ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

悲恋! 精霊への誓い その①

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悲恋! 精霊への誓い その①

ギーシュの治療をモンモランシーに任せて、承太郎達は寮の廊下に出た。
「ダーリン。元通りになってよかったわ!」
「やれやれ……とんだ災難だったぜ」
「ささ、災難で悪かったわね。私だってあんたに惚れられて災難だったんだから!」
まだしこりは残るものの、みんなようやくいつもの調子が戻ってきたようだ。
「ところでダーリン。ルイズに言ってた言葉、どこまで本気だったの?」
「あんなもん『全部』無しだ。馬鹿馬鹿しい……」
「ぜ、全部……無し?」
ルイズは一瞬ショックを受けた表情をしたが、すぐに強がりの笑みを浮かべる。
「まま、まあ、いいわ。自分の実力でジョータローを使い魔だって認めさせないと、私のプライドに傷がつくものね。べべ別に残念だったとかちっとも思ってないから」
聞いてない事までベラベラ喋るルイズ。どう見ても残念がってます。
「そ、それに久し振りにラドクリアン湖に行けて、ちょっと楽しかったし。
 姫様に頼まれてベッドの中で身代わりをしたのもいい思い出よ。
 思えばあの時姫様はウェールズ皇太子と知り合ったのよね」
誤魔化すため余計なお喋りをペチャクチャ続けるルイズに少々うんざりする承太郎だが、キュルケは突然「あーっ!」と大声を上げて視線を集めた。
「な、何よキュルケ。いきなり叫んで」
「あー、あー、あー……思い出した。ウェールズ皇太子よ。
 そういえばアルビオンの教会の中でも見た事があったのに、今まで忘れてるとは」
「ウェールズ皇太子がどうかしたの?」
「タバサの実家に行く私達とすれ違いに、ウェールズ皇太子が歩いて行ったのよ。
 方向からして首都トリスタニアに向かってたみたいだけど……」
「はぁ? ウェールズ皇太子はアルビオンで戦死したじゃない。
 あのアルビオンから生き延びるなんて……その……無理よ、絶対」
「あー……そうね、ごめん。私の見間違い…………じゃ、ないかも」


突然キュルケは冷や汗を垂らしてタバサを見た。うなずかれた。
それはつまりキュルケの予感が当たっているという意味で、続いて承太郎を見てみれば口元を押さえて双眸を鋭くしている。
ルイズも自分の「生き延びるなんて無理」という言葉に感じるものがあったらしい。
自分が口にした言葉を吟味し、気づかなければならない重要なものを探す。
「クロムウェルは……アンドバリの指輪を持っている」
キュルケがそう言うと同時に、承太郎とルイズが走り出した。続いてタバサも。
「えっ、ちょ、どうしたのよ!?」
「姫様が危ない!」
「何で!?」
キュルケとタバサはアンリエッタとウェールズの関係を知らないが、鬼気迫るルイズと承太郎の表情を見てただ事ではないと理解していた。

シルフィードに乗った四人が王宮に着いたのは二時間後、深夜一時すぎ頃だった。
当然魔法衛士隊に囲まれる一堂だが、ルイズはアンリエッタの許可証を見せた。
その瞬間立場が逆転する。何せルイズは女王陛下の権利を行使しているのだ。
軍人である衛士はすぐさまルイズを上官と認め、事の次第を報告した。
今から二時間程前、女王陛下が何者かにかどわかされ連れ去られてしまった。
警備を蹴散らし馬で駆け去ったその賊は、現在ヒポグリフ隊が行方を追っている。
賊はラ・ロシェール方面に向かったらしいが、先の戦で竜騎士隊がほぼ全滅しているため、ヒポグリフと馬の足で追いつけるかどうか難しいらしい。
ルイズはすぐさまシルフィードに飛び乗る。
「急いで! 姫様をさらった賊は、ラ・ロシェールからアルビオンに向かうはず!
 私達は風竜で後を追います!」
シルフィードは馬にまたがった敵を追うため低く飛び、敏感な鼻先で空気の流れを読んで木々や建物を巧みに避けて後を追った。

賊の馬は十騎。馬より速いヒポグリフを駆る隊は十数騎。
故に賊さえ発見できれば追いついたも同然だった。
ヒポグリフ隊は非常時故、女王陛下に少々の怪我を負わせてもやむなしとし、土の魔法で行く手をはばんだ後、馬に狙いを定めて攻撃魔法を放った。
次々と馬が倒れ、乗っていた賊達も転げ落ちる。
歴戦のヒポグリフ隊の面々は鮮やかな追撃で、地面に落ちた賊達に致命の一撃を確実に与えていく。
そして地面に投げ出されたアンリエッタのかたわらに立つ隻腕の男ののどを、強力な風の魔法が切り裂いて倒す。これで賊は全滅、女王陛下も無事。
だが、安堵したヒポグリフ隊の一瞬の隙をついて、魔法が放たれた。
致命傷を負ったはずの、たった今倒したはずの、賊達から。

馬から落ちた拍子に目を覚ましたアンリエッタは、目の前の光景に愕然とした。
「ウェールズ様……どうして、こんな……こんな事を……」
「ラドクリアンの湖畔で君が口にした誓約の言葉、覚えているかい?」
「わ、忘れる訳がありませんわ。それを頼りに今日まで生きてきましたのに」
ウェールズは裂けた首を隠しながら、アンリエッタに優しく微笑む。
「言ってくれアンリエッタ。誓いの言葉を」
「……トリステイン王国王女アンリエッタは水の精霊の御許で誓約いたします。
 ウェールズ様を、永久に愛する事を」
「君は己のその言葉だけを信じていればいい。後は僕に全部任せてくれ
ウェールズの言葉が、アンリエッタをあの日の少女に戻していく。
ラドクリアンの湖畔で愛を誓約した、あの頃のアンリエッタに。
女王でも王女でもない。一人の男に恋をした少女へと。

シルフィードは無残に人の死体が転がる光景を見つけ、タバサの指示でそこに止めた。
タバサを残してルイズ達三人はシルフィードから降り、遺体の様子を調べる。
焼け焦げた死体、切り裂かれた死体、風穴の空いた死体などが散乱している。
そして何匹ものヒポグリフも、彼等が先行していたヒポグリフ隊なのだろう。
だがその中でキュルケが生きている人を発見した。腕を負傷しているが致命傷ではない。
「大丈夫?」
ルイズが声をかけると、男はうめきながらも答えた。
「大丈夫だ。……あんた達は?」
「私達も女王陛下を誘拐した一味を風竜で追ってきたの。いったい何が?」
「……致命傷を負わせたはずなのに……奴等は、立ち上がって魔法を……うっ」
そこまで喋ると、救援が来た安堵からか男は気絶してしまった。
そして今聞き出した情報、敵の不死性から確信する。
敵はアンドバリの指輪で操られた生ける死者達だ。
承太郎は怒りに燃えると同時に、氷のようにクールな精神でスタンドを出現させた。
シルフィードに乗って様子を見ていたタバサは、それよりもわずかに早く詠唱を始めて、もう完成する寸前だった。
臨戦態勢に入った承太郎とタバサを見て、ルイズとキュルケも慌てて杖を抜く。
同時に四方八方から魔法の攻撃が飛んできた。
そのすべてをタバサは魔法で生み出した空気の壁ではばむ。
すると草むらからアルビオンの貴族達が姿を現した。
身体を焼かれ、身体を切り裂かれ、身体を貫かれたアルビオンの貴族達。
もはやアンドバリの指輪の仕業である事は疑いようがなかった。
そして承太郎達の前に堂々と、彼は姿を現した。
後ろにアンリエッタを連れた、隻腕のウェールズ皇太子。


「……久し振りだな、ウェールズ」
「やあ、ジョータロー。懐かしいな」
ウェールズはまるで旧友に出会った事を喜んでいるかのような口調と笑顔だった。
それが承太郎の双眸を釣り上げさせる。
「単刀直入に言うぜ。お姫さんを返してもらおうか」
「ジョータロー。彼女は自分の意思で僕についてきてるんだよ?」
「だが……それは『てめー』の意思じゃあない……」
苦笑を浮かべるウェールズを見て、承太郎の怒りがさらに高まる。
その横でルイズが叫んだ。
「姫様! そのウェールズ皇太子は、クロムウェルの手によって、アンドバリという指輪により仮初の命を与えられたくぐつでございます!」
しかしアンリエッタは唇を噛みしめ、ウェールズから離れようとしない。
「ジョータロー、ラ・ヴァリエール嬢、これで解ったろう?
 だからこのまま行かせて欲しい。魔法は温存したいからね、戦いたく――」
最後まで言わせないとばかりに、タバサのウインディ・アイシクルが発動する。
何本もの氷の矢がウェールズに突き刺さったが、彼は苦笑を浮かべるのみだった。
しかしその攻撃にアンリエッタが反応し、杖を抜く。ルイズ達に向けて。
「お願いよ、ルイズ。行かせてちょうだい……。
 私は誓ったのよ、ウェールズ様への変わらぬ愛を。
 ……あなたは人を好きになった事がある?
 好きになるとね、何もかも捨ててでもついて行きたいと思うものよ。
 例え行き先が地獄だろうと世界の果てだろうと」
その言葉にルイズはハッとした。
あの時、日食に向かって飛んでいた時の自分は、どうだっただろう?
何もかも捨てて、承太郎と一緒に――そう思っていた、かもしれない。
「交渉決裂だ。ウェールズ、二度と蘇れねーようバラバラに引き裂いて殺してやるぜ」
「悲しいな、戦友と戦わなくてはならないとは。死んでもらうよジョータロー」
かつて、短い時間だが……確かに友情を交わした二人が相対する。
互いに互いを殺すと宣言して。

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