
 こりゃ参った、とばかりにデルフリンガーが心から安心したように声を上げる。
 そして地面に崩れ落ちて燃え落ちる寸前のハイウェイスターを後ろに、全身に炎の残り香を巻き付けながらも、デルフリンガーを腰に挿したタバサが今、確かにその場へと立っていた。
 そのままタバサははっきりとした足取りで、運命の車輪を目指して力強く一歩一歩を踏み出して来る。
「バ、バカなァ!?俺は確かにヤツにブチ込んだガソリン弾に引火させたはず!
 それなのにどうしてアイツは黒コゲにならないんだァーッ!?」
 激しく動揺するズィー・ズィーには何も答えず、タバサはまた一歩運命の車輪へと近付いて行く。
 そしてタバサの体から、小さくなった炎と共に何かの塊がボトリと落ちて来た。
「イ……イエロー……テンパランスだとォォォッ!?」
 タバサから落ちたモノの正体を確認して、ズィー・ズィーは全てを了解していた。
 あらゆる攻撃を遮断すると共に、同時に全てを食らい尽くす強力な攻撃手段も兼ねた肉の塊を操るスタンド、「黄の節制(イエローテンパランス)」
 これもまた、かつてのズィー・ズィーの仲間であったラバーソウルという男が操るスタンドだった。
 タバサは全身を炎によって焼き尽くされる前に、防御用の装備DISCとして仕込んでいたその能力を発動させ、肉の塊をその身に纏うことによって炎のダメージを押さえ込むことに成功する。
 そしてイエローテンパランスを纏った自分よりも先に、タバサを拘束するハイウェイスターが燃え落ちた為に、彼女はようやくその拘束から逃れることが出来たのだ。
 しかし、タバサとて決して無傷と言う訳では無かった。
 彼女がガリア王家一族の血統であることを証明する、その透明な泉のように美しい蒼穹の髪は炎に焼かれてその形を崩し、身に纏ったトリステイン魔法学院の制服も、ガソリンを吸い込んだが為にあちこちが焼け爛れ、袖口などには真っ黒な焦げ目がまるで傷口のように深く刻み込まれている。
 彼女自身の透き通るように真っ白な肌も、炎に炙られたせいであちこちに歪んだ模様を生んでいた。
 だがそんなことはお構いなしに、タバサは未だに運転席の炎が広がっている運命の車輪を目指して、無言で、しかし着実にその間合いを詰めて行く。
「うおおォォォォ!こッ、これでは運命の車輪が操縦出来ないィィィッ!
 なあオイッ!?今すぐハイウェイスターで何とか出来ねぇのかよォォォォ!?」
「無理だ!今のハイウェイスターはまだ完全に燃え尽きちゃいねぇ!
 ダメージが回復するか……もしくは一度完全に消滅させられたりしねーと、次の奴は出せねぇ!
 ……うおおお!炎が……もうダメだッ!俺は先に出させて貰うぜッ!!」
 炎に包まれる運命の車輪――その助手席を大きく開いて、一人の男が慌てて転がり落ちてくる。
 筋骨逞しい腕をしたズィー・ズィーでは無い、もっと取り分けた特徴を持たない平凡な姿の青年だった。
『おォ!?誰だこいつぁ……さっきクルマん中で見た奴とは違うぞ!?』
「本体」
『なんだと?』
「もう片方の…本体」
 タバサは横目で運命の車輪から出て来た青年を見ながら、確信に満ちた声で呟いた。
 そしてこの階層でハイウェイスターの生んだ幻覚の部屋に入った後の出来事を、頭の中で思い返す。
 手当たり次第に階層内の小部屋に逃げ込んでは、彼女を追跡して来たハイウェイスターを迎撃する。
 そんなことを繰り返して行く内に、この階層内に本体のスタンド使いが隠れられそうな場所など何処にも無いとタバサは感じていた。ましてや本体が直接スタンドを操作で追跡しているならまだしも、
ハイウェイスターは本体のスタンド使いの意志とは関係無しに動き回れる自動追跡型。
 スタンドを通じて、タバサの移動を確認しながら逃げ回っているという訳でも無さそうだった。
 しかし、それでもこの階層内の何処かに本体のスタンド使いがいる筈。
 それらの状況を踏まえた時、タバサはある一つの結論に辿り着いた。
 この階層で一番安全で、かつ見つかり難い場所――それは車型のスタンド「運命の車輪」の中だ!
 だからこそ、タバサは視力を失うという危険まで冒してンドゥールのDISCを使い、この階層内の敵の存在やその位置を感知しようとしたのだ。そしてンドゥールのDISCによって鋭敏に研ぎ澄まされた
聴力が、運命の車輪の中でいつ自分が倒れるのか?と言う話題で談笑する“二人の男”の会話を
捉えた時、ようやくタバサは自分の考えに対する確証を掴むことが出来た。
 そして今、ついにこのハイウェイスターの本体を、目の前に引き摺り出すことに成功したのである。
『そーかそーか、こいつがあの足跡野郎の……や~っと見つけたよなァ。
 散々っぱらオレ達のことを追い掛け回してくれやがって!お前さん、覚悟しやがれよ…!』
「く……!!」
 頼りの綱のハイウェイスターも出せず、噴上裕也と言う名の青年は恐怖に脅えたような声を漏らす。
「……その前に」
 運命の車輪まで目と鼻の位置にまで近付いたタバサは、いつも通りの無表情な声で呟く。
「こっちが先」
「ヒッ――ヒィィィィッ…!!」
 炎の中で助けを求めるようなズィー・ズィーの悲鳴など耳に入らぬように、タバサは頭の中の装備DISCに宿るスタンドの力を解放し、その拳を運命の車輪へと向ける。
「クレイジー……ダイヤモンド……!!」

 ドラララララララララララララァーーーーッ!!!

 目にも留まらぬ速度で叩き込まれる拳のラッシュが、運命の車輪の車体にメリ込んで行く。
 今や車全体にまで広がろうとしていた炎と、再生の隙を与えまいとするクレイジー・Dの猛打と言う二重の要因を受けて、それまで獰猛なパワーを発散していた運命の車輪の姿が
次々に捩れ、拉げて、まるで粉雪のようにその破片がボロボロと落ちて行く。
 今、運命の車輪がその戦闘力をどんどん失われているのは、誰の目から見ても明らかだった。
「ウゲエェェェッ!つ、つぶれ……息が、出来ない……!」
 炎に捲かれながらも、先程開かれた助手席のドアから必死に逃れようとするズィー・ズィー。
 鍛え上げられた筋肉によって、まるで丸太のように太く盛り上がった腕とは対照的に、それ以外の部分は見るからに細身で貧弱そうな体付きをしている、非常にアンバランスな体型の男だった。
 運転席から逞しい腕だけ出している姿も、今から思えばただのコケ脅しにしか見えない。
「…………!」
 既に運命の車輪も、スタンドパワーによる変形も解かれて、元の小さなボロ車の姿を晒し出していたが、タバサはそんなことなど意にも介さずに、クレイジー・Dによるトドメの一撃を叩き込む!
「ブッギャアァァァァァ~~~~~~ッ!!!」
 その一撃で吹っ飛ばされたズィー・ズィーはボロ車ごと壁に叩き付けられ、盛大な悲鳴を上げる。
 そして、この世界が生んだ“記録”に過ぎない彼は、そのまま車ごとその姿をスッと掻き消して行く。
 ズィー・ズィーと「運命の車輪(ホイール・オブ・フォーチュン)」、再起不能(リタイア)。



 ゼロの奇妙な使い魔「タバサの大冒険」 To be continued…



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