ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

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匿名ユーザー

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……夢を見ていた。
ここ数日前から偶に見る、不思議な夢だった。
夢の中で彼女――ルイズは、学院のものとは違う服を纏っている。
そしてとても軽く、薄い――足を少し動かしただけで、ずれ動いてしまいそうな――机と椅子に座り、才人の隣にいる。
頬杖をつき、ルイズは才人を横目に見る。
自分が着ているのは、彼の前に座っている、他の女生徒と同じ柄だった。
これが才人のいた世界の学校だと、彼女はおぼろげながらに気づく。
その中で、彼は笑う。目の前で教鞭をとる教師が冗談を言ったからかも、しれない。
ルイズが初めてみる、才人の表情だった。
場面が変わる。
高い塔。石造りの町並み。行き交う人のが川のように続く。
あちこちで何かが光る。箱の中から映像が溢れ、人々の注目を誘う。
その人の流れをかき分けながら、才人がルイズの前を進む。
いろいろな店を冷やかすようにめぐり、物色する。その仕草が、とても楽しそうに、見える。
またもルイズが知らない、才人の表情だった。
景色が、再び変わる。
だが……その中に、才人はいない。
サイト? そう、ルイズは呼びかける。……いや、呼びかけようとしても、口は動かない。
先ほどとは違う町並み。石作りではあったが、煉瓦で造られた、階段の景色。
雪が、降っていた。
目の前に、誰かが座っている。
ルイズは、彼を知らない。
「ねえ……、あなた」
誰? と尋ねようとして、伸ばした左腕は、……空洞になっていた。

青ざめる。
自分の腕が無くなっていることに。
無くなっているのでは、ないと気づいたのは、彼女の腕が、奇妙な音を立てながら木の根に変化していると、しばらくして認識したからだった。
「い……、嫌ァ」
左腕はみるみるうちに無くなっていく。腕は根と変わり果て、それは壁に吸い込まれるように消えていく。
変化は腕だけでは収まらない。彼女の肩、小さな胸、脇腹から左足。
彼女の全てが――木の根に変じていた。
「嫌! 嫌! イヤァ!! 助けて! 誰か助けてぇ! サイトォ! ジャイロォ!」
声にならない叫びを、必死に搾り出して、自由に動く右手を伸ばす。だがその腕は、彼女の、ものではなかった。
余りにも逞しい、女性のものではないとひと目で分かるその腕は――彼女の使い魔のもの。
『……ジョ……、……』
彼が目の前の青年を呼ぶ。
だが青年は、……彼から、目を逸らした。
抱きかかえている何かを、大事そうに守って。
『…………? ……ぉぃ』
彼の声は小さくなる。もう、ルイズの両目も木の根に変わってしまい、……その結末を見ることは、できなかった。
「イヤァァァァァ!」
彼女の悲鳴だけが、――遠くなる白い風景に、虚しく残っていた。
飛び起きる。
小さな心臓は張り裂けそうなほど高く鳴り続け、呼吸も乱れていた。
寝汗をかいたのだろう。ルイズの寝間着はしっとりと湿っていた。
「……ゆ、め?」
心が押し潰されそうな絶望感が、夢の産物であることに、彼女は安堵する。
鼓動が落ち着きを取り戻す。彼女は、寝間着と、下着を取り替えたいと思った。本当は入浴もしたかったのだけど、時間はもう過ぎている。
とりあえず乾いた下着に替えなければ、また悪夢を見そうだった。

ベットから降りて、杖を持ち、箪笥に向かって振る。箪笥が開き、着替えが手元にやってくる。この程度なら、“ゼロ”でもできる。
もっとも、箪笥そのものが優秀なマジックアイテムだから、という理由のほうが大きいが。
汚れた服を脱ぎ捨て、着替えに袖を通す。
着替えを交換し、ベッドに戻ろうとした彼女は、ちら、と、ジャイロを見た。
彼は才人と同じ、藁の布団に身を横たえ、眠っていたのだが。
ルイズが彼の顔を見ると、彼と目が合った。
「起きてたの?」
「あんだけデケェ声出されりゃな」
起こされた、と言いたいのだろう。
「……悪かったわね」
むくれた表情で、ルイズは言う。
「なんか悪い夢でも見たんか、おチビ」
「チビはやめて」
「図星か」
「うるさい」
ぷい、と顔を背け、ルイズはベッドにダイブする。
ジャイロと才人――二人にはもう、鎖も首輪もついていない。
ギーシュとの一戦の後、ルイズは拘束という意味で鎖を着用することを強要しなくなった。
その理由はわからない。ジャイロは聞く気がなかったし、才人は根掘り葉掘り聞こうとして、……鞭で引っ叩かれた。
ただ、彼女に何らかの心境の変化があったことだけは間違いないだろう。
「……あんたの、せいよ」
小さく、そっぽを向いたルイズが、呟いた。
ジャイロはそれを聞いてない振りをしながら、――再び眠ったのだった。

空が白み始める夜明け前。
キュルケは――、悩んでいた。
彼女が今追い求める恋しい殿方は、彼唯一人……のはずだったのだが。
「困っちゃうわ……。どうしよっかなぁー……?」
彼女は今心に二人の男性を思い描いている。
一人はルイズの使い魔であり、長身、金髪、野性味ある逞しさ、適度なユーモアのある(と、美化して思い込んでいる)ジャイロ・ツェペリ。
もう一人は、ついこの間まで、値踏みもしなかった、またもルイズの使い魔である――平賀才人だった。
ジャイロのほうは、ひと目あったその日から、と言わんばかりの熱烈ぶりだったが。
才人のほうは……、件の決闘以降、彼女の中で評価が変わった、というべきだろう。
そして、その二人を天秤にかけ、キュルケは迷っているのである。
彼を取るべきか、それともカレか。
恋する乙女は、悩みもまた多かった。
寝間着からはちきれんばかりの胸に顎を乗せながら、キュルケは考える。
どっちにしようか。
どっちがいいか。
ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り。
“微熱”の二つ名のとおりと言うべき恋の多さか。
それとも不完全燃焼気味で、彼女らしくないというべきか。
そんな悶々とした状態が早すぎる起床をさせ、そして彼女には珍しい恋わずらいをさせていた。
「あ。そっか……。そうよ、そうすればいいんじゃない」
がば、と立ち上がって、彼女は決意する。
「そーよ、ルイズのおチビから、……二人ともぶんどる!」
最初っからそう決めればよかったんだわ、と彼女は天啓を受けたような気持ちになった。
そして、忠実な使い魔であるフレイムを叩き起こし――なにやらよからぬ策を講じる。
ヴァリエール家から男をぶんどる。それが一人でも二人でも同じこと。恋敵のツェルプストーを舐めなさんなってことよ。
ちろり、と舌なめずりをしながら――、静かにキュルケは燃え上がっていた。


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