ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

悲恋! 精霊への誓い その②

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悲恋! 精霊への誓い その②

「スタープラチナ!」
「エア・カッター!」
白金の拳と烈風の刃が交錯し、承太郎の指の付け根から甲にかけて浅く切り裂かれた。
生身の拳で受けていたら手のひらが真っ二つになっていただろう。
ウェールズのエア・カッターを合図に、周囲のアルビオン貴族達が魔法を詠唱する。
彼等が口にするルーンを聞きキュルケとタバサは即座に防御のための魔法を唱える。
敵は精神力を温存するつもりらしくドットの魔法で少しずつ弱らせる戦法を取り、一個の生命であるかのように動く彼等の連携は反撃を許さない。
「どうしたジョータロー。僕を引き裂くんじゃなかったのか?」
柔らかな微笑みのままウェールズは風の魔法を放ち、承太郎のスタープラチナをわずかずつだが傷つけていく。
敵が多すぎる、連携が完璧すぎる。防御で手いっぱいだ。
ウェールズは承太郎の間合いを見切っているのか、スタープラチナ・ザ・ワールドの射程距離に入ってこない。
時間の止まった世界では風の魔法は意味を成さないが、時が再始動した瞬間威力は元通りになる。
時間を止めて突っ込んだら、風の魔法が承太郎の抜けた穴からルイズ達を襲う。
そんな中キュルケの火球が一人の敵を焼き倒し、攻略の糸口が見つかった。
承太郎、ルイズ、タバサはキュルケの援護に回り、キュルケが一体ずつ確実に敵を焼き殺していく。
が、三体ほど倒した頃に雨が降り出してきた。それは一気に本降りに変わる。
咄嗟にキュルケは一か八かウェールズに火球を放つが、アンリエッタが水の壁を作り出してそれを防いだ。
「雨の中で『水』には勝てません。ルイズ! このまま立ち去ってください!」
形勢は一気に決まった。水のメイジがいるアンリエッタのいる敵側の優勢に。
だがここで計算外の戦力が突然叫んだ。
「俺を抜いて、鍔で魔法を受けろ!」
自信に満ちたその発言に、承太郎は素早く声の主、デルフリンガーを抜いた。
そしてウェールズの放ったウインド・ブレイクを唾で受ける。
だが『受ける』事は失敗した。
なぜなら、風はデルフリンガーの唾に『吸い込まれた』からだ。
「何ッ!? これは……」
「いやぁ思い出した思い出した。水の精霊が言ってたガンダールヴとか、俺の本当の姿とか、いやー思い出してみると、俺ってすごいね。伝説だね」
錆びだらけのデルフリンガーが光ったと思うと、あらゆる汚れが吹き飛んて輝く刀身が現れた。
さらに不思議と敵の攻撃で受けた傷の痛みが消え、身体が軽くなるのを承太郎は感じた。
「魔法は全部俺が吸い込んでやる! そんでもって『虚無の担い手』!
 こいつ等が動いてるのは『先住』の魔法だ! 何とかするのはお前さんの役目だぜ!」
「わ、私の役目ったって……さっきからエクスプロージョン使ってるけど、全然効果ないし……どうしたらいいのよ!」
「知らね。でもお前さんが何とかすんの。虚無使えるんだからがんばれ」
「がんばれったって……虚無?」
そこでルイズは始祖の祈祷書の存在に思い当たり、慌てて取り出しページをめくる。
突如現れたエクスプロージョンの詠唱を思い出す。
現状を打破できる虚無の魔法が、あるのだろうか?
あった。
何もなかったページに現れたのは『ディスペル・マジック』の詠唱。
「ジョータロー! 時間稼ぎ、よろしく!」
「やれやれ……任せな。スタープラチナ・ザ・ワールド!!」
ルイズは世界が反転するような感覚の中、祈祷書に書かれたルーンを読み始める。
そして承太郎は時の止まった世界の中、虚無の詠唱に精神を昂らせながら、敵の放った魔法をデルフリンガーで吸収して回る。

「何だ……? 身体が軽い、このスピード……スタンド並だ!」
「なになになになに!? 何だこれ!? 人も魔法も雨も全部止まってる!?」
魔法を吸い込みながらデルフリンガーが困惑の声を上げる。
どうやらこいつも時の止まった世界を認識しているようだ。
「さすが自称伝説。そして今さらながら理解したぜ、ガンダールヴの真の能力を」
今まで承太郎が使ったガンダールヴの力は、破壊の杖と竜の羽衣の使い方を得る事と、竜の羽衣の操縦する能力を発揮する事くらいだ。
剣などの武器を握った時、まさか身体能力が向上するとは思ってもみなかった。
スタンドだけでなく本体のパワーが並外れている事の恐ろしさは、宿敵DIOのおかげで重々承知している。
自分達に向けられていた魔法をあらかた吸い込むと、時は再始動した。
「えっ!?」
「消えた……?」
自分達が迎撃しようとしていた魔法が突如消滅し、キュルケとタバサは目を丸くした。
一方ウェールズは突如承太郎が立ち位置を変えている事に気づき、ワルドを倒した謎の能力の仕業かと理解する。
「アンリエッタ。王家の力を彼等に見せて上げよう」
しかし慌てる事なく、ウェールズは詠唱を開始する。同様にアンリエッタも。
水の竜巻が二人の前でうねりを上げた。
トライアングルの水系統メイジによる『水』『水』『水』
トライアングルの風系統メイジによる『風』『風』『風』
トライアングル同士といえどこのように魔法を重ねるなど不可能に近い、しかし選ばれし王家の血が可能にする、神業的な呼吸で生み出される魔法。
水と風の六乗という脅威の威力を持つ、王家にのみ許されたヘクサゴン・スペル。
トライアングルが重なり巨大な六芒星を竜巻に描かせる。
津波のように強大なそれは、まさに城でさえ飲み込み粉砕するだろう。
「デルフ。あれも吸い込めるか?」
「あー、ありゃ無理だね。さすがに規模がデカすぎらぁ。
 おめーさんこそさっきのアレで何とかできないの?」
「水の竜巻か。多分無力化できるだろうが、ルイズ達がまともに喰らっちまうな」

承太郎はヘクサゴン・スペルとルイズ達の間に立ち、デルフリンガーを構えた。
「やれやれ……しかしおめーがルイズ同様、俺の世界で動けるなら何とかなるかもな」
「うん? 何する気だい?」
「黙ってあの魔法を吸い込め」
「無理だって。吸い込んでる最中におめーさんごと吹っ飛ばされちまわぁ」
「俺があの魔法を無力化する。その時がチャンスだ」
ヘクサゴン・スペルが完成し、巨大な水竜巻が疾風怒濤の勢いで襲い掛かる。
この大きさ、この速度、この威力の前では、人など虫けらに等しい。
だが承太郎は微塵も臆する事なくデルフリンガーを構えて腰を落とした。
水の竜巻が迫り、承太郎の眼前まで迫った瞬間――世界が静止した。
「スタープラチナ・ザ・ワールド……時は止まる」
天から降る雨の一粒までも視認できる世界の中、承太郎は水の竜巻にデルフリンガーを握った腕を突っ込んだ。
「こいつはおでれーた。確かにこれなら一方的に吸い込めるわ」
「お喋りする暇があったら早く吸い込みな。あまり長い事止めてられないんでな」
静止した水竜巻がデルフリンガーの唾の口へと渦を描いて吸い込まれていく。
しかし水竜巻はあまりにも巨大、吸い込む速度を見て承太郎は間に合わないだろうと悟った。
自分が止められる時は2~3秒程度。
だがその間にルイズの詠唱が完成した。
「限界だ。時は動き出す」
承太郎とデルフリンガーを水竜巻が襲おうとした瞬間、白い光が音も無く広がり水竜巻を飲み込む。
すると水竜巻は次第に弱まり小さくなっていく。
それをデルフリンガーは全力で吸い込んで、承太郎はスタープラチナで水竜巻の残滓をガードした。
光はルイズ達に攻撃していた敵をも包み、そしてウェールズとアンリエッタをも内包し、光が収まった時には水竜巻は消え失せ偽りの生命で動いていた死者は次々と倒れた。

だが……一人の死者が、再び立ち上がる。

「ジョータロー……ラ・ヴァリエール嬢……ありがとう」
「……ウェールズ、まさか」
「おかげで、愛しいアンリエッタを守る事ができた」
彼は、泥の中に倒れていたアンリエッタを抱き起こし、汚れを拭った。
するとアンリエッタも目を開く。
「ウェールズ様……」
「アンリエッタ。終わってしまった生命は、決して戻らない。
 どんな魔法だろうと、先住や虚無の力だろうと……。
 だからこれは、水の精霊が起こしてくれた気紛れ、あるいは奇跡だと思う」
ウェールズが力を無くし、倒れそうになるのを逆にアンリエッタが支える。
「い、今治癒の魔法を……」
「無駄だよ、僕はもう死んでいるんだ。最後の頼みを聞いてくれるかい?
 君と初めて出逢った、あのラドクリアンの湖畔に行きたい。
 そこで君に約束して欲しい事があるんだ」

シルフィードから降ろされたウェールズは、アンリエッタの肩に身体を預け、ゆっくりとした足取りで浜辺へと向かった。
空が白み、朝の訪れを知らせている。
湖がそのわずかな光を浴びてキラキラと輝いた。
この湖畔で、夜にしか逢瀬を重ねられなかった二人が、初めて目にする光景。
美しさに感動しているアンリエッタに、ウェールズはささやく。
「この場所で、もう一度、誓って欲しい事がある」
「おっしゃってください。ウェールズ様のためなら、何でも誓いますわ」
「僕を忘れて、他の男を愛すると誓ってくれ。
 ラドクリアンの湖畔で、水の精霊の前で、君のその誓約が聞きたい」
「無理です。嘘を誓うだなんて、できません」
「お願いだアンリエッタ。じゃないと、僕の魂は永劫にさまようだろう。
 君は僕を不幸にしたいのかい? 時間が無いんだ。僕は、もう……だから……」
「だったら誓ってくださいまし。わたくしを愛すると誓ってくださいまし。
 今なら……今なら誓ってくださいますわね?
 それを誓ってくだされば、わたくしも誓います」
「誓うよ」
迷いの無い口調でウェールズは答えた。
それを聞き、アンリエッタは震える声で誓う。
「……誓います。ウェールズ様を忘れる事を、他の誰かを愛する事を」
ウェールズは満足そうに微笑んだ。
「ありがとう。……僕を水辺へ運んでくれ、そこで誓うよ」
「はい……。この一瞬だけでいい。あなたがわたくしを、
 愛していると誓ってくだされば、私はその一瞬を永久に抱いて生きる事ができます」
そう言いながら、アンリエッタは水辺へと歩を進める。水は冷たく、悲しげだった。
「……ウェールズ様?」
誓いの言葉を待ちきれないアンリエッタが声をかけるが、ウェールズは満足気な笑顔のまま瞳を閉じていた。
「意地悪な人。最後まで、誓いの言葉を口にしてくださらないのね」
アンリエッタの頬から流れ落ちたそれが、ラドクリアンの水の量を一滴だけ増やした。
アンリエッタが魔法でウェールズの遺体を湖の沖へ運び、沈めるのを、承太郎達は水辺からやや離れた場所から見守っていた。
その光景を見て、承太郎は拳を握る。
ウェールズの命を侮辱したクロムウェル……レコン・キスタ……。
決して許せないと承太郎の怒りが燃える。
ゼロ戦はもう直った。だが東へ行くのは後回しでいい。
ウェールズの名誉のため、タルブの村人のため、ルイズやシエスタを守るため。
戦うと、誓約の水精霊に承太郎は誓った。
彼がその誓いに、自分の意思に疑問を持つのはもう少し先の事である。



第四章 誓約の水精霊 完

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│To Be Continued   >
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