ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

~『恋愛貧乏、モンモランシー』~

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DIOが使い魔!?番外編
~『恋愛貧乏、モンモランシー』~

モンモランシーがルイズの使い魔と出会ったのは、
例の決闘騒ぎが起こって、暫く日が経ってのことであった。
ギーシュの二股が発覚したあの時、モンモランシーは心に深い傷を負った。
ギーシュがかなりのプレイボーイであることは、前々から知っていた。
知ってはいたのだが、モンモランシーは、 自分程の女と親しくしているのだから、 ギーシュが浮気に走ることなんてあるはずがないと、 タカをくくっていたのだった。
モンモランシーは貴族としての、そしてレイディとしての教育を受けてきていたので、
自分に強い自信を抱いていた。
それに……正直に言って、ギーシュに歯の浮くような口説き文句を囁かれて、 まんざらでもなかったのは確かだ。
だからこそギーシュの浮気が発覚したとき、 モンモランシーの尊厳は大きく傷つけられた。
自分が問いつめる前に、ギーシュをひっぱたいていた一年生 (ケティというらしい) と同じように、ギーシュをぶったたいてやるつもりだったのだが、 いざギーシュを前にした途端、 モンモランシーの体はちっとも動かなくなってしまった。

騙されていたことも知らないで、 これまで1人でいい気になっていた自分が情けなくって、悲しくって ……気がついたら大勢の目の前でポロポロと泣き出してしまっていた。
そして結局ギーシュを叩けないまま、 彼女はその場を立ち去ったのだった。
その日、モンモランシーはクラスメイトの慰めも虚しく、 魂が抜けたように一夜を過ごした。
泣こうと思っても、何故か涙は出なかった。

翌日、ギーシュがルイズの使い魔によって重傷を負わされたことを、 モンモランシーはクラスメイトから聞いた。
そして、どうやら一命は取り留めたらしいということも。
それを聞いてモンモランシーは、いい気味よと思いこそしたが、 心に開いた穴はちっとも塞がらなかった。
その一方、心の片隅で、ドットクラスとはいえメイジを倒したルイズの使い魔とやらに、 微かな興味を覚えた。
しかし、彼女はそのまま数日、無為の生活を送った。
モンモランシーはあの時以来、 感情をなくしたように腑抜けていた。
時たま友だちが声をかけてくれば笑顔で応じるようにはなったが、 その笑いはどこか嘘めいたものだった。
気位の高いモンモランシーは、自分の弱さを他人に見せたくなかった。
それだけが、ズタズタに引き裂かれたモンモランシーの自尊心の、 最後の残滓だった。
しかしそれももう、限界に近づいていた。
ある日、モンモランシーはこっそり授業をサボって、 裏の広場の木陰に腰を下ろし、ぼーっとした時間を送っていた。

(やっぱり私、ギーシュのこと 好きだったのかなぁ……)
それも今となっては分からない。
もう終わってしまったことなのだから。
とにかく彼女は1人になりたかった。
そんな彼女の心の内もつゆ知らず、 広場にはポカポカした陽気が溢れていた。
その陽気に当てられて、 次第に瞼が重くなってくるモンモランシー。
食事もろくに喉を通らない日々が続き、 精神的にも肉体的にも限界だった彼女は、 木陰に座ったままいつの間にかコクリコクリと居眠りをし始めてしまった。
久し振りに感じた睡魔をモンモランシーは歓迎したが、
やがて訪れた夢の世界ですら、
彼女に安らぎを与えてくれることはなかった。

どれだけ眠ったのだろうか。
モンモランシーは規則的に響く音に、ふと目を覚ました。
無視をしても良かったのだが、
一度気にし始めたら眠気が引いてしまった。
モンモランシーは木にもたれたまま、音のする方に顔を向けた。
見ると、遠くの方で誰かが洗濯をしていた。
学院に奉公をしているメイドの誰かかとも思ったが、
違うようだ。
目を凝らせば、それは結構ガッチリした体格の男性だった。
屈んでいてよくわからないが、190サントはあるだろう。
大の男が洗濯をするというだけでも奇妙だったが、
男は上半身裸なうえ、何と洗濯しているのは女ものの服であった。
それを見て、あの男がルイズの喚びだした使い魔だろうと、
モンモランシーは思い至った。
すると、彼が洗濯しているのはルイズの服か。
普段では有り得ない出来事に、
モンモランシーの目は釘付けになった。
モンモランシーが見ていることに気づいていないのか、
男は服の洗濯を終え、今度は下着の洗濯に移行した。
小さくて可愛らしいピンクのショーツを、
男は以外に繊細な手つきで丁寧に洗うのだ。
こう、ゴシゴシと。

その何ともアンバランスでシュールな光景に、
モンモランシーは思わず吹き出してしまった。
屈託なく笑うモンモランシー。
図らずもそれは浮気事件以降、
彼女が初めて表に出した生の感情だった。
クスクスと鈴のように笑うモンモランシーに気が付いたのか、
男が彼女の方を向いた。
あわてて口を押さえたが、もう遅かった。
洗濯を終えて、男は立ち上がってモンモランシーの方へと歩いてきた。
ゆっくりとした物腰には、
気品と余裕が表れていた。
程なくして彼女の目の前まで近寄った男は、
モンモランシーを静かに見つめた。
日光を受けて、キラキラと煌めくブロンドの髪。
すらりとした背格好。
けれどけっして痩せすぎではなく、
寧ろしっかりと筋肉がついた肉体。
均整のとれた顔立ち。
全てがまるで彫刻みたいに完璧なバランスを実現していた。

「楽しそうだね、お嬢さん」
宝石のような紅い瞳には、笑っていた彼女を避難するような色はなかった。
甘い、糖蜜のような色香が辺りに漂う。
この男が、さっきまで女ものの服を洗濯していたのだ。
それに下着も。
そう考えると、再び胸の内からこみ上げてくるものがあった。

「だって……ふふ、可笑しかったんですもの!
あぁもうダメ、あはは……!」
モンモランシーは、とうとう男のいる前で笑いだしてしまった。
可笑しくって、可笑しくって。
しかしその笑いはやがて、今の自分に対する嘲笑へと、
意味合いを移していった。
可笑しくって、可笑しくって……。
バカな私。
一体何をやってたんだろう。
やがて彼女の目頭から、真珠のような涙がぽろっと流れ落ちた。
それがきっかけだった。一度許してしまえば、もう止められない。
今まで抑えられてきた感情が堰を切ったように溢れ出し、
モンモランシーは笑いながらぼろぼろと泣き始めてしまった。
様々な感情が心の中で滅茶苦茶に混ざり合い、
泣くことでしかそれを解放できなかった。
流れる涙を拭うことすら出来ず、しゃくりあげる。
そして思わず、モンモランシーは男の胸に飛び込んでいたのだった。
だが、突然のことでも男は少しも動揺せず、
その腕で彼女を優しく抱いた。
モンモランシーは一瞬体を震わせたが、
すぐに男に身を委ねた。
不思議と心が安らいでゆくのだ。
迷子の子供がようやく両親を見つけたときのように。
モンモランシーはただただ子供のように泣きじゃくった。

男の人の胸で泣くのは初めてだったが、
モンモランシーはその包容力にある種の感動すら覚えていた。

(男の人の胸って、こんなに広いんだ……)
ギーシュにも何度か抱きしめられたことはあるが、
それは冗談めいた、じゃれ合いのような抱擁だった。
心が騒ぎこそするが、安堵を覚えたことなどただの一度もなかった。
でもこの人は違う。
今まで持て余していた悲しみが、
嘘のように溶けて消えていくのを感じる。
生まれて初めて心を満たすその感覚を、
モンモランシーは男を抱きしめ返すことで更に強く求めた。
男が何も聞かず、黙って胸を貸してくれたことが、
モンモランシーには嬉しかった。
男はそんなモンモランシーが泣き止むまでずっと、
彼女を優しく抱いてくれていた。

それからというものの、モンモランシーはしばしばこの広場に
足を運ぶようになった。
広場に向かう彼女の顔には、
隠しようのない喜色が浮かんでいる。
いつしかその男と会うのが、日々の楽しみになっていたのだ。
時間を見つけては、2人は取り留めもない会話を交わした。
といっても、話していたのはほとんどモンモランシーだった。
やれ今日の授業は退屈だったとか、
昨日食べたケーキの味は最高だったとか。
使い魔のロビンがヘマをしたとか。
その度に、モンモランシーは表情を万華鏡のように変えた。
最初こそぎこちなかったが、男との会話を通して、
モンモランシーは本来の快活な性格を取り戻していったのだった。
どうでもいいような内容だったが、
男は真剣に聞いてくれた。
そして時には男の方から話をしてくれることもあった。
自分はこの世界ではない、どこか遠い場所からやってきた人間だとか。
まだこの国の言語を解せなくて、
本を読むのに苦労しているとか。
彼にはこの世界の人間……平民にも貴族にも持ち得ない雰囲気と、
ベクトルのやや異なる気品があった。
だから彼が異界からやってきたという話に、
モンモランシーは少し説得力を感じた。

彼の話の中で一番以外だったのは、
彼は日光が苦手ということだった。
お肌が弱いのかしらと、モンモランシーは考えた。
話に付き合ってくれたお礼に、
モンモランシーは男に文字を教えてあげることにした。
図書館から簡単な本を持ってきて、二人で読んだ。
すいすいと言葉を覚えていく彼の上達ぶりに、
モンモランシーはびっくりしたものだった。
そして次にモンモランシーは、
いつか日光を防ぐ秘薬を作ってあげると男に約束した。
彼女の二つ名は『香水』。
そんなに難しいことではないはずだ。
彼が嬉しそうな顔を向けてくれて、
モンモランシーも何だか嬉しくなった。
そんな風に二人は親交を深めていった。
奇妙で不思議で……とても素敵な人。
モンモランシーは彼に次第に惹かれていくのを自覚した。
しかし例の浮気事件のせいもあり、
彼女は自分が抱きはじめているその感情に戸惑いと恐れを感じた。
―――――――――
ある日、いつものように広場に向かったモンモランシーは、
意を決して自らの心の傷を男に打ち明けた。
もうそろそろ、過去とは区切りをつけるべきだと思ったからだった。

そして、もうあんな悲しくて、情けない思いは二度としたくないと口に出して強く願った。
それを聞いた男は、魔法をかけてあげると言った。
もう決して悲しい思いや辛い思いをしなくて済むようになる、
おまじないみたいなものだという。
どんな形であれ、隣にいるこの人は
決して自分の期待を裏切らないという妙な確信が、
モンモランシーにはあった。
目を瞑るように言われて、彼女は素直に従った。
キスをしてくれるのかと、モンモランシーは乙女な勘違いをした。
そうだといいな、と思いながら
若干顔を突き出したりもした。
しかしモンモランシーに訪れたのは、
甘いキスによる情熱ではなかった。

"ズギャルンッ!!"
代わりに、頭の一点にほんの僅かな疼痛。
だがそれもほんの一瞬のことだった。
直ぐにそんな些細な事はどうでもよくなっていった。
果たして男の言ったとおり、
モンモランシーの心から悲しみは綺麗さっぱり消え去ってしまった。
ただ、キスをしてくれなかったのが少し残念だったけれど。
モンモランシーは目を開いて男を見つめた。
男はモンモランシーに優しく微笑んだ。
それを受けて、モンモランシーも男に優しく微笑み返した。

太陽が嫌いだと言うその男の名前は、
DIOといった。

……完

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