ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-31

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匿名ユーザー

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部屋割りは、男同士でギアッチョとギーシュ、女同士でキュルケとタバサ、そして婚約者同士でワルドとルイズが同室になった。
「ダメよ!まだ結婚もしてないのに!」
とルイズが抗議するが、ワルドは「大事な話があるんだ」と言って微笑み、彼女は複雑な顔をしながらもそれを承諾。ちなみにギアッチョが「学院で俺と同室なのはいいのかよ」と突っ込むと、ワルドに物凄い眼で睨まれた。
アルビオン行きの船は明後日まで出ないらしい。ルイズは困った顔をしたが、どうにもならないと分かっているようで何も言わなかった。
「そういえば、彼はどこにいるんだい?」
姿が見えないギーシュを指してワルドが言う。ギアッチョは未だ抜け切らないはしばみ草のダメージに顔をしかめながら口を開いた。
「疲れてるらしいんでよォ~~ 一足先に適当な部屋で就寝中だ」
オレもそこを使わせてもらう、と言うギアッチョに、ワルドは特に疑問は抱かなかった。

「・・・それで、大事な話って?」
二人にあてがわれた部屋でワルドに注がれたワインに口をつけながら、ルイズは彼にそう促した。飲み干したグラスを置いて、ワルドはふっと遠くを見る眼をする。
「覚えているかい?あの日の約束・・・ ほら、君のお屋敷の中庭で・・・」
「あの、池に浮かんだ小舟?」
ワルドは優しげに頷いて続けた。
「君はいつもご両親に怒られた後、あそこでいじけていたね お姉さん達と魔法の才能を比べられて、出来が悪いなんて言われてた」
「ホントにもう・・・変なことばっかり覚えているのね」
口を少しとがらせて、ルイズは拗ねたような顔を作る。そんな彼女を見て、ワルドは「婚約者との思い出を忘れたりするものか」と楽しそうに笑った。それから彼は急に真面目な顔になると、
「・・・だけどルイズ 僕は君が才能の無いメイジだなんて思わない」
と言った。


「ガンダールヴ・・・?」
「そうさ あの使い魔君の左手に刻まれているルーン、あれは『ガンダールヴ』の印だ 始祖ブリミルが用いたという、伝説の使い魔だよ」
「ワルド、からかうのはやめて」
ルイズは信じられないといった顔をする。確かにギアッチョはそれこそ魔人のように強い。
しかし、ギアッチョが伝説の使い魔であるなどということはにわかに信じられるものではなかった。メイジの実力を知るには使い魔を見ろと言う。
魔法の成功率が殆ど0%に近い、「ゼロ」という嘲りすら受けている自分の使い魔が、始祖ブリミルの使役していた伝説の存在?信じられない。というか、有り得ない。
もし万が一、いや億が一兆が一、そうであったとしてもだ。それはどう考えても、何かの間違いだ。己の無能さは、自分が一番よく分かっている。
そもそも伝説云々以前に、自分がギアッチョを召喚出来たこと自体が何かの間違いか、そうでなければ神か悪魔の起こした奇跡であるとしか――
「ルイズ、またネガティブなことを考えているね?」
どんどん落ちてゆくルイズの思考は、ワルドの言葉で停止した。ワルドはルイズの鳶色の瞳を覗き込むと、屋敷の小舟の上で彼女を励ました時の優しい顔で言う。
「君は偉大なメイジになるだろう そう、始祖ブリミルのように・・・歴史に名を残すような、素晴らしいメイジになる 僕はそう信じているよ」
「・・・ワルド、私は」
「――この任務が終わったら、僕と結婚しよう ルイズ」
「・・・え・・・?」
いきなりのプロポーズに、ルイズは眼を白黒させる。そんなルイズを穏やかに見つめて、ワルドは言葉を継いだ。
「僕は魔法衛士隊の隊長で終わるつもりはない いずれは国を・・・いや、このハルケギニアを動かすような貴族になりたいと思っているんだ」
ワルドはそこで一度言葉を区切ると、ルイズの頬にすっと手を触れる。
「ずっとほったらかしだったことは謝るよ 婚約者だなんて言えた義理じゃないことも分かってる・・・だけどルイズ 僕には、君が必要なんだ」


ワルドの口調は本気だった。彼は今、本気でルイズに求婚している。
「・・・ワルド ・・・・・・で、でも」
とっさに口をついた言葉に、ルイズははっとした。
でも――なんだ?
幼い頃から憧れていたワルドからのプロポーズに、今自分は「でも」何と返そうとした?
ルイズは「でも」の続きを思い浮かべようとするが、しかしいくら考えても一体自分が何を言おうとしていたのか分からない。そんなルイズの胸中を知って知らずか、ワルドは困ったような顔をして口を開いた。
「僕のルイズ、まさか君には好きな人でも出来たのかい?」
「好きな人」と言われた瞬間、ルイズの脳裏に何故かギアッチョの姿が浮かび、
「ちっ、違うのワルド!そうじゃないわ!」
そうじゃないと連呼しながらも、彼女の頭の中はギアッチョで一杯になってしまった。
予想だにしない事態に、ルイズの頭は今必死に心を整理しようとしている。どういう
ことかと言えば、要するに彼女はギアッチョを恋愛の対象としてはっきり意識したことなど一度もなかったわけで、ギーシュだのマリコルヌだの・・・まあ前者はともかく後者は論外だが、ともかくそういう順当に思い浮かべるべき男達をあっさりスルーしていの一番にギアッチョを思い浮かべてしまったことについてルイズの脳が納得のいく説明を求めているわけである。
――ど、どどどうしてあいつの姿なんかが浮かぶのよ!
ルイズは耳まで真っ赤にして俯いた。よりによって、よりによってどうしてギアッチョが浮かんだのだろうか。
ルイズは俯いたまま考える。「好き」という言葉で一瞬、本当にほんの一瞬だが、ギアッチョを思い浮かべてしまったということは・・・つまり多少は、いやきっと塵ほどに少しだが・・・・・・・・・その、気になっていたということなのだろうか。
――そ・・・そんなはずあるわけないわ
だってギアッチョよ、とルイズは思う。すぐにキレるし物は壊すし周りは気にしないし礼儀もなってないし常識的に考えて最悪ではないか。穏やかで優しいワルドとは全く正反対だ。


それにワルドは礼儀正しいし気配りも出来る。強さは・・・どっちが上か分からないが、なんたってワルドはスクウェアだ。
それにワルドは頭もいいし・・・いや、ギアッチョも多分頭はいいか。「ま、まぁそこはいいわ」とルイズは次を考える。第一ギアッチョは使い魔ではないか。
使い魔に恋するメイジなんて聞いたことがない。それにあいつは異世界の人間だし・・・それにワルドのほうが格好いいし、それに変な髪形だし変な眼鏡だし変な服だし変な名前だし――・・・。等々、後半はもう殆ど言いがかりなのだが、どうにかして否定しようと躍起になっているルイズにはもはや関係なかった。
あらかたギアッチョの悪口を並べ立てた後、彼女は「と、とにかくありえないわ!」と強引に結論を下した。
「普通に考えたらあんなのもう公害とか災害レベルに迷惑じゃない!誰がそんな奴をす、好きになるのよ!そうよ、何かの間違いだわ!はい決定!終了っ!」
どうしてこんなにうろたえるのかも分からないまま、ルイズは己の思考に強引な結論で無理やりに蓋をする。
――・・・でも・・・
しかし閉じたはずのその蓋から、かすかに言葉が漏れ出す。
――でも・・・あいつはいつもわたしを助けてくれる・・・ わたしの・・・かけがえのない・・・

心ここにあらずといった感じで悶々としているルイズを眺めて、ワルドは苦笑まじりに
溜息をつく。
「君の心の中には、誰かが住み始めたみたいだね」
それを耳にして、ルイズはハッと顔を上げた。
「ち、ちち違うわワルド!そうじゃないの!」
「いいさ、僕には解る 取り消すよ・・・今返事をくれとは言わない でもこの旅が終わったら、君の気持ちはきっと僕に傾くはずさ」
ワルドは気にしないという風に笑うと、「さ、それじゃあもう寝よう」と言いながらベッドに潜り込んだ。
ワルドを見てルイズもベッドに入るが、その胸中はさっき以上に混乱していた。どうして、ずっと憧れていたワルドにはいと言えないのだろう。
どうして、こんなに優しくて凛々しいワルドを拒んでしまったのだろう。ワルドとギアッチョに対する疑問が、ルイズの頭を埋め尽くしていた。


ギーシュのベッドにデルフリンガーを放り投げると、ギアッチョは自分のベッドにぼすんと転がった。
――ゆっくり考えてる時間がなかったからな・・・
頭の後ろで手を組んで、ギアッチョは眼を閉じて夢のことを考える。
あの時は何の疑いも持たずに信じてしまったが、リゾットは本当に死んだのだろうか。
――いや・・・
きっとあれは本当の光景だ、とギアッチョは思う。ただの夢にしては何もかもが精密すぎる。全てがただの夢ならば、どこかで必ず光景のブレや矛盾が出てくるはずだ。
あの夢にはそれがない。最初から最後まで、全てがまるで一本の映画のように精密無比に展開されていた。
しかしあの光景が現実だというのなら、リゾットの死をも受け入れなければならない。
ギアッチョはほんの一瞬苦しげに眉根にしわを寄せたが、すぐになんでもない顔に戻ると、口元に小さく笑みを浮かべた。
「全くよォォー 何うじうじやってんだァオレは?そんなキャラじゃねーだろーがよォォ
あのバカ共はきっと地獄で笑ってやがるぜギアッチョさんよ 誇ると言ったからにゃあせいぜい胸張るしかねーだろーが ええ?オイ」
あいつらがどう思うかを考えると、不思議と力が沸いてくる。一人呟いて跳ね起きたギアッチョの眼鏡の奥の双眸は、もういつもの覇気を取り戻していた。

それから彼はしばらくデルフリンガーと話をしていたが、部屋に入ってからずっと「助けてくれ」だの「僕が悪かった」だのという声が煩いので仕方なく立ち上がって開けっ放しの窓からベランダを覗く。
見事に冷凍されたギーシュがギャーギャーとひっきりなしにわめいているので、ギアッチョはギロリと彼を睨んで「仕方ねぇな」と言うが早いかバタンと一片の慈悲も無い音を立てて窓を閉めた。

幸いなことにギアッチョが眠りについたと同時にホワイト・アルバムが解除され、ギーシュはガチガチと歯を鳴らして震えながらも何とか毛布に包まることが出来た。
ベッドと毛布の存在に無上の感謝を捧げながら、彼は眠りに落ちてゆき――

コンコンというノックの音で、ギーシュは眼を覚ました。窓からは燦々と陽光が差し込んでいる。
条件反射で「ふぁい!」と情けない返事をしてから、ギーシュは疲労が回復し切っていない身体を引きずるようにして扉へ向かう。
「おはようギーシュ君」
扉の向こうにいたのはワルドだった。憧れの隊長に名前を呼ばれて、ギーシュは思わず姿勢を正す。ワルドは部屋の中を見回してから、ギーシュに目線を戻して尋ねた。
「使い魔君はいないようだね」
「そ、そのようでありますね きっと一階の酒場とかその辺にいると思われるであります」
ワルドと話をしている緊張と寝起きで働かない頭の為に、ギーシュは口調がおかしくなっている。そんなギーシュに爽やかに笑いかけると、ワルドは礼を言って出て行った。

「珍しいな てめーが起きてるとはよ」
ワルドと殆ど入れ違いのような形で階下に下りたギアッチョは、既に酒場のテーブルに座っていたルイズを見てそう言った。ルイズは明らかに寝不足と解る顔でギアッチョを睨む。
「誰のせいだと思ってるのよ!」
「ああ?」
何を理不尽に怒ってやがるんだ、とギアッチョは自分を軽く棚に上げて思う。
何のことだと言い返そうとしたが、後ろからかかった声にそれは中断された。
「ここにいたとはね おはよう使い魔君」
使い魔君などと呼ばれてあっさり怒りゲージが針を振り切りかけるのを珍しく作用した理性で抑え、ギアッチョは後ろに眼を向ける。人好きのする笑みを浮かべたワルドがそこに立っていた。


優しげな微笑の裏側で、ワルドは激しく思考を巡らせていた。ルイズの気持ちを自分に傾ける為に、そして彼の力を知る為に、なんとかこの男、ギアッチョと「決闘」をしたい!しかし何故だか分からないが、かなりの確率で断られる予感がするッ!ならばどうするか?言い方を工夫するしかないッ!
「決闘したまえ」と命令してみるか?いや、この男は勝手に逆ギレする可能性がある。
この場で暴れられてはいくらなんでも話にならない。やんわりと雑談から入ってみるか?
いや、それも却下だ。散々盛り上げておいて断られましたではみじめにも程がある。「頼む、決闘してくれないか」ではどうだ?勿論ダメだ。
貴族が平民にものを頼む時点でルイズは幻滅するだろう。ならば最善手は
やはり、「決闘してくれ」だろう。これなら断られても僕の矜持は傷つかないし逆にルイズの使い魔に対する好感度を下げることにもなる・・・よしこれだッ!
奴の能力が見られないのは残念だが、3度ほど頼んでみてダメならさっさと諦めればいい。やはりシンプルだ・・・シンプルがいいッ!

「君に頼みがあるんだが」
平静を装って、しかし真面目な顔でワルドはギアッチョを見る。ギアッチョは一瞬怪訝な顔をしたが、すぐにワルドに向き直った。
「言ってみな」
その尊大な態度にワルドはピクリと眉を動かしかけたが、なんとかそれをこらえて今考えた必殺のセリフを放つ。
「僕と・・・決闘してくれ!」
「いいぜ」
「早ッ!」
予想外の展開に思わず叫んでしまい、ワルドは慌てて咳をした。聞き間違いかと思ったが、ギアッチョは面白い暇潰しを見つけたという顔をしている。
とりあえず今の情けない返事を誤魔化す為にも、貴族らしい返事をしなければならないと考えたのだが――色々と慌てていた為になかなか言葉が浮かばず、焦りに任せて「グッド!」などと更によく分からない返答をしてしまったワルドだった。


渡りに舟だとギアッチョは思った。色々と忙しくて試せていなかったが、あのオールド・オスマンに聞いた力・・・「ガンダールヴ」の効果を確かめるいい機会だ。
それにワルドの実力を知るチャンスでもある。ギアッチョの尋問のせいで誰も聞いていなかったが、彼らを襲った傭兵達を雇ったのは貴族だった。
この任務はアンリエッタの密命で、ワルドも彼女から直々に拝命したと言っていた。
手続きも通さずこっそりルイズの部屋に忍んできたほどなのだから――勿論これは推測に過ぎないが、ワルドにも内密のうちに直接依頼した可能性が高い。
自分はあれからずっとルイズのそばにいた、ならばあの王女様がヘマをしていない限りは、この任務が漏れることはワルド自身からしか有り得ないのだ。もっとも、事実は小説より奇なりなどという言葉を借りるまでもなく、こういった推理は思わぬところで穴が空いたりするものである。ギアッチョはあくまで可能性の一つとして、ワルドを警戒していた。

決闘の介添え人を任されたルイズは「バカなことはやめて」と怒鳴ったが、ギアッチョもワルドも聞く耳持たないことを理解して諦めた。
「なんなのよ、もう!」
「殺しゃしねーから安心しな」
臆面も無くそう言ってのけるギアッチョにワルドがブチ切れそうになったが、一つ深呼吸をしてなんとか気持ちを落ち着ける。腰の杖を引き抜いてビッと前に突き出すと、
「どこからでもいい 全力で来たまえ」
と言い放った。ギアッチョはフンと鼻を鳴らすと、剣を乱暴に抜いて腰を落とす。
それを見届けたルイズの怒りと心配の色を含んだ開始の合図で、決闘の幕は上がった。

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