ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-12

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ルイズは夢を見ていた。夢の中で、ルイズは自分ではない誰かになっている。
誰かになったルイズは、どこか古臭い部屋で仲間と思われる人々と会話を交わして
いた。自分も回りもどこかかすみがかかったようにぼんやりとして、ルイズはそれに
不安を覚えたが、それと同時に不思議な居心地の良さを感じていた。
「――」
仲間達は自分に何かを語りかける。
「―― ――」
しかし、その言葉もまたおぼろげにかすみ、 ルイズの耳には届かなかった。
ルイズはそれが何故だかとても悲しいことのように思えて、なんとか声を聞こうと
するが――聞こうと思えば思うほど、言葉はかすみ、彼らも自分もかすんでゆく。
それでも彼らはルイズに何かを伝えようとしている。酷くかすんで彼らの顔は
分からないが――きっと今の自分である『誰か』の大切な人達なのだろうと、
ルイズは思った。そう思うと、彼らの声が聞えないのがなおさら辛くて、ルイズは
声を張り上げようとする。だけどそれすらもかすみにとけて、そして、世界が、白く、
包まれて。真っ白い闇に、全ては消えた。

――ゾクッ、と寒気がする。誰かに見られているような視線を感じ、いつの間にか
自分に戻っていたルイズはキョロキョロと周りを見渡すが、それらしいものは
何もない。にも関わらず、ルイズの心はアラームを鳴らし始めた。何かよく
分からんがこれはヤバいッ!と思うと同時にルイズの体は浮上を始め、心の
海を上へ上へと上昇し――


意識が覚醒したルイズが最初に見たものは、今にもスタンドを発動させそうな
眼でルイズを見下ろしているギアッチョの姿だった。

「だから言ったじゃあねーか」
バシャバシャと水音を立てて顔を洗うルイズを見ながらギアッチョは言った。
「この時間になったら起きなきゃならねーってことを体が覚えこむってよォ~~」
――覚えこまされたのはあんたの殺気と威圧感よ!
と心の中でツッこむルイズである。
「起きる度に殺されかけてちゃ身が持たないわよ・・・」
ルイズはため息をつきながらクローゼットに向かう。ギアッチョに服を持って
来いなどとは勿論言えない。ごそごそと着替えを漁っていると、ガチャリと音を
立ててギアッチョが部屋の扉を開いた。
「・・・どこ行くのよ」
床に座り込んだ状態で首だけ向けて訊くルイズに、
「厨房だ」
と背中で答えるギアッチョ。
「そう・・・それならいいわ だけど教室にはちゃんと来てよね」
ルイズが言い終えると同時にギアッチョは廊下へ姿を消した。
「何よ・・・そんなに早く出て行かなくてもいいじゃない」
と一人ごちるルイズだったが、その原因が自分の着替えにあるとは気付く
べくもなかった。

昨日の決闘の噂は、一日も立たずに学院中に浸透したらしい。ギアッチョの
行くところ常に生徒が道を開け、ギアッチョの後ろには謎の魔法を使う男を
一目見ようと大勢の野次馬が付き従っていた。
――やれやれ・・・シナイ山で啓示を受けた覚えはねーんだがな
ギアッチョは畏怖と好奇の視線に辟易していたが、また同時に奇妙に新鮮な
感覚を覚えていた。ギアッチョの生前は目立つという行為はタブーであった。
暗殺を成功させる為、敵の刺客から逃れる為――何か特殊な場合を除き、
ギアッチョ達暗殺者が目立ってしまうことは決してあってはならないことなのである。
こんなに大勢の人間に注目されるのは初めてか、でなくとも久方ぶりの経験だった。
まぁ実際にはギアッチョがそう思っているだけで、客観的にはギアッチョは暗殺者と
して有り得ないぐらい目立ちまくっていたのだが。暗殺チームで刺客に襲われた
回数にランキングをつけたならば、ギアッチョはブッちぎりで一位だったことだろう。
「あいつじゃなきゃあ10回は死んでるな」とは地味度一位のイルーゾォの言である。

「おはようございます」
シエスタはにこやかにギアッチョを出迎えた。
「ギアッチョさんの分、もう出来てますよ」
悪いな、と答えてギアッチョは厨房に入る。マルトー達と適当に挨拶を交わして
テーブルに着くと、そこには既にギアッチョの為に朝食が用意されていた。
「さぁ食べてくれ!少しならおかわりもあるから遠慮するなよ!」
マルトーはそう言うと意味もなく豪快に笑った。
「いただくぜ・・・ん?」
いざ食事を始めようとしたギアッチョは、窓の外から赤い何かが覗いている
事に気付いた。よくよく眼を凝らすと、そこにいたのはキュルケの使い魔であった。
――あの化け物・・・サラマンダーとか言ったな ご主人様の命令でオレを監視
してるってェわけか・・・ご苦労なこった
ルイズが言っていた、使い魔の視覚と聴覚を共有する力を使っているのだろう。
ギアッチョはスープを飲むふりをしながら、キュルケがフレイムと名付けた化け物を
観察する。どうやら本当に自分を監視しているようだ。脇目も振らずこちらを凝視
している。ガンくれてやろうかとも思ったが、特に迷惑でもないのでギアッチョは
そのまま無視を決め込んだ。
「このままキュルケのヤローの疑いが晴れてくれりゃあ儲けもんだしな」
そう結論すると、ギアッチョは今度こそ目の前のご馳走に専念することにした。


それから数日は滞りなく進んだ。フレイムが四六時中ギアッチョの周りをうろついて
いること以外は特に変わったこともない。ギアッチョ同様早々にフレイムに気付いた
ルイズがキュルケに食ってかかろうとしたが、ギアッチョに静止されて引き下がった。
ギアッチョがキレた回数もたったの3回と、実に平和な日々だった。

「明日は街に出るわよ」
その夜、ルイズはそう宣言した。
「授業はねーのか」
と訊くギアッチョに、
「明日は虚無の曜日だからね」
短く答えるルイズ。虚無だ何だと言われてもギアッチョに分かるわけもなかったが、
まぁ要するに休日なのだろうと彼は判断した。何をしに行くのかと尋ねると、
「剣を買いに行くのよ」という答えが返ってくる。
「剣だぁ?誰が使うんだよそんなもんよォォ」
当然の疑問を放つギアッチョをルイズは指差した。
「ああ?いらねーよそんなもん オレは素手が一番力を発揮出来るんだからな・・・
第一ナイフや銃を扱ったことはあっても剣なんざ触ったこともねーぜ」
ホワイト・アルバムはプロシュートのグレイトフル・デッドと同様、直触りが最も効果を
発揮するスタンドである。わざわざ剣を握って片手をふさがらせる必要はない。
そう言うと、
「そ・・・それは・・・えっと、あれよ・・・だから」
何故かしどろもどろになるルイズである。
「・・・そ、そうよ!貴族の使い魔たる者、剣の一つや二つ下げていなければ格好が
つかないの!分かったらつべこべ言わずに寝なさい!明日は早いんだからね!」
そう言い放ってルイズは逃げるようにベッドに潜り込んだ。
ギアッチョは「剣下げてる使い魔なんて見たことねーぞ」と言おうかと思ったが、
ギーシュ戦の感謝を素直に言えないルイズの遠まわしな礼だと気付いて黙っている
ことにした。
「剣で何とかなる敵がいるならそれが一番だしな・・・・・・」
今は平和だがこれから何があるか分からない。スタンドはやはり極力隠すべきだと
判断したギアッチョだった。


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