ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

お嬢様の恋人-1

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1月15日
カトレアお嬢様が平民の男を連れて帰って来る。馬車での散歩中に行き倒れているのを見つけたという。
珍妙な服装が何故かルイズお嬢様の黒髪の使い魔(いずれ殺す)を思い出させ、不快に感じる。
怪我などはしていないようだ。適当に転がしておけばいずれ目を覚ますだろう。

1月16日
平民の男が目を覚ました。トニオと言うらしい。やはりごく普通の名前だ。料理人らしい。
食材探しの旅の途中、山の中で道に迷い、ようやく平地へ出たところで力尽きて行き倒れたのだと言っている。
助けられたお礼にカトレアお嬢様に自分の料理を食べさせたいと言ってきた。当然却下。
何処の馬のホネとも知れぬ輩の料理なぞ食べさせる訳にはいかない。
その後も何か恩返しをしたいとうるさいので、とりあえずカトレアお嬢様のペットの世話を任せることにする。

1月18日
最近、カトレアお嬢様のペットたちが妙に元気で困る。怪我をしていたはずのペットまで元気にそこら中を走り回っている。
カトレアお嬢様が水の魔法で癒したのだろうか?お嬢様は魔法を使うと体調を崩すので自重して欲しいと思う。
旦那様と奥様はカトレアお嬢様に甘いため何も言わない。困ったものだ。

1月21日
料理人が何人か流行の風邪で倒れた。料理長が人手不足を訴えている。そう言えばあの男が料理人だと言っていたことを思い出し、
手伝わせることにする。
あの男が手伝ったお陰か、今日の料理は非常に完成度が高かった。あの食の細いお嬢様がおかわりをしたほどだ。
夜、メイドが慌てた様子で部屋に駆け込んでくる。何でも風邪を引いた料理人にあの男が作ったスープを飲ませたところ、全身から血を吹き出したのだと言う。
何を馬鹿なことを。そう言いながら彼女に案内され、部屋に入る。やっぱりだ。料理人たちは安らかな寝息を立てて寝ている。
辺りには血のあとも無い。おおかた寝ぼけたのだろう。メイドを叱責して部屋に戻った。

1月22日
最初に部屋に男が入ってきたとき、最初はそれが誰だか分からなかった。
男は料理長だった。なんでもあの男を正式に料理人として雇って欲しいと言う。そう約束したのだと言っていた。
プライドが高い料理長の言うことでもあり、正式に料理人として雇うことを許可する。昨日の料理から腕前が確かであることも分かったしな。
それにしても、料理長はいつの間に魔法の育毛剤を手に入れたのだろう。彼の妻が彼に渡す小遣いでは後半年はかかるとついこの前言っていたはずだが。

1月23日
朝、カトレアお嬢様の部屋の前でまたあのメイドが倒れていた。本気で彼女に暇を出そうかと考える。
冗談には言って良いことと悪いことがある。カトレアお嬢様が全身破裂させてすべての内蔵があちこちに飛び散ったなんて、悪い冗談にも程がある。
お嬢様は今日も元気だ。今日は馬で遠乗りに出ると言う。危険だからとお止めしたが聞く耳を持ってくれなかった。
私の長年の経験では、元気そうに見えるときが一番危ない。そうやって張り切って無理をした次の日は大抵ベッドから起きあがれなくなる。
とりあえず、監視兼護衛として下男の1人をつけさせることにした。
屋敷でトニオとすれ違う。トニオは私に気づかず、なにやら呟いている。
「パールジャムデモ1度デハ治しきれませんデシタ。まだまだワタシも未熟デース」
パールジャム?治す?何のことだろう。
夕方、カトレアお嬢様が戻っていらっしゃる。途中で倒れることなく帰ってこられたようでほっとする。
それにしてもカトレアお嬢様につけた下男が戻ってこない。何処でさぼっているのか。後で説教せねば。

1月24日
下男が帰ってきた。
下男がくだらない言い訳をする。お昼になり、カトレアお嬢様が持ってきたお弁当を食べた瞬間、
お嬢様は盛大に血を吐いて腹が裂け、内蔵が飛び出した。それを見て思わず気絶してしまい、
目を覚ましたらお嬢様が見あたらず必死に今まで探していたと言うのだ。
あのメイドと同類か。とりあえず今回は減給と叱責ですませるが、次は無いと思えときつく言い渡した。

2月22日
そう言えばここ1ヶ月1度も医者を呼んでいない。いつもなら週に1度は緊急で呼びつけることになるはずなのだが。
最近のお嬢様の体調の良さは目を見張るほどだ。今日も馬車で街まで行くと言う。
問題は、トニオだ。最近なんやかやと理由をつけてカトレアお嬢様の近くにいる。
お止めしようとするとカトレアお嬢様が怒るため、引き離すことも出来ないのが口惜しい。
今日も馬車の御者をトニオに任せるようだ。早急に手を打たなければ。
考え事をしていたせいか、今日の昼の料理はいまいちだった。何というか、トマトが足りない。

3月31日
大変なことになった。お嬢様の部屋から苦しげな声が聞こえる。ここ最近1度として医者が必要な事態になったことが無かったせいで油断していた。
慌てて開けようとするが、ビクともしない。強力なロックが掛けられている上に、固定化の魔法までかけられている。お嬢様の仕業だ。
ここ1ヶ月ばかりで、お嬢様は非常にプライバシーという物に敏感になった。
今までは部屋に誰が入ってもほとんど気にしなかったのに、今では部屋の掃除を行うメイドですら事前に許可を取らないと入れて貰えない。
お嬢様の魔法は非常に強力だ。お嬢様の魔力は身体の問題さえ無ければ間違いなく3人のお嬢様の中でも最強を誇る。
領内のメイジでもカトレアお嬢様が本気で掛けた魔法を解除出来るのはほんの一握りだ。
結局、旦那様ですら解除に失敗し、奥様がついに全力を振り絞ることでアンロックを成功させたのは日が変わってからだった。
…今にして思えば、いっそ解除に失敗していた方が良かったのかも知れない。詳しくは明日の日記に記す。

4月1日
恐れていたことが現実となってしまった。
部屋でカトレアお嬢様は安らかに寝息を立てていた…全裸で。
その隣にはやはり全裸のトニオ。シーツにはお嬢様の純潔が破られた後が生々しく残っていた。
緊急で家族会議が開かれることとなる。旦那様と奥様は寝ていないためかやや疲れたご様子だったが、そんな事が問題にならないほどお怒りになられていた。
この緊張した場にカトレアお嬢様はトニオを伴ってやってきた…腕を組んで。緊張が更に高まる。
誰も喋らない緊迫した場がずっと続いた。そして、それを突き破ったのはあの忌々しいトニオの一言だった。
「ワタシはトニオ・トラサルディーと言いマス。お嬢サンとお付き合いサセテ頂いてイマス。
 言い訳をスルつもりはアリマセン。『覚悟』もシマシタ。単刀直入にイイマス。お嬢サンをワタシにください」
それから起こった出来事はまさにあっという間の出来事だった。
トニオの言葉に激昂した旦那様が杖をトニオに向けた瞬間、その杖はへし折られた。カトレアお嬢様の魔法によって。
奥様が隙のない動作でお嬢様に杖を向け、殺気を放つ。それを平然と受け流し、お嬢様が言った。
「お母様。私もトニオも本気なのです。もし認められないと言うのであれば、私はヴァリエールの名を捨て、平民となることも厭いませんわ」
それを聞き、更に激昂する旦那様を奥様が睨んだ。遠くにいる私からも感じられるほどの鋭く、強力な殺気だ。旦那様は蛇に睨まれたかえるのように黙り込んでしまった。
奥様が良く通る声で宣告する。
「誇り高きヴァリエールの一族がその誇りを失い、まして平民の男と結ばれようなどと。
 我が一族の中からあの下賤なツェルプストーのような振る舞いをする者を出す訳にはまいりません。
 今ならば、忘れて上げましょう。トニオとやら、今すぐ姿を消しなさい。そして2度とこのトリステインに姿を見せてはなりません。
 さもなければ、この“烈風”のカリンが直々にあなたを切り刻むこととなりますよ?
 …分かってカトレア。あなたのそれは一時の気の迷い。熱病のようなもの。今は辛いでしょうけど、すぐに時が忘れさせてくれるわ。
 私は、あなたを裁きたくなどないの。生きて、幸せになって欲しいのよ」

だが、それにカトレアお嬢様は微笑を浮かべ、こう答えたのだ。
「お母様はよく伏せる私ベットのそばで話して下さいましたね。貴族とは、どんな時にも引かない者を言うと。
 そして、貴族同士がどうしても譲れぬものがある場合、完全に決着する方法は1つであるとも。
 …今日はお互い、疲れが溜まっております。明日の正午、このヴァリエール家の庭で、決着をつけましょう。
 どちらか勝った方が、その言い分を通す。よろしいですね?」
それだけ言うとお嬢様はトニオを伴って部屋から退出する。奥様のため息が部屋に響いた。

4月2日
トニオが厨房で料理を作っている。いつものように。それが当然であるとでも言うように。
「…本当ナラバ、ワタシがヤルべきナノデショウ」
トニオがポツリと漏らす。
「ワタシの能力ハ、戦ウ事ハ出来マセン。ワタシ自身が望んだ能力デス。ソレヲ後悔シタ事はアリマセン。
 ケレドモ、コンナ時にはワタシにジョースケサンやオクヤスサンみたいな力がアレバト考えてシマイマス。
 …ダカラコソ、ワタシは無心に出来る事をスル。カトレアが、万全の体調で戦えるヨウニスルノデス」
料理が出来上がり、トニオはカトレアお嬢様の元へ持って行く。いかにも精がつきそうなメニューだった。
ああ、そうか。彼は、ああしてカトレアお嬢様を支えてきたのだ。哀れむのでもなく、護るのでもなく、自分自身で歩き出せるように。
もうすぐ正午だ。私は見なくてはならない。篭から飛び立った小鳥の戦いを。

4月3日
朝、半日を超える長い戦いが終わった。カトレアお嬢様が奥様の杖を折ることで。
魔力だけは互角。だが、奥様には長年培った戦うための技術と無数の修羅場をくぐり抜けた経験がある。事実、戦いは終始お嬢様が不利だった。
それを覆したのは、1つはお嬢様が長年切望しつつも手に入れることが出来なかったもの。普通の若者なら誰でも持っているもの。すなわち、健康。
カトレアお嬢様は既に生まれ変わっていたのだ。恐らくは、あのトニオのお陰で。
そしてもう1つはカトレアお嬢様がずっと持ち続けていたもの。洞察力。一方的とも言える戦いのなかでお嬢様はただじっと待ったのだ。
奥様に疲れが溜まるのを、最後に、杖を辛うじて折ることが出来る小さな魔法を打ち込むだけの隙が出来るのを。
そして、最後の1つは、覚悟。奥様はさっさと終わらせようとしていた。杖を折ることで、お嬢様が降参することで。
全身が氷の刃で切り刻まれ、骨もあちこち折れている。特に杖を持っていた右手は何度も杖をかばったせいで血塗れだ。
口元には吐血と嘔吐のあと。病気によるものではなく胴にエア・ハンマーをうけたためのもの。
並みの人間なら気絶どころか死んでいてもおかしくない。にも関わらず、お嬢様は耐えた。自らの意志を貫き通すために。
勝利した瞬間。緊張の糸が切れたお嬢様はその場に倒れ込んだ。そこにすかさず傷を癒す水の魔法が飛ぶ。奥様が予備の杖を取り出して掛けたものだ。
「あなたの覚悟、意志は良く分かりました。ペリッソン、カトレアを部屋に運んであげなさい。それとすぐに水のメイジと医者を手配なさい。
 婚約したばかりの娘に死なれては、婿殿にも申し訳がたちませんものね」
そう言って微笑んだ奥様の顔は晴れ晴れとして、とても優しかった。

4月10日
馬車に次々と荷物が運び込まれていく。
元気になったお嬢様が最初に望まれたのは、学校で学ぶことだった。今まではヴァリエールの領地から離れることが出来なかったために出来なかったことだ。
ルイズお嬢様には秘密にしているらしい。
「もう入学式は終わっているから、新入生に私がいることなんて、あの子はきっと気づかないわ。それでね、あの子の部屋に行ってこう言うの。
 『今度この学校に通うことになったカトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌです。よろしくお願いしますね。先輩』って。
 その後、トニオを紹介するの。きっと驚くわね。今から楽しみだわ」
とはお嬢様の弁だ。
婿殿は3年間魔法学院の料理人をやるらしい。魔法学院の料理長は凄腕の料理人だと聞いて今から張り切っている。
あれ以降、婿殿は男女の営みはキスまでしかしていないそうだ。卒業する前に子供が出来ては困るから、らしい。
ちなみに旦那様は初孫が早く見たいから頑張れと言って、奥様に怒られていた。
荷物が積み終わり、最後にお嬢様と婿殿が乗り込む。お嬢様の嬉しそうな顔を見て、私は祈る。
どうか、この飛び立った小鳥に幸福がありますように、と。


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