ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

お嬢様の恋人暗躍編

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「サイトさん。お料理を作ったんですけど、一緒に食べませんか?」
メイドが朝から姿が見えないと思ったら、厨房にいたらしい。戻って来るなり部屋にいたサイトにそう言った。
今日は虚無の曜日、授業はお休みだし雨のお陰で騎士団の訓練も今日はお休みだった。
そんなわけで今日は朝からずっとサイトと二人っきりだったわけで、たまにはこんな雨の日も悪くないかな邪魔なメイドもいないし、
なんて考えていたルイズは一気に不機嫌になった。
「料理ぃ~?何でわざわざ学院であんたの手料理なんて食べなきゃならないのよ。いらないわ。そっちで勝手に処分なさい」
「あら。ミス・ヴァリエールには聞いていませんよ?私はサイトさんを誘っているんです。ミス・ヴァリエールは適当に食堂で食べてきたらどうですか?」
ルイズ相手に一歩も引かないシエスタ。恋する乙女は強いのだ。
「ね?サイトさん。たまには、良いですよね?東方の珍しいお料理なんですよ?」
シエスタの言葉にサイトは考える。
ずいぶん前の事になるが、シエスタが東方の珍しいお茶を飲ませてくれたことがあった。
それは日本人のサイトには実に懐かしい緑茶で、嬉しかったのを覚えている。
今回の東方の珍しい料理ももしかしたら、そう言うものかも知れない。そんな期待もあり、その言葉にサイトは答えた。
「へえ?シエスタの手料理か…そう言えばずいぶん食べてないな。分かった。ご馳走になるよ」
「ちょっとサイト!?」
ルイズが怒りで目をむく。せっかくの2人きりを邪魔された上にメイドの手料理、いけない。実にいけない。
だが、そんなルイズの悲鳴を無視するように、シエスタはパンッと手を打ち鳴らし、答えた。
「決まりですね。ちょっと待ってて下さい。暖め直して、持ってきますから」
「待ちなさいよ馬鹿メイド!」
さっさと部屋を出ていこうとするシエスタを、ルイズは呼び止めた。
「何ですかミス・ヴァリエール?」
「人の使い魔に勝手に餌付けしないでちょうだい。しかも、東方の怪しい料理なんて、おなかでも壊したらどうすんのよ」
「怪しい、じゃなくて、珍しい、です。人のお料理にケチつけないで下さい」
ルイズの言葉にシエスタも言い返し、辺りに剣呑な空気が漂う。
やばい。実にやばい、とサイトは思った。この手の喧嘩が始まるといつも巻き込まれるのだ。えらい目に遭うのだ。

「まあまあ二人とも、喧嘩はそれぐらいに…」
「黙ってなさい、サイト」
「サイトさんは黙っていて下さい」
きっつい視線をダブルで向けられてサイトは押し黙る。こうなってしまってはもはや止めることは出来ない。
「そこまで言うならいいわ。あたしもその東方の怪しい料理を食べて上げるわ。ただし、変なもの食べさせたら只じゃ置かないかんね」
「望むところです。ただ、ちょっと大人向けの味付けですから、お子様なミス・ヴァリエールには辛いかもしれないですけど、ね」
そう言って目線を下に向ける。そして、フッと馬鹿にした笑いを浮かべた。その瞬間、ルイズは切れた。そりゃもうぶっちりと。
「いいい今胸を見て言ったわね!?ここここれからだもん。これから大きくなるんだもん。これからはもう垂れるだけのあんたと違ってあたしには未来があるんだもん!」
わめき散らしながら杖を取り、魔法を唱えようとするルイズを必死になだめるサイトを尻目にシエスタはにこやかに笑って言った。
「じゃあ、ちょっとだけ待ってて下さいね」
結局、ルイズが我に返ったのは、シエスタが戻ってきてからだった。

うわ、なにこれ、不味そう。

それがルイズの料理に対するまごうことなき第一印象だった。
それは、お皿に盛りつけられているのは、ソースのかかったゆでた米だった。それはまあ良い。それだけなら普通の料理だ。
どうゆでられたのか、その米はぬめりが残って粒同士が微妙にくっついていた。それ以上に問題なのは、その上にかかっているソース。
それは、ソースと言うよりはシチューに近い代物だった。一口大に切られた根野菜と肉が入っている。
だが、泥のように黄土がかった茶色なんて、どう見ても食べ物の色じゃない。
やたら沢山のハーブとスパイスが混ざり合った、なんとも言えない刺激的な臭いが鼻を刺す。

こんなの、おいしいわけ無いじゃない。
そう思って、サイトの方を見る。どうやらサイトも同じ感想らしい。スプーンを持ってガタガタと震えている。
「さあ、さめないうちにどうぞ。お代わりも沢山ありますよ」
にこやかに言うシエスタの言葉にサイトがゆっくりと唾を飲み込み、震える手でその料理をすくう。
勝ったわね。
ルイズはそう思った。自分から誘っておきながら、出したのはどう見ても食べ物じゃない怪しげな料理。好感度ガタ落ちは必死だ。
だが、ルイズは知らない。サイトが震えていたのは未知の料理に挑まねばならない恐怖からではなく、驚愕と感動のためだったことに。

「うまい、うまいよシエスタ!」
一口食べた瞬間、サイトが絶叫する。その言葉にルイズは驚愕した。
「これだ、これだよ!この味、これこそ俺の求めていたものだ!シエスタさん、天才!マジ最高!」
考え得る限りの賛辞の言葉を叫びながら、怒濤の勢いで料理を平らげていくサイト。瞬く間に空になった皿をだし、お代わりをする。
よく見ると感動の余り涙すらこぼしていた。それがルイズには面白くなかった。
ななな何よ。料理ごときにこんなに喜んじゃって、馬鹿じゃないの?
腹立ちまぎれにソースだけをすくって料理を口に運ぶ。サイトの反応を見る限り毒とかは入ってないだろうし。だが、その判断ミスをルイズは後悔することになる。

辛かった。激しく辛かった。はしばみ草の苦さに匹敵するんじゃね?ってくらい辛かった。
思わずはき出しそうになる口をおさえ、水で流し込む。まだ口の中がひりひりする。涙目になりながらルイズはシエスタに抗議した。
「かかかか辛!?何これ、辛!ここここんなの食べられるわけないじゃない!」
「言ったじゃないですか。ちょっと大人向けの味付けだから、ミス・ヴァリエールには辛いかも知れないって。これは、そう言う料理なんです」
対するシエスタはどこ吹く風だ。
「だいたい、同じ料理をサイトさんはこんなに喜んで食べてるじゃないですか。ただ単にミス・ヴァリエールの口に合わなかっただけです。
 それに、私はこれ、結構いけると思いますよ?確かに辛いですけど」
そう言いながら平然と料理を口に運ぶシエスタ。サイトの方は既に3杯目に突入していた。

「ふう~、食った食った。こんなに食べたのは久しぶりだ」
おなかを押さえ、満足そうにため息をつくサイト。それをルイズは恨めしそうに見ていた。結局辛すぎて、皿半分も食べられなかったのだ。
「どうでした?サイトさん」
「グッジョブ」
シエスタがにこやかにサイトに問う。それにサイトは親指を上げて一言答えた。2人の間に入り込めない何とも言えない空気が漂う。
ルイズの機嫌はますます悪化した。あによ、あの乳メイド、ちょっと料理がうまくいったからって調子に乗るんじゃないわよ。
サイトもサイトよ。あたしが辛くて食べられないって言ってるのにあんなに食べて、前にあたしが作って上げたときはあんなに喜ばなかったくせに…
「それにしても…」
ルイズの機嫌に気づかず、サイトはシエスタに話しかける。余りの感動に他の事が見えなくなっている。
「シエスタがカレーを作れるなんてびっくりだよ。これもひいおじいさんの残した料理?」
「いえ、ひいおじいちゃんも何度か再現してみようとしたけど、スパイスの調合が難しくて結局作れなかったって言ってました。
 20種類以上も使うんですよね。私もあんなに沢山スパイスを混ぜたのは初めてだったのでちょっと大変でした」
「へえ。じゃあ、これはシエスタの研究の成果ってことか。ますます尊敬するよ」
その言葉に、シエスタは照れながら言う。今回の事件の黒幕の名を。

「いえ、実はカレーの作り方は、トニオさんに教わったんです」

時が、止まる。ルイズの周り限定で。その止まった時に気づかず、2人はにこやかに会話を続ける。
「実はこれから、お礼としてミス・タバサとトニオさんのピザを焼く窯を作るお手伝いをすることになってるんです。
 もし良かったらサイトさんも一緒に、お手伝いしてくれませんか?」
「おやすい御用さ、シエスタ。こんなおいしい手料理を食べさせて貰って何もしないじゃ、恩知らずになっちゃうしな」
そう言って、部屋から出て行く。部屋にルイズが1人取り残された。
そして、時は動き出す。

「あんのクソコックゥゥゥゥウウウウウウ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ちいねえさまに飽きたらずメイドにまでロクでもない事を吹き込んだトニオに、ルイズはますます敵意を燃やすのだった。

「ありがとうございました。ミス・タバサ」
夜、シエスタはタバサの部屋を訪ね、お礼を言う。
「気にしないで。料理をおいしく作れたのはあなたの腕。私じゃこうはいかない。それにシエスタはかあさまの看病を手伝ってくれた、友達」
いつもの無表情でタバサは答える。
「でも、トニオさんならサイトさんの故郷の料理を作れるかも知れないって教えてくれたのはミス・タバサじゃないですか。
 お陰で今日は…もし、何か困ったことがあったらいつでも言ってくださいね。何でもお手伝いしますから」
恭しく礼をして、シエスタは部屋を出て行く。それを見届けた後、タバサは振り返り、奧に居る人物に聞いた。
「これで良かったの?かあさま」

確かにルイズに打撃を与えることは出来た。だが、その分シエスタの株が上がった。これでは意味がないのでは、とタバサは思ったのだ。
「シャルロット、まずルイズから引き離すことが大事なの」
その言葉に、真の黒幕が答えた。
「残念だけど、サイト君はまだまだあのルイズに騙されていると気づいていないわ。今のまま挑んでしまったらこんなに可愛いシャルロットでも
 玉砕してしまう。だからね、まずはサイト君に分からせなくちゃならない。ルイズにこだわる必要なんて無いことに。
 そうなれば、きっとサイト君はシャルロットの可愛さに気づいてくれるはずよ。それにね、今回のことでシエスタさんに恩を売る事が出来たわ。
 恋愛勝負ではね、友情と恩は非常に強力な武器になるの。恋愛では恩のある相手や友人を相手にしたとき、どうしても遠慮してしまうもの。
 特にシエスタさんは優しい人。友人が相手になったときに、友情のために一歩出遅れるタイプ。それが彼女の最大の弱点。弱点をつくのは、戦いの基本でしょう?」
分かりやすい母の言葉にタバサはこっくりと頷いた。納得したのだ。
(それに…)
ここから先は口に出さず、彼女は考えた。
(今回のことはきっと姉妹の絆の復活を確実に遅らせるわ。その時間の差が、勝敗を分けるとも知らずにね)
そう、もっとも厄介なのはあの2人の絆が復活し、仲睦まじい姉妹に戻ってしまうこと。
心が読めると言って良いくらい察する能力に長けたカトレアがフォローすればルイズとサイト君の仲は安泰だし、
ルイズが邪魔をすることが無くなればカトレアの注意は100%こちらに向く。そうなればこちら側が勝つのは難しい。
(私が勝利する、娘も勝たせる。両方しなくちゃならないのが、母親の辛いところね)
だが、負ける訳にはいかない。戦いはまだ始まったばかりなのだから。


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