ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-12

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匿名ユーザー

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時間を戻して五日前。

王城の正門が軋みを上げながら大きく開かれる。
そして豪華な装飾が施された馬車が入城してきた。
周囲には城内の貴族、官吏、主だった者達が出迎えに赴いていた。

ヒヒンと馬が一鳴きして停止する。
素早く枢機卿のマザリーニが馬車の扉を開く。
穏やかに気品あふれる物腰で、ゆっくりと馬車から降りる女性が一人。

皆が下にも置かぬ扱いをするこの女性はキョロキョロと辺りを見回す。
そしてその瞳が小さな少女を見つけたとき、知らず知らずのうちに駆け出していた。
「おお!アンリエッタ!愛しい娘や!!」
飛びつくように抱きしめ、アンリエッタのその身がこの世にあることを確かめる。

「母さま、苦しいですわ」
アンリエッタは、母である大后マリアンヌの胸に顔を埋めながら苦笑気味に言った。
「あれや、済まない。許しておくれ。
あなたが命を狙われたと出先で聞き、いてもたってもいられなかったのです」

そう言っても未だに抱きしめるのをやめないマリアンヌ。
親というものは、いつまで経っても子供が大事なものだ。
特にマリアンヌは夫に先立たれて、残っているのは一人娘のアンリエッタのみ。
可愛がらないほうが無理というものだ。

「いつまでもこうしているわけにもいかないでしょう?
皆様が困ってしまわれますわ。中でお茶を飲みながら、ゆったりお話しましょう」
微笑みながらやんわりと言うアンリエッタ。
「それもそうね。では行きましょう」
諭されるマリアンヌだがアンリエッタの手は離さず、手を引くようにしてアンリエッタと共に進む。


「あら、随分と変わった使い魔さんだこと」
「初めまして、広瀬康一です」
アンリエッタの居室で待っていた康一をアンリエッタが母へと紹介する。

初めて見るであろう、変わった服装(学ラン)をした人間の使い魔に興味津々のマリアンヌ。
康一の方も初対面であるが、待ってるあいだ何かあってはいけないので
射程距離の長いACT1を使ってこっそり覗き見していたため、あまり緊張することも無かった。

「では、あなたがアンリエッタを守ってくれたのですね。本当にありがとう、平民さん」
平民と言われて一瞬、微妙な気分となった康一だが其処はまぁいいか、と持ち前の良い人属性で流す。
「それで一体誰がアンリエッタを狙ったのか、目星はついているのですかマザリーニ卿?」
傍らに立つマザリーニ枢機卿に効くマリアンヌ。

「恐れながら申し上げます。調査しておりますが未だに皆目検討もつきませぬ。
賊にも尋問しておりますが、口が堅く何も聞きだせぬ有様で……」
ふぅ、とマリアンヌは憂鬱そうに一つ溜息をついた。
「母さま、そのことについて一つお願いがあります」
「願い?」

アンリエッタの申し出に何事かと聞き返すマリアンヌ。
「はい、ですがもう少しお待ちを。人を一人呼んでいます。
そろそろ来るはずですので、その者が来るまで少々お待ちください」
そう言って、チラリとアンリエッタは康一を見る。

視線を受けて、康一は宙に自ら以外は見えないACT1を解き放つ。
そして「音のエコー」を使って周囲に目や耳がないかを隈なく調べる。
もちろん自分の目でも確認するために、ACT1を周囲に飛ばす。
ACT1の優れた聴覚を持ってすれば、何処に何があるかが透けて見えた。

そのACT1が一人の足音を捕らえる。
すぐさまACT1を飛ばして直に誰かを確認。
「アンリエッタさん、来たみたいです」
待ち人が来たことをアンリエッタに告げる康一。

そうするうちに居室のドアがノックされた。
大きく三回。小さく二回。これが待ち人の合図だ。
「お入りなさい」
声を掛けたアンリエッタに応えてドアが開く。

恭しく入室してきたのはアニエスであった。
マザリーニ卿は何故平民の兵士がここに来るのかと、多少怪訝な顔をしたがそれきりだ。
「よく来てくれました、アニエス殿」
「それでアンリエッタや、願いとは何なのです?」

「コーイチさん」
コクリと頷いて康一に言う。
康一もそれに応じて、学ランの中から木の板を取り出した。

「おぉ、何と。この宮中に賊の仲間がいるとは……」
アンリエッタはこれまでの経緯を説明した。
自分を狙った賊の宿で、城に内通者がいる手がかりを掴んだこと。
そして内通者は、城の中でも一部の者しか知らない情報も掴んでいたこと。
それ故に誰にも何も言わずに、今まで秘めていたこと。

「して姫様、私達を集めて何をしようというのですかな?」
この城の中枢を司るマザリーニは、その経験からアンリエッタに何か考えがあることを悟った。
「はい、それにはまず母さまのお力が必要なのです」
「聞きましょう」

「まず母さまにはトリステイン魔法学院のオールド・オスマンに連絡を取って頂きたいのです」
「オールド・オスマン?」
もちろん魔法学院の長である、高名なメイジのことを知らぬはずがない。
しかし何故ここでオールド・オスマンに話が繋がるのだろうか。

「はい、そして宝物庫から真実の鏡を取り寄せて欲しいのです。
宝物庫を開けるには、わたくしではなく母さまのお力が必要ですから」
「真実の鏡ですと?」
驚いて口を挟むマザリーニにアンリエッタは頷く。
真実の鏡。鏡に映し出された者は、心の中に思い描く人物になってしまうという魔道具である。

疑問に答えるべくアンリエッタは続ける。
「わたくしを狙うものは、とても狡猾で一筋縄ではいかぬでしょう。
ならばこちらも全力で立ち向かわねばなりません。
それ故に信の置ける者で、敵を炙り出します」

「つまり、こちらから攻めるということですな。
具体的にはどうされるおつもりで?」
「まずは、そこになるアニエス殿に真実の鏡でわたくしに変身していただきます」
アニエスに向き直り言った。

「その上で賊の牢に赴いてもらい、賊をわざと逃がしていただきます。
その過程で捕まって人質となっていただけると、なおいいでしょう。伏兵となりますので。
もちろん死の危険もありますがアニエス殿は既に承諾済みです」
コクンとアニエスが頷いて意思を示す。

「逃がした賊は何処かに逃げるでしょう。仲間のところか、もしくは隠れ家などに。
それをわたくしの使い魔、コーイチさんに追跡していただきます」
マリアンヌとマザリーニの瞳が同時に康一へと向かった。

「コーイチさんは平民ですがメイジに劣らぬ力を持つことは実証済みです。
メイジが相手でも対等以上に戦えるでしょう」
ジッと見つめられて、何だかチョット照れた康一は頬をかいた。

今度はマザリーニに向かってアンリエッタは話す。
「マザリーニ卿には衛士の巡回時間の調査や、賊を逃がす算段を作って欲しいのです。
わたくし達では、それを把握するのは難しいので。
あとはオールド・オスマンにも協力をお願いしようと思います。
コーイチさん一人では少々難しい条件もありましょうし」

それに、と前置きしてからアンリエッタは言う。
「正直に言って、今の状況ではいずれ手詰まりになることは明らかでしょう。
そうなる前に何か手を打たなければなりません。たとえ勝算が低くても………」

ふぅむ、と唸ってマザリーニは言った。
「確かに勝算はあまり高くはありませぬが、悪くもないようですな。
それにあまり時間が掛かると、さらに状況は悪くなる一方でしょう。私は賛成です。
………よく、考えられましたな」
マザリーニが年齢より遥かに老けた顔で微笑んだ。

「母はこのようなことはよく分かりませぬが、あなたがそうすると決めたのであればそうしなさい。
あなたの行く道を、母は支えましょう。それが母の務めです」
穏やかにマリアンヌ言い、アンリエッタの手を取った。

「して姫様、決行はいつになりますかな?」
マザリーニが問うた。
「月のない、新月。五日後に決行しますッ!」

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